(リメイク版)ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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一応シスコンの自覚がある 直す気は無い

「ねぇ、覚えているかい? 僕達が前世の記憶を取り戻して大泣きした時のゴタゴタをさ」

 

「えっと……あっ! 勿論覚えているわ!」

 

 切り伏せたワイバーンの死骸が周囲に散乱する中、問い掛けに動揺を見せるリアスに困りつつ刀の血を払い除けた。

 

 そのまま背負った鞘に納める前に頭身を眺めれば直刃に分類される波紋と共に鏡みたいに磨かれた刃に顔が映る。

 

「やっぱり良いよね、刀って。夜鶴(よづる)、君は本当に美しいよ」

 

 東の大陸からの移民が持ち込んだという刀、その中でも長い下緒に飾りのない鍔を持つ直刀。

 忍者刀に分類される奴だけれど、大型の魔獣を想定していたのか全長は二メートルに達する。

 

 銘は夜鶴、僕の愛刀だ。西洋剣とか槍とかの扱いだって習ったけれど、この大陸じゃ使い手が少ない刀を使っているのさ。

 

 ……ほら、僕って日本で暮らしていた男の子だったし、忍者とか好きだったんだよ。

 だから屋敷の蔵に眠っていたのに一目惚れ、最初はコレクション程度の予定だったけれど一番使ってしっくり来たから今も使っているのさ。

 

 

「もう直ぐだと思うと緊張するな」

 

 あの日から六年、もう直ぐゲームでの本編が始まる次期、つまりは世界情勢を大きく動かす事態が起きるって事だ。

 

 ……その為に自分なりに対策はして来たんだけれど、ちょっと不安になって来たな。

 

「自分達や周囲の人達だけじゃない。帝国全てが守るべき対象だ。迷ったら相談だからね?【クロック・ロスト】」

 

 こうしてワイバーンを退治するのもその一環。こうして実戦経験を積み、レベルアップ(ステイタスを確かめる術は無いけれど、戦いで肉体の質が向上するって知られてはいる)をするんだ。

 

 勿論後始末だって必要だ。ゲームでは倒した敵は消えるけれど、現実だから死体は残るし、疫病やら死体目当てに別の魔獣が現れるってのも起こるからね。

 

 空中に現れる時計板の針が徐々に加速しながら進み、やがて常人では視認不可能な速度に達すると共にワイバーンの死体は肉が腐り骨だけになり、そして完全に風化して消え去った。

 

 さてと、これで後処理は終わりっと。本当なら任せる筈の部隊には別件で経験積ませないとね。

 

「あの後は大変だったわよね。怪我をしたのかってメイド達が慌てちゃってさ」

 

「使用人とは仲良くしてたとはいえ、目を離した間に怪我をされたら責任問題ではあるからさ。口喧嘩してって誤魔化したけれど驚かれたっけ」

 

 そう、ゲームでは僕だけじゃなく取り巻きにも横暴な態度を取っていたリアスだけれど、あの頃のリアスはそうじゃなかった。

 

「使える魔法の属性が分かるのは十歳以降。聖女と同じ光属性って知られた後じゃ感度の目も厳しくって誤魔化すのが大変だっただろうね」

 

「……もー、止めてよね。ゲームの中だろうと自分があんな風になって酷い振る舞いするとか悪夢じゃない。何よりもお兄ちゃんに酷い事を言っちゃうし!」

 

 

 確かにゲームでは悪役だったけれど、僕はリアスが賢くて誇り高くて心を許した優しい子だって知っている。

 それが甘やかされて、悪い事を悪いと思わない我が儘な子になってしまうのは……いや、されてしまうのは絶対に避けたい。

 

「まあ、本当に良かったよ。リアスに前世の記憶や価値観が有るならゲームみたいにならないだろうしさ」

 

「当たり前よ。まあ、甘やかされたらあんな風になるんじゃないかって自分でも思うけれど、客観的に見たら馬鹿じゃないのと思うわ。……多分疑問を抱かない様に誘導されたのでしょうね」

 

 リアスがあんな風に育ったのは甘やかされた結果だけれど、そっちの方が都合が良いからだ。

 心底ゾッとしたって態度を見ると貴族として育った価値観だけじゃなくって日本人としての価値観も混ざったのが良かったんだろうね。

 

「分かってると思うけれど留学先ではお兄ちゃんって呼ぶのは人の目が無い時ね。今でも偶に人前で言っちゃうんだから」

 

「はーい」

 

「はい は伸ばさない」

 

 その反面、肉体より幼い前世の人格の影響か子供っぽくって一部への甘えん坊な部分がでちゃったんだけれどね。 

 可愛いから別に良いや、フォローするだけさ。

 

