まだ見ぬ世界へ   作:コアラのマーチ

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本当にお待たせしました。いきなり日勤から夜勤が入ったりと仕事が忙しくて書けませんでした


迷子の年上お姉さん

侑との通話を切ったあと、俺は深く息を吐いた。

 

「……さて。どう説明するか」

 

そう呟きながら、軽く地面を蹴った。

次の瞬間、視界が一気に開けた。

風を切り裂き、空へと舞い上がる。

地上で探すより、上から見たほうが早い。

果林さんを見つけるためなら、これが一番効率がいい。

 

「どこにいる……」

 

上空から会場全体を見下ろす。

侑、歩夢、せつ菜が焦った様子で走り回っていた。

反対側では愛やエマさん、璃奈たちも手分けして探していた。

 

(あいつらが探してない場所……)

 

ステージでは遥たちのパフォーマンスが始まっていた。

音楽と歓声が混ざり合い、時間のなさを突きつけてくる。

 

(急がないとな)

 

そのとき——

 

「あ!! 京平見つけた!!」

 

下から侑の声が響いた。

 

「え!? どこに……って、空!?」

 

歩夢も気づく。

だが、俺はそちらを見ない。

 

「……悪いな、今はそれどころじゃない」

 

視線を切り、さらに探す。

——いた。ステージ裏。

迷わず一気に高度を落とす。

 

「歩夢! 京平の行った方に、たぶん果林さんいる!」

 

「うん、行こう!侑ちゃん!」

 

二人は全力で走り出した。

 

 

「こんなところで何してるんですか? 果林さん」

 

声に顔を上げると、そこにいたのは京平だった。

 

「……ビビってるだけよ」

 

椅子に座ったまま、空を見上げて答える。

 

「こんなでも緊張するの。私、女の子だから」

 

「果林さん——」

 

「おーい!京平ー!」

 

振り返ると、侑たちが駆けてきた。

 

「あ、果林さん!よかった……!」

 

侑が息を切らしながら駆け寄る。

 

「みんな来たのか」

 

京平の言葉に、侑はぎゅっと拳を握った。

 

「本当に!電話出ないんだから!!……それより、果林さん、大丈夫?」

 

「えぇ……大丈夫よ」

 

少し笑って、でもすぐに視線を落とす。

 

「さっきも京平に言ったけど……私、ビビってるの」

 

空気が一瞬で変わる。

 

「我ながら情けないわ。あんな偉そうなこと言っておいて」

 

声が、震えていた。

 

「……ごめんなさい」

 

顔を覆う。その弱さを、誰も否定しなかった。

 

「謝ることじゃないですよ」

 

静かに言ったのは京平だった。

 

「誰だって、一人で立つステージは怖い」

 

「そうですよ!」

 

せつ菜が一歩前に出る。

 

「ですが、それでも立つのがスクールアイドルです!」

 

「大丈夫だよ、果林ちゃん」

 

エマが優しく手を握る。

 

「なんで……そんな優しいのよ……」

 

涙がこぼれる。

 

「わかるでしょ?そんなの」

 

愛が笑う。果林は深く息を吸う。

 

そして——立ち上がる。

 

「……うん。大丈夫」

 

「果林先輩!かすみんとハイタッチしましょ!エネルギー分けてあげます!」

 

その一言で空気が一気に軽くなる。

かすみ、侑、歩夢、しずく、璃奈、愛、エマ、せつ菜、彼方——

一人ずつハイタッチ。そして最後に、京平の前で止まる。

 

「川木君……ううん、京平」

 

「私を見つけてくれて、ありがとう」

 

「それくらい余裕ですよ。地球の裏でも見つけます」

 

手を上げる。ハイタッチのはずだった。

 

「一番最初に見つけたあなたには——特別」

 

次の瞬間。

 

果林は京平に抱きついた。

 

「ちょ、果林さん!?」

 

ほんの数秒。静かに、確かめるように。そして離れる。

 

「エネルギー補給完了」

 

微笑む。

 

「行ってくるわ」

 

その背中は、もう迷っていなかった。

 

 

「そういえば、侑さっきの電話の内容って?」

 

「そうだ!忘れてた!!この会場、危ないかも!」

 

侑が今までの事を説明する。

 

「京平はどうする?」

 

少しだけ間が空く。

 

「……とりあえず」

 

俺はステージを見る。

 

「果林さんのステージ、見ようぜ」

 

「見るのはいいけど!何かあったらどうするの!?」

 

侑の声は必死だった。

 

俺は、迷わず答える。

 

「大丈夫だ」

 

