(リメイク版)ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい 作:ケツアゴ
そもそもリアスが光属性の魔法を使える事が何故聖女のゴリ来……再来と呼ばれるのか、何故闇属性を使える事で魔女と呼ばれ忌み嫌われるのか、その答えは数百年前まで遡るんだ。
この魔法が存在する世界には神が実在する。但し、人間の祈りに応えて力を貸してくれる絶対的な都合の良い味方って訳じゃなく、そもそも神が直接何かをしたって記述よりも力を与えた人間や創造した配下を使って稀に手出しをしたって程度。
降臨して大勢に姿を見せたって記述すら無いんだ。
そして都合の良い味方じゃないけれど、都合の悪い敵としてなら存在する。全ての魔獣を創造し、自分と同じ闇の力を与えた人間を手駒にして人間を殲滅しようとした闇の女神テュラ。
そう、その闇の力を与えられた人間こそが初代魔女であり、その後の歴史の中でも闇魔法の使い手は歴史に残る様な事件を引き起こして来たんだ。
……裏を返せばそれだけ闇属性が強力って事だ。実際、基本属性である『火』『水』『土』『風』の四属性とはゲーム内の攻撃性能が段違いだったし、過去の出来事や自分達とは違う存在への恐れや嫉妬からの迫害も闇魔法使いが事件を起こす切っ掛けなのかもね。
卵が先か鶏が先か、世界を見守る神のみぞ知るって奴さ。
そして重要な方、リアスの使う光属性なんだけれど、これはテュラを止めるべく動いた光の神リュキが選んだ人間に与えた力であり、魔女と多くの魔獣を打ち倒した末に聖女だと称えられた、それがリュボス家の初代当主だってさ。
此処までが世間一般的に伝わる歴史であり、ゲームでも最後の方まで信じられていた話。
実際は裏で色々あるんだけれど……どうも記憶が妙に薄れてリアス共々思い出せないでいる。
まあ、そんな訳で主人公であるアリアへの好感度は一部キャラを除いて序盤からゼロを通り越してマイナス状態。確か開始前の選択肢で選ばれた攻略対象は困っている彼女をそうと知らずに助けて、少し話をする事で偏見を捨てた……だったかな?
先程まで全く思い出せなかった記憶が甦る感覚に気持ち悪さを覚えつつ今目の前に居る女の子を観察してみよう。
僕が知っているのはテレビ画面に映る主人公のイラストや戦闘パートのCG立絵、実在の相手と記憶を頼りに比べてみれば人違いだと分かるかも知れないからね。
先ずフード付きのローブで分かり難いけれども体格は小さめで袖の隙間から見える腕は細い……ちょっと痩せ過ぎ? なのにブカブカのローブの上からでも分かる程に胸は大……うん、不躾な視線は止めておこう。
「おっと、僕の事は知っているみたいだけれど名乗っておこうか。ロノス・クヴァイルだ」
既に肩まで伸ばした黒髪の時点でアウトなんだけれど、やらかしから目を逸らす為に訊ねよう。ほら、厨二病的なアレでわざわざ髪を黒く染めている可能性だってあるからセーフかも……。
「……はっ!? は、はい! 助けていただき有難う御座います、ロノス様。ファレス男爵家のアリアと申します……」
「君も新入生みたいだし、学園では宜しくね。じゃあ、先に行かせてもらうよ」
「宜しくお願いします!」
少し呆然としていた彼女は僕の名乗りにフードを被り直しながら深々と頭を下げて来る。
ロノスとしての人生のお陰で同年代に様付けされるのに慣れているけれど、どうも久々に会った黒髪の子が相手だと日本人だった前世の感覚が少し出てむず痒い。
それに別れ際に笑顔を向けて来たけれど結構好みのタイプなんだよね。
セーフの可能性が出た事に動揺しつつも顔には出さず、友好的な態度で軽く手を振り馬車に戻って漸く息を吐き出した。
「お兄ちゃ……様。さっきのあの子って……」
「そうだね、黒髪は闇属性の証明だ。成る程、貴族である事は示していても家紋を掲げていない理由は……」
推測する限りじゃ身内からの嫌がらせ、実際ゲームの描写でもそんなシーンがあった様な無かった様な……。
それにしても主人公と遭遇か、想定外だな、どうしよう。
元々他国の弱小貴族、それを調べて闇属性の事まで突き止めたってするのはどうも不審だ。
