ポッケたちで異能力バトルロワイアル   作:ケンタ〜

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1話 バトルレース

 ウマ娘――――

 

 別世界の魂をその身に宿し、その宿命と共にこの世を生きる、女の子たち――

 

 彼女たちは、闘う(・・)ために生まれてきた――――

 

 今日も彼女たちは、闘い続ける――――

 

 瞳の先にある、闘争を求めて――

 

 

 

「ポッケー! 遅れるぞ、はやくしろー!」

 

 遠い向こうに、手を頭の上で大きく振る友達の姿が見える。

 

「はぁっ、はあっ、はあっ、わいいわいい! とひゅーでいうものにかあまれちまってよぉ、ちょっと――――」

「いや、全然聞こえねえから! はやく来ーい! 始まっちまうぞ、『弥生賞』!」

 

 ピクリ、と頬が動く。

 

 もぐもぐ、と口にくわえてある、唾液がしみ込んだ食パンの切れ端を咀嚼して、一気に飲み込んだ。

 

「ぅげっほげほっ!」

 

 踊る肺の空気に邪魔され、飲み込んだあとにせき込んでしまった。

 

 ――あぶねーあぶねー、吐き出しちまうところだった……。

 

「うおっ、大丈夫っスかポッケさん!?」

 

 視線の向こうに見える三人のうちのひとり、背が一番小さい『ウマ娘』、シマが心配そうに駆け寄ってくる。

 

 ひょっこり、とのぞき込むその顔が、視界に入って来た。

 

「大丈夫大丈夫、ちょっとせき込んだだけだって。そんな心配すんな。それより、行くぞ!」

 

 シマの手をぱちんと叩き、そのそばを走って通り過ぎていく。

 

「あっ、ポッケさん! ま、待ってー!」

 

 その勢いのまま、残りの二人の仲間のところへ突っ込んで行った。

 

「うわっ!? ポッケ!?」

「何やって!?」

 

 

 驚くメイとルー。

 

 その側を、加速したままに突っ切っていく。

 

「おーいお前ら、おいてくぞー!」

「あっ、遅れたくせに!」

 

 文句を言い、メイは一番先頭でポッケの後ろからついていく。

 

 その後ろからルー、シマがついて走って来た。

 

 四人の足音だけが、中山競馬場と駅を結ぶ地下連絡道に響き渡っている。

 その中でも、靴裏に蹄鉄を付けたポッケの足音が、ひときわ大きく響いていた。

 

 蹄鉄、それはウマ娘が『レース』をするときの、足の正装。

 ウマ娘の『レース』を支え、パワーそのものである脚の力を地面に伝える重要なパーツ。

 

 フリースタイルレース用のその蹄鉄は、地下遊歩道のタイルとかみ合い、ポッケの体をぐんと前に押し出した。

 

 すこし脚の速度を緩めると、後ろから文句を垂れながら仲間たちが追いついてくる。

 

 その瞬間、歩道の向こうから、大きな歓声がやってきた。

 

「うおっ、すげえ歓声! 流石フリースタイルのレースとは全然ちげぇな」

「なにやってんですかポッケさん、もうレース始まっちゃってますよ?」

 

 一番小さい仲間、シマが抗議の声を横から上げる。

 

「だからわりかったって。途中で例のやつらに絡まれちまってたんだよ」

「マジすかポッケさん!? で、そいつらどうしたんですか?」

「もちろんきっちり『レース』でぶっとばしてやったぜ」

「っくぅ~~! さすがポッケさん! もうフリースタイルでは敵なしっスね!」

 

 するとそのさらに横から、中くらいの背のおかっぱへアスタイルのウマ娘、ルーが口を挟んだ。

 

「そんなこと言ってる場合かよシマ! ポッケさんも、早く行かねぇとあっという間に『レース』終わっちまうぞ!」

「分かってるって! そんじゃ、全開で置いてっちまうぞ?」

 

 ズシッ、と脚に力を入れる。

 それだけで、三人の仲間たちをぶっちぎって、ポッケの体は前に跳んで行った。

 

「うわっ、やっぱ速え、ポッケさん……!」

 

 シマの声が後ろの方で小さく聞こえる。

 

 長い長い地下道。その両側の壁には、ウマ娘、その巨大な写真が一面にずらりと並んでいた。

 『有馬記念歴代優勝ウマ娘』、『皐月賞歴代優勝ウマ娘』。

 

 その勝利の瞬間の栄光が、走るポッケを横切っていく。

 

 そして、地下道が上り坂にさしかかる。光の差し込む地下道の出口、レース場の入り口はまさにすぐそこだった。

 

「ふっ!」

 

 脚に力を入れ、一気に坂を上りきる。

 

 ――――ワァアアアアアアーーーー!!

