まだ見ぬ世界へ   作:コアラのマーチ

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今回も、よろしくお願いします。


電話に出なかった理由

虹ヶ咲のメンバーが果林と京平を探すと話し合っていた時の数時間前

俺、川木京平は虹ヶ咲の控室とは別の場所にいた。

 

「川木さんに見てほしいものがあるんです」

 

そこにいたのは、藤黄学園の綾小路だった。

 

「わざわざ虹ヶ咲とは別の場所に呼び出して、何の用だ?」

 

「そんな人聞きの悪いこと言わないでください」

 

ぷいっと横を向いたまま、彼女は言葉を続ける。

 

「はっきり申し上げます、私たちを助けてほしいんです」

 

綾小路は話をつづけた

 

実は綾小路には虹ヶ咲に訪れた本当の理由があった。

 

「助けるって、一体何を——」

 

俺がそう言った瞬間、綾小路は首元を見せた。

 

「私の首に、爆弾があるんです」

 

そこには、首輪のような金属の装置がぴたりと巻きついていた。

 

——数日前。

 

綾小路姫野は部室で着替えをしていた。

そこへ元気な声が飛び込んできた。

 

「綾小路先輩! 今度はダイバーフェスに出るんですよね?」

 

後輩の小雪さんが嬉しそうに話しかけてくる。

 

「はい。私たちのほかに、近江遥さんがいる東雲学園も出ます」

 

「えっ、あの東雲学園が!」

 

「さらに近いうちにお願いしに行きますが、虹ヶ咲学園のみなさんにも出演していただきたいと考えています」

 

「ほんとですか!?」

 

やったー! と小雪さんは跳ねるように喜んだ。

 

「だったら、私たちも負けないように全力でパフォーマンスします!」

 

「頼もしいわ」

 

そう言って笑い合い、その後メンバーも集まってきた。

 

三時間ほど練習したころだった。

 

「そういえば、綾小路に荷物届いてたぞ」

 

先輩の門田さんが、私宛の荷物を持ってきた。

見た目はただのダンボール。けれど、頼んだ覚えはない。

 

「一体何を買ったんだ?」

 

「私も、買った記憶がありません」

 

そう言いながら箱を開ける。

 

「これは……?」

 

中に入っていたのは、ネックレスのようでいて分厚い機械のようなものだった。

 

「ファンからのプレゼントか?」

 

門田先輩が興味深そうに覗き込む。

 

「首に着けるもの……でしょうか?」

 

軽く首に近づけた——その瞬間。

 

金属が勝手に開き、私の首に巻きついた。

 

「え? な、なんですかこれは!」

 

慌てて外そうとするが、びくともしない。

 

「おい、ダンボールに紙が入ってるぞ」

 

門田先輩が一枚の紙を取り出した。

 

私は首元の冷たい感触に震えながら、それを見つめるしかなかった。

 

「……読んでいただけますか?」

 

自分で声に出す余裕はなかった。

 

門田先輩は紙を開き、眉をひそめる。

そして低い声で読み上げた。

 

「“その首輪は爆弾だ”」

 

「ば、爆弾!?」

 

部室の空気が一瞬で凍りつく。

 

門田先輩は続けた。

 

「“この度行われるダイバーフェスに虹ヶ咲を参加させろ。これが条件だ”」

 

心臓が嫌な音を立てる。

 

さらに文字は続いていた。

 

「“そしてこの爆弾はダイバーフェスで爆発させる、せいぜい、残りの人生を楽しむんだな”」

 

紙を持つ門田先輩の手が、はっきりと震えていた。

 

私は唇を噛みしめるしかなかった。

 

「これが、ことの始まりでした」

 

綾小路はそう言って、俺に一通り説明してくれた。

 

「急な展開になったなぁ……でも、どうして俺に?」

 

なぜ綾小路が俺を頼ってきたのか、正直不思議だった。

 

「近江遥さんがおっしゃっていたんです」

 

それは、果林さんと話した後のことだった。

 

――数時間前。

 

『なにか悩んでいるんですか?』

 

顔色の悪かった私に、遥さんが優しく声をかけてくれた。

 

『いえ。特にはありませんよ』

 

私は何もないふりをして答える。この爆弾のことは誰にも相談ができない

 

『……そうですか』

 

少しだけ考え込んでから、遥さんは口を開いた。

 

『もし、一人じゃ解決できないことなら――虹ヶ咲学園の川木京平さんを頼ってくださいね』

 

『なぜ、虹ヶ咲の川木さんを?』

 

思わず聞き返す。

 

遥さんは、少し照れたように笑った。

 

