投稿遅くなりました。申し訳ございません
カタカタ。
部屋に響くのはパソコンの音だけだった。
エマさんの撮影日の夜、俺はパソコンで編集作業を行っていた。
コンコンと部屋の扉がノックされる音がする。
「はーい」
その音に反応して返事をした。
「京ちゃん、お風呂あがったよ」
歩夢がタオルで髪の毛を拭きながら扉を開けて入ってくる。
「もうそんな時間か。呼びに来てくれてありがとう」
編集している手を止めて保存をし、お風呂の準備をするために立ち上がる。
「作業は順調?」
俺の準備を横目に、歩夢がパソコンを覗き込みながら聞いてきた。
「ああ、少し足りない部分があるから、明日もう一度撮影かな」
「そうなんだ」
「そうだ、忘れてた。」
準備の途中で思い出し、いつものように歩夢にドライヤー魔法をかける。
「ありがとう。でも、自分でできるから気にしなくていいのに」
「本当のドライヤー使うと時間かかるだろ。気にするなって」
話しながら、歩夢が持っていたタオルも風魔法で引き寄せる。
「それじゃ、風呂行ってくるわ」
俺は部屋を出て、お風呂場へ向かった。
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「気を使わなくてよかったのに」
ドライヤー魔法をかけられた私は、京ちゃんが座っていた椅子に腰を下ろす。
机を見渡すと整理整頓されており、私たち3人で撮った写真が置いてあった。
「本当、京ちゃんは変わらないね」
写真を眺めながら、そう呟く。
優しいところも、私たち幼馴染のために動いてくれるところも、昔からずっと変わらない。
「さて、私も寝る準備しようかな」
椅子から立ち上がるが、つい京ちゃんのベッドに目が行く。
「少し寝ても怒られないよね?」
そう言いながら、私は京ちゃんのベッドに潜り込み、目を閉じた。
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「あれ? 今からお風呂?」
俺がお風呂場に向かう途中、リビングで侑がお茶を飲んでいた。
「少し遅くなったけど、今から入るよ」
「遅くまでご苦労様」
侑から労いの言葉をもらう。
侑のパジャマ姿と頭に巻かれたタオル姿を見て、ドライヤー魔法をかけた。
「ありがとう。ドライヤー魔法遅くなって悪かった」
「気にしなくていいのに。いつもありがとうね」
ドライヤー魔法のついでに、侑が持っていたタオルも受け取る。
「そのタオル、歩夢の?」
侑は、タオルが二枚あることに気づいて首を傾げた。
「ああ、さっき歩夢が呼びに来てくれてな。そのついでに洗濯機に入れようと思って」
「ごめんね。いつも京平の家のお風呂借りてるのに、私の分まで」
「気にするなよ」
歩夢と侑は俺の家のお風呂を使っている。
理由は侑の「京平の魔法使うなら京平の家で入ればいいじゃん!」という一言で決まったからだ。
うちの親も了承していて、二人のお風呂セットがうちに常備されている。
「それにしても、お前ら幼馴染って、同じことばっか言うよな」
「そりゃあ、幼馴染だからね」
お茶を啜りながら侑が答える。
「俺にもお茶くれよ」
「お風呂上がったら淹れてあげるから、先に行ってきな」
そう言って、侑はお茶の準備をしてくれる。
「サンキュー。それじゃ、入ってくる」
「いってらっしゃい」
侑は机に向かい、参考書を広げて勉強をしている様子だった。
「なんで歩夢は俺のベッドで寝ているんだ?」
お風呂から上がって部屋に戻ると、歩夢が俺のベッドでぐっすり寝ていた。
「京平~、私そろそろ帰るけど……」
侑が挨拶のために部屋に来て、歩夢が寝ている姿を見て驚いた表情をする。
「侑、俺は何もしてない!」
慌てて弁解する俺。
「わかってるよ。でも珍しいね。歩夢がここで寝るなんて」
