まだ見ぬ世界へ   作:コアラのマーチ

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私たち幼馴染の話

私の幼馴染、川木京平君は、小さい頃からずっと一緒だった。

出会いは幼稚園の頃。確か、京ちゃんは一人で遊んでいた気がする。

 

「わーい!」

 

「逃げろ~!」

 

自由時間、中庭では友達が元気に遊んでいた。

走り回る子、積み木で遊ぶ子。そんな中で——京ちゃんは木の後ろにいた。

 

「歩夢~」

 

手を振りながら近くに来たのは侑ちゃんだった。

 

「侑ちゃん!何して遊ぶ?」

 

「そうだな~。昨日は中でおままごとしたし、今日は外で鬼ごっこでもする?」

 

「いいよ!じゃあ私が鬼ね!」

 

「二人でやるの!?」

 

侑ちゃんは思いきり不満そうな声を出す。

 

「いいじゃん!侑ちゃんだけ追いかけたいし」

 

「それじゃつまらないよ!」

 

じだんだを踏む侑ちゃんに、私は何も言えなかった。

 

「あ!そこにいる男の子、誘おう!!」

 

侑ちゃんは木のそばにいた子を指さした。

 

「私、あの子知らないもん」

 

その男の子は木の枝を持って、じっとこちらを見ている。

知らない子と遊ぶなんて、少し怖かった。

 

「私も知らないよ?でもね、たぶんおうち一緒!」

 

「え?」

 

「廊下で見たことあるもん!」

 

侑ちゃんは自信満々に言う。

 

「たしか名前、きょうへい君だったかな?お母さんが挨拶してるの見た!」

 

「そうなんだ……」

 

私は知らなかった。隣に住んでいるのに。

 

「じゃあ誘ってみるね!」

 

おーい!と声をかけながら、侑ちゃんはきょうへい君のところへ走っていった。

 

「もう……私だけ見てればいいのに」

 

そんな気持ちが出てきたのは——まだ5歳の頃の話。

 

「遊べるって!」

 

侑ちゃんは、きょうへい君と手をつないで戻ってきた。

 

「鬼ごっこでいいの?」

 

私は、初めてきょうへい君に話しかけた。

 

「うん。だって、そうじゃないとこの子、手離してくれないし」

 

侑ちゃんに文句を言うのは、10年早いと思った。

 

「じゃあ鬼は……さっき言ってた通り歩夢?」

 

侑ちゃんは話を聞き流しながら決めてくる。

 

「うん、いいよ」

 

私は侑ちゃんしか追いかけないけど——そう思いながら、鬼ごっこが始まった。

 

しばらくして

 

「歩夢!私しか追いかけないじゃん!!きょうへい君も狙ってよ!」

 

「だって侑ちゃん、足遅いもん」

 

「いいよ。僕はついでみたいなものだし」

 

嫌々そうに言いながらも、ちゃんと遊んでくれるきょうへい君。

でも私は、一度も彼を狙わなかった。

 

「ちょっとトイレ行ってくる」

 

そう言って、きょうへい君は教室に入っていった。

姿が見えなくなると、侑ちゃんが私に向き直る。

 

「もう!歩夢!みんなで遊んでるんだからちゃんと狙ってよ!」

 

「そんなこと言っても、私きょうへい君のこと知らないもん」

 

「知らないって、私だって知らないよ!だから遊んで仲良くなろうとしてるのに!」

 

「侑ちゃんは……私だけでいいの」

 

その言葉を口にした瞬間——

 

「もういい!!」

 

侑ちゃんはそう言って走り去った。

 

「ちょっと、侑ちゃん!!」

 

私は慌てて追いかける。

 

「私は歩夢以外とも遊びたいの!」

 

そう言って侑ちゃんは走っていった。

 

「ちょっと、侑ちゃん!!」

 

慌てて追いかける。胸の奥がもやもやして、苦しくて、でも止まれなかった。

 

「待ってよ……!」

 

足元なんて見えていなかった。その瞬間——

 

