(リメイク版)ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい 作:ケツアゴ
……何と言うべきか、どうしてこうなったのだろう。
入学式から教室までに浴びた視線は既知の物、今更何とも思わない。王子が絡んで来たのも正直どうでも良い。
どうせ瀕死状態の貧乏領地、元々未来なんて存在しなさそうな村が幾つかあるだけだもの。
血が繋がっているだけの祖父母が必死に体面を守ろうとする理由も分からないから大勢の前で王子に敵視をされても別にどうでも良いわよね。
領地を引き継ぎ、民を守るのが貴族の責務? 外を歩けば石と罵声を浴びせられ、冬に冷水をかけられた事はあっても暖かい言葉は母以外かけてくれなかったのに?
ただでさえ貧しいのに悪魔憑きにはこれで十分だと貧民の暮らしを与えられ、飢えと寒さを堪えて生きて来たのに?
生かされているのは私以外に一族がいないからだけで、余程の重病でなければ医者を呼ぶどころか傷の手当てなんて自分でやったのに?
与えられた物は母からの愛だけ、幸福なんて母が死んでから感じてはいなかった。だから領地が滅びようがどうでも良い。
ああ、これを理由に巻き込まない為にとのお為ごかしで出奔するのも良いだろう。魔力の影響で髪を染めても直ぐに元に戻るけれど、それなら剃り落としても良いのだ、邪魔する祖父母は近くに居ない。
……でも、学園であと少しだけでも過ごしてみたくなった。自分が何かを希望するなんて驚きだけれど、私は私の我が儘を許してあげたいのだ。
髪を誉めてくれた、笑顔を向けてくれた。他の人からすればそれだけなのかと思うのでしょうね。
でも、それだけでも私には嬉しかったの。
彼と隣の席になれた、それだけで、例え席替えがあったとしても私の学園生活は幸せだと言えるでしょうね。
……彼が私を恐れて拒絶しなければ。
「温かい……」
そんな私は今……クヴァイル家の浴室でお風呂に入っている。
険しいだけで木材としての価値の低い木があるだけの山に囲まれている寒冷地域のフェレス領では偶に使用人が入り終わって水よりはマシな程度に浸かれれば良い方だった。
桶に入ったお湯を渡されて自分で汲んだ井戸水と混ぜながらボロ布で体を拭くのも当然で、それすらなくて冷たい水で汚れを取る事さえも……。
母が死んだ十歳の時からずっとそんな感じだったし、温かいお湯に浸かって体の芯まで温まるだなんて妙な感じね。
でも、とっても良い気分
……女子寮のも嫌がらせで使えなかったし、安物の香水で誤魔化したとはいえ臭くなかったか少し心配になって来たわ。
入浴前に髪や全身をメイド達に洗わてたけれど凄く良い香り。本当に夢見心地で……うん、本当にどうしてこうなった?
今更だけれども現実感が薄くて困るわね……。
「お前に言われなくとも分かっている」
僕の言葉に多少は状況を理解したのかルクスは引き下がる。そりゃそうだ、たかが子爵家に王子自らが敵視する発言をした、それも大勢の前で。
クラスの生徒達は今後の為にも手紙で親に知らせるだろうし、ルクスへの評価だってこれで下がる。
そもそもアリアさんを敵視して此処迄やった訳じゃないってのも何人かには見破られているだろうしさ。
席に戻るとこれ以上は我関せずとばかりに黙り込むルクスを他所に教室内はざわめきが収まる様子も無い。
アリアさんは俯いていて今後が不安に見える様子だし、そのタイミングでマナフ先生が入って来たのはタイミング的に良かったね。
「皆さん、これから今後の説明を始めますからご静粛に」
背が足りないからか教卓前の台に登った先生が手を数度叩いて注目を自分に注がせれば教室の一部から上がる黄色い悲鳴。
王国貴族だよね? クラスに何人もいる程の割合で帝国貴族にショタコンが居たりはしないよね?
