まだ見ぬ世界へ   作:コアラのマーチ

30 / 34
有馬記念に勝つ気だったのに負けました。10番来るなんて聞いてないよ。今年最後の投稿ですがよろしくお願いします。あと彼方さんお誕生日おめでとうございます!


考える時間

「1曲分しか歌えないのか……」

 

京平は、綾小路たちが言っていた“1人分の時間しかない”ということについて悩んでいた。

虹ヶ咲はあくまでソロアイドルで、曲も一つしか作っていない。今からメドレーを組むにしても難しい話だった。

 

「どうしたもんだろうね」

 

「あれこれ考えても無駄よ。残酷だけど、一人しか歌えない。誰が歌うか、決めましょう」

 

侑は言葉を選びながらそう口にしたが、その言葉に朝香果林が続けた。

 

「果林さんの言う通りだな。ちなみに聞くが、出たい人はいるか?」

 

京平はみんなに挙手という形で聞いた。

誰かに推薦するより、その方がいいと思ったし、自主性を大事にしたかったからだ。

 

しかし、うまくはいかなかった。

しずくやかすみが手を挙げようとしても、遠慮が生まれてしまう。

 

人を思いやるというのは、時に残酷だ。

 

「くじ引きとか、いいかな?」

 

「私もそう思う」

 

歩夢とエマが新しい提案をする。

 

「お互い遠慮し合った結果、そんなのでいいわけ?」

 

甘い考えは果林には通用しないようだった。

 

「衝突を怖がるのは分かるけど、それが足かせになるんじゃ意味ないわ」

 

「その通りだな。それでソロアイドルとして成長したとは言えない」

 

果林の言葉に京平も同意する。

マネージャーという立場上、厳しい言葉も必要だ。

 

「いずれにしても、今回は同好会が試される形になるわ。だから本気で立ち向かえるメンバーを選ぶべきよ」

 

みんなは言葉が出なかった。正論を言われて、何も言えなかった。

 

「今日は帰るわ。モデルの仕事もあるから」

 

重い空気の中、果林は帰っていく。

 

「いずれにしても、今日は解散だな」

 

「そうだね。色々あったし、考える時間も必要だよね」

 

京平と侑は話し合い、この日の練習を中止にした。

 

***

 

私、朝香果林はモデルの仕事をしていた。

 

「いいポーズです!」

 

カシャ、カシャとカメラのシャッター音が響く。

 

「いい体してるよな、朝香果林」

 

「ほんとほんと。高校生とは思えない体してるよな」

 

カメラアシスタントの声が耳に入ってくる。

 

(聞こえているわよ)

 

そんな声を気にせず、私は撮影を終える。

 

「ありがとうございました」

 

メイクを落とし、次の場所へ向かう。

次は確かダンススクールよね。

メールで場所を確認して、撮影場所を後にした。

 

(ほんと、男ってどうして体しか見ないのかしら)

 

撮影の時からずっと感じていた視線が気持ち悪かった。

慣れない視線。本当に、嫌になる。

 

そんなことを考えながら歩いていたら、道に迷ってしまった。

 

「ここ、どこかしら……やっぱりエマを連れてくるべきだったかしら」

 

スマホの地図を見ているはずなのに分からない。

十分ほどふらふら歩き続けても、やっぱり分からない。

 

「何してるんですか、果林さん?」

 

「あれ、本当だ」

 

声のする方を見ると、二年生の川木君と、優木せつ菜、歩夢、侑がいた。

 

「もしかして迷子?」

 

川木君がぼそっと呟く。

そういえば前にも、歩夢がウサギの練習をしていた時に案内してもらっていたわ。

 

「そんなわけないでしょ? 三年生よ? しかも高校生」

 

笑う侑に、反論できない私がいた。

 

「え、本当に?」

 

「違いますよ。果林さんも、こういうのが好きだったんですよね?」

 

私たちがいたのはゲーマーズの前だった。

 

あ、これで誤魔化しましょう。

 

「ありました! 買ってきますね!」

 

せつ菜が目当ての本を見つけて、嬉しそうに店内へ走っていく。

 

「よかったわね」

 

そう言って店内を見渡すと、スクールアイドルのグッズが置いてあった。

 

「へぇ、こういうのも置いてあるのね」

 

ブロマイドに目を奪われて、私はしゃがみこむ。

 

「ほんといいですよね。虹ヶ咲も置いてほしいです」

 

「あら? それならあなたは最初に誰を買うの?」

 

隣に来た川木君に、少し意地悪な質問をする。

 

「全員に決まってるじゃないですか」

 

当たり障りのない返事。

 

「もっと素直になっていいんじゃない? 最近はスマホケースの後ろに入れるって言うじゃない」

 

「それを俺がやってみてください。誰かしらに殺されます」

 

遠い目をしながら言う。

 

「確かにそうね。私が悪かったわ」

 

「京ちゃんは、私が一番だもんね」

 

「驚かすなよ、歩夢」

 

「ごめんね」

 

