次の日の昼休み
京平は演劇部の部長とともに、誰もいない屋上にいた。
「一体どうしたんだい?私を屋上に連れてきて」
「聞きたいことがある。しずくの件で」
「手紙の内容に解決できたのかい?」
部長は送られた手紙を見せながら話す。
「しずくともう1人オーディションで競い合ってる人物はいるか?」
「いるよ。その子は和気子といって女の子だよ」
「女の子か、、」
京平は考えながら言う
「そいつって男役をしたことはあるか?」
「あるよ。確か記者の役をしてね、尾行したりする役だったよ」
「尾行……か」
京平はスマホを開き、しずくが昨夜無言で送ってきた画像を見つめた。“虹ヶ咲の男子制服の人物”
逃げていたのか、画像はぶれていて、顔は見えないが、細い体つきと髪型は見えている。
「しずくと競ってる和気子、髪の長さってどれくらいだ?」
「肩より少し長いくらいだね。舞台の時はよくまとめるが」
京平は画像を見せた。
「こんな感じか?」
「あぁ、よく似てるよ」
その瞬間、京平の胸がざわついた。
「尾行は上手だったか?」
「上手だったよ。記者役では気配を消す演技が好評でね。……そうだ、3回前の舞台でも“背後から忍び寄って刺すピエロ役”をしたことがあったな。あれは……少し怖いくらいだった」
(ナイフ……気配を消す……男役……しずくの写真……全部一致する)
京平は息を吐いた。
「部長、今回の犯人は和気子の可能性が高い」
「え……?」
「生徒会長に確認したが、最近“演劇部で使う”と言って男子制服を買った女子がいた。……和気子しかいない」
部長の顔が固まる。
「そんな……」
「和気子がしずくを襲った。動機も、技量も、全部揃ってる」
京平の声は抑えた怒りで震えていた。
「今どこに?」
「さっき早退したよ。舞台の準備で帰ると……」
「……っ!!」
「ってことは、もうしずくの所か!!」
一方、同時刻
かすみと璃奈は一緒にお昼ご飯を食べるために広場にいた
「あーぁ、しずこも京平さんも来ないよ」
スマホを見て、かすみはがっかりしていた
「京平さんは私にサンドイッチ渡してきてそのままどっか行っちゃったし」
2人は向かい合いながら話している
「せっかくお昼一緒に食べようと思ったのに、でも知らなかった。しずこがあんなに頑固だったなんて、ほんと、どうしちゃただろう」
かすみは空を見上げて言う
「きっと今のしずくちゃんもしずくちゃんだよ。」
「え?」
上を向いていたかすみは璃奈を見る
「私もちょっと同じだったからわかるんだ。自分のことが嫌な気持ち。私の時は愛さんや京平さんがぐいって引っ張ってくれた。そしてみんなが励ましてくれた。」
「だからライブができた。私には愛さんがいた。そして私を支えてくれた京平さんがいた。」
璃奈は真剣な目でかすみを見る
「私、行ってくる!京平さんに先越されたくない!!」
そういってかすみは走っていた
「ファイト!!」
璃奈がかすみの背中を見送る。その時璃奈のスマホがなった
「京平さん?」
電話には京平さんの名前が出ていた
『もしもし?』
「もしもし?どうかしたの?」
『さっき昼休みに3人で昼ごはん食べるって言っていたよな?』
「うん、でもしずくちゃんは演劇部の練習で来なかったし、さっきかすみちゃんがしずくちゃんのこと探しに行ったよ」
『本当か。分かった。ありがとう』
「なにかあったの?」
『しずくが襲われているかもしれない』
京平の声は今まで聞いたことがないほど低く、焦っていた。
その瞬間、璃奈の背筋に冷たいものが走る。
「見つけた!!」
昼休み、廊下を全力で走り回ったかすみは、肩で息をしながら空き教室へ飛び込んだ。
「かすみさん……」
そこには、机に突っ伏し、涙の跡を残したままのしずくがいた。
「どうしたの?」
かすみが近づくと、しずくは慌てて笑顔を作る。
「どうって……昨日、変な感じで別れちゃったでしょ?だから……心配で」
「ごめんね。心配かけて。でも私は大丈夫。オーディションだって——」
必死に明るい声を出しているが、目元は腫れている。
「目、ちょっと腫れてるよ」
しずくは言葉を詰まらせた。
かすみは、優しく、でも逃げられないように言う。
「しずこが頑固なの、よーーーくわかったよ。でもね、そんな顔で隠そうとしないでよ。私としずこの仲でしょ!!」
その言葉に、しずくの肩が震えた。
——そのとき。
ガラッ!!
