せっかくなので
「ああー、いい風やね〜。」
小高い丘に登り、風を感じる。
河上家の数少ない家族旅行、あらゆる事が新鮮で楽しい楽しい。まあ旅行と言っても、かなり混むから近場なのだが。
「あんま遠く行き過ぎんなよー。」
「んなガキみたいに言わんとってや」
「まだまだ子供でしょ?真琴、高校生と言ってもまだ未成年だし。」
「じゃかあしい」
そんな会話を続けながら、歩き続ける。
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「あ、本屋あるやん。」
「本屋ねぇ。そう言えば最近行ってないなぁ。」
「そういえば真琴、読書感想文終わらせたのか?」
「……」
父の言葉を受け、思考が停止する。
やべえ。何にもやってねえ。
夏休みはあと数日。
その他の課題は全て終わらせたが、読書感想文だけは1文字どころか1ミリだって書いちゃいない。
「…本屋、寄ってく?」
見かねた母が提案する。
元々本は嫌いでは無いし、ネタさえあれば感想文も書ける。
最初の父の言葉には、せっかくの旅行気分を害さないで欲しいとも思ったが。
「…寄る」
すぐさま発想を転換。
もしかしたら掘り出し物もあるかもしれん。
寄ってみよう。
「じゃあ私たちは適当に歩いてるから、終わったら探しに来て。」
「りょ」
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「どうせ書くなら歴史系が良いよなぁ…こっちか。」
歴史についての本を探し、本屋を彷徨く。
世界史…国によって名前も変わるし横文字も多い。やめておこう。
やはり日本史だ。
戦国時代も好きだし、近代史も嫌いでは無い。
1冊手に取る。
「これにするか…ん?」
横目に映った何かに意識が向く。
横にあると言っても本では無い。
いや、見た感じは本の様に見えなくもないか。表紙と思しき暗い銀色の表面に、同じようなカラーのドラゴン。その上にかなり特徴的なフォントで文字が書かれている。
間のページらしき部分は古びた本のように黄ばんでいる。
「ロゴかな…レジェンド…ファフニール?」
ギリギリ解読できた。
ファフニールと言えば、確か何処ぞの神話に出てくる竜だったか。
「…見た感じ、本では無いよな…ちっさいし、何か硬いし…」
ためしに指で弾いてみると、本のカバーと言うよりは樹脂製に近い感触。
見た目だけ本のおもちゃだろうか。
「……まあいいか。」
なんとなしに、適当に選んだ本と共に謎の物体を持ち、会計に向かう。
「えー、こちらで1200円ですね。」
「これでお願いします」
現金を置く。
と同時に
「あ、そう言えばこれ。何かこの本の横に置いてあったんですけど…」
「…何ですかねこれ。ウチで取り扱ってる物では無いと思うんですけど…」
「誰かの忘れ物ですかね…」
「あ、じゃあウチで預かっておきま」
ん
急に言葉が途切れた。
「…どうかしまし「持ち帰ってもらって大丈夫ですよ」は?」
「そちら、一緒に持ち帰ってもらって大丈夫ですよ。お会計丁度、こちらレシートです。ありがとうございました。」
「ええ…?」
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何がなんやら、怒涛の会計で何やらかんやらで店を出てしまった。
「…これホントに持ってって大丈夫なのだろうか。おや、ここ開くぞ。」
まあ本の形してるし、そらそうか。
表表紙らしき部分を開くと
「……なんじゃこりゃ…」
表紙から一変、左サイドには解読不可能な文字、いや最早文字かも分からない何かの羅列がびっしり。
右サイドには毒を吐いているかのような竜のイラストと共に、同じく謎の文字らしき何かが描かれている。
「いよいよもって訳分からんな…まあいいか。」
今はそれより、親に合流するのが先決。
暇つぶしに買った本を読みながら街並みの間、歩を進める。
と。
「おい、なんだアレ!?」
「なんかヤバくない?」
周囲が妙に騒がしい。
本から目を離し、辺りを見渡すと
「え…?」
街のある部分から光の壁が放出され、ページをめくるかのように空間が変化。
