今年は一期を終わらせるぞー
「果林さん、一つ聞きたいことがあります」
京平は、前から気になっていたことを口にした。
「何かしら?」
「そのダンススクールって……誰の紹介ですか?」
「仕事先で一緒だった人よ。そのときに紹介してもらったの」
果林は少し思い出すように目を伏せて答えた。
「それだったら……狙われる理由はないか」
京平は腕を組み、静かに考える。
侑が首を傾げながら言った。
「でもさ、京平の魔法があるなら大丈夫じゃないの?」
「大丈夫だ。命は失わないし、怪我もしない」
「それなら――」
侑が安心しかけたところで、京平は首を横に振った。
「……それでも、嫌な思いはしてほしくないんだ」
その瞬間、侑も歩夢もせつ菜も、思わず息を呑んだ。
京平はゆっくりと言葉を続ける。
「俺は、自分の手が届く範囲なら……全員助けるって決めてる。だからさ、痛い思いも、怖い思いも……俺の目の前ではしてほしくない」
侑は申し訳なさそうに俯いた。
「……ごめん。軽く言っちゃったね」
「大丈夫だ」
京平はそう言って、侑の頭を優しく撫でた。
果林がぽつりと呟く。
「……羨ましいわ。幼馴染って」
少しだけ寂しそうな横顔だった。
「果林さんには、エマさんがいるじゃないですか」
「エマは……どっちかっていうと“お母さん”みたいなものよ」
「確かに。朝も起こしてもらってますしね」
「ちょ、なんでそれを川木君が知ってるの!?」
果林は真っ赤になって立ち上がった。
「エマさんが言ってました」
「もう……!」
顔を覆いながら座り直す果林。
すると、せつ菜が優しく微笑んだ。
「でも……果林さん。陰で努力なさっているの、私は本当に尊敬しています」
果林は少し照れくさそうに視線をそらした。
「努力しないと追いつけないのよ。特に……あなたたちには、負けたくないし」
歩夢が小さく息を呑む。
「果林さん……」
果林は椅子から立ち上がり、深く頭を下げた。
「だから……昨日は言い過ぎたわ。ごめんなさい」
「や、やめてください!」
「そうですよ。あれは、必要な言葉でしたから」
せつ菜と歩夢が慌てて止める。
果林は顔を上げ、少し照れた笑みを浮かべた。
「……ありがとう」
「まだ少し時間ありますか?」
せつ菜が前に出て何か言いたげそうにしていた
「あるけど」
「それなら今からダイバーフェスで出る人を決めませんか?」
「「「え??」」」
「今決めるの?」
その場にいた全員が驚いた
「はい。果林さんの本気はみんなに届いていると思いますから。それに私たちのステップアップのためにも、どうでしょう?」
「いいんじゃない」
果林が微笑みながら頷いた。
「なら皆さんに連絡しますね」
せつ菜は連絡ツールを使ってみんなに報告をした。次に出るのは朝香果林を指名するというために
***
そして、ダイバーフェス当日。
虹ヶ咲のみんなは控室のテントにいた
「でも驚きました。せつ菜先輩がいきなりメッセージを送ってきたから」
「でも、みんな自分を推薦することになったけど」
「でも満場一致で」
かすみ、璃奈、愛の順番で話が進んで、試着室から出てきたのは朝香果林だった
「ずば抜けてセクシーな衣装だよね」
「京ちゃんそんな目で見ているの?」
「そんな目って下心で見てない」
歩夢に睨まれながら京平が答える
「でも似合っているでしょ?」
エマさんが京平を見てほほ笑む
「えぇ、モデルをやってる果林さんにはぴったりです」
「ありがとう。」
果林も京平の言葉を聞いて感謝をした
「そいえば、まだ時間あるんだよね?」
「あるよ」
京平は出番のスケジュールを見ながら答える
「そしたら観客席に見に行ってもいいかな?」
「いいぞ~」
「私も行く」
その言葉に歩夢が反応する。侑と一緒に行くみたいだ
「うん。行こう!京平は?」
「俺はまだこっちにいる」
「わかった」
侑は心の中で3人で行きたい気持ちだったが京平には京平のやることがあるのだろうと理解してそこまで強くは言わなかった
観客席はすでに大勢の人で埋まっていた。音楽、歓声、スタッフの走る足音。フェス独特のざわつき。
歩夢と侑は人の波の少し後ろに立ち、ステージを見る。
「すごい人だね……」
歩夢が息をのむ。
「ほんと、流石ダイバーフェス。スクールアイドル以外も集まっているから人が多いよ」
侑と歩夢は2人で観客席から熱を感じていた
そのときだった。
——視線。
ぞくり、と背筋をなでられたような違和感。
歩夢が小さく肩を震わせる。
「……侑ちゃん、いま、変な感じしなかった?」
「……うん。歩夢も?」
侑はわずかに表情を引き締める。
「気のせいだと思いたいけど」
歩夢は気のせいだと言い切れなった
小さな声で2人の後ろから声が聞こえる
「殺す、殺す。絶対に、あいつを殺す」