前の扉が勢いよく開いた。教室に乾いた風が流れ込み、足音が響く。
「いやぁ、素晴らしいね。友情ってやつ?……かすみさん、で合ってるかな?」
あの日の“男子生徒”が、拍手しながら入ってきた。
「だれ?」
かすみは眉をひそめ、しずくは怯えてかすみの腕を握る。
「かすみさん……その人……」
震える声。
「もしかして……水の魔法が出た相手って、この人?」
「誰だか知らないけど、勝手に入ってこな……」
——ヒュッ。
次の瞬間。
顔の横を何かがかすめた。
刃物特有の金属臭と風切り音。
ドンッ!
後ろの壁にナイフが深く突き刺さっていた。
「……あれぇ?」
男は首を傾げ、笑う。
「狙い通りなら、今ので目が無くなってるはずなんだけどなぁ?」
ゾッ……。
ぞくりと背中が凍る。
「……うそ、でしょ……」
かすみの声は震えていた。
ナイフが投げられた瞬間——バシャッ!!と水の魔法がしずくとかすみの前に薄い膜を作り、ナイフを逸らしていた。
かすみは確信する。
——この男は殺す気だ。
「かすみさん!逃げないと!!」
かすみはしずくの前に腕を広げ、震えながらも男を睨みつけた。
「私は逃げない!!だってこのままだとしずこがやられるもん!」
「いい友情だ」
男はもう一本ナイフを取り出し、かすみに向ける
「これは本気で当てるよ」
「いいでしょう。かすみんには絶対に当たりません!」
「なぜ、そこまでしてその女を守る?守る価値があるのか?」
「守る価値とかそんなのどうでもいいんです!私は今桜坂しずくの友達だから守るんです!それにあなたを倒すのは私じゃない!!!」
かすみは指をさして大きな声で言う
「私の王子様、いや、虹ヶ先スクールアイドル同好会を守るナイトがあなたを倒します!!」
「そんなやつがここにくると思うなよ!!!!」
ナイフが一直線に、かすみの胸元へと飛んだ。
(……ッ!!)
かすみも、しずくも、反応できない。
——その瞬間
バシャァァンッ!!
横合いから激しく水が弾け、ナイフが壁へとそれた。
一拍遅れて、風とともに声が落ちてくる。
「……かすみ、待たせた」
その声を聞いた瞬間、かすみの目が大きく開いた。
そこに立っていたのは——私と一緒にワンダーランドを作ると約束してくれた人。
いつも意地悪してくるのに、困ったときには必ず手を差し伸べてくれる人。
そしていま、誰よりも頼もしい背中を向けてくれている人。
「京平さん……!」
しずくが震える声で名前を呼ぶ。
京平は二人の前へ一歩進み、男を睨みすえた。
その目には、静かに燃える怒りがあった。
「ここでお前の舞台は終わりだ……和気子」
京平の低い声に、男は舌打ちした。
「……バレたか。どうして私だとわかった?」
男はゆっくりと頭に手を伸ばし、乱暴にかつらを剥ぎ取る。
ぱさり——
現れたのは、見覚えのある茶髪と痩せた輪郭。
「あなた……和気子さん!?」
しずくの声が震えた。
和気子は口の端を歪めて笑う。
「そうだよ。あんたを殺せば主役は私。だから男に化けて近づいたんだよ。気づかない方が悪い」
「そんな……」
しずくが一歩後ずさる。
和気子の瞳は狂気に染まっていた。
「ひどい?何が?この学校も、演劇部も……結局は蹴落とし合いじゃない!!しずくがいる限り、私の努力は永遠に届かない!!だったら——消えてもらうだけッ!!」
「……もう黙れ」
京平が一歩、前に出る。
右手の拳が、熱を帯びて赤く光り始めた。火の魔法が揺らめき、空気が焦げる。
「この世が蹴落とし合いなのは分かってる。けど今回の演劇部は蹴落としあいではない。舞台のオーディションだ “殺していい理由には絶対にならない”」
京平の声には怒りよりも、強い信念があった。
「お前がしてるのは勝負じゃない。ただの八つ当たりだ。努力でも実力でもない」
和気子の表情が歪む。
「黙れ……黙れぇ!!」
「黙るのはお前だ」
京平は一歩踏み込み、拳を握りしめる。
「女だから記憶だけを消してやるつもりだったが……もういい。地獄を一度見てこい。『蹴落とし』ってやつを、今度は俺が教えてやる」
振り抜かれた拳が、和気子の頬を的確にとらえた。
火の魔法の熱を帯びた衝撃に、和気子の体が大きく揺れる。
「ぐっ……!」
倒れかけた彼女に、京平は静かに言葉を落とす。
「地獄の底から、もう一度這い上がってこい。それが“本当の努力”ってやつだ」
和気子は、言い返す暇もなく、そのまま気絶した