侑はクスクスと笑いながら言う。
「連れて帰るから手伝ってくれ」
俺は歩夢をお姫様抱っこして、彼女を自分の部屋に戻そうとした。
「いいよ、このまま寝かせてあげなよ」
「侑、現役女子高校生がここで寝てて、何か間違いが起きたらどうするんだよ」
侑に制止され、俺は反論する。
「何も起きないよ。京平が変なことするの?」
侑は俺の顔をじっと見つめてくる。
「……しないけど」
「でしょ?だから私達は信頼しているの。このまま寝かせてあげて。最近は私が独占してたから、今日は歩夢に譲るよ」
「なんの話だよ?」
突然の「独占」という言葉に思わずツッコミを入れる俺。
「こっちの話♪ じゃ、私帰るから。明日の朝また来るね。おやすみー」
侑は軽い足取りで部屋を後にする。
「ったく……仕方ないな」
文句を言っても状況は変わらない。俺は歩夢が寝ているベッドにそっと入る。
「おやすみ、歩夢」
心の中でそう呟きながら、俺も目を閉じた。
翌日
「それで、起きたら目の前に京ちゃんがいて驚いて叩いちゃったと……」
同好会は昨日に引き続きエマさんの撮影を行っていた。朝、部室に集まったとき、俺の顔に残ったビンタの跡を見てメンバーが驚いている。
「ごめんね、京ちゃん……」
歩夢は申し訳なさそうに顔を赤くして謝る。
「私も目覚めたら目の前に京平さんがいたら、思わず警察に通報しちゃうかもです!」
かすみが冗談っぽく言いながら頷く。
「もう、かすみさん!そんなこと言わないの!」
しずくが焦ってかすみをたしなめる。
「京ちゃんも朝から散々だったね~」
撮影準備をしている後ろで、話した順から彼方さん、歩夢、かすみ、しずくが俺の話をしている。
「でも、この跡すごいね~!思いっきりいった感じがするよ!」
愛が俺の顔をじっと見て感心したように言う。
「ほんとですよ。まだ秋じゃないのに紅葉みたいな跡がついてます!」
「紅葉の跡にびっくり!これは“もみ事件”!なんちゃって!」
「アハハハハ!面白いね、そのダジャレ!」
かすみと愛、さらに侑まで一緒になって大笑いしている。
「かすみ、愛、侑。今日のお菓子は抜きな」
「ええっ!?」
「それだけはダメ!」
「全くです!」
3人は笑いのテンションから一転して、絶望的な表情になる。
「謝るから!」
「許して、きーくん!」
「ごめんって!」
「それじゃ、エマさん。撮影始めます」
3人を無視して、俺はエマさんに声を掛ける。天王寺がカメラの準備をしてくれていた。
「えっ、う、うん!」
エマさんが少し戸惑った様子で返事をする。
撮影の様子を見て俺は疑問を感じた
「なんかエマさん、調子悪い?」
横にいた彼方さんに小声で聞く。
「お眠なのかな~?」
「いや、そういう感じじゃない気がしますけど……」
時間は昼間。眠いというのは考えにくい。
撮影が終わり、エマさんは衣装を着替えるために同好会の部室へ向かった。
「少し話してくるね」
「お願いね~」
彼方さんが手を振って俺を送り出す。
「あ、そうだ。みんなにお菓子作ってきたから、よかったら食べてね」
俺は小包に入ったお菓子を彼方さんに渡す。
「おお~!ありがとう!」
彼方さんが人数分のお菓子を受け取る。
「それと、そこの3人には腕立て伏せと腹筋を50回やったらあげてください」
俺は小声で彼方さんにそう頼む。
「わかったよ~」
「それじゃ、行ってくる」
「ちょっと待って!私たちの分は本当に無しなの!?」
「謝るから!お菓子だけは!」
「京平、ごめん~!」
かすみ、愛、侑が必死に訴えるのを無視して、俺はエマさんを追いかけた
「だから言ったのに……」
しずくが呆れながら彼方さんからお菓子を受け取る。
「あはは、私も原因の一つだから何も言えないけどね」
歩夢もお菓子を受け取り、肩をすくめる。
「余計なことは言わない。」
天王寺もそう言いながらお菓子を受け取る。