その声の主は2人を通り過ぎて行った
「歩夢、京平に知らせに行こ」
「うん。」
2人は先ほどのテントの所に戻っていった
テントの前まで戻ると、二人は息を切らしながら布の幕を勢いよく開いた。
「京平!」
侑の声が中に響く。
虹ヶ咲のメンバーは、京平と果林さん以外は全員揃っていた。
「どうしたの? 二人ともそんなに慌てて」
エマさんが二人に落ち着くように声をかける。
「それがね——」
歩夢は、さっきの出来事を順番に話した。
「そんな……」
「でも、誰が狙われているかは分からないの」
侑は、相手が“誰か”までは言っていなかったことを強く伝える。
歩夢が不安そうに侑の袖をつまんだ。
「果林ちゃんの出番はまだ先だし、京ちゃんのこと、探してみるね」
エマさんはスマホを取り出し、京平に連絡をとろうとする。
その様子を見ながら、侑の胸の奥で、さっき聞いた言葉がよみがえった。
——殺す。絶対に、あいつを殺す。
(いやだ……タイミングが悪すぎる)
嫌な想像が浮かびそうになり、侑は慌てて頭を振った。
「侑ちゃん、落ち着いて。京ちゃんは、多分——」
「どこかで、人助けをしている可能性があるよね」
歩夢が侑の言葉をそっと継いだ。
その声は震えていたが、無理に笑おうとしているのが分かった。
「京ちゃん、そういう人だから。誰かが困ってたら……私より先に飛び出しちゃう人だから……」
今度は歩夢が侑の肩に手を置いた。
「……うん。分かる。だからこそ、今は——」
二人は顔を見合わせた。
「探そう」
侑の声には迷いがなかった。
「うん。一緒に」
歩夢は強く頷いた。
「朝香さんが出られるんですね」
ステージ裏のバックヤード。藤黄学園の綾小路が、朝香果林に声をかけた。
「ええ。虹ヶ咲スクールアイドルの代表として」
綾小路はまっすぐな目で果林を見る。
「このフェスに来ている方は、皆さんがスクールアイドルに興味があるとは限りません。いわば“アウェー”です。
それでも、スクールアイドルの魅力を伝えようとしている——ひとりで立ち向かうあなたを、尊敬しています」
果林は小さく微笑んだ。
「ありがとう。でも私は一人じゃないわ。
モデルの朝香果林でもなく——虹ヶ咲スクールアイドルの朝香果林として、みんながついているもの」
綾小路は、少しだけ表情を和らげて続けた。
「それは……あのマネージャーさんも含まれていますか?」
「もちろん」
即答だった。
綾小路は満足そうに頷く。
「ふふ。では——お互い頑張りましょう」
そう言って、綾小路はステージ裏へと去っていった。
果林はその背中を見送り、ふっと息をつく。
(それにしても……控室ってどこだったかしら)
アナウンスが会場に響いた。
「それでは——スクールアイドルのステージを開始します!」
歓声が、一気に波のように広がる。
ライトが点き、音楽が鳴り始める。会場全体が期待と熱気に包まれていく——はずだった。
虹ヶ咲の控室テントでは、まったく別の緊張が走っていた。
「……いないね」
侑が、手にしたスマホを握りしめながら呟く。
「きー君から返信、来ないの?」
愛が近づいてくる。
侑は小さく首を振った。
「既読もつかない。電話も出ない」
言葉に出した瞬間、胸の奥がざわつく。
歩夢は、両手を胸の前でぎゅっと組みしめた。
「京ちゃん……どこに行ったの……」
エマが周りを見渡しながら言う。
「果林ちゃんも……まだ戻ってきてないよ」
その言葉に、テントの空気が一段と重くなった。
しずくが驚いたように顔を上げる。
「え、果林さんもですか?」
璃奈のボードに「……不安」の文字が浮かぶ。
かすみは唇を噛んだ。
「だ、だって! 主役ですよ!? 控室にいないなんておかしいです!!」
彼方は珍しく真剣な表情で言った。
「遥ちゃんにも聞いたけど、見てないって」
せつ菜は深く息を吸い、みんなに向き直る。
「落ち着いてください。状況を整理します」
その声は震えていたが、それでもみんなを支えようとしていた。
侑は顔を上げる。
「まとめるね」
京平は見当たらない、連絡もつかない。
果林さんは出番前なのに控室に戻っていない
観客席では不穏な言葉
ひとつひとつ言葉にするごとに、心臓が重くなる。
歩夢が小さく言った。
「……嫌だよ。京ちゃんにも、果林さんにも……何かあったなんて、考えたくない」
侑は強く頷いた。
「考えない。今はとにかく探そう!」
さらにせつ菜がきっぱりと言った。
「分かれましょう。連絡を取りつつ、会場内を探します」
「無茶はしないでね」
エマが優しく続ける。
「必ず見つけよう。京平も、果林も」
侑は歩夢と同じ方向を見つめる。
「うん……絶対に」
——不安だけが、静かに膨らんでいった。
来週の月曜日に会いましょう!感想も待ってます