だから避けていたし、そもそもかかる火の粉は振り払っても自分から火事場に飛び込む真似はしたくなかった僕はゲームで起きた事件にはそれ程関わる気が無かったんだ。
「あの子が気になりましたか? 確かに闇属性とは驚きましたが、お二人がとるに足りる相手ではないでしょうに」
当然だ。僕達は今まで必死に力を鍛え続けたし、才能にだって恵まれているんだから。
あの子は見るからに鍛えていないタイプ、忌み嫌われ恐れられる力の持ち主が鍛えていたら周囲が何を言い出すか分からないから無理も無いけれど、敵にはなり得ない。
ただ、ゲーム通りの敵が存在するのなら闇属性という力は絶対に必要となるのが分かっているのが問題なんだ。
「むっふっふー! そもそも私は聖女と同じ光属性よ? 絶対勝てる相手に負ける必要がないじゃないの」
「それは結構。さて、そろそろ入り口での手続きをする支度をしませんと」
困ったな、リアスが何も考えていない気がして来たぞ。
本来ゲームではここで助けてくれた相手を通じて他の攻略対象とも少しずつ会話や共闘で絆を深めていったけれど、今回助けたのは僕達だし、そもそも少し話しただけで嫌悪する相手に好意を向けるのは現実的じゃない。
可能な限りは裏から支援して問題は丸投げって訳には行かないか。それを考えると学園で話し掛ける切っ掛けを作れたのは悪くなかったのかもね。
未来を変えようと色々動いて来たんだ、知ってる筋書きに従って未来がやって来るだなんて都合の良い考えはしない様に……あれ?
窓の外から一瞬だけ視線を感じてマイ・ニュに視線を向けるけれど静かに首を左右に振るだけ。
放っておけって事か。家紋を掲げているから見られていても不思議では無いけれど……。
「一体何処の誰なんだか……」
街の教会の鐘撞堂の屋根の上、ロノス達の馬車から遥かに離れた場所に二つの人影、どちらも異質だ。
少なくとも王国と周辺国の文化には一切登場しない風変わりな出で立ちであり、見る者に正気を疑わせる二人に気が付き騒ぐ者は皆無。
マイ・ニュでさえ敵意は無いと放置しつつも正確な場所を探り出せずにいる二人は……黒子とウサギのキグルミであった。
「!?」
「落ち着きなさい。未熟な貴方の隠業を見抜けない相手ではありません。それに此方は何もする気がないのは伝わっていますよ」
喋れないのか、はたまた演劇の裏方である黒子衣装であるが故に喋らないのか小柄な少年らしき体格の黒子が手足をバタバタと動かして慌てふためき、足を動かした際に滑らせて屋根から落ちそうになる。
咄嗟に屋根の縁を掴んで落下を免れたものの、這い上がって肩を息をする彼に注がれたのは冷たい視線だった。
「……貴方もキグルミーズ……いえ、私達の一員となったならば強要される服装以外で恥を晒さない事です。ええ、この姿は屈辱ですが」
反対にウサギの方は冷徹な印象を受ける女性の声。声の質から成人はしているもののそれ程の年齢ではないのが分かる彼女は黒子を一瞥した後、馬車の方に視線を戻す。
キグルミの頭に隠れて表情は読み取れず、無言を貫くのでどの様な感情を持って見詰めているのかは全くの不明。
ただ、一瞬だけ彼女の右腕からキグルミを貫いて黒い雷が迸った。
「さて、それではこの辺りで失礼させていただきますね」
王都に入る為の手続きだけれど、帝国から持ち込むアレやコレの手続きとは違って予想以上にアッサリと終わる事となった。
隣国とはいえ文化の違いが建物の形や店の装飾とかに現れる中、マイ・ニュは僕達に一礼すると居なくなった。
「あの視線は一体何だったんだろう? 敵意は感じなかったけれど……」
「取り敢えず捕まえてボコボコにすれば良くなかった?」
「短絡的に動くのは避けようね」
僕達の瞬きが重なる僅かな間に立ち上がり馬車から飛び降りて人混みに紛れたんだろう。
窓の外に視線を送ってもマイ・ニュの影すら見えず、不意に違和感を覚えてコートのポケットを触ればメモが入っていた。
『悪い遊びは此処でするように』
そんな言葉の下には幾つかのお店の住所、店名からして女の子の接待を受けながら飲食をする店なんだろう。
此処は悪い遊びはしないようにって忠告するべきじゃないのか?
