(リメイク版)ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

10 / 12
因みにロノスも心の中で言っている

 死ぬかと思った! 本当に死ぬかと思ったが、下着の方は何とか無事だったのは幸いだろう。

 

「……えっと、水でも飲むかい?」

 

 降り立った場所で私は蹲って息を荒くするけれど、ロノス様とポチは平然とした様子。

 

 え? まさか急降下に慣れてる?

 

「はい……」

 

 乙女の尊厳だけは何とか死なせずに済んだ事に安堵しつつ、そっと差し出された水筒に口を付ける。

 ここで水分を摂ったら次に同じ目にあった時に今度こそマズいのではと思わなくもないけれど、叫んだ事と緊張で喉はカラカラだ。

 

 一気に流し込んだら咽せて鼻から少し出たけれど、乙女的な奴はギリギリ致命傷で済んでいる……のだろう。

 

「ほら、慌てないで」

 

 咳き込む私の背中を優しい手が撫でてくれているし、悪い事ばかりではないのだろう。

 二人.…ついでに一匹が降り立ったのは街から離れた小さな森の中、街道からも遠くて小さな村すら近くにない、多分。

 

 貧相な田舎貴族の私では王家の直轄地の情報なんて殆ど入って来ないから確信こそ無いが、きっと邪魔者は来ないのだろう。

 

「此処、居心地が良いですね」

 

「うん、そうだね……」

 

 遠くから小川のせせらぎや小鳥の鳴く声が聞こえて来るだけの静寂な場所、一人になりたい時に入った実家近くの森は痩せ細った木ばかりで色合いも悪かったけれど、この森は豊かな緑に溢れていて気分が良い。

 

 帝国と王国の気温差のせいか花が咲き始める入学の季節なのにコートを着た彼は少し肌寒そうにしてポチに寄り添いながら翼を撫でていた。

 

 ……ふぅ。水も飲んで落ち着いたが、今度は別の理由でドキドキして来たな。

 

 他に誰も来ない森の中で若い男女が二人きり、本で何度も読んだデートのシーンと同じだ。

 手を繋いだり小川の水に足をつけてバチャバチャと音を立てて軽い水浴びをしたり、そのまま……。

 

 水棲の魔獣が潜む危険があるから管理された安全な場所でしか出来ないけれど、服を脱ぎ捨てて水浴びをしている姿を覗かれて、そのまま一緒に水を浴びている流れで並んで座る二人。

 

 互いの裸が気になるもチラチラとしか視線を向けられないが、視線が重なり手が重なり、やがて唇が重なって……。

 

「……そんな事にはならないでしょうけれど」

 

 そこまで思い浮かべた私は即座に妄想を打ち切った。

 

 少し良い雰囲気になるのは分かりますが、知り合って間もない二人、それも性的な事に奔放な育ちでもないのにちょっとした事で流されて肉体関係を持つだなんて発情期の獣じゃあるまいし。

 

 恋を自覚した勢いなのか少し頭が色めきだっているのではないかしら?

 キスすら早いけれど……さっき水筒に口を付けて飲んだわよね。

 

 つまりロノス様も水を飲めば間接キスという事に。

 私が口を付ける事に抵抗を見せなかったし、意識していないだけかも知れないけれど、私はそれを間接キスだと認識している。

 

 

「キュイ!」

 

「喉が渇いたのかい? ほら、口を開けて」

 

 目の前でポチの嘴の中に水筒の中身を入れているけれど、あれはカウントしない。

 だって触れていないし……。

 

 つまりだ、この後で彼が飲んだ後で喉が渇いたと再び腫瘍を受け取れば成立するのよね。

 何も問題無いし、目当てのダンジョンとやらに行こう。動いた後なら喉が渇いて当然だ。

 

「それじゃあポチにまた乗るけれど、今度は後ろに乗ると良いよ。ポチが風で支えてくれるし、僕に掴まって目を閉じていれば直ぐさ」

 

「あっ、それなら大丈夫そうですね」

 

 先程私が乗っていた位置に座るロノス様の背後に座り、軸を掴もうとして腕を止める。

 掴まれとは言われたがどの様にかは指示されておらず、何より私は怖がっていた。

 

「きっとこれで大丈夫です。到着したら目を開けますので教えて下さいね」

 

「……あー、うん。慣れてないと怖かったよね」

 

 彼の腰に手を回し、指と指を絡める様にしてがっしりと掴まれば少し動揺した声が聞こえた。

 ああ、少しは効果があったのね。

 

 普段は揺れて痛い、汗が谷間に溜まる、動く時に嵩張る、そんな風に邪魔でしかない胸を押し当てている事を彼が意識しているらしいのが嬉しかった。

 だって異性として一切意識していないなら動揺なんてしない筈でしょう?