「かすみ、かっこよかったぞ」
振り返った京平がそう言うと、かすみは堰を切ったように表情を崩した。
「き、京平さん……怖かったです!!」
涙をボロボロ流しながら飛びついてくる。
京平は驚いたが、すぐに彼女の背中に手を回した。
「よしよし……怪我がなくて本当に良かった」
震えるかすみの頭を、優しく撫で続ける。
京平の温かさに安心したのか、かすみの呼吸は次第に落ち着いていった。
すると——。
「京平さん……私も……昨日から、ずっと怖かったです……」
しずくも堪えきれず、反対側から京平に抱きつく。
その肩は細かく震えていた。
「遅くなって、ごめんな。しずくも無事でよかった」
京平はしずくの背にもそっと手を添える。
京平の胸に顔を埋めたまま、
しずくの肩が小さく震えていた。
「京平さん……」
しずくは、絞り出すように声を出した。
「わたし……本当は……強くなんてないんです……」
ぽつり、と涙がこぼれる。
「演技してる時だけなんです。堂々としていられるのは……“桜坂しずく”のままだと……いつも怖くて……」
京平は何も言わず、優しく背をさすった。
「昨日も……今日も……ずっと怖かった。でも……」
しずくは京平の制服をぎゅっと握る。
「京平さんが来てくれた瞬間……全部ほどけちゃって……泣きたくないのに……止まらなくて……」
涙と一緒に、ずっと胸の奥にしまっていた本音が零れ落ちる。
「……わたし……素直な姿を見せて京平さんに嫌われたらどうしようって……そればかり考えて……苦しかったんです……」
ようやく顔を上げたしずくの目は、赤く潤んでいた。
「でも……助けに来てくれて……本当に……うれしかった……」
その表情は、必死で抑えていた気持ちがにじみ出た、しずくの“素顔”そのものだった。
かすみは横で、その光景を見ながらそっと息をのむ。
京平に寄せる特別な感情——それに、ようやく気づいてしまったから。
「しずく、俺はどんなしずくでも嫌うことはない。」
「え?」
しずくは涙を流しながら言う
「ここにいるかすみも自分はこんなにかわいいのに誰も褒めてくれないって愚痴るけど、俺はかすみが可愛いって知っているし、ずっと褒めている。他の人が何といっても俺はそんなかすみが1番可愛いと思っている」
「え?」
京平の胸の中で、かすみの顔がみるみる真っ赤になる。
そんなかすみを横目に、京平はしずくに話を続ける。
「しずくもさ。強がったり、意地張ったり……もっと見せていいんだよ」
「……それが、わたし……?」
「そう。強い部分も、弱い部分も、ぜんぶ含めて“桜坂しずく”だろ。その全部を見ても、俺はしずくが大好きだ」
「……っ」
しずくの胸が大きく波打つ。
顔が熱くなり、視界がじんわり滲んだ。
(ほんと京平さんって女たらし。最初に出会ったときからそう。いきなりかすみさん助けちゃうし、生徒会長の胃袋掴んでいるし、エマさんや彼方さんを虜にするし、同好会が解散してたら幼馴染といるし、璃奈さんに手を伸ばすし、愛さんも好かれているし、ほんと、全部、全部ずるい。)
気づけば胸が痛いほど高鳴っていた。
(多分私もこの一員に入るんだ)
そう思った、その時——。
「ちょ、ちょっと京平さん!!」
胸の中にいたかすみが、涙目で顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
「か、かすみん恥ずかしいので……ぶ、部室に行きます!!こ、この事……全部……み、みんなに報告しますから!!!」
半分泣き、半分照れ、半分怒り(合計150%)のかすみは、そのまま走って部室方向へ駆け出した。
「あ、おい!待て!!」
京平は慌てて手を伸ばすが、届かない。
「その状態で報告されたら……俺、菜々に殺されるって!!歩夢まで出てくるんだぞ!!」
焦った京平の声が空き教室に虚しく響く。
だが。廊下の角では、新聞部の一年生がその様子をしっかり目撃していた。
——そしてその日の校内新聞には、こんな大見出しが躍ることになる。
『空き教室からスクールアイドルが涙を流して飛び出す!?犯人はマネージャーか!?』
噂は瞬く間に広がり、京平は放課後同好会の部室に呼ばれたのだった
しずく編は次がラストです。
ちなみに和気子は脇役の意味でつけました。最初はモブ子だったのですが、それだとなんかしっくり来ませんでした
また来週お会いしましょう