「それで弁解の言葉はある?」
しずくの問題を解決した後、昼休みの出来事が校内新聞に載って放課後部室に首根っこ掴まれて連れていかれた京平だった。
目の前にいるのは腕を組みながら見下ろしている歩夢と菜々だった
「弁解も何も、かすみからなんて聞いたの?」
正座をしながら、菜々と歩夢に説明を求める
隣では菜々がメガネを押し上げながら、無言の圧を放っている。
「ではまず、昼休みの説明から行きましょうか」
その頃、部室ではしずくの衣装が完成したところだった。
「これで完璧だね!」
侑が冠を手に嬉しそうに微笑む。
「しずくちゃん、絶対喜ぶよ〜」
「うん。京ちゃんにも早く見せたいね」
彼方やエマも和やかな空気で談笑していた。
そこへ——。
ガラッ!!
「京平さんは!?ここにいる!?」
璃奈が息を切らしながら飛び込んでくる。
「京ちゃん?来てないよ〜。どうしたのそんなに慌てて?」
エマが慌てて冷たいお茶を手渡す。
「ありがと……。じゃあ……もう、しずくちゃんのところについたのかな……」
璃奈は胸を押さえながら答えた。
愛が眉を寄せる。
「りなり、何があったの?」
「さっき電話きて……“しずくちゃんが危ない”って……っ」
「えっ!?なら行くしかないじゃん!!」
愛は璃奈の手をつかんで走り出そうとする。
——が、その時。
「落ち着きたまえ。しずくなら無事だよ」
開いたドアの向こうに、演劇部の部長が立っていた。
「さっき連絡が来てね。無事に保護したと報告があった」
スマホを見せながら淡々と説明する。
「よかった……」
璃奈は胸を撫で下ろす。
「でも、彼は何者なんだい?」
「何があったんですか?」
侑が首をかしげた。
「彼、私と一緒に屋上にいたんだけど、屋上からいきなり飛び降りて、しずくを探しに行くからさ、目を疑ったよ」
部長は遠い目をしながら言った。
侑は無理な笑顔で返す。
「はは……きっと偶然ですよ。ね?偶然」
(……歩夢絶対怒るよな……)
隣にいる歩夢を見ないようにしている侑。
菜々が真剣な声で質問する。
「それで、しずくさんに何があったんですか?」
部長は、これまでの出来事を丁寧に語った。
「……そんなことが……。京平さん、私たちに何も教えてくれませんでしたね」
菜々は表情こそ冷静だが、瞳の奥は確実に怒っている。
「怒らないであげてくれ。彼はきっと……被害を出したくなかったんだ」
部長はフォローするように笑った。
そんな中——。
ドタドタドタ!!
盛大な足音が部室に近づく。
バンッ!!
乱暴にドアが開いた。
「歩夢先輩!!!京平さんが……わ、私のこと……く、口説いてきました!!!これって、結婚するべきなんですか!?!?」
泣いてるのか怒ってるのか照れているのか、全部混ざった顔でかすみが叫ぶ。
「京平さんってしずくちゃんのこと助けに行ったんじゃないの?」
璃奈は“?”と書かれたボードを出して首をかしげる。
「助けてくれたんだけど……いきなり私のこと口説き始めて……!」
かすみが言い終わらないうちに、背後から新たな声が飛び込んでくる。
「中須かすみさん! 新聞部です!先ほど空き教室で何があったんですか!!」
新聞部が息を切らしながら走り込んできた。
「先ほど顔を真っ赤にして出てきましたが、何が行われていたんですか?密室の空き教室で!!」
かすみの目の前にマイクが突きつけられる。
「ちょ、ちょっと待ってください!?あれは……その口説かれて……!」
部室が混乱でざわつく中、さらにもう一人が口を開いた。
「それじゃ、私は帰るよ。その衣装持ち帰ってもいいかな?」
演劇部の部長は、新聞部の取材騒ぎなどまったく気にせず、先ほど話題にしていた衣装に視線を向ける。
「うん、それはしずくちゃんのだからいいけど」
侑は状況が呑み込めないまま返事をする
「ありがとう。それと君たちのナイトにも伝えておいてくれないか?“今回は演劇部のために動いてくれてありがとう”ってね」
演劇部の部長は衣装を手に取って歩き出した
「——というのが今回の昼休みに起こったことです。しかも新聞に書かれている内容……これは本当なんですか、京平さん!」
菜々が校内新聞をバンッと京平の目の前に突き出した。
正座させられた京平は、その紙面を受け取る。