少し不安を感じながらも話に耳を傾ければ今後の学園生活についての説明だ。
「皆さんご存知でしょうけれど、数カ国が共同で運営する上に理念もあり、国同士や領地間のいざこざは持ち込まず、地位の差を利用するのも駄目です」
せんせー! ルクス君が速攻で破ってまーす! アリアさんに絡んでましたー!
さて、冗談はさておき、この学園での三年間が普通に将来に響くだろうからなあ。
王国貴族は兎も角、他の国の貴族とは仲良くしたいもんだよ。
そしてだ、例の事について語られたのはね。
「オリエンテーションとして隣同士でペアを作り、学園が管理するダンジョンに挑んでもらいます。開始は明後日ですので、その間に親睦を深めて挑んで下さいね」
オリエンテーションの内容について、今この場で知らされた。なのに何故ルクスが知っていたかの答えは簡単、王国出身の教師から事前に教えられたからだ。
クラス内での最初の競い合い、それが知られているってのは学園の信用に響くし、今後も知っていた奴は不正を疑われるだろうさ。
君の事だよ、ルクス。ズルってのはバレない様にしなければ無意味なのにね。
因みに僕も知っていたよ。リアスはボロが出そうだから教えていないけれど。
「今後の事もあるし、一旦僕達の屋敷に来ないかい? 馬車なら送り届けさせるけれど駄目かな?」
「えぇ!? あ、あの、私が公爵家のお屋敷にお邪魔したらご迷惑になりませんか?」
「クヴァイル家の使用人は主人が連れ帰った客人に無礼は働かないよ。それに君が来た程度でどうにかなる事もないからさ」
マナフ先生の話も終わり、これで一旦解散だ。ペアになった生徒達は配布された資料からどのダンジョンに行く事になるかを考察し合い、中にはルクスから情報を引き出そうとする人まで。
ほら、全部知っていると思われている。隣の眼鏡が呆れた様子で追い払ってはいるけれど王国も大変だね。
僕も僕でアリアさんの事はあるから大変だけれどね。
そんな中、僕は理由を付けて彼女を馬車へと連れ込んだ。僕達が留学すると知って同じく留学した同級生が何か言うのを適当に流して連れ込むけれど、ちょっと話さないといけない事があるんだ。
「先ず結論から言っておこう。巻き込んで悪かったね」
リアスはもう少し友達と喋りたいからって別の馬車へ。だから車内は僕と彼女の二人きり。
少し強引だった気もするし気まずいんでだけれどね。
……ところでメイド長からマナー講習の用意をしてるって朝に言われた筈だけれど覚えてるよね?
「巻き込んだ、ですか? えっと、王子の事なら巻き込んだのは……」
「君に関しては口実さ。流石に僕に絡む訳にはいかないからね。……実は結構嫌われてるのさ」
「え? な、何でですか!?」
アリアさんの驚き様からして知らなかったみたいだね。実際、上位の貴族でもなければ王室が隠したい情報なんて入って来ないか。
「王子様は母親が大好きみたいだからね。継母は気に入らないんだろうさ」
流石に堂々と口に出来るのは此処迄、いくら嫌われ者でもファレス家は王国所属だからね。
それでも通じたのか口には出さずとも少し納得が行った様子で口を押さえて余計な事を言わない様にしていた。
亡き先代王妃は先代の国王の一人娘、それが女王にならずに婿が王座に着いた理由はお察しって事で。
王権を振るうに相応しい人格者ではなく、贅沢が好きで私情で兵を動かそうとするせいで帝国と王国の間じゃ王妃が|事故死
調べた限りじゃ貧しい貴族も結構な金を要求されたとかされないとか。