「……っ!」

 

つまずいた。地面に手をつく——はずだった。

 

「危ない」

 

ぐいっと腕を引かれる感覚。

気づいたときには、私は転ばずに止まっていた。

 

「……え?」

 

顔を上げる。すぐ近くに、きょうへい君がいた。私の腕を掴んだまま、少しだけ眉をひそめている。

 

「ちゃんと前見なよ」

 

その声は、怒っているわけじゃないのに、少しだけぶっきらぼうで。

 

「……大丈夫?」

 

最後にそう聞いたときの声は、少しだけ優しかった。

 

「……う、うん」

 

なんとかそれだけ返す。掴まれていた腕が、ゆっくり離れる。

その瞬間、さっきまで感じていた温もりが消えて——なぜか、少しだけ寂しくなった。

 

(……なんで?)

 

自分でもわからない。さっきまで、侑ちゃんのことでいっぱいだったのに、なのに——目の前にいる、この男の子のことが、頭から離れない。

 

「……あの」

 

気づいたら、声が出ていた。

 

「ありがとう」

 

「……別に。さっき一緒に遊んだから」

 

きょうへい君はそれだけ言って、少しだけ視線をそらす。それ以上は何も言わない。

 

「……」

 

なぜか、もう一度見てしまう。

(この子……)

さっきまで「知らない子」だったはずなのに。

(……なんか、ちょっと)

胸の奥が、変な感じになる。ぎゅっとするような、でも痛いわけじゃない、不思議な感覚。

 

「歩夢ー!!」

 

遠くから侑ちゃんの声がした。

 

「……!」

 

はっとして振り返る。

 

「侑ちゃん……!」

 

走り出そうとして——ほんの一瞬だけ、立ち止まる。

 

「……また、遊ぼうね」

 

小さく呟いてから、私は侑ちゃんの方へ走った。

でも——さっきまでと同じじゃなかった。胸の中に、ひとつだけ。新しい“何か”が残っていたから。

 

 

 

しばらくして、三人で遊ぶのが当たり前になっていた。

 

「歩夢、遅い!」

 

「待ってよ、侑ちゃん……!」

 

少し転びそうになりながら走る。でも、侑ちゃんは振り返らない。

 

「先行ってるね!」

 

そう言って、きょうへい君と一緒に走っていった。

 

「……」

 

置いていかれた。足が止まる。さっきまで楽しかったのに、急に胸が重くなる。

 

「……なんで」

 

ぽつりとこぼれる。

 

「私、ちゃんと一緒に遊びたいだけなのに……」

 

気づいたら、目に涙がたまっていた。

 

「……っ」

 

こすっても、止まらない。

 

「なにしてんだよ」

 

前から声がした。

 

「きょうへい君……」

 

いつの間にか戻ってきていた。

 

「なんで泣いてんだよ」

 

「……泣いてないもん」

 

「泣いてるだろ」

 

少しむっとする。

 

「……侑ちゃん、先行っちゃったの」

 

「ふーん」

 

興味なさそうな返事。

 

「なんで戻ってきたの?」

 

「……別に」

 

少しだけ間が空く。

 

「お前が急にしゃがむからお腹痛いのかなって思って」

 

「……え?」

 

思わず顔を上げる。きょうへい君はそっぽを向いたまま。

 

「それに、どうせすぐ戻ってくるだろ、あいつ」

 

「……」

 

その言葉は、思ったよりも優しくて、胸の奥がじんわりする。

 

「……ありがと」

 

小さく言う。

 

「別に」

 

またそれ。

 

「きょうへい君ってさ」

 

「ん?」

 

「ちょっとだけ、優しいよね」

 

「は?」

 

少しだけ眉をひそめる。その顔が、なんだかおかしくて

 

「ふふ」

 

笑ってしまった。

 

「……なんだよ」

 

「ねえ」

 

少しだけ、近づく。

 

「京ちゃんって呼んでいい?」

 

「……は?」

 