「あっ! 見えて来たわよ、お兄ちゃん!」
マイ・ニュが居なくなった途端に甘える時の呼び方に戻ったリアスに袖を引かれて視線をメモから外に移す。
見えて来たのは王都に建てた別荘、会談で訪れた帝国貴族を泊める事もあるけれど、留学が決まってからは大急ぎで家具を入れ替えて僕達が過ごし易い様にしているんだ。
お金の無駄だと日本人の感性が言っているけれど、次期当主と妹が三年間過ごすから家具を新調しないのも……ってな事を貴族としての感性がいうんだ。
このメモは仕舞っておくとして、屋敷に到着したら色々やらなくちゃな……。
うん、折角紹介してくれたんだし行かないのは悪いよね。
「お待ちしていました、若様、お嬢様」
屋敷に到着した僕達が門を潜ると出迎えたのは左右に整列した使用人達。
並の貴族よりも上質な服に身を包み、背も種族もバラバラだけれどお辞儀の角度は寸分違わず、そして石像の様にピクリともしない。
唯一正面から出迎えたのは見た目は二十代と、この中では年若い部類に入るメイドだった。
夜会巻きにした緑色の髪を整えた彼女の一番の特徴は先が尖った長い耳、地球ではファンタジー作品でお馴染みのエルフの特徴だ。
「やあ、メイド長。特に変わりはないかい?」
「はい。愚かなコソ泥が侵入を試みる事も御座いましたが、穢らわしい靴の裏で塀の上を汚す事も叶わず捕縛しております」
コソ泥か、実際は物じゃなくて情報を盗む気だったのか、物でも情報でもない物を奪う為に侵入しようとしたのかは分からないけれど、コソ泥として扱うのは、つまりそういう事だね。
「へー。うちに泥棒が入るとか間抜けな奴が居たのね」
「ええ、実にその通りで御座います」
何も分かっていないリアスにも表情一つ崩す事なく眼光を僅かに光らせるメイド長が指先を僅かに動かす。
我が家に伝わるハンドサイン、礼儀作法のついでに教えられた物だ。
ふんふん、不運な事故に遭った王国の貴族が居るんだ。何処かに喧嘩を売った疑惑があればその家が疑われるんだろうけれど、うちは泥棒が塀さえ乗り越えられずに終わっただけだし無関係だね。
「それで今から若様にはお伝えすべき事が幾つかありますが、お嬢様は一旦湯浴みをして……」
「あっ! レナ発見!」
メイド長の言葉の途中でリアスは一目散にメイドの一人へと駆け寄って行った。
青い髪をした長身の彼女に躊躇無く抱き付けば咄嗟に向こうも抱き止めるべく両手を広げる。
あっ。胸に弾き飛ばされる寸前にギリギリ抱き止められてる。
結構な勢いで彼女の大きな胸に飛び込んだリアスは弾力によって弾き飛ばされかけたけれど、距離が離れるより前に伸びた腕がリアスを抱き締めていた。
「相変わらずリアスはレナが大好きだなぁ」
彼女の名はレナ。僕達の乳母兄弟であり、小さい頃から一緒に遊んだ姉みたいな相手だ。
「……」
それはそうとメイド長の視線が僕に突き刺さる。はい、後でちゃんと注意しておくよ。
「それでは街に向かいますが……くれぐれも横道に入り込まないようにお願いします。入り組んでいますし、警備隊の巡回路からも外れている場所さえ有りますので」
「分かっているわよ。この歳で迷子だなんて恥ずかしいもの」
「大丈夫。リアスがフラフラと居なくならない様に僕が見張っているからさ」
「お兄様、怒るわよ?」
横目で睨んで来たリアスの頭に手を乗せて軽く撫でれば直ぐに機嫌が直るのは前世の名残か今も同じ。
もう十六だし、そろそろ控えた方が良いと思いはするけれど可愛いからなぁ。
「ごめんごめん。……それにしてもフリートが留守だったのは残念だね」
荷物を置き、最初に向かったのはリアスが行きたがったお洒落なオープンカフェに向かうよりも前に知り合いの屋敷に向かった。
アース王国大公家長男であり、ゲームでは攻略キャラだった”フリート・レイム”。
火の魔法を得意とする俺様系キャラで、ゲームでは好感度が上がれば興味を持って主人公に”自分の物になれ”だなんて言って来ていた。
尚、戦闘中のグラフィックでは腰の辺りに炎の輪っかを展開しているから、ネット上で作品のファンからは”俺様フラフープ”って呼ばれている攻略難易度が低い相手らしい。
僕としての評価は自尊心が強いけれど根は善人で曲がった事が嫌いだけれど単純で騙されやすい。
個人として付き合うのは悪くないけれど、貴族として親交を深めるのは家の地位以外は遠慮したい感じだ。
え? 人を家の地位で判断するのかって?
