(リメイク版)ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい 作:ケツアゴ
「いや ちょっと納得行かないんだけれど」
屋敷の中庭、今後リアスが特訓の余波で荒らしてしまうけれど、今はあろう見事に手入れが行き届いた庭木や花壇を眺めながらのお茶の時間中にリアスが不満そうに呟いた。
やれやれ、仕方の無い子だなぁ。
僕達の手元には紅茶とイチゴのショートケーキが用意され、ケーキの上のイチゴを早々に食べ終えたリアスは猫舌だからと用意してもらったアイスティーを一気に流し込んでいた。
僕はちょっと寒がりだし、王国の気温は帝国より少し低いから紅茶はホットで、ケーキのイチゴは最後まで残しておく派だったんだけれども……。
「ほら、僕のイチゴを半分あげるよ。もー、君が先に選んだんじゃないか」
「わーい! お兄ちゃん、大好きー!」
僕達は双子として生まれ育ったんだけれど、前世では四歳も年下だったからね。
メイド長には少し甘いと言われるけれどついつい甘やかしちゃうのさ。
今もケーキを先に選んだのにイチゴの大きさに文句を言うから、半分と言いつつ七割程をリアスにあげて、笑顔で食べている姿を見るだけで幸せを感じている。
父親も母親も物心着く前に死んじゃったし、その分も兄として妹に愛情を注ぎたいのさ。
「うーん甘い物食べてる時って幸……って、そうじゃないわよっ! ラドゥーンよ、ラドゥーン!! ……お兄ちゃん、私の事を少しアホの子だって思ってない?」
笑顔でパクッと一口でイチゴを食べた後、ハッと我に帰って立ち上がる。
両手でバンッとテーブルを叩いて立ち上がったけれど、テーブルを叩く前に給仕をしていたレナが皿とカップをトレイに移動させていたので無事だ。
「君は僕にとって大切で可愛い大好きな妹だよ? それでラドゥーンがどうかしたのかい?」
だから凄いアホだって思ってなんかいないよ? 凄いアホの子だとは。
元気が有り余って考えるより先に体が動いちゃうだけで、聖女としてのお仕事はちゃんとこなしているからね。
「それとお嬢様。一応私の前ですので若様はお兄ちゃんではなくお兄様と呼んでいただかないと」
「レナってお姉ちゃんみたいなものだし、別に良くない?」
「なぁなぁにしていると何処でボロが出るか分かりませんので」
それなら僕へのセクハラはどうなのかと視線で抗議するんだけれど気が付かない振りでスルー。
レナだけの時なんだからって考えは分かるんだけれど、貴族ってのは面倒だからね。
公私での態度の違いを出すタイミングが本当に面倒なのさ。
うーん、リアスとしての人生の方が長いのに価値観は日本人寄りなのかな? アニメで観た異世界に行った主人公も貴族と平民の違いをちゃんと理解していないの居たし。
ああいうのって実際の貴族の立場になってみると困るんだよね。個人が侮られただけでプライドの問題って簡単な話じゃない。
貴族が侮られるってのはさ領地全てが侮られるって事で、馬鹿がターゲットにして馬鹿故の馬鹿をやらかす。
迅速に判断して解決したとして人材も必要物資も消耗する物だからね。ああ、勿論時間も同じか、忘れてたよ。
「襲撃されたなんて騒いだら面倒だろう? ただでさえ帝国貴族に、特にクヴァイル家に反感を持つ王国貴族は多いんだ」
「私とお兄ちゃ……お兄様なら最強無敵じゃない。実際楽勝だったし」
「そう。楽勝だったし街にだって被害は出ていない。それが厄介なんだよ」
リアスが不満に思っているのは屋敷でさえ何事もなかったみたいに通常運転だったからだ。
うんうん、襲われたのに黙ってるなんて侮られそうって思ってるんだろうね。
「誰も気が付かない規模の相手に怯える帝国貴族、そんな風に侮られるのさ」
相手が領域を使った理由は知らない、ゲームで語られたのかも知れないけれど全く覚えちゃいない。
だって僕もリアスもゲーム画面を見ていただけだからね。
被害が出たら出たらで面倒を持ち込んだって騒ぐんだろうけれど、僕達にも街にも被害が出ずに証言者は僕達三人。
そりゃ狂言か小物相手に大騒ぎする馬鹿、相手が神獣を名乗っているのと僕達が持つ力が複雑に絡んで……まあ、色々と面倒って事だ。