歩夢がいつの間にか横にいて、声をかけてきた。確か幼馴染よね。

 

「どうせなら歩夢のを買えばいいじゃない?」

 

「そうすると全員を買えってなるでしょ?」

 

「確かに」

 

「試しに遥ちゃんのを買って部室に行ったんですが、どうなったと思いますか?」

 

「遥ちゃんなら彼方が喜ぶんじゃない?」

 

「そうです。でも一年生組に“京平さんって小さい子が好きなんですか?”って言われました」

 

「あら……それはご愁傷様としか」

 

「さらに彼方さんから“遥ちゃんを妹にするなら、私と結婚したら義妹になるよ”って」

 

京平は続ける。

 

「その発言のせいで、菜々と歩夢からお説教されました」

 

「あなたって本当、気づいたら説教されてるわね」

 

同情にもならない。かわいそうな男ね。

 

「私、そろそろ行くわ」

 

買い物も終えて、五人で外に出る。

 

「用事あったんですか?」

 

「引き止めてすみません」

 

「大丈夫よ。時間通りに着けばいいけど」

 

歩夢と侑は、私を引き止めたことを謝る。

 

「でも一体どこに行こうと?」

 

川木君の質問に、私はスマホの画面を見せた。

 

「ダンススクール?」

 

川木君が上を見上げる。

 

「そこですよ」

 

指差された方向を見る。

 

「もう着いてるじゃない」

 

「気づいてなかったんですか?」

 

「地図を見てもわからないなんて」

 

侑・せつ菜・歩夢が次々に言ってくる。

 

「意外だけど、可愛いです!」

 

侑が、さりげなくそう言った。

 

「しょうがないでしょ。あまりここに来ないんだから」

 

私がそう言った、その瞬間だった。

 

キィーーッ、と大きなブレーキ音。

音がする方向に顔を上げると、トラックが歩道に向かって突っ込んできていた。

 

「っ——」

 

体が固まる。声も出ない。

 

「下がってろ!」

 

川木君が一歩前に出た。

 

彼は片手を軽く前に出す。大げさな動きも、派手な光もない。

 

——風が、逆流した。

 

突風がトラックの正面からぶつかり、見えない壁のように進行方向を押し返す。

 

ゴッ、と短い音がして、トラックはその場でぴたりと止まった。

 

空気が静かになる。

 

川木君は振り返り、短く言った。

 

「ふー危ない、全員無事か?」

 

「……っ、はい!」

 

真っ先に答えたのはせつ菜だった。胸の前で手を握りしめながら、はっきり言う。

 

「本当に……ありがとうございました。助かりました」

 

歩夢は安堵の息をつき、侑は目を丸くし、私はただ、心臓の鼓動を必死に抑えていた。

 

「……それにしても、このトラック……果林さんを狙っていた気がするな」

 

そんな言葉を、京平は誰にも聞こえない声で呟いた。

 

救急車と警察が到着し、現場は少しずつ整理されていった。

 

事情聴取を終え、近くのベンチで一息つく。周囲には歩夢と侑、少し離れたところに果林さんとせつ菜がいる。

 

——だが、京平の表情だけは冗談ひとつ浮かばなかった。

 

(さっきのトラック……偶然、で片づけていいのか?)

 

頭の中で、ゆっくりと出来事を並べていく。

 

ブレーキ痕。

進路。

停車位置。

 

そして——

 

(……“一直線”だった)

 

歩道に人はそれなりにいたのに、進路は妙にブレず、まっすぐこちらへ向かっていた。

 

具体的な言葉が喉まで出かかったが、飲み込む。

 

「京ちゃん……?」

 

歩夢が心配そうに覗き込む。

 

「ん?あぁ、ごめん少し考え事していた」

 

笑って見せる。だが、笑顔を作っている自覚があった。

 

果林は少し離れた場所で、じっとこちらを見ていた。視線が合うと、ほんの一瞬だけ目を逸らす。

 

(果林さん、か)

 

「……嫌な予感が当たらなければいいけどな」

 

声に出すと、現実味を帯びた。

 

隣で侑が小さく首を傾げる。

 

「何か、気になることでもあった?」

 

まっすぐな目で見てくる。京平は少し迷い、そして答えた。

 

「……まだ確定じゃない。ただ——」

 

言葉を選ぶ。

 

「果林さんが狙われている可能性がある」

 

侑の表情から、冗談の気配が消える。

 

「冗談じゃないよね?」

 

「もちろん、ただ偶然の場合もある」

 

断言はしない。だが、否定もしない。

 

歩夢と侑も、その言葉に息を呑んだ。

 

京平は続ける。

 

「だからと言って、怖がる必要はない。警戒するだけでいい」

 

「警戒……」

 

「水魔法で結界はあるから命は大丈夫だ。」

 

そういって京平はせつ菜と果林さんがいる方向を見る

 

「取り敢えず果林さん達の所に行くか」

 

 

 

 

 




来年の月曜日に投稿します!お楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。