 

 私の黒髪に嫌悪感を向ける男達の大抵が先に胸に視線を向ける。気が付いていないとでも思っているのなら笑い物だが、彼と話す時は特に視線は感じなかった。

 

 初対面の時は焦っていたから意識する余裕が無かったが、その後も胸には視線を感じなかった所を見ると胸より尻が好きなのかしら?

 私のお尻は小さいけれど、大きいのが好きなら困るわね。

 

「じゃあ飛ぶよ」

 

 何方にせよ怖がった私が強く抱き付くのは自然な事で、それをわざわざ指摘して離れさせる様な事は言われないだろう。

 一瞬の浮遊感、そして再び聞こえる景色を置き去りにする時の風の音。そして……。

 

 

 

 

「お兄様みーっけっ! 探したじゃないの」

 

 聖女の嬉しそうで無邪気な声……はっ?

 

「あれ? 出掛ける時と乗り方が変わってない?」

 

 都合の悪い幻聴かと思いきや再び声が聞こえて、恐る恐る声のした方を見れば聖女が宙を走っていた。

 

 彼女の足元には何も無い、有るとすれば大気だけ。なのに健脚は宙をしっかりと踏み締め、静かな水面に石を投げ入れたみたいに踏んだ場所に黄金の波紋が発生しては消えて行く。

 

 ……魔法か。

 

 魔法とはイメージ。例えるならジグソーパズル。自らの持つ属性を使い目当ての絵を描く。

 

 真っ白なピースとなる魔力、それを一枚一枚順に描くイメージ力、そして絵を成立させる為の組み方となる魔力操作。

 このどれが欠けても思い描く魔法は成立しない。

 

 だから四属性の魔法は既に存在する魔法を使う者が多く、使い手の記録が殆ど残っていないので闇属性の魔法を殆ど使えない。他属性の既存魔法と似た感じにしたくても誰も教えてはくれなかった。

 

「リアスさん、その魔法は……」

 

 もしかして光を足場にしている?

 

「【ホーリームーブ】の事? 私が編み出した魔法よ」

 

 それを目の前の聖女は成し遂げたと平然と口にする。確かに空を飛ぶ魔法自体は存在して、風の翼の代わりに噴射の勢いで飛ぶ炎の翼等、既存の魔法の構築を自分なりに組み替えた結果だ。

 

 でも、宙を自在に歩く魔法なんて伝承にも残っていない筈。帝国だけに伝わる可能性はあるけれど、少なくとも私は知らない。

 

 やはり聖女の再来と呼ばれる程はあるという事か。少し馬鹿っぽいと感じさせられたけれど、侮っていた。

 

 

 

「ほら、翼で飛んだとして、空中で蹴ったり殴ったりするのって威力が下がるじゃない。踏み込みがあってこそ威力が出せるものね」

 

 聖女……いや、もう聖女って呼ぶのに抵抗あるな、この脳筋。よし、頭の中ではリアスって呼ぼう。

 

 これが凄い魔法の開発を何とも言い難い理由で成し遂げた彼女への評価が私の中で決まった瞬間だった。

 自己評価は最低の私だけれど、これが私とは正反対の神々しい存在だとか思いたくなかったのよ。

 

 ……まあ、肉付きの一部は正反対か。動き易そうで羨ましい。

 

 それと私に肉弾戦の話を振るって……。呪われてる以外は普通の貴族令嬢って忘れていないかしら?