「でも京平さんのお菓子が貰えないのは、ちょっとショックが大きいですね……」
せつ菜もお菓子を受け取りながら、3人に同情する。
「歩夢~、お菓子分けて……」
侑が歩夢にすがるようにお願いする。
「大丈夫だよ。京ちゃんは彼方さんに条件を残しているから」
「大正解だよ~歩夢ちゃん。京ちゃんから伝言があってね。腕立て伏せと腹筋を50回やったらあげてもいいって」
彼方さんが笑顔で告げる。
「「「そんな~!」」」
かすみ、愛、侑の3人は、泣きながら腕立て伏せと腹筋を50回をこなすのだった。
「エマさん!」
俺はエマさんを追いかけ、部室の扉をノックして中に入った。
部室の中で立っていたエマさんは、少し不安そうな顔をしていた。
「京ちゃん、ごめんね。着替えなきゃだよね。」
俺に気づいたエマさんは、着替えをしようとしたが、その表情にはどこか迷いが浮かんでいるようだった。
「何かあったんですか?」
「ううん、なんでもないよ。」
「そうですか。」
そう答えながらも、昨日エマさんに何があったのか気になって仕方がなかった。
ふと、机の上に置いてあったスクールアイドルの雑誌に目が留まる。
「着替えている間、これ読んでもいいですか?」
「うん!いいよ。」
雑誌を手に取った瞬間、中から一枚の紙がひらりと落ちた。
「なんだこれ?」
拾い上げてみると、それはアンケート用紙だった。
「朝香果林?」
その名前が書かれているのを見たとき、背後から声がした。
「京ちゃん?」
エマさんも紙に気づいたようで、俺に声をかけてきた。
「これは、果林ちゃんの……」
俺はアンケート用紙をエマさんに渡した。
エマさんは内容を見た途端、すぐに俺の手を取ると部室を飛び出した。
「京ちゃん、みんなに連絡して! 今日は早退するって!」
「一体何があったんですか?」
「後で説明するから! 急いで風魔法で寮まで送って!」
エマさんは俺の手を引っ張りながら、真剣な表情で走り出した。
「あ、出てきた」
風魔法でエマさんを寮まで送った俺は、寮の中に入れないため入り口で待っていた。
「一体何の用? しかも川木君までいるなんて」
出てきたのはエマさんと朝香果林さんだった。
「俺はただの移動手段ですよ。エマさんのために来ただけです」
「果林ちゃん、今日一日私に付き合ってほしいの」
果林さんの手を繋ぎながら、エマさんは微笑んで言った。
移動中、エマさんから頼まれたのは「今日一日、私たちの移動手段になってほしい」というお願いだった。
「さぁ、京ちゃん、お願いね」
「わかりました」
行き先は事前に聞いていたので、俺は風魔法を使ってエマさんたちを送った。
そうして二人はお台場を観光していた。
(確か、アンケート用紙には『お台場に出かけたい』って書いてあったよな)
俺はスマホをいじりながら、スクールアイドル部のLINEグループに連絡を入れていた。
「こんなに遊んだの、久しぶり」
果林さんがエマさんに向かって笑顔で話している。
「川木君もありがとう」
果林さんが俺に向かってお礼を言う。
「いいえ、俺はエマさんのお願いなら何でも聞きますから」
「あら、いい後輩ね」
果林さんはにっこりと微笑んだ。
「果林ちゃん、これね。雑誌に挟まってたの」
エマさんは、俺と一緒に見た雑誌に入っていた紙を渡した。
「これって、本当の気持ち? 一番興味あるのがスクールアイドルって書いてあるけど」
「それは……」
2人は向き合いながら話し始めた。
「どうして言ってくれなかったの? 私には興味のないフリをして、ずっと自分の心の中にしまい込んで……」
果林さんは黙り込んでしまう。
「前に言ったこと、覚えてる? 私、見てくれている人の心をポカポカにするアイドルになりたいって。でも、一番近くにいる果林ちゃんの心すら暖めてあげられてなかった……」