因みに親善の為の剣術試合として僕と彼が戦ったのがいざこざの少し前の出来事だ。
「現王妃である叔母上も頑張っているのにね」
傾いた財政の健全化を始めに宥和の為の婚姻以上の役割を果たした叔母上だけれども、王家の血筋に忠誠を誓ったり世話になっている貴族からは不評で、その身内の僕も気に入らないってのが今回の理由だよ。
僕は大切な所は暈して言うのでアリアさんも詳細には言及しない。うーん、何となく彼女について分かって来た気がする。
それからはたわいもない話をしている内に馬車は屋敷へと到着。門の前ではレナが待っていた。
「お帰りなさいませ、若様。そしてお話は伺っております。ようこそいらっしゃいました、フェレス様」
「は、はい。お邪魔します」
「ほらね。気にしないだろう?」
闇属性が世間的にどうであれ、僕が招待した客人だ。お祖父様の意見でも通らない限りは無碍には扱わない。
それに内心と表情を切り分ける訓練なんてうちじゃ当然だ。
「……若様、ご入浴の支度は整っておりますのでどうぞ」
「うん? お風呂? ……そうだね、ありがとう」
「フェレス様も如何でしょうか? 来客の予定が急遽中止となり、客人用の浴室の湯が無駄になってしまいそうなのですよ」
「え、はい。……いただきます」
来客の予定ね。うんうん、それで良いんじゃないのかな。アリアさんは少し戸惑いながらも他のメイドに案内されて屋敷の中へと向かって行った。
「助かったよ、レナ」
馬車の中で気が付いたらけれどお風呂にちゃんと入ってるのか心配になってたんだよね。
香水で誤魔化しているし、濡れた布で拭いてはいるんだろうけれどさ。
女の子にお風呂に入っているかどうかなんて聞けないからレナがお風呂を勧めてくれて助かった。
お風呂に入らないと健康上の問題もあるから……。
アリアさんが向かった方に視線を向けていた時、耳に息が吹き掛けられた。
「ひゃっ!?」
背筋にゾワって来る物があって声が漏れる。耳を押さえながら振り返れば至近距離にレナの顔、それが十センチもない距離だ。
「おや、随分と耳が敏感ですね。それはそうと、若様。今後、体を使って取り入る為に色仕掛けを受けるでしょう。お気を付けを」
ハニートラップね、何度も言われたし仕掛けられた事もあるさ。マイ・ニュが遊ぶ店を指定したのもそんな理由だろう。
……アリアさんを連れ帰ったのも見た目に惑わされてって思っているのかな?
何処か諌める目付きに変わり、諭す感じの声色でとてもセクハラメイドとは思えない。
「情の厚い若様ですし、欲望に負けて手を出せば無下に扱えない筈。……お年頃ですし、我慢出来ない場合は私にお任せを」
「いや、レナに手を出すのはちょっと。僕が我慢すれば済む話だし……」
肩に手を置いて再び吹き掛けられる息、そして押し当てられる凄い弾力の塊。
レナが左右に体を揺するのに合わせて背中に擦り付けられ続けた。
まあ、僕はこの程度で動じない。声色に動揺なんて出さない。
「ああ、妊娠を気にしているのですか? 若様は知らないでしょうが、直接的な行為以外にも殿方を満足させる方法は心得ています。……入学祝いに今晩にでも試しますか? 勿論お嬢様には内緒で」
「っ!?」
……これは多分冗談だろう、そんな風に思いながらレナから離れるけれど、背中に当てられた重量感のある上に弾き飛ばされそうな強い弾力のある感触は暫く忘れられそうになかった。
「ふふふっ。照れる姿も可愛らしい。今すぐにでも食べてしまいたいです」
……冗談だよね?
