Infinite Universe 【成層圏を超えろ】 作:MUGEN Χ
真新しさが際立つホールに詰められた新入生たち。新入生特有の緊張のせいか、先ほどから静寂を保ち続けている。
ちょっとした騒ぎが起こった入学式を終えた後、俺達新入生はこの学園の多目的ホールへと誘導させられた。
移動中も、どうも俺の周りはざわざわしていたような気がする。いや、気がするではなく、そうだった。
無慈悲な周囲からの謎のプレッシャーを浴び続けた俺の精神は、初日から疲労困憊である。
しかし、気にしまいと心には言い聞かせるも、顔に疲れが出ていたのか、それを見かねた一部の女生徒が俺に話しかけてきた。
こうした気遣いは小さいものでも嬉しい。連日マスコミが押し寄せていたせいで、もしかすればほんとに軽度な人間恐怖症になっていたのかもしれない。
先ほどまで、女生徒達の顔を見ると、どうもテレビ局の人達の顔を思い出してしまうこともあったが、ここの女生徒はまだ良識ある人がそろっているようだ。良好な人間関係を築き上げたいものである。
女性は噂好き、という情報に内心ビクビクしていた俺は、ただの臆病者だっただけらしい。『なますを吹く』という故事成語がお似合いだろう。
ざわざわ……。
そんな一人漫才をしていた俺以外の周囲の生徒が、一斉にざわめきだった。まるでとんでもない有名人を見かけたようなざわめきだ。
いや、実際にその通りだった。
(あっ、千冬姉だ)
ホールの壇上に姿を現したのは、俺の実姉である千冬姉。本名は織斑千冬。
キリリッ、としたその眼は、男性教師も顔負けの厳格さを思う存分醸し出している。実際とんでもなく厳しい。
その厳格さが黒のレディーススーツで一層と強調されているような気がする。初めて千冬姉がこの学園の先生だと聞いた時は妙に納得したものである。
この学園の教師である千冬姉は、IS関係者どころか世界規模で有名な人だ。
第一回モンド・グロッソ――簡単に説明すると、モンド・グロッソとはISの世界大会。オリンピックのようにISの技術に関しての各部門の優秀者を競う大会である。
各部門の優勝者には『ヴァルキリー』の称号が与えられ、さらに総合優勝者には最強の称号『ブリュンヒルデ』の称号が贈られる。
千冬姉はその栄えある第一回モンド・グロッソの総合優勝者、初代ブリュンヒルデなのだ。
そんな偉業を成しえたら有名人になるに決まっている。時間が経過すれば偉人とも呼ばれるようになるだろう。
俺のちょっとした自慢である。自分が誇ってどうするんだっていう話なんだが。
その有名人が今、実物が目の前にいたらどんな反応が予想出来るであろうか。まさに今のような騒々しさである。
今のように、厳粛な雰囲気でなければ騒々しいどころではないことになるだろう。一度アメリカでそれを経験している。あれは大変だった。まさか警察まで出動する羽目になるなんて思わなかったし。
「静粛に」
騒々しさ増す空間に、千冬姉に言葉が波打つ。その言葉を皮切りに、一瞬にしてホール内は静寂に包まれた。
やっぱりカリスマあるよな、千冬姉。政治家でも行けるんじゃないだろうか。
「まずは皆、学園への入学おめでとう。……と、言いたいところだが、これはあくまでスタートでしかない。これで浮かれていては、国を背負う人材になるなど夢のまた夢だ。一に学業、二に経験。これから厳しくやっていくから覚悟しておけ」
その言葉に皆は息をのんでいる。実際に国を背負った偉人からの言葉は説得力の塊だ。
もちろん、俺にもずんっ、とその言葉はのしかかった。なにか目標がある人達には、この千冬姉の言葉はかなり身にしみているはずだ。
「前口上はここまでにしておこう。さて、新入生諸君。ここに来てもらったのは、先ほど発表があった『新入生ナンバーワン決定戦』についてだ。これは新入生歓迎のエキシビジョンマッチとなっている。新入生から入試の際に成績優秀者、またはISに関して実績を持つ生徒を選出し、優秀者を決める、というものだ」
そして、問題の『優勝賞品』は……
「そして、優勝した際の『あれ』だが……実は教師陣も混乱しているところだ。なにせ今日初めて知らされたものでな」
じゃあ、あれは本来は予定されていないものだったのか? 俺は内心安堵したし、何より納得した。
いくらISが使えるといっても、俺自身はISに関してはただの素人。そんな素人と新入生最強の人が戦うなんて無謀すぎる。
企画として色々と破綻しているし、何より俺はそんなに目立ちたくない。もうアウトなのは知っているが、それでもだ。
でも、そういうわけにもいかないのも俺は理解している。なにせ国が強制力を使ってまで俺にこのIS学園に入学させたのだ。
このIS学園はIS教育機関としての面もあるが、ここは所謂『実験場』としての面が国際的には認識が強い。
IS学園はいかなる団体や国家、組織からの干渉を受けない。これは国際条約で決まっている。
つまり、この学園での実験データが他の第三者に漏れることはない。ここは体のいいISの実験データ取りの場所として都合がいいのだ。