予想通りの反応。でも、もう止まらなかった。

 

「きょうへい君って長いもん」

 

「いや、別にそのままでいいだろ」

 

「やだ!!京ちゃんがいい」

 

少しだけ間が空く。きょうへい君は、ほんの少しだけ考えて——

 

「……好きにしろよ」

 

ぶっきらぼうにそう言った。

 

「京ちゃん」

 

呼んでみる。

 

「……なんだよ」

 

ちゃんと返事が返ってきた。それが、嬉しくて。

 

「えへへ」

 

自然と笑っていた。

 

「歩夢ー!!」

 

遠くから侑ちゃんの声。

 

「もう!何してんのさ!京平はさっきまで私といたと思ったら急にいなくなるし」

 

「……ほら、来た」

 

京ちゃんが小さく呟く。

 

「ほんとだ」

 

さっきまでの寂しさは、もうなかった。でも——少しだけ。

 

(侑ちゃんだけじゃない)

 

そう思ってしまった。

 

(京ちゃんも、いる)

 

それが、なんだか嬉しかった。

 

 

 

 

その日は、いつもより少しだけ遅くまで遊んでいた。

 

「もう帰る準備だよ~!」

 

先生の声が園庭に響く。

 

「はーい!」と侑ちゃんが元気に返す。

 

三人で教室のほうへ向かう。

 

「今日も楽しかったね!」

「だな」

 

いつも通りの会話。でも——私は少しだけ後ろを歩いていた。

 

(……なんか、変な感じ)

 

前を歩く二人を見る。

侑ちゃんはいつも通り笑っている。

京ちゃんは、変わらない顔でそれに答えている。

 

(……私だけ、違う)

 

胸の奥が、少しだけもやっとする。

気づいたら、足が止まっていた。

二人との距離が、少し開く。

 

「何してんだ? お前」

 

京ちゃんが振り返って声をかけてくる。

 

「……あゆむ」

 

小さく、自分で口に出してみる。

 

「どうした?」

 

「歩夢!……私のこと、歩夢って呼んで!!」

 

自分でも驚くくらい、大きな声が出た。

 

「え?」

 

京ちゃんが目を丸くする。

でも、止まらなかった。

胸の中にあったものが、一気に溢れる。

 

「いつも“おい”とか“お前”とか……!」

 

ぎゅっと拳を握る。

 

「私はそんな名前じゃない!!」

 

声が震える。でも、止められない。

 

「私は……上原歩夢なの!!」

 

気づけば、目に涙がたまっていた。

 

「……だから、歩夢って呼んでよ……」

 

最後だけ、少し弱くなる。さっきまでの勢いが嘘みたいに、小さな声。

その場が静かになる。京ちゃんは少しだけ黙って——

 

「……わかった」

 

ぶっきらぼうにそう言ってから、

 

「歩夢」

 

まっすぐ、呼んだ。ちゃんと、名前で。

 

「……っ」

 

胸の奥が、一気に熱くなる。

さっきまでぐちゃぐちゃだった気持ちが、全部そこに集まる。

 

「……うん」

 

小さく頷く。

涙をこすりながら、でも少しだけ笑った。

京ちゃんはそれ以上何も言わなかった。

ただ、いつも通り前を向いて歩き出す。

でも——さっきまでと、同じじゃなかった。

 

(呼ばれた)

 

(ちゃんと……名前で)

 

胸の奥に、はっきりと残る。

これが何かはまだ分からない。

でも——

 

「……京ちゃん」

 

小さく呼ぶと、

 

「なんだよ」

 

ちゃんと返ってきた。

それだけで、少しだけ嬉しかった。

 

「ちょっと!歩夢だけずるい!!私も“侑ちゃん”って呼んでよ!!」

 

その間に侑ちゃんが割り込んでくる。

 

「なんでだよ。“侑”でいいだろ、侑で!」

 

 

これが私と京ちゃんとの出会いだった

 




過去編書きたくて書いてたら思わず進みました。
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