 

 地上に飛び出ると同時に、耳を震わす喧騒。

 

 目に差し込む太陽の光。

 

 そして――――

 

 今、自らのすぐ横を、一人のウマ娘の影がかすめた。

 

『――――強い強いフジキセキ! もう何人のウマ娘を抜いたかわかりません! 一気に飛び出たフジキセキ、すでに勝利へ指をかけています!』

 

「――――――――!!」

 

 その瞬間、ジャングルポケットは柵に飛びついた。

 

 身を乗り出し、そこに繰り広げられる光景を目にする。

 

「マジか……!」

 

 そこにいるのは10人のウマ娘。

 

 目の前の広い広いフィールド(馬場)の中で。

 

 彼女たちがぶつかり合っていた。

 

『フジキセキ強い強い! 二段式ロケットの名は伊達ではありません! これだけのウマ娘たちを相手にして、全くブレる様子がありません!』

 

 彼女たち(ウマ娘たち)が、闘っていた。

 

 集中狙いされているウマ娘、おそらくあれがフジキセキ。

 

 すでにフィールドにいるはずの半分以上のウマ娘たちが地に伏し、リタイアしていた。

 

 残りのウマ娘十人。そのうちの四人もが、フジキセキへと襲い掛かっている。

 

「ふっ!」

 

 一人のウマ娘が、正面切ってフジキセキへと拳を構え、襲い掛かっていく。

 

 パワー(・・・)が込められた、重い一撃。

 

 フジキセキは突き出した左手で受け止めた。

 

 

 ズバンッ!

 

 

「ッ……!」

 

 あんなに向こう側で戦ってるのに、ここまで音が……!

 

 どれだけ強烈な一撃だったのだろう。

 

 だが、受け止めたフジキセキは、その表情をひとつも変えることはしなかった。

 

 それどころか、拳を受け止めた逆の手で、相手の腕を捕まえていた。

 

「はぁっ!」

 

 ふわり、と拳を捕まえられたウマ娘の足が浮いた。

 

 フジキセキがその力で体を持ち上げたのだ。

 

「ふっ!」

 

 きゅっ、と脚の向きを変え、体を後ろへ向ける。

 

 そこには、拳を構えているほかのウマ娘が。

 

 腕を振ると同時、フジキセキは腕の拘束を解いた。

 

 風を切ってウマ娘の体が飛んでいく。

 

 

 ドゴォッ!

 

 

「ぐあぅっ!」

「がっ!」

 

 二人の体が折り重なり、地面をはねて行った。

 

「やべぇ……! なんだあの力……!」

 

 ぎゅっ、とジャングルポケットは柵を握り締めた。

 

 ウマ娘を地面からはがす。それ自体がそもそもどれだけ難しいかは、『レース』に生きるウマ娘ならば誰でもわかることだ。

 脚の力を命としているウマ娘の誰もが、地面から脚を離すことの危険性を理解している。だから『パワー』で地面に足裏をしっかと固定する。

 

 しかし、それを真正面からひっぺがえして、ブン投げるなんて……!

 

「くっ、うわああああ!」

「はああああ!」

 

 残りの二人のウマ娘。それが同時にフジキセキへと襲い掛かる。

 

 両側からの同時攻撃。

 

 ジャングルポケットはとっさに頭の中でその時すべき戦略を思い浮かべる。

 

 ウマ娘もしくはヒトの視界では、どちらかへ注目すればどちらかに対応できなくなる。

 だから離脱して隙を狙うか、片方へと自ら突っ込んで一方ずつ対処をするか。

 もしくは、『能力(スキル)』を使って薙ぎ倒すか。

 

「!?」

 

 しかし、フジキセキはまったく動く様子を見せなかった。

 

 おもわず柵を本気で握り締めてしまう。

 

 一体、どうすんだ……!?