『あの人なら、なんでも解決してくれますよ。私にとっても義兄さんみたいな人ですから、安心してください』

 

 

 

「……と、遥さんがおっしゃっていましたので、川木さんに相談させていただきました」

 

綾小路は、俺をまっすぐに見つめて言った

 

「遥ちゃんも彼方さんみたいになってきたな。」

 

「一体、遥さんとの間になにがあるんですか……」

 

「それを今から説明してあげる」

 

俺は綾小路の話を聞き終えると、そのまま彼女の首元へ手を伸ばした。

 

「あ、あの? いったい何を——」

 

綾小路はきょとんとした顔で、俺を見上げる。

 

「何って、これを取るだけだよ」

 

そう言って、俺は首輪に軽く触れた。

 

——カチリ。

 

それは、嘘みたいにあっさりと外れた。

 

「え……?」

 

手の中に残った金属を見て、綾小路は瞬きを繰り返す。

 

あっけなく、終わってしまった。

 

——いえ。

 

(私の……爆弾が、取れた?)

 

理解が追いつかない。

 

ただ、首を締めつけていた重さが消えたことだけは、はっきりと分かった。

 

次の瞬間、綾小路の肩からすっと力が抜けた。

 

「……え」

 

彼女は自分の首元に手を当てる。

 

何度も、何度も触れて、ようやく事実を理解する。

 

「……ない……」

 

声が震えた。

 

そして——

 

「……よかった……」

 

ぽたり、と涙が落ちた。

 

堰が切れたみたいに、静かに、でも止めどなく溢れ始める。

 

「こわかった……っ、本当に……ずっと……」

 

今まで気丈に作っていた微笑みが、完全に崩れる。

 

「誰にも言えなくて……後輩たちにも、仲間にも……巻き込むわけにはいけないと思って……でも……死ぬのは……いやで……」

 

手で顔を追うように泣いていた

 

俺は何も言わず、そのまま爆弾を粉々にした

 

「……これで死ぬことはないから安心しろ」

 

綾小路は子どもみたいに、小さく首を振りながら泣いた。

 

「……っ……助かったのに……今さら泣くなんて……格好悪いですよね……」

 

「格好悪くない。誰だって死ぬのは怖いさ」

 

「え……?」

 

俺は少しだけ笑う。

 

「だれも命を失わないようにするために俺がいるんだ。だから命を張っていた綾小路はかっこいいよ」

 

「…………」

 

彼女は唇を噛み、俯きながらも小さく頷いた。

 

しばらくの間、会場のざわめきだけが聞こえる。

 

やがて綾小路は涙を拭き、静かに息を整えた。

 

顔を上げたとき、もう先ほどまでの怯えきった表情は消えていた。

 

「……ありがとうございます。川木さん、でも貴方は一体何者ですか?」

 

少し赤くなった目を見て、俺に質問してくる

 

「川木京平、ただの魔法使いさ、ヒール」

 

そういって、綾小路に目の赤いのを消す

 

「魔法使い…遥さんが言っていたことがわかりました。本当にありがとうございます。」

 

お礼を言いながら綾小路は立ち上がった

 

「このご恩は絶対に忘れません。」

 

「いいよ、気にすんな。ほらそろそろ出番じゃないのか?」

 

「はい!行ってきます。私のステージ見ててください」

 

俺は藤黄学園のテントに戻る綾小路を見送った

 

俺はそろそろ虹ヶ咲の所に帰らないといけないと思いながら、ポケットからスマホを取り出した。

 

画面を見て——固まる。

 

不在着信の嵐。

 

歩夢、侑、彼方さん、しずく……他のメンバーも合わせて、合計で百件近く来ていた。

 

「え? なにかあったのか?」

 

思わず、一番上に表示されていた侑に電話をかける。

 

ワンコールで繋がった。

 

『やっと、繋がった!!!!京平!! 今どこで何しているの!?』

 

「悪い悪い。ちょっとお仕事があって——」

 

『お仕事って、その辺の女の子をナンパしていたじゃないでしょうね??でもそんなことよりも果林さんが見つからないの!どこにいるか、一緒に探してくれる?』

 

「……ああ。分かった。探してみる」

 

ほんの一瞬で、胸のざわつきが戻る。

 

通話の向こうで、侑の声が少しだけ震えた。

 

『それとね——』

 

少し間を置いてから。

 

『なんで電話出なかったのかは、ちゃんと話してもらうからね!!』

 

電話越しでも、侑が怒っているのが分かる。

 

「……了解。あとで怒られに行くよ」

 

そう返し、通話を切った。

 

 

 

 




次回で果林さんは最終回です

次の更新は2週間後の更新になります。申し訳ありません
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