 

 

 

「お姉ちゃんも来ているのかな?」

 

 後は帰るだけ、そんな時に思わず口から出てしまったのは再会出来なかったあの人についての言葉だ。

 今も前も両親と過ごした記憶は僅かで、前世の僕達にとってお姉ちゃんが親代わりだったからね。

 

「きっと来ているわ。だから探すし、向こうも探しやすい様になりましょう。悪役だった私達の名声を響かせて、お姉ちゃんに見付けて貰うの。今は血が繋がっていなくても……あの人は私達のお姉ちゃんだから」

 

 どうして僕達がこの世界に転生したのかは分からないけれど、こうして兄妹が再会出来たんだから、きっとお姉ちゃんとも会える。

 

 根拠は無いけれど、僕達はそれを信じて疑いもしなかった。

 

 

 

「ただいまー! お姉ちゃん、オヤツー!」

 

 少しだけ記憶が蘇る。

 

 スイミングスクールから帰った僕が水着を洗濯機に入れてからリビングに向かえば指定席にしている膝に上に妹を乗せたお姉ちゃんが”魔女の楽園”をやっていた。

 

「……数の暴力には勝てないわね。まさかソロでのクリアが此処まで……あっ、もう三時? もう負けそうだしレベル上げするから先にホットケーキでも作ろうか」

 

 両親が仕事で家を空ける日が多かったから、僕達の面倒は主にお姉ちゃんが見てくれていた。

 この日だってゲームを直ぐに切り上げて僕達の世話をしてくれて、僕達はそんなお姉ちゃんが大好きだったんだ。

 

 自分だって友達と遊びに行きたいだろうに、僕達の前じゃそんな素振りを見せず、僕はそんな事を考えもしてなかった。

 

「お手伝いしてくれる人は居るかなー?」

 

「はーい!」

 

「僕も!」

 

「二人共良い子ね。じゃあ、早速作ろうか!」

 

 何かをする時は三人一緒が僕達のルールで、そんな日が何時までも続くと思っていたんだ。

 

 ああ、本当に懐かしい……。

 

 

 本当はこっちの世界に来ていても新しい家族の方が大切で、世話を焼かせてばかりだった弟妹なんて関わりたくないんじゃって思う時もあるけれど、そんなのを一切疑わずに再会を待ち侘びるリアスに僕は何も言えないでいた。

 

 それに心配事はゲームで起きた色々な事件についてだけじゃない。何となく見ていた範囲で分かるゲーム開始前の事件は幾つか関わったり防いだりしたけれど、それがどんな影響を齎すのか。

 

 そして……僕達以外にゲームの記憶がある人の存在の可能性。もし居るのなら僕達って早急に消すべき存在だって認識だろうし、可能なら手を結びたいんだよね、領地にデメリットが無ければ。

 

 今の所は未来を見通してるっぽい怪しい奴の接触は無いけれど、あるとすれば学園でかな?

 

「リアスの方は暗殺とか襲撃とかあったかい?」

 

「この前の聖女のお仕事中に毒矢で狙われはしたけれど、それだけよ」

 

「そっか。僕の方も刺客を送られてはいないよ」

 

 不正をしていた代官に送りはしたけれど、とは口にしない。だって教える必要は無いから。

 汚い世界については可能な限り遠ざけたいんだ。だって僕はお兄ちゃんだし、妹は守らないと。

 

「もう直ぐゲームの開始時期かぁ。分かってたらお姉ちゃんから設定をもう少し詳しく教えて貰うんだったわ」

 

「たられば言っても仕方が無いさ。僕も過去には戻れないし、分かる範囲と情勢を見て判断しようよ」

 

「う、うん。情勢を見て考えましょう。……お兄ちゃんが」

 

 リアスにもちゃんと考えて欲しいんだけれどなぁ……。

 

 どうして此処迄の腕白に育っちゃったのか。振り回されている友達に陰でゴリラとか呼ばれているし、聖女の仕事はちゃんとこなしているのに僕の思考を任せる癖が付いちゃったのは少し反省しないと。

 

 だって僕の方がゲームに興味無かったんだしさ。分かる範囲、今の所は僕達が影響を与えた所以外ではゲーム通りになっている。

 他国の事だと多少の判りにくさはあるけれど、何か起きた時にリアスにも考えて欲しいんだけれどね。

 

 

 

 そもそもの話、別の世界に転生するのは良いんだ。疑問なのは神様みたいに世界で起きている事を把握したみたいな内容のゲームが何故存在したかなんだけれど……。

 

 

「考えても仕方がないか」

 

 それこそ神じゃない僕達にはそんな事なんて分からない。倒すべき敵には神さえも含まれてはいるけれどね。

 