 

「えっ!?」

 

 ウマ娘二人の攻撃が、フジキセキの体にそのまま直撃した。

 

 しかしポッケはそれに対して驚いたわけではなった。

 

 ――全く、うごかねぇ……!

 

 側頭部に拳、わき腹に脚を入れられたフジキセキの体は、文字通り、まったく微動だにせず、地に両足をつけていた。

 

 パワーか、それとも能力(スキル)のせいか――――

 

「ふっ――――」

 

 小さな息が吐かれる。

 

 フジキセキの手が閃いた。

 

「ぐぁっ!」

「ぐっ……!」

 

 離脱する間もなく、二人のウマ娘は地に伏した。

 

 フジキセキがその背を同時につかみ、地面に組み伏せていた。

 

「なんっ、だ……!?」

「おっ……もっ……」

 

 ミシミシと、ウマ娘二人は自分の体から発される嫌な音を自覚した。

 

「はぁっ!」

 

 手でつかんだまま、フジキセキは両腕を振る。

 

 二人のウマ娘の体が宙を舞い、フィールド(馬場)の彼方へと飛んで行った。

 

 ポッケは後方の巨大モニターに目を向けた。

 

 『リタイア』という文字とともに、フジキセキにやられた四人のウマ娘の姿が表示されている。

 

 ――――一人で、四人……!?

 

 いや、それだけではなかった。モニターの端に、『フジキセキ 六人抜き』と表示されている。

 

 ポッケはつばを飲み込んだ。

 

 十六人だてで行われる『レース』において、一人で六人を仕留める。

 

 いや、それよりも、今日の弥生賞はもっと少ない人数、十二人だてで行われていたはずだ。

 

 じゃあ……このフジキセキっつーウマ娘は、たった一人で過半数を……!!

 

「すげぇ……」

 

 ポッケはぶるりと震えた。

 

 しかしその口角は上がっている。

 

 その『レース』を見て、ポッケは笑っていた。

 

 今や観客の歓声には、ざわめきすら混じってきていた。

 

「おい、嘘だろ……いくら『能力(スキル)』持ちとはいえ……6人抜きだと……!?」

「こんな弥生賞は初めてだ……! じゃ、じゃあ、やっぱりラストは『能力(スキル)』持ち同士……!」

 

 始まって、まだたった五分も立っていない。

 

 そして、今現在まで、まだ誰とも戦いになっていない!

 

「『能力(スキル)』持ち同士……いったい、どんな……」

 

 その時、別の場所からざわめきが起こった。右の方だ。

 

(あれが能力(スキル)持ちか!)

 

 目を向けた瞬間、ポッケはそれを直感した。

 

『さあ、現在すでに残り人数はなんと四人! うち6人はたった一人にねじ伏せられ、残りの二人も、注目の『能力(スキル)』を使えるウマ娘につい先ほどやられました! 実況が追いつきませんっ! フジキセキ、そして、もうひとりの異能、『メルドゥノード』! この二人の闘いになりそうだッ!』

 

 メルドゥノード……。

 

 漆黒の髪に、欠けたダイヤ型の曲星が付いたウマ娘だった。

 

 とても落ち着いたような印象を受けるその立ち姿。彼女の左右には、二人のウマ娘が横たわっていた。

 

 二人抜き……フジキセキが規格外すぎるだけで、十分な実力を有しているという事は、それで十二分に伝わる。この中で、唯一フジキセキに肉薄することのできるのは、このウマ娘だけだろう。ポッケはそれを直感で悟る。

 

「ぜっ、はっ、ポッケさん、速すぎっスよ……!」

 

 今、残りの仲間三人がようやく追いついて来た。

 

 しかし、すでにポッケの心はそこにはない。

 

「うおっ、もう残り四人……!? クラシックなのに、どうなってんだ?」

 

 ルーがようやく現状を把握し、吃驚を上げる。

 

「うそだろ、6人抜き……?」

 

 普段は落ち着いているメイまでも、巨大スクリーンを見て驚愕しているようだった。

 