 

 

 

「それにしてもメイド長との約束があったのによく来れたね。お勉強を後に回す説得とか大変だったんじゃないのかい?」

 

「お兄様に一つ教えてあげるわ。人生、なるようになるのよ」

 

 成る程、勉強をサボって今此処にいるのか。そして後で罰を受けるようになるな。

 

 怖いから目を閉じているけれど、多分平原な胸を張っているのは声で察しながら思う。

 聖女の再来とか節穴しか居ないのだろうか? 光属性というだけで聖女とか馬鹿馬鹿しく感じるが、それなら私の扱いも同じだわ。

 

 ああ、馬鹿ばかりだからこんな世の中なのか、スッと得心がいった。

 

 

 

「お説教の後でお小遣い減額されても知らないよ? 僕、お金の事じゃ君を甘やかさないから」

 

 あっ、お金以外で甘やかしている自覚があったのか。うん、多分他でもしているからこれなんだと思う。

 

 それにしても今更だと思うけれど……聖女がハルバート担ぐな。止めろ、誰か止めろ。

 

「それは後で考えるとして、お兄様、水持ってる? 急いで逃げて来たから忘れちゃって」

 

「はいはい、ちゃんと僕の分も残しておいてよ?」

 

 あっ、今度こそ間接キスに余計なのが挟まった……。

 

 

 

 

 

「アリアさん、もう着くよ。……ポチ、今度はゆっくりだよ?」

 

 ロノス様の声と共に下降が始まったのを感じ、そっと目を開けると下に広がっていたのは沼地だった。

 周辺も湿っているのか泥状になっていて靴が汚れそうなのが気になるけれど、このローブが汚れてしまうのが不味い。

 

 ……ちょっと嫌だ。汚れた所を見られたくない。

 

 泥地に靴裏が触れる感触が怖くて恐る恐る足を伸ばし、足先が触れる寸前に目を閉じる。

 そんな事をしても無駄だというのに馬鹿な真似だわ。

 

 でも、足先に感じたのは泥とは違う柔らかさ。締め付けと粘性のベチャベチャした物とは違い、フワフワとした干し草にでも寝転んだ時に似たそれに恐る恐る目を開ければ、辺り一面に広がっていたのは豊かな森の前の花畑。

 

 濁った沼は消え、底まで見える程に澄んだ水を蓄えた池の畔に咲く花の周囲を蝶が舞う、そんな綺麗な光景だった。

 

「わぁ……」

 

 確かに綺麗だ、それは分かる。でも、それがどうかしたのかは分からない。

 それでも年頃の女ならこの反応が正しいのだろうと花に顔を近付ければ甘い香りが漂って来た。

 

「あの、ロノス様? 此処ってもしかして妖精の領域なんじゃ……」

 

 降り立つ前、漂う臭いからもこの場所は確かに沼地だった。なのに降り立ってみれば一面の花畑。

 考えられる理由は一つ、妖精の魔法によって空間が歪められた場所、即ち妖精が縄張りにしている領域だ。

 

 妖精は優れた容姿と高い魔力と独自の魔法を使う種族。鳥籠に入るサイズだからペットにしようと先代王妃が捕まえようとして軍を派遣した事が発端となって王国とは交流を完全に断絶。

 

 そうなる前は痩せた土地を豊かにしたり、災害を防ぐ手伝いをしてくれたりと対価次第で手助けをしてくれていたのにだ。

 

 ……本来ならフェレス領も少しはマシになる筈だったのに、約束の日の数日前にやらかしたせいで契約が御破算になったと母が言ったのを覚えている。

 

 つまり帝国の二人なら別として王国貴族の私が入るのは……あれ?

 招かれざる客以前に何故此処に入り込めたのだろう?

 

 領域には取引相手でも入れない。領域に繋がる場所に指定された日時に行けば向こうから現れ、その際に空間に開いた穴から中の様子が見える程度だった筈なのに……。

 

「ああ、それ? 簡単よ。お兄様は……」

 

「あれ? 何かがやって来ましたよ……ひぇ!?」

 

 問い掛けの答えを遮るタイミングで地響きがして、森の方から土煙と唸り声を上げながら猛進して来るのは馬よりも一回り大きい猪。

 

 鼻先を地面に擦る寸前まで傾ける事で土砂を削る長い牙は青みが掛かり、その全身の逆立った毛も同様の色合いと同時に鈍い金属の光沢を放っている。

 

 一歩一歩がまるで数十匹からなる群れの様に激しく地面を揺らしながら花畑を荒々しく踏み荒らす。

 鼻息も足音にかき消されない程に荒くて、血走った目を向けながら迷う事なく私達へと向かって来ていた。

 

 

「メタルボア!? どうしてこんな所に!?」

 

 メタルボアは主に鉱山地帯に生息する魔獣で、掘り返した鉱石を食べる事で成分を取り込んで重く硬くなって行く。

 食べる鉱物によって体を構成する金属は変わるけれど、その硬度と重量でも全く落ちない突進の速さから極めて危険な魔獣とされている。

 