 

 

「その時は——俺が守る」

 

――

 

ステージに光が灯る。

 

歓声が一気に押し寄せる中、朝香果林は一人、中央に立っていた。

さっきまで感じていた不安は、不思議と消えていた。

 

(大丈夫……私は一人じゃない)

 

胸の奥に残っている温もり。あの短い抱擁が、確かな支えになっていた。

 

(仲間だけどライバル。ライバルだけど仲間)

 

ステージ袖で見守ってくれる。仲間たち、それが虹ヶ咲スクールアイドル同好会

 

『VIVID WORLD』

 

 

「すごいよ。京平!果林さんがかっこいいよ!!」

 

「本当。すごいよな」

 

ステージ後方で見ていたのは侑と京平だ

 

『かっこいいじゃん!!』

 

『うん!初めてだけど好きになっちゃった』

 

そんな声が前方の席から聞こえてくる。

 

「よかった。無事に終わって」

 

そういった直後、ステージのマイクから大音量で声が聞こえた

 

『スクールアイドルの諸君!!お疲れ様』

 

労いの言葉かと思ったら違った

 

『これで永遠のお別れだ』

 

その言葉で観客席はざわざわと声を上げる

 

『ステージに爆弾を仕掛けてある。朝香果林。一歩でも動けば爆発する』

 

周りの空気が一瞬で凍りついた。

 

「……は?」

 

侑の声が震える。

観客席のざわめきは、次第に恐怖へと変わっていく。

 

ステージ中央。

 

朝香果林は、すでに最後のポーズを決めていた。

――歌い終わった直後だった。

 

歓声が上がりかけた、その瞬間に叩きつけられた“異常”

 

「……っ」

 

果林はそのままの姿勢で、わずかに息を整える。

その言葉が、遅れて理解として身体に落ちてくる。

 

(動いたら……爆発)

 

けれど——果林は、崩れなかった。

ゆっくりと視線だけを動かす。

ステージ袖ーそこにいるは侑と京平以外。

そして——京平は、ステージ後方にいた

一瞬、目が合う。

その目は、何も焦っていなかった。

 

(……あぁ)

 

果林は小さく息を吐く。

 

(流石マネージャーね)

 

ほんの少しだけ、口元が緩んだ。

 

その変化に、観客がざわつく。

 

「え……笑ってる?」

 

「なんで……?」

 

スピーカー越しの声が苛立つ。

 

『何がおかしい』

 

果林はマイクを握る。ゆっくりと口を開いた。

 

「ねえ」

 

その声は、驚くほど落ち着いていた。

 

「こういうの、趣味悪いわよ」

 

ざわめきが走る。

 

「せっかくいいステージだったのに、台無しじゃない」

 

完全に“恐れていない”声だった。

 

「果林さん……!」

 

侑が思わず叫ぶ。

 

犯人が声を荒げる。

 

『動くなと言っているだろう!!』

 

「動かないわよ」

 

即答。

 

「でも」

 

ほんの少しだけ間を置く。

 

「終わったステージで立ち尽くすほど、退屈じゃないの。それにーー」

 

その瞬間——京平が動いた。

風が足元に集まる。音もなく、姿が消える。

次の瞬間には、ステージ上——私の隣にいた

 

「爆弾ならすでに解除しているもの」

 

『は??』

 

スピーカーから漏れる驚きの声

 

観客席もどよめく

 

『なんで、その場所がわかった』

 

「なんでって、一応ステージの下くらい確認するだろ」

 

果林の隣にいた京平は笑いながら答える

 

『くそが!!』

 

そういってマイクが切れる

 

「追うか」

 

飛ぼうと足に風魔法を集める

 

「行くの?」

 

「あぁ。ちょっと行ってくる」

 

果林は止めなかった。これ以上被害を増やすわけにもいかない。だから、一言

 

「気を付けてね」

 

「わかった」

 

京平はステージから姿を消した。

 

 

 

 

「くそ!爆弾の位置がばれてるなんて聞いてないぞ……!」

 

犯人の男は、人気のない通路を走りながら舌打ちする。

 

「どこに行くんだ」

 

その声に、足が止まった。

 

目の前に——いつの間にか立っていた。

 

「なっ……なんでここに……!」

 

「飛んできた」

 

短く、それだけ。

京平の右腕には、赤く揺れる炎がまとわりついていた。

 

「少し答え合わせをしようか」

 

一歩、踏み出す。

逃げ場を塞ぐように。

 

「先日、藤黄学園に送った首輪型の爆弾。あれを仕掛けたのはお前だな」

 