「エマ……」
「私、誰かの心を変えるなんて無理かもしれない。でもね、果林ちゃんの笑顔、久しぶりに見たよ。もっと果林ちゃんに笑っててほしい。もっと、もっと果林ちゃんのことを知りたい!」
果林さんは少し照れたように笑ってから、俺のほうへ歩いてきた。
「エマのために同好会の活動を手伝うようになって、そしたら楽しかった。それと同時に羨ましかった。みんなで一つのことに向かって悩んだり、言い合いしたり、笑ったり……くだらないって遠ざけてきたものが、実は全部楽しかった。」
果林さんは立ち止まって続ける。
「それに、支えてくれるナイトさんもいるしね。」
振り向きながら、少し茶化すような口調で言った。
「でも私は、朝香果林。そんなキャラじゃない。クールでカッコつけて、大人ぶって、それが私なの。」
俺も知っている。これが、モデルとして有名な朝香果林その人だ。
「なのに……今さら気づいてしまった。悪かったのは私。エマのせいじゃないわ。」
すると、エマさんは果林さんを優しく抱きしめた。
「いいんだよ、果林ちゃん。どんな果林ちゃんでも、笑顔でいてくれればそれが一番だよ。だから、きっと大丈夫だよ。」
「エマ……」
「そうですよ。果林さんは『みんなの朝香果林』を気取りすぎです。同好会ではもっと素直になればいいんです。」
俺もエマさんに続いて言葉を添えた。
「川木くん……」
「もっと果林ちゃんの気持ちを聞かせて!」
エマさんの言葉が力強く響く。そしてその想いを歌で表現した。
『La Bella Patria』
「スクールアイドル、できるかしら……私に。」
「やりたいと思ったときから、きっともう始まってるよ。」
エマさんはにっこりと微笑む。
「ねぇ、同好会のナイトさん。」
「なんですか?」
エマさんに代わり、果林さんが俺に話しかけてくる。
「私のことも守ってくれるかしら?」
「俺はエマさんの親友を傷つけることなんて、絶対にさせませんよ。」
「あら、随分カッコいいことを言うじゃない。」
果林さんは満足げに笑った。
「え~~~! 果林先輩もスクールアイドルに!!」
部室に戻った俺たちは、果林さんが同好会に入ることを説明した。
「ようこそ! スクールアイドル同好会へ!」
せつ菜が満面の笑みで歓迎する。
「ありがとう。」
「かすみ、ちゃんと腕立て伏せやったか?」
俺は罰ゲームを確認する。
「やりましたよ! 3人で! じゃないとお菓子もらえないので。」
「そうそう。」
「おかげで腕が痛いよ……」
かすみに続いて、愛と侑も愚痴をこぼす。
「でも果林先輩、モデルもやっているのに同好会に入って大丈夫ですか?」
「えぇ。同好会でもモデルでもトップを取ってみせるわ。それに、私にはナイトがついているしね。」
「ナイト!?」
突然、歩夢が立ち上がり俺に迫ってくる。
「京ちゃん、どういうこと?」
「俺は何もしてないって!」
俺は慌てて手で歩夢をなだめた。
「エマさんのPVもう伸びてるよ。」
天王寺がパソコンをいじりながら言った。
「早いな。さっきデータ送ったばかりなのに。」
歩夢をなだめながら、天王寺のそばへ向かう。
「川木くんの編集が先に仕上がってたから、早く完成した。」
「なるほど、ありがとう。」
「さっき家族から連絡が来て、すごく喜んでたの!」
エマさんが嬉しそうに話す。
「よかったですね。」
「京ちゃんに、『うちの娘をよろしく』って言われたよ。」
エマさんが笑顔で伝えてくる。
「やるね~、色男!」
「絶対、そういう意味じゃないですから!」
彼方さんが茶化してくるが、勘違いだ。
「京平ばかりずるい!」
侑も笑いながら文句を言う。
「京ちゃんの女たらし!」
同好会の雰囲気は賑やかだった――パソコンをじっと見ているあの子を除いて。
次回は天王寺璃奈編です!
よろしくお願いします。