 ははっ、案外神なら別世界の事さえも分かっていて、聞いたら教えてくれたりして。

 ゲームに出て来てた神関係は人間にバリバリ敵対していたから無理だろうけれどさ。

 

 

 家の権力も財力も大きいし、僕達だって腕を磨いて来た。待ち受ける未来が既知でも未知でも立ち向かうしかないんだ。

 だって一緒に居たい相手を守る為にはそれしかないんだから。

 

 

 だから少しは肩の力を抜いてみようか。大丈夫、僕達が力を合わせればどんなアクシデントだって乗り越えられるからね。

 

 

 

 平らに加工された石が敷き詰められて整備された道を馬車が行く。貴族御用達の馬車職人による最高級品は魔法の力もあってか移動の揺れは中に殆ど伝わる事は無く、窓から後ろに向かって飛んで行く景色を眺めなければ止まっていると錯覚したかも知れないだろう。

 

「ちょっとお兄様。そろそろ王都に到着するわ」

 

 肩を揺り動かされて目覚めれば隣に座るリアスが少しだけ不機嫌そうだったのは、多分会話の途中で寝てしまったからだろう。

 

 馬車の中は広々としていて、テーブルを挟んでフカフカのソファーが有るのにリアスはわざわざ隣に座っている。

 この子、もう十六なのに僕限定で甘えん坊だからね。

 

 

「あっ! 手紙で聞いたのだけれどケーキが美味しいお洒落なカフェあるんだって。お兄様、到着したら直ぐに行きましょう!」

 

「先ずは荷物を置いてからね。屋敷の使用人との顔合わせだってあるし」

 

「そんなの後で良いじゃない。お兄様ったら真面目ね。……はいはい。分かったわよ」

 

 リアスは成長に伴って少し我が儘になったけれど、僕に向ける事が殆どだから多分大丈夫。

 ちょっと頭が筋肉なのと胸が平たいけれど……。

 

「……今、余計な事を考えなかったかしら?」

 

「気のせいだよ。昨日は夜遅くまで起きていたからね」

 

 ジト目で僕を見詰めるリアスの指は肩に置かれたまま力を増して、幾ら僕でも口に出したら怒るであろう事を悟らせる。

 

 王国に持ち込むモノの手続きの際、余計な茶々が入ったせいで夜更かしをする事になった僕が少し寝不足な頭を働かせて窓の外に目を向ければ、遠目に城が見えて来た。

 

 高台に建設された王城と城下町を囲む巨大な外壁、魔獣を含む外敵への対策を施したあの王都にゲームの舞台である“アザエル学園”が存在する。

 

「ねぇ、お兄様。お祖父様から何かあった?」

 

「君をちゃんと見張っていけってさ」

 

 僕の返答にリアスは少し不満そうに押し黙る。実の祖父の指示がそれなんだから当然だろうけれどさ。

 でも、同時にあの人がそういう性格だって知っているからか文句は言わない。

 

 まあ、護衛の為に一緒に乗っている人から余計な事が伝わらない為ってのもあるんだろうけれど。

 

 

「……」

 

 赤い髪を短く切り揃えた燕尾服の女性は僕達の会話を聞きながら静かに笑みを浮かべているだけで会話に入って来ない。

 彼女の印象は居るのか居ないのか分からない相手。でも、それは地味で印象が薄いって訳じゃない。

 

 濃い褐色の肌に少し低い身長で胸は慎ましいけれど、美人かどうかなら間違い無く美人だろう。

 それでも街中ですれ違えば印象に残らず、振り返った時に姿が見えなければ気のせいだったと判断して終わりだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ねぇ、マイ・ニュ。馬車の中くらい普通にしない?」

 

「いえ、私はこれが普通なんですよ。ゼース宰相より任せられた仕事上、常に必要なので」

 

 そこに存在するのなら感じる筈の気配を全く感じさせずに彼女、マイ・ニュは笑顔のまま淡々と告げる。

 気配を消しているんじゃなく、気配を周囲と同化させる事で鋭い者すら欺く。それがお祖父様の懐刀である彼女が得意技とすら呼ばない技術だ。

 

 護衛って名目だけれど、彼女を同行させる時点で警告だよな、絶対。

 

 リュボス帝国宰相ゼース・クヴァイル、それが僕達の実の祖父であり、今回の留学を命じた人の名だ。

 戦いなら別として政治的な事では百年経ってもあの人に勝てる気がしないし、間違った判断はしないって信頼はあるから僕達は従っている。

 

 従うしかないってのもあるんだけれど……。

 