「貴族とか聖女とかの地位ってマジで面倒よね」
「恩恵も背負う物も多いし大きいんだ。大丈夫、そもそも僕達を信頼して騒ぐ程じゃないと思っているから騒がないでいるってのもあるんだよ」
「ええ、龍に蜂が近付いたからと騒ぐ必要はありませんので」
但し大騒ぎしないってだけで何もしない訳でもない。まさか前世の記憶でゲームに知識がありますなんて言える訳も無いけれど、僕達の証言を疑う筈も無い。
神獣を名乗る厄介な敵が僕達を襲って力を確かめただなんて、ちゃーんと探るし、舐めた真似をした相手にはそれなりの報復をするのさ。
僕達もその予定さ。その為にも連中が無視する訳にはいかない存在と、闇属性の使い手とも関わらないとね。
「……レナ。ちょっとフェレス家について調べて欲しいんだ。気になる子がいてね」
事情は大体察したけれど、正確な情報は必要だ。悪いね、アリアさん。僕達の目的に手を貸してもらうよ。
今日から暮らす事になる学生寮。貴族の子息子女を招き入れるだけあって随分と金が掛かっている。
歩く度に軋む音がする上に腐っているので踏み抜く事もある床板も、容赦なく入ってくる隙間風や雨漏りも、鬱陶しい虫が入り込む壁の穴、そんな実家では当然の様にあった物が存在せず、魔法の力なのか室温も湿度も
快適な状態に保たれていた。
「アザエル学園学生寮にようこそ!」
廊下を曲がった時、聞こえて来たのは入り口の方から受付の明るい声。私が受付をした時とは随分と違う対応だけれど、心底どうでも良い。
寧ろ同じ対応をされる方が不気味だ。
投げ付ける形で渡された鍵の部屋番号を頼りに進む中、遠目に見えたのは先に入寮していた女子生徒達。
私の様に重い荷物を自分で運ぶ様な事はせず、連れて来た使用人に任せてお喋りの真っ最中だ。
幸い廊下は広く、数人が広がって立ち止まっていても通れる幅はあるけれど、万が一ぶつかっては何を言われるか分からない。
コロンで倒した拍子に塞いだ穴が広がりそうな程に私の鞄がボロボロになっているのもある事だし……。
「ねぇ、今の見た?」
「見た見た。あの粗末なローブの隙間から。噂は本当だったんだ……」
雑音が聞こえる。隠す気など無い癖に声を潜めて話す声。含まれるのは好奇と嫌悪、そして侮蔑。
私の挨拶なんてお喋りに夢中で聞こえなかった下手くそな演技で無視しておきながら、背中に投げ付ける言葉と注がれる視線。
ああ、本当にどうでも良い。世間の事なんて何も知らない小娘じゃあるまいし、今更何も感じない。
私の敵意を向ける連中も、其れ等から向けられる嫌悪もどうでも良い。路傍の石、風で木の葉が擦れる音、そんな誰しもが意識なんて向ける筈のない物と変わらないのだから。
ああ、でも石をぶつけられた時の怪我やボロ布に包まっても防げない寒さは嫌い。
そんな無価値な物に関わりを持つ事数度、漸く辿りついた部屋にはある程度の家具は揃っている。
これが不満な生徒は自前のを持ち込めば良いけれど、私が与えられていた家具とは比べ物にならないから文句はないのだ。
あったとしてもどうしようもないけれど。
深く被っていたフードを降ろし、備え付けられていた鏡の前に立って息を吐き出せば旅の疲れが襲って来る。
「……ふぅ。ちょっと大変でしたね。お友達とか作れたら良いのですが……」
痩せた手足に白い肌、悩みなんか無さそうな頭お花畑みたいな笑顔と期待に満ちた声。
そして……肩まで伸ばした黒髪。
こうして姿を見るだけで、声を聞くだけで吐き気がする程の嫌悪感を覚えさせる相手の姿を鏡で暫し見つめ、跳ねた髪を手櫛で適当に直すとベッドの上にうつ伏せで倒れ込んだ。
駄目だ、胸が邪魔で落ち着かない。動く時に邪魔だし、胸に行く栄養は何処から来ているのやら……。
今まで使っていた床よりは多少マシな程度の物と違って全身を包み込んで支えてくれる柔らかさと温かみ。
今着ている様な服のまま寝転がるのが勿体無いと私の口は吐き出すだろう。
アリア・フェレス……私はお前が嫌いだ。この世から消してしまいたい位に嫌悪している。
それこそ存在してはならないと私が知る誰よりも強く思う程に……。
私の人生は蔑みと恐れの視線を浴び続ける物だった。