眼鏡の奥でレナの瞳が怪しく光り、僕は背筋がゾッとするのを感じた。だって彼女が本気になった場合、
「いっそこのまま……あっ、メイド長、お疲れ様です」
背後に増えるもう一つの気配、メイド長は柔らかい笑顔を浮かべてレナの後ろに立っている。
そう、笑っているんだ、瞳以外は。
「ええ、お疲れ様です。レナさん、倉庫の掃除の時間ですよ?」
「え? それは私の仕事では……はい、直ぐ行きます」
声も物静かなのにピリピリと張り詰める威圧感を醸し出し、自然な動きで伸びた手はレナの耳を掴んで屋敷の裏へと連れて行った。
相変わらず怖い人だ。基本的に逆らえる使用人は殆ど居ないからね。
「それにしても……うん」
子供の頃からだけれど、レナの胸は大きい。それがメイド服の下でパッツパツの状態で存在を主張しているんだ。
それと弾力が凄いんだよ、弾力が。
アリアさんだって初対面の時はローブがあっても分かるほどだったけれど、制服が身長に合わせた大きさだったせいで大きな胸が存在感を増しちゃって、馬車の中では真正面で向かい合ってたから……うん。
視線が向かない様にするのは大変だった! それと揺れからして多分柔らかい。
「リアスはまあ……」
「私がどうかした?」
「いや、胸が貧相でも、動く時に邪魔にならないか、らっ!?』
背後から聞こえて来た妹の声、思わず出た本音。そして内モモに響く衝撃とパーンって乾いた音。
『リ、リアス? 友達とお喋りしてから帰るって……』
「お勉強サボったらお小遣い半額って言われてたの思い出したのよ」
痛みに踞る僕を見下ろすリアスの瞳は冷たく鋭い。ヤバイ、逆鱗に振れちゃった。
「アリアを連れ帰ったでしょ? 何処かで鍛えるの?」
「お風呂から上がったらレキアの所に行こうと思ってるんだけれど……」
「じゃあ、中庭に集合ね。……今度私の胸が貧しいとか平らとか言ったら蹴るからね」
今まさにローキックが炸裂したばかり、そんな風にツッコミを入れる余裕なんて今の僕には無く、直ぐに機嫌を直して屋敷に向かうリアスの背中を黙って見ていた。
「さてと……僕も準備するか」
足の痛みもお風呂に入ってマッサージしたら直ったしね。……リアスに胸の話しちゃマジで駄目だな。
たかがオリエンテーションで潜るダンジョンでの勝負なんて学生同士の軽いいがみ合い、そんな風に片付けられたら良いんだけれど、国境付近のいざこざが未だに尾を引いているし、クヴァイル家の者として勝負するんだから無様な姿は晒せない。
気合い十分に裏庭に向かった時、最初に目に入ったのは食い荒らされた馬の残骸。続いて聞こえたのは骨を踏み砕き、砂を蹴り散らす音。
「キュィイイイイイイイ」
まるで獲物を威嚇し恐怖で硬直させようとする鳴き声を発しながらその巨体は僕に向かって少しずつ歩み、距離を積める。
鷲の上半身にライオンの下半身を持ち、牛や馬を数等同時に運べる程に大きい。瞳は鋭いながら高い知性すら感じさせた。
この怪物の名はグリフォン……ドラゴンに次ぐ天空の支配者だ。
「キュイッ!」
グリフォンは興奮した様子で嘴をガチガチと鳴らし、一度大きく鳴くと共に僕に向かって跳び掛かった。
「お兄様っ! 間に合わなかった……」
「ロ、ロノスさん……?」
少し経って慌てた足取りと共にやって来た二人の足音が聞こえて来るけれど遅かったよ。
ああ、僕はすっかりやられてしまったんだ……。
「ほ~ら、ほ~ら! 可愛いでちゅね~! ポチは本当に可愛くてお利口な良い子でちゅよ~」
「キュ~イ!」
翼が汚れるのも気にせずに仰向けになり、お腹を見せて撫でろとばかりに体を擦り寄せる。
最初はお腹の中央を円を描く様に、続いてお腹から胸、最後に喉を撫でるとゴロゴロと気持ち良さそうに喉を鳴らした。
「そうでちゅか~! 此処を撫でて欲しいのでちゅね~!」
ああ、駄目だとは思っていたのに僕は何時もこの子の可愛さにやられてしまうんだよね……。
「・・・・・・えっと、あのグリフォンは?」
「お兄様の飼いグリフォンのポチよ。見ての通りに溺愛してるの。あの子に乗って行く予定だったけど遅れそうね」
ああ、駄目だと分かっているのに手が止まらずポチを撫で続けてしまう。
「この国に来る時は手続きに手間取って後から来たけれど、先に出発する時に聞き分けが悪くて。……お兄様ったら一度ああなったら長いんだから」
例え妹に呆れられたとしても……。
感想待ってます