 ……ギリギリの距離でフェレス領には全く関係しない鉱山から迷い込んだメタルボアが暴れたので知っているけれど、あれも同じ青銅を取り込んだのね。

 

 即ち、アレは意思を持つ金属の塊と同じ。対処法は接近される前に高威力の魔法を叩き込むか爆薬で吹き飛ばすかだった筈だけれど……。

 

「お二人共、飛んで逃げ……」

 

 逃げましょう、そう言い切る前に私の真横を疾風が通り過ぎる。いや、そんな生易しい物じゃない、暴風だ。

 

 ローブの裾が捲れ上がり、風圧で倒れそうになるのを何とか堪えた私の横を通り過ぎて行ったリアスは全く臆さずにメタルボアへと猪突猛進の勢いで迫り、力強く地面を踏み割った。

 

「せいっ!!」

 

 空気を強く叩く様な声量と共に前方へと踏み下ろした足による地響き。踏み込んだ場所を中心に蜘蛛の巣状ひび割れが広範囲に渡って花畑を荒らし、地面を隆起させた。

 

「ブモッ!?」

 

 凶暴な魔獣にも関わらず鳴き声には困惑と恐怖が混じり、咄嗟に止まろうとするも一度付いた勢いは容易には収まらない。

 

 バランスを崩しながら減速した足は大きく割れた地面によって取られ、メタルボアの巨体が激しくバランスを崩した時、既にリアスが接近して足を振り抜いていた。

 

 

「ホーリーキックッ!!」

 

 崖が崩壊する、もしくは巨大な金属同士が高速で激突したかの様な轟音と共にメタルボアの巨体が宙を舞う。

 数百キロはありそうなにも関わらず高く高く舞い上がり、落下した場所には深い陥没があった。

 

 

 ……今の蹴りの何処にホーリーの要素があったのだろう?

 

 

 

「リアスさんって聖女の再来って聞いたのですが……」

 

 もう欠片も信じてはいないけれど。一時間も経たない内にこれなのだから逆に凄いわね……。

 

 聖女の再来じゃなくってゴリ……。

 

「どんな風に呼ばれてもリアスはリアスさ。僕の可愛くて大切な妹のままだよ」

 

「キュイ……」

 

「こら! 聖女のゴリ来(らい)って言わない。そんな言葉、何処で覚えて来たの!」

 

 心を読まれたっ!?

 

「キュイィィ……」

 

「うん。そうやって反省するのは良い事だよ。ポチは賢いでちゅね~。ナデナデしてしてあげまちゅよ~」

 

 いや、そうではないらしい。成る程、ポチが言ったのか。つまりグリフォンにまでそんな風に思われるという事は……。

 

 いや、ちょっと待て。

 

「あの、今更だけれどロノスさんってどうしてグリフォンと話せるのですか?」

 

「正確にはグリフォンじゃなくてポチだけと話せるのさ。その理由だけれど、此処に来たもう一つの目的と一緒に話した方が良いかな? ……レキア、出て来たら?」

 

 ロノス様は少しだけ不機嫌そうにしながら誰も居ない空間に話し掛ける。

 暫く沈黙が続くけれど僕は同じ場所を見続け、やがて観念したみたいに舌打ちが聞こえたかと思うとモンスター達の死体が音と共に煙に包まれ、花に変わった。

 

 

「ふんっ! 相変わらず人間程度の分際で不愉快な奴だ。それに今日はピカピカ女だけじゃなくて変なのも居るではないか」

 

「誰がピカピカ女よ!」

 

「貴様以外に居るか? 脳みそツルツルのツルペタ女の方が良いならそう呼んでやるが?」

 

 続いて彼が見詰めている所に現れたのは人形みたいに小さくて少し偉そうな女の子。

 ウェーブの掛かった緑髪を腰まで伸ばし、若草色のドレスを着た彼女は腕組みをしながら不満そうに僕を睨んでいた。

 

「はぁっ!? アンタ、バスト何センチよっ! どう考えても私の方が大きいじゃない!」

 

「……ふぅ。そもそもの体の大きさの違いも分からぬとはな」

 

「あっ、紹介するよ。彼女は妖精の姫のレキア。僕とは許嫁の関係だよ」

 

 ……は?




応援待ってます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。