《スクールアイドル、涙の飛び出し!密室の空き教室で何が!?犯人は“マネージャー”と噂——》
「嘘だ!嘘!それに、あの後、犯人の記憶を消して、しずくと別れたよ」
京平は倒した和気子を抱っこし、傷を治してから記憶を消した。それはしずくからのお願いでもあった
菜々はじとっとした目で京平に顔を近づける。
「それならいいですけど!しずくさんに変なことしてないでしょうね?」
「してない。神に誓ってしてない」
「わかりました。歩夢さんからありますか?」
菜々は歩夢に質問する
「ううん。京ちゃんは人のために動ける人だから、変なことなんてしないって信じてたよ」
優しい笑みの奥には、心配が滲んでいた。
「でもね、京ちゃん……あまり無理しちゃだめだよ?」
その声は叱るでも責めるでもなく、ただ京平の身を案じる“温かいお願い”だった。
そして——桜坂しずくの舞台の日がやってきた。
「流石、合同演劇祭。人が多いね」
「本当だね。京ちゃん、迷子にならないでよ?」
「なんで俺がなるんだ」
京平は即座にツッコミを入れる。
迷子になるのは、どう考えても歩夢のほうだ。
「でも、オーディション決まってよかったね」
「……しずくの迷いが消えて、よかったです」
エマさんと顔を見合わせながら、配置されたポスターを眺める。
その向こうから、ひそひそとした声が聞こえてきた。
「この舞台の主演の子、虹ヶ咲のスクールアイドルみたいだよ」
「へえ、そうなんですね」
その会話を耳にしながら、京平は胸の奥で小さく思う。
しずくの名前は、もうこの場所から少しずつ外へ広がり始めている。
「さて、舞台を鑑賞しますか。しずくから招待券ももらってるしな」
九人分のチケットをひらひらさせ、京平は入口へ向かう。
「そういえば、京平さん。しず子に何を渡したんですか?」
道中、かすみが思い出したように言った。ここに来る途中京平はしずくに何かを渡していた。それをかすみが偶々目撃をしていたのだった
「お守りみたいなもんだ」
京平は、はぐらかすように答える。
「え〜、教えてくださいよ〜」
かすみは京平の腕を掴み、ぶんぶんと上下に振る。
「舞台で分かるから我慢しろ」
「もう〜!」
ぶつぶつ文句を言いながらも、かすみは素直に引き下がった。
——そして、幕が上がる。
『ある街に、一人の少女がいました。彼女の夢は、この街一番の歌手になること。そして、たくさんの人に歌を届けること。あなたの理想のヒロインになりたいんです』
しずくの舞台が始まった。
理想の自分と、現実の自分。その間で揺れ続けてきた葛藤が、舞台という形で静かに、しかし確かに描かれていく。
京平は、無意識に息を詰めていた。
終盤。
『そんなに怖いの?本当の自分を見せることが?』
黒のしずくが、舞台の上に現れる。
『これが私。逃れようのない、本当の私!!』
客席が、静まり返った。
『嫌われるかもしれない。でも、好きだって言ってくれる人もいた。だから——この小さなステージで、もう一度始めよう』
その声は、確かに届いていた。
[Solitude Rain]
「これが、しずくの世界か」
俺は、舞台の上で輝くしずくの姿を見て、素直に感動していた。理想と現実、その両方を抱えたまま、彼女は確かにそこに立っていた。
……というか、あの黒のしずく役、部長だよな。そんなことを考えながら、舞台の幕が下りるのを見届ける。
舞台が終わったあと、しずくは虹ヶ咲新聞部のインタビューを受けていた。
フラッシュが瞬き、シャッター音が重なる。
「役として、そしてスクールアイドルとして、何かメッセージはありますか?」
記者の問いに、しずくは一瞬だけ考え、そしてはっきりと答えた。
「本当の私を、見てください」
その言葉と笑顔は、確かにカメラに収められた。
撮影が一段落したあと、新聞部の記者がふと思い出したように声をかける。
「そういえば、そのネックレス……ポスター写真のときには着けていませんでしたよね。もらったんですか?」
しずくは驚いたように一瞬目を瞬かせ、それから柔らかく微笑んだ。
「はい!これは、大切な人からのプレゼントです。私の一生の宝物です」
一瞬、空気が止まった。
しずくは首元に手を添え、そこにあるネックレスを、そっと確かめるように触れていた。
次は果林さんです!お楽しみに!!