あっという間に異空間に飲まれてしまった。
「なっ…なんだこれ!?」
そこに拡がっていたのは、まさにファンタジーを具現化したような幻想的な世界。
驚きの余り、手に持っていた本と謎の物体を取り落としてしまう。
「あっやべ」
急いで回収。
ここに居ても何も分からないので、とりあえず色々歩いてみよう。
この時の俺は。
その背後から迫る影に一切気付いていなかった。
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「…なんなんだここ…」
歩き回っても一向に分からん。
巻き込まれた人も理解が追いついていない様子だし、両親とも一向に合流出来ない。
「あんまし動かん方がイイのかもなぁ…ん、なんだアレ。」
ちょっと遠巻きに蠢く人影。
なんか集団っぽい。
「巻き込まれた人かな……いや待て、なんか武器持ってね!?」
気の所為じゃないっぽい。
その集団は短剣のような武器を持ち、その全員が仮面を着けている。
「明らかにヤベェやつだよな…離れた方がいいか…!」
走って逃げようとする。
と
『ッ!!』
「うおっ!?」
突然の銃撃。
奇跡的に当たらず、銃弾は壁に逸れる。
「っぶね!やべえやべえ!」
『━━━━━━━━ッ!!!』
銃撃がトリガーとなったのか、短剣を構えて迫ってくる謎の集団。
「うわあああああっ!!!」
無我夢中で逃げる。
友人とちょっとした殴り合いをしたことはあるが、武器を持ったヤバそうな集団との戦闘の心得なんて1ミリだって無い。
どうにか見えなくなるところまで撒いた。
が。
『━━━━━━━━━!!!』
「うっそ!?まだいんの!?」
それだけでは無い。
更に周りからゾロゾロと。
「…先程からシミー共が反応しているのは貴様か。」
「!?」
突如として現れた人の声。
だがその声の主は
「なんだ…お前!?」
人の姿では無い。化け物という言葉が相応しいであろう。
「我らは本の魔人…本の力を使い、この世界を手中に収める者。」
「本…だと?」
もしやあの謎の物体もコイツらに関係が?
いや、そんなことは今はいい。
「お前らの仕業か?ならこの街を元に戻せ!!」
「先程も言っただろう。我々はこの世界を手中に収める。この街はその1歩として、消えゆく定めなのだ。」
奴の言葉に、何故か。俺は何故か切れた。
相手は明らかに人では無い怪物。そしてこの街も俺たちとは何ら関係ない普通の街だ。
だがその怒りは、自分でも制御することが出来なかった。
「ふざッ…けんなァァァァ!!!!」
魔人に殴り掛かる。
が。
「…取るに足らんな。」
「がっ」
全力の拳は容易く受け止められ、拳の一撃で吹き飛ばされる。
痛い。
もはや声にすらならないその痛みは、過去に感じたあらゆる苦痛を超える。
「あっ…がっ…!!」
「だが、シミーが反応したということは何かがあるのかも知れん。その力、調べさせてもらおうッ!!」
『━━━━━━━━━ッ!!!』
魔人の声に反応し、シミーと呼ばれた雑兵が四方八方から迫り来る。
だが最早、その脅威に対抗、いや逃走する力すら残されてはいなかった。
こんな所で俺の人生は終わるのか。
嫌だ。
死にたくない。
最後の会話があんなのなんて嫌だ。
「だれ…か…」
助けてくれ。
そんな声にもならない願いが届いたのか。
『━━━━━━━━ッ!?』
衝撃がシミー達を襲い、たちまち消滅させる。
「…何?」
「なん…」
ひとつの心当たり。
咄嗟に懐から謎の物体を取り出すと。
「これは…」
光を放つ謎の物体。
《レジェンドファフニール!》
ページを開く。
《かつて、神の財宝を独占せんとする鋼の毒竜がいた…》
何も反応しなかったはずの本から朗読のような声が響く。
それと同時に
「やはり貴様が本を…がッ!?」
魔人の脳天から謎の衝撃が襲い、怪物が吹き飛ぶ。
「今度は何だ…!?」
そこにあったのは、1本の剣。
紋章のようなものを此方に向け、堂々と突き刺さっている。
「…剣…?これは…」
瞬間、脳内に映し出されるイメージ。
その剣を引き抜く姿、そして剣士の鎧。