綺麗な赤い髪をしていた母とは違う忌むべき物とされる黒髪を持った私を祖父母でさえ嫌い、数少ない味方は母を除けば毛の色で人間を区別しない森の動物達。
私もいっその事、動物に生まれたら良かったのに、そんな風に何度考えた事か。馬鹿な考えだ。現実から逃げた所で私の人生に何一つ影響を与えないというのに。
小さな領地を持つ田舎の子爵家の跡継ぎ娘として生まれた私だけれど、正直言ってその暮らしは大きな領地の普通の暮らしよりずっと貧しい。
そんな家に生まれたのが闇属性、母が守ってくれなければ殺されていただろうし、私の為に使われるお金なんて僅かだった。
母もフェレス家の一人娘で父親は不明。私がどれだけ聞いても教えてくれない。唯一の手懸かりは赤い宝石を埋め込んだ首飾り。
私が十歳になった時に渡す様にと父が用意したらしいけれど、気に掛けてくれる父親なら、どうして私の傍に居てくれない? 私の味方をしてくれる人は母だけなのに。
黒い髪に黒い瞳は禁忌とされる闇の力を持つ証だって言われ、恐れられているけれど、別に教会がそう定めている訳でもない、要するに只の言い伝えに過ぎない。
なのに皆が私を怖がり、魔女だの悪魔憑きだって後ろ指を指し、父親は召喚された悪魔なんだと母さえも侮辱する。
なら、ずっと閉じ込めて居てくれたら良かったのに、いっそ赤ん坊の時に殺してくれたら良かったのに、私は生かされて、蔑まれ恐れられる日々を送らなければならないなんて地獄なのに。
それとも魔女や悪魔憑きは地獄に堕ちろって事なのかしら?
生まれ変わりが本当に有るなら、私の前世は余程神様に嫌われる事をしたのね……。
「貴女の人生は辛いものだけれど、きっと受け入れてくれる運命の相手と出会うから。だから強く生きて。私の愛するアリア……」
母が最期にしたお願いさえなければ命を絶っていたかも知れない。
忌み嫌う存在でも、跡継ぎは跡継ぎだし、法で闇の属性は罪だと決まってもいないからか、血縁上の祖父母は私をアザエル学園に入学させる事にした。
要するに寮に入れて屋敷から追い出し、継ぐ領地も無い名誉職だけの貴族や跡取りの予備の予備の三男坊でも婿にさせる気なのだろう。
闇以外の属性を持って生まれた子供さえ生まれれば用無しだと処分されるのかも知れないけれど、もう生きる事に大して興味なんか無い。
「無理だよ、お母さん……」
体を動かして仰向けになりながら呟く。寝転がった私の表情も声も本当の私とは別物、母の最期の言葉を守る為に被った仮面。
なんて醜悪、滑稽、嫌悪感しか覚えない。だから私は私が嫌い。張り付いてしまった仮面の剥がし方は忘れちゃったわ。
だから一人の時でさえ気持ち悪さを覚えながら偽りの自分を演じ続ける。
だって、悪魔憑きな上に可愛げの欠片も無い女なんて誰が好きになるの? 見た目だけなら……大っ嫌いな黒髪以外は美女だと持て囃された母に似ているもの。
私さえ生まれて来なければ母はきっと幸せになっていたんだから、せめて最期の想いだけでも……。
でも、多分私は誰も好きにならない。だから表面上だけでも誰かを好きになった私という仮面を被り、何かの間違いで私を好きになった物好きが出たならそれを被り続けたい。
それが私唯一の願い。誰にも、私自身にさえも何一つ期待しない私が願う事……だった。
「綺麗な髪だな」
母だけが好きだと言ってくれた髪を誉めてくれた人と出会った。貧しくて忌み嫌われる私とは真逆な人。
金の髪に金の瞳の彼、ロノス・クヴァイルについて私でも知っている。本来魔法の属性は火水風土の四つ、それが本来人間が使える筈の属性だけれども、彼の妹は聖女と同じ光であり、彼は歴史を紐解いても唯一無二の時。
そんな彼が私の髪を誉めてくれた時の顔が目に焼き付いて離れない。あの表情を、声を事を知った。思い出すだけで胸の高鳴りが止まらない。
……ああ、これか。これが母の言っていた……。
「駄目…駄目ですから……。住む世界が全然違うんですから……」
今日、私は恋を知った。誰かに何かを期待する
きっと彼とはこれっきり。貧しい忌み子の私と聖女の片割れの彼じゃ関われる筈がないのだから、母の願いの半分だけでも叶って良かったと思う。
だから、これ以上は何も期待させないで下さい……。
感想待っています