 他国とのコネ作り、どれもクヴァイル家や帝国の事を考えての判断。先代皇帝の妻は僕達の叔母、要するにお祖父様の娘な上に有力貴族はほぼ全員が傘下だから帝国内ではコネを求められても求める必要は無いのは分かるんだ。

 

 

「お二人共、私は王都に到着したら別件で離れさせていただきます。今度会った時は学園の話をして下さいね?」

 

「う、うん。分かっているよ」

 

 この人はゲーム開始時には既に死んでいるから情報は少ない。分かっているのは尋常じゃ無い強さの持ち主だって事だけだ。

 

 それと命令次第で僕達を平然と殺そうとするってのも追加で。だから正直言って苦手だよね

 実際、幼い頃にそれは伝えられている。

 

 

『ロノス君とリアスちゃんを殺す時は優しく殺してあげますね』

 

 まあ、そんな判断をした事や僕だけに伝えるのはマイ・ニュなりの優しさなのだろうと思っていた時、不意に馬車が動きを止める。

 

 

「おや? どうやら馬車の事故らしいですね。どうも王国の貴族らしいですが」

 

 馬車が止まった事に意識を向けた刹那、マイ・ニュは僕の隣に移動して窓の外を一瞥していた。

 軽く頷いて許可を出して来たので僕も外を見れば確かに車輪が外れて傾いたらしい馬車が見えるけれど、どうも妙だな。

 

 

「王国所属を示す紋章こそ有るけれど家紋は目立つ所に無い。それにあの馬車は……」

 

「オンボロじゃない。幌も穴だらけで意味無いし」

 

 そう、貴族の馬車にしてはあまりにも酷い有り様だし、乗り心地が悪そうな馬車に乗っているのは薄汚れたフードを被った御者と僅かな荷物。

 そもそも馬も痩せっぽちの老馬、余程の貧乏貴族、それも家の者から疎ましく思われている立場の……あれ?

 

 妙な既視感を覚えたけれど頭に靄がかかって思い出せない不思議な感じだ。

 リアスも気持ち悪そうにしているけれど、何故だろう?

 

「他所の家の事情に首を突っ込むのは勘弁ですが、このまま見捨てて悪評でも流されても困りますしね」

 

 車輪が外れて傾いた馬車の中、御者は途方に暮れた様子で王都の方を眺めている。

 あんな古い馬車を使っているんだし、人を雇って荷物や壊れた馬車を運んでもらうのは難しいんだろう。

 

 そして貧乏で訳ありらしくても貴族は貴族、困っているのを見掛けながら無視して放置はマイ・ニュの言葉通り避けるべきか。

 

「そうだね。僕な楽に|戻(・)せ(・)る(・)。さっさと助けて屋敷に行こうか」

 

 こっちの御者に馬車を横付けさせると丁度荷物だけでも運び出そうとしている所だった。

 

「大変そうだね。怪我は無いかい?」

 

「は、はい。何とか……」

 

 僕達に漸く気が付いたのか持ち上げた荷物を降ろしてペコペコ頭を下げているけれど、何故かフードは取らないし俯きがちだから顔はハッキリと見えない。

 声からして同年代の女の子らしいけれど、どうして顔を見せまいとしているのかは聞かない方が良さそうだね。

 

 

「安心して。直ぐに助けるからさ。【タイム・リターン】」

 

 宙に浮く時計の針は左方向へと進み、時計板の光に照らされた馬車は動画の逆再生をするかの様に壊れる前の状態に戻っていった。

 戻す時間は途中でまた壊れても困るだろうから十日間、こんな魔法が関わっていない馬車程度なら簡単だ。

 

「え? これってまさか噂の時魔法……」

 

 おや、僕の事を噂程度では知っているんだ。

 

 驚いたからだろうか、フードの彼女は顔が見えない様に伏せていた顔を上げて僕の方に視線を注ぐ。

 

 その時、不意に強い風が吹いて彼女のフードが捲れ上がった。

 咄嗟に掴もうとしたけれど間に合わずに見えたのは気弱で少し卑屈な印象を受けるけれど、それにかき消されない程に整った可愛らしい顔。

 

 そして一番特徴的な箇所を見た時、僕の口から思わず言葉が漏れていた。

 

 

「綺麗な髪だな……」

 

 彼女の髪は夜の闇を思わせる黒。その美しい髪に僕は目を奪われてしまう。

 

 

 

 ……あれ? 黒髪って……。

 

 

 そう、僕が助けたのは黒い髪を持つ女の子であり、この世界で黒髪が示すのはただ一つ。

 

 邪悪な魔女と呼ばれ忌み嫌われる“闇属性”を持って生まれた証。

 

 

 そう、ゲームにおける主人公、アリアだったんだ。

 




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