無意識に剣に手を伸ばし、掴み取る。
「ッ…!」
渾身の力を込める。
この現状を変えることができるなら
「俺がッ…!皆を救うッ…!!救うんだァァァァ!!!」
最後の力を振り絞り、その剣は地面から引き抜かれる。
そしてその剣は紫色の光を纏い
《聖剣ソードライバー!》
鞘に収まった短剣のような形状に変化する。
「これは…こうか…!」
浮かんだイメージに従い、腰に当てると
ドライバーからベルトが放出され、自動的に腰に巻かれる。
「…なんだか分からんが。今更何をしようと、この本の完成は止められない!」
「分かんないのはこっちだってそうさ。それでも…俺が、全てを救う!」
《レジェンドファフニール!》
本をドライバーにセットし、剣を引き抜く。
「━━━━変身ッ!!」
《蠱毒抜刀!レジェンドファフニール!》
《蠱毒 一冊!鋼の竜と毒牙剣蠱毒が交わる時、あらゆる敵を討ち滅ぼす!》
《毒牙剣蠱毒!》
その姿は、まさに脳内のイメージ通り。
黒い甲冑に黒光りするドラゴン。
「貴様…聖剣の剣士か!」
「ほーん、これ聖剣ってのか。んなこたァどうでもいいんだよッ!!」
「がッ…!」
高速ですっ飛んで顔面に一撃。
引き抜いた剣…『毒牙剣蠱毒』を振るい、魔人に攻撃を仕掛ける。
「はッ!!だらぁッ!!」
「ぐッ…!!ぬアァッ!!」
剣と拳の激しい応酬。
剣に関してはド素人、それでもある程度有効なダメージを与えている。
「くッ…この世界では貴様が有利か…。ならば、戦場を変えるまで!」
魔人は謎の本…恐らく先程『完成する』と言っていたであろう、侵食された様な白い本を取り出し、ページを開く。
すると
「うおッ!?うおおおおおおお!?」
本と化した街のページが閉じて行き
周囲は完全に異世界と同化する。
「なんじゃこりゃあ!?」
「余所見している場合かッ!?」
「ふぁっ!?」
驚く暇もなく、魔人の攻撃をギリギリ回避する。
恐らくこの世界が奴らの本領なのだろう。
攻撃の威力、範囲が段違いに向上している。
「はぁッ!!」
「ぐぉッ…!?」
重い一撃。
このままではジリ貧どころかストレート負けだ。
「何かいい方法は…お?」
なんとなしにドライバーの本に触れると、ページが押し込めるようになっている。
「これは…」
《レジェンドファフニール!》
変身時と同じ声が響き渡り、腕部に流動的なエネルギーが集中する。
「これなら…!オラァッ!!」
「ぐあァッ!?」
拳が当たる瞬間エネルギーが解放され、魔人にダメージを与える。
その衝撃か、空間は元の街に戻った。
「ぐおッ…!貴様ァ…!」
「文句言いてえのはこっちだ!一気に決める!」
聖剣のトリガーを引く。
《必殺読破!》
「コイツで終わりだ!」
聖剣を引き抜き
《蠱毒抜刀!ファフニール一冊斬り!ポイズン!》
背部から翼が生える。
「だァッ!」
その翼で飛び上がり、全速力で魔人に突撃。
その速さたるや、正に流星の如し。
「はァァァァァァッ!!!」
魔人に刃が突き刺さる。
「ぐぉあァァァァァァァァ!!!!」
「行けェェェェェッ!!!!」
その剣は魔人を貫き
「アァァァァァァ…!!」
一撃で消滅させた。
「はァ…はァ…終わった…!」
疲労で倒れ込むと同時に、街を囲っていた光の壁は消滅。
周囲の風景も元に戻った。
「えーと、解除するには…こうか。」
本をドライバーから引っこ抜く。
「おお、戻った。」
しかしつくづく不思議な剣と本だ。
この鎧とかどういう原理で出てくるんだ?
「一段落付いたし。2人を探すか…」
「あ、真琴!」
「良かった…探したぞ。」
聞きなれた声。
「やっと見つけた…」
「心配したんだぞ?なんかすごい音したと思ったら、街がでっかい本みたいになるんだから。」
「いやホントだよ。もう疲れたし帰ろ?」
「そうね。本も買ったみたいだし、もう帰りましょうか。」
そうして家路に着く。
しかしこの戦いは
壮大なる物語の序章に過ぎなかったのである。
「行方不明の毒の聖剣…こんな所で見つけるとは。」
「それにあの子、本の力を引き出せてるね。」
「ああ。こりゃまた、面白いことになりそうだ。」
大分前に書いたので文章が悲惨です