「……あぁ」

 

男は吐き捨てる。

 

「俺はこのフェスを壊したかった」

 

「次に、お台場でトラックを突っ込ませたのも?」

 

「そうだよ。虹ヶ咲もつぶせばここに来ないだろう。だったらまとめて潰せばいいと思った」

 

歪んだ笑み。

その言葉を聞いて——京平の表情から、完全に感情が消えた。

 

「……くだらないな」

 

「は?」

 

「あまりにもくだらない」

 

一歩、距離を詰める。空気が張り詰める。

 

「そんな理由で、人を殺そうとしたのか」

 

男の顔が引きつる。

 

「うるさい……!俺はスクールアイドルが大嫌いなんだ。あんなにキラキラしているのが……」

 

京平は何も言わなかった。

 

「だから殺す!!あんな奴らにこのフェスは相応しくない!!だから殺す!!」

 

「……そうか、ならお前に教えてやる」

 

空気が変わる。

 

「お前が潰そうとしてるのはな」

 

視線が鋭くなる。

 

「“誰かの本気”だ」

 

声が低く落ちる。

 

「命をかけてる奴を、理由一つで踏みにじるな」

 

――次の瞬間、消える。

炎をまとった拳が振り抜かれる。

 

「お前の負けだ」

 

ゴッ——!!

 

鈍い音と共に、男の体が壁に叩きつけられた。

崩れ落ちる。

 

その直後——

遠くから警備員の足音が近づいてくる。

 

「いたぞ!!」

 

「確保しろ!」

 

京平はそれを一瞥するだけだった。

 

(……終わりだな)

 

「さて、戻るか」

 

京平はそのまま姿を消した

 

 

 

 

「おかえり、京ちゃん」

 

ステージ裏に戻ると、隣にいたのは歩夢だった

 

「ただいま」

 

お疲れ様と同時に京平に水を渡す

 

「聞いたよ。綾小路さんから」

 

歩夢はそのまま言葉を続ける。京平がステージからいなくなった後、綾小路が京平に助けてもらったと虹ヶ咲にみんなに説明した

 

「だから電話に出なかったんだね」

 

京平は何も言えなかった。別に言う必要もなかったから

 

「……私ね」

 

少しだけ俯く。

 

「京ちゃんが誰かを助けるの、嫌いじゃないよ」

 

でも——顔を上げる。

 

「でも、少しくらい……」

 

袖をぎゅっと掴む。

 

「私や侑ちゃんをもう少し見てほしいって思っちゃうの」

 

京平は歩夢の言葉を真剣に受け止めた。

 

「心配かけて悪かった」

 

その時打ちあがっていた花火を2人で見上げていた

 

 

 

 

 

その少し離れた場所。

ステージ袖で、朝香果林はその様子を見ていた。

 

「……はぁ」

 

小さく、息を吐く。胸の奥が、少しだけざわつく。

 

(なによ、あれ)

 

自然に視線が、京平に向く。

さっきまで、自分の隣にいた男。

命の危機を、まるで当たり前みたいに消していった男。

 

歩夢と話しているときの表情

柔らかくて——どこか優しい。

胸の奥が、きゅっと締まる。

 

(……あぁ)

 

そこで、やっと気づく。

さっき、自分が抱きついた理由。

あれは“エネルギー補給”なんて、綺麗なものじゃなかった。

 

(違うわね)

 

目を細める。

 

(あれ、普通に——安心しただけだわ)

 

命の恐怖から解放された瞬間。

一番近くにいたのが、あの男だった。

だから、自然と——

 

(……寄ったのよね)

 

少しだけ、自嘲気味に笑う。

でも、その笑みはすぐに消える。

代わりに残ったのは——

 

「……厄介ね」

 

ぽつりと呟く。

視線は、まだ京平のまま。

 

(強くて、無茶して、勝手で)

 

少しだけ唇を噛む。

 

(なのに——ちゃんと守る)

 

その瞬間、胸の奥がはっきりと揺れた。

ドクン、と。

 

「……あぁ、もう、エマの言うとおりになったじゃない」

 

手で顔を押さえる。

ほんの少しだけ、頬が熱い。

 

「こういうの、私得意じゃないのに……」

 

でも、、視線は、逸らさなかった。

 

(でも——嫌じゃない)

 

むしろ

 

「……ライバルは沢山いるけど」

 

小さく笑う。

それは、さっきまでの“強がりの笑み”じゃない。

ほんの少しだけ、素直になった笑みだった

そしてダイバーフェスは、幕を閉じていく。




早く栞子を出したい。
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