 そして、スクリーンの残り人数が、ついに『2人』となった。フジキセキとメルドゥノードが、それぞれ自らの戦績に1を付け足した。

 

 ついに二人。文字通り、一騎討ち。

 

「ってか、やばくね?」

 

 観客の誰かが声を上げる。

 

「能力持ちっていうけどさ……どっちもまだ、一回も使ってねえよな……?」

 

 それはつまり、今までの二人の力は、純然たるパワーによる蹂躙であることを意味する。

 

 『能力』というアドバンテージで戦っているわけではなく、確固たる『実力(パワー)』が備わっている証拠。

 

 フジキセキとメルドゥノードがモニターの中で、互いに近づいているようすが映し出されていた。

 

 急ぐ様子もなく、歩きながら互いの方へと向かっている。

 

 そしてついに、ポッケの視界でも、同時に二人を捉えられるところまで両者は近づいた。

 

「………!」

 

 さっきまでうるさくて仕方がなかった客席が、今や静かにざわめくのみになっていた。

 

(フジキセキ……メルドゥノード……)

 

 もはやすべての人々の視線が、そこに釘づけられて離せない。

 

 この二人のどちらかが勝てば、どちらかが優勝の座に立つ。

 

 二人が、ついにその脚を止めた。

 

 ポッケは、互いが互いの『間合い』の直前まで来たことを理解していた。

 

 ここから数秒後……どちらかが『間合い』を侵犯したその瞬間、勝負が始まる……。

 

「…………」

 

 今や会場は、まったく静まり返っていた。

 

(っ…………! フリースタイルとは、全然ちが――――――)

 

 ポッケが思考した瞬間、両者が同時に、前へとその脚を踏み込んだ。

 

「よろしく頼むよ、メルドゥノードさん。〚煌星(きらぼし)〛」

「はい、よろしくおねがいします、フジキセキさん〚北の海の赤(ルソー・ドゥ・ノード)

 

 瞬間、両者が自らの『能力』を開放した。

 

「――――!!」

 

 あふれんばかりの『パワー』が、その場で衝突するのを感じる。

 

 メルドゥノードの彼女の体を覆うように、燃え盛る炎が発生する。

 

 フジキセキ――彼女の周囲が、一瞬、宝石のようにきらめいた。

 

 これから始まる、能力のぶつかり合い――――

 

 赤い炎と黒い輝石が、ターフの上で交わった。

 

 

 

 

 

 

 

「――――すげぇレースだったなぁー!」

「ホントにアツいレースだったっスね!」

 

 夕日の暮れるレース場に、春先の涼しい風が吹いた。

 

 伸びをするルー。

 

 スマホをいじっているメイ。

 

 ルーに賛同してぴょんぴょん跳ねて嬉しそうにしているシマ。

 

 一筋の小さなつむじ風が、ジャングルポケットの頬を撫で、彼女のブロンドの髪の毛を揺らした。

 

『ご来場、まことにありがとうございました――――皆様のまたのご来場を、心よりお待ちしております――――』

 

 レース場に、アナウンサーの声が流れる。

 

 そこにはもうほとんどだれもいない。残りのちらほらと残っている人間たちは、もう足早に出口の方へと向かって歩いている。

 

 その中でジャングルポケットだけは、いまだフィールドのターフを眺めていた。

 

「……すげぇ……」

「「「お?」」」

 

 ぽつり、とジャングルポケットはつぶやく。

 それに、仲間三人が反応した。

 

「俺も……俺も、あんな『レース』がしてぇ……」

 

 彼女の柵を掴む手が、ふるふると震える。

 

 ばっ、とジャングルポケットは顔を上げた。

 

「決めたぜ!!」

「「「うおっ!?」」」

「俺は、これからトゥインクルシリーズに入る!」

 

「そんで、強い奴と闘って、『レース』して……それで!」

 

 その手に持つプリズムのネックレスを、ポッケは天へと向かって投げた。

 

 地を蹴り、それが飛ぶ方へと走って行く。

 

「なってやる……!」

 

 ひときわ強く地を蹴ったその体が、ぶわりと大きく宙に浮かび上がった。

 

「最強に……!!」

 

 

 パシッ!

 

 

 右手で、ポッケはそれを手にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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