そんなの大勢の領民を背負った貴族なら当然だよ?
「私、彼奴嫌いなのよね。偉そうだし」
「リアスも大概だけれど自覚在るかい?」
この国に嫁いだ叔母上様の結婚式で出会った時からリアスはフリートが苦手だった。
広げた扇で隠した口元では”うげぇ”って感じで舌を出しているのを注意したよ。
僕からすれば同族嫌悪だけれど、可愛い妹と不良男を一緒にしたくないから口には出さないでおこうか。
「……私はあんなんじゃないもん」
あっ、拗ねちゃった。
頬を膨らませてプイッと顔を背けるリアスも可愛いけれど、前世の口調が出ちゃってるよ。
「姫様、はしたないですよ。その様な態度を外でとるのはお止し下さいませ。何処に誰の目があるのか分かりません」
「……はーい」
何だかんだ言ってもリアスはレナを姉みたいに慕っているし、下手すれば僕よりも言う事を聞くかもね。
幸い周囲に僕達の様子を観察している相手は居らず、二人の声は行き交う人の喧騒に消えてしまうだろう。
まあ、だからって気を緩めてはいけないのが貴族って立場だ。
「二人共、注意して」
街の喧騒が急に消え失せ、遠くの声すら聞こえて来ない。いや、人そのものが消え失せた。
荷車は果物を乗せたまま道端に放置され、露天に並べられた古書も風でページが捲れるだけ。
直ぐ前、ほんの僅かの瞬間まで存在した人々が消え失せてる……その代わりに視線が一つ現れた。
「……君達が聖女と時魔法の使い手?」
不意に声を掛けられる。声がしたのは真上から。見上げれば建物のベランダの手摺りの上に少女が立っていた。
銀の瞳に風に靡いて輝く銀の髪を腰まで伸ばし、腰には西部劇で見る二丁拳銃のホルスター。
変わった帽子灰色の軍服は指が半分隠れる大きめサイズで、声も表情も感情が薄い中性的な整った顔立ち。
年齢は十代後半って所だね。
これだけなら僕は誰だか分からなかっただろう。でも、軍服には似合わない特徴的な帽子がゲームでの彼女の姿を思い出させる。
「僕ちゃまは……」
「そのペンギンの帽子可愛いわね。何処で買ったの?」
あっ、うん。ゲームによってモンスターのデザインって変わるけれど、魔女の楽園ではドラゴンってペンギンなんだよね。
彼女の帽子のツバが嘴で、正面には目が描かれている、凄く可愛い。ペンギンの右目の上辺りに着けたリンゴのワッペンも悪くはないな。
あのペンギン、何って種類だっけ?
もう一度言うがこの世界のドラゴンはペンギンだ。ワイバーンはワイバーンなのにペンギンで、だからペンギンの種類が気になっても調べられない。
「ペンギン? 違う、ペンギンじゃない。それは弱いドラゴンを揶揄する言葉。でも、ずっと前に廃れてるから僕ちゃま、驚いた。このドラゴンは
偉大なるエンペラードラゴン」
あっ、皇帝ペンギンだ。思い出した思い出した。
相変わらず少女の顔にも表情にも感情の起伏は現れないけれど、帽子のペンギンは驚いたりドヤ顔だったりと情報豊かだ。
「今日はテストに来た。君達と……超水鉄砲の」
右のホルスターから抜き放った銃が向けられるのは当然僕達。水鉄砲の名の通り、銃口から飛び出したのは水。
「水は水でも洪水じゃないか.…」
咄嗟に跳んで避けた僕達が居た場所の直線上、街の一角が鉄砲水の如き勢いと量の水によって破壊され押し流されていた。
ブクマや感想待ってます