そんな実験場に放りこまれたイレギュラーである俺。これが意味するのは……世界が俺のデータを欲しているということ。正確には日本が。
もちろん実戦データが欲しいはずである。学園は俺に戦わせたい、主に他国のISパイロットと。
だから、俺に戦わせるために、何よりデータを得るために、現在俺のIS専用機が鋭意制作中だと千冬姉曰く。
専用機というのは、文字通り個人に与えられる自分専用のISだ。ISに欠かせない心臓部であるISコアは世界で467機しか存在しないとされている。ISの開発者にしか作れないそれだが、その開発者が行方不明で、かつコアをこれ以上作らないと表明してしまっているので、これは変えられない現実だ。
つまり、467を絶対数として、ISは467しか存在しないのだ。そんな稀少なISを個人に与えることはどれだけとんでもないことか想像がつく。
世界で唯一の男性IS操縦者、専用機持ち。ネームバリューがついてしまっては、目立つほかない。
「それに関しては後日発表することにする。今日は、この場でその決定戦のメンバーを早速発表したいと思う」
その言葉に一瞬だけざわついた生徒たち。メンバーの発表は、これから注目すべき新入生を発表されることと同義だ。これには俺自身も多大に興味がある。
とはいっても、ある程度新入生で目立った生徒に関しては教えてもらっているのだが。
「まず、選出者番号1番、セシリア・オルコット。次に2番、オータム・フォー・シーズン。3番、篠ノ之箒。4番、小牧郁乃。5番、リリウム・ウォルコット。6番、エイ=プール。以上の6名だ」
概ね予想通りの選出だった。俺もあまり詳しいとは言えないのだが、何人かは雑誌などで名前を見ている。
まず、セシリア・オルコット。彼女は比較的有名な部類であろう。イギリスの代表候補生で、メディアへの露出も多い。
代表候補生とは、ISにおける国家代表の候補生。金の卵、未来のエースである。国家レベルの支援を受け、IS操縦に関してもレベルが高い。
さらにセシリアの生家であるオルコット家はヨーロッパでも大規模な事業展開をしている名家で、その当主であるセシリア・オルコット自身がオルコットをアピールするキャラクターとなっている。
とはいっても、これらの情報はすべてIS関連雑誌の受け売りなので、詳細は知らない。
リリウム・ウォルコットも、確か同じイギリスの代表候補生だったはず。名前からして分家か何かであろうか。
エイ=プールさんに関しては、実は少しだけ面識がある。エイさんはアメリカの代表候補生で、向こうで千冬姉の縁で顔見知りになった。
面倒見が良くて大人っぽい人だった印象がある。
オータム・フォー・シーズンに関しては知らないが、シーズンと言えばヨーロッパからアジアにかけて大規模展開している大企業『アナザーセンチュリーズエピソード社』通称ACE社だ。
ISはもちろん、日用雑貨から軍事兵器まで取り扱う大企業で、俺が常にマークしている会社でもある。
そのACE社を取り仕切るのがシーズン家で、アジアの方では政治面に関しても力を入れ始めているとか。
となると、ACE社の専属パイロットと考えた方がいいのだろう。
小牧郁乃、この名前についてはさっぱりである。おそらく千冬姉が言っていた『成績優秀者』の枠の人物か。
後、忘れていけないのが、俺の幼馴染である篠ノ之箒。
小学校からの長い付き合いで、連絡も取り合っていたのだが、直接顔を見るのは何年ぶりにもなる。とある事情で会える機会がなかったこともあるが、やはり箒自身が忙しかったのが大きい。
ちょうど去年、めでたく箒は日本の代表候補生となったのだ。ただでさえ例の事情で会える機会がない上、日本の代表候補となったおかげで連絡すら出来るチャンスが乏しかった。
そんな中でも、剣道はしっかりと継続して、最近では剣道の全国大会で優勝しているからすごい。
俺も一応中学校3年間剣道を続けてはきたが、そのレベルまでは全然なので純粋に尊敬している。
「この6名でトーナメント形式で優勝者を決めてもらう。これは各関係者に向けての重要な最初の掴み、プレゼンテーションともなる。言わずとも分かるとは思うが……恥をかかせるんじゃないぞ」
プレッシャーをかけたら逆効果なのでは。と思わず心の内で千冬姉に突っ込んだが、これもまた千冬姉らしいといっちゃらしい。
――その後は学園生活に関しての色々や、授業内容に関しての色々、学園施設に関しての色々について説明を受けた。
IS学園は全寮制となるので、俺も例外なくこの学園の寮で生活することとなる。食堂の場所は大事だよな、うん。
そしてオリエンテーションも一通り終え、閉幕へと移りかけた時、千冬姉がマイクを取った。
「これで新入生入学説明会は一切を終了する。なお、これから名前を呼ばれる4名はこの後直ちに職員室に来るように。織斑一夏、小牧郁乃、篠ノ之箒、エイ=プール。以上だ」
お呼ばれらしい。職員室に呼ばれる、というとあまりいい印象は受けないが、他のメンバーの名前から推測するに決定戦関連に関してだろう。
教室でもし会えれば、と思っていたが、思ったより再会は早まりそうである。
箒とエイさんとの新天地での再会に、少しながら楽しみを見出していた。