商店街の出来事から、数か月後――――12月後半、日本国某所……
パーパパパッパパパーパッパパー……
URAファイナルズ・バトルロワイヤルのオリジナルファンファーレが鳴った。
ほかのどのレースでも聞くことのできない、このレースにおいてのみ使われるファンファーレだ。
URA専属の音楽団によって奏でられるファンファーレを生で耳にできるのは、そのさらに一部のみ。
URAファイナルズ・バトルロワイアル出走選手、彼女たち100と余名だけだ。
URAファイナルズ・バトルロワイアル、略してURAバトロワに出走する100余名のウマ娘たちが、バトロワフィールドの中央に位置する『ゲート』の前に、集結していた。
『今年も始まりました、URAファイナルズ・バトルロワイアル、縮めてURAバトロワ! 今回で第5回を迎える今大会、100名あまりのウマ娘たちが、続々とゲートの前に集まっています!』
どこからか、実況の興奮気味な声が聞こえる。
「っオイダンツ! 急げ、間に合わねぇぞ!」
「分かってるよ、でも寝坊したのはポッケちゃんでしょ!?」
そんな中、唯一その場に集まっていないウマ娘二人、ポッケとダンツが、階段を駆け上がっていた。
「すんませんっ、まだ間に合いますか!?」
階段を駆け上がった場所にある、受付場。
その机に、ポッケはポケットから取り出した、ぐちゃぐちゃな折り目の付いた『招待状』をバーンと突き付けた。
その横に、ダンツフレームもバーンと招待状を提出する。
「すみませんっ、わたしもお願いします!」
「あっ、は、はい。お二人とも、お名前と出走番号をお願いします……」
迫力に驚いてのけぞり気味になりながら、受付嬢(ウマ娘)がタブレットを取り出した。
ずずいっ、と二人は机に身を乗り出して名前を宣言する。
「ジャングルポケット、出走番号72番!」
「ダンツフレーム、出走番号81番ですっ!」
「はっ、はいっ!」
迫力に押されながら、受付嬢は素早い手つきでタブレットを操作する。
その後、二人の招待状を手に取り、後方にある小さな読み取り機のようなものに通してから、招待状を二人に返却した。
「出走受付が完了しました。受付は
「あざまーーーす!!」
「ありがとうございました!!」
受付嬢の話を最後まで聞かずに、招待状を受け取って二人は階段の方へと走って行った。
階段をすぐに駆け上がると、そこではすでに集まっていた100数人ものウマ娘が待機していた。
「はあっ、はあっ、はあっ……っぶねー間に合ったぁ……」
「はあ、はあ……なんでまだ始まってないのに、こんな疲れなきゃダメなの……」
ふたりとも膝に手を当てて、息を整える。
その二人を見て、クスクスと笑うウマ娘たち。
「もうっ、笑われちゃってるじゃんポッケちゃん……!」
「だからわりぃって言っただろ……!」
息を整え、二人は背筋を伸ばし、周りへと目を向ける。
「で、ここがゲート広場ってヤツか……」
ウマ娘たちがひしめき合うこの空間は、円柱の塔の中のような場所だった。
ここへ来るまでの道のりは、大会の会場外部からの地下道だったため、実際のこの空間を外から見たときの形状はわからない。
その円筒の壁はガラス張りになっており、そこから外の様子がうかがい知れた。
その外の様子、というのは……この大会における、フィールドそのもののことだった。外、というか、大会会場内部、という事になる。
ガラスの側に近づき、フィールドの様子をポッケたちは見てみることにする。
「うわっ、すっげ!」
ポッケは思わず声を上げた。
そこには、眼下に一面の巨大な草原が広がっていた。
奥の方には雑木林のようなものもあるだろうか。どれだけ広いのか想像もつかない。左右に目を向けると、フィールドの端が見えないくらいだった。
「すごい……! ここで闘うんだね、ポッケちゃん!」
「ああ……! トゥインクルシリーズの規模とは比べ物にならねぇ、これがバトロワのデカさか……!」
すると、トントン、とポッケの肩が指で小突かれた。
振り返ると、そこには見慣れた顔が。
ポッケは満面の笑みを浮かべ、その名を呼ぶ。
「フジさーーーーーーーーーーーん!!」
「あ、フ、フジキセキさん……!」
「やあ、ポッケ、ダンツ」
フジさんの両手を取って喜ぶポッケと、遠慮がちに名前を呼ぶダンツに、フジキセキは笑顔で挨拶をした。
その身には、胸元が大胆に開いたスーツの体裁をとった勝負服を纏っている。
「フジさん、フジさん! こんなトコで出会えるなんて、思ってなかったっスよ!」
「まあ、せいぜい100数名だからね。そのなかから声の大きいポニーちゃんを探すくらいは、訳のないことだよ」
「すっげぇ、フジさん、勝負服かっけぇーーーーーー!!」
聞いてなかった。
「まあ、とりあえず、ふたりとも、初出走おめでとう」
「ありがとうございますっ! フジさんも、『招待枠』の出走おめでとうございますっ!」
フジキセキの手をブンブン振り回しながら、ポッケはテンション爆上げで言った。
「ああ。そんな君たちに、すこし教えてあげようと思ってね。とりあえず手を止めてくれるかい?」
「はいっ!」
ポッケがブンブン振っている手を止めて離すと、フジキセキは自分の手をスリスリしながら、説明を始めた。
「URAバトロワのフィールドが4つに分かれているのは知っているよね? それで、ここが
そこから目を離し、今度は逆側の窓を指さす。
ここからでも、その景色はじゅうぶんに見ることができる。
「ここから見える、あの砂漠と土がある場所。あそこは
今度は、右側の場所を指さす。
すると、ポッケが思わず声を上げた。
「うわ……! なんだありゃ……実物初めて見た……!」
「すごい……」
それに続いてダンツも驚く。
そこには、まるで都会のようなビルや建物が立ち並ぶ、ひとつの街のようなフィールドが広がっていた。
「あれこそこのバトロワの目玉かな。都市フィールドだ。ひとつの街が、まるまる、そのまま再現されている。地形勝負、待ち伏せ戦略、機動バトル、なんでも自由自在に行える場所だ。そして、平地レースのウマ娘たちにとっては、かなりレベルが高い場所だ。バトロワの玄人が集まる上級者向けのフィールドでもある」
「なるほど……つええヤツが集まる場所ってことか……」
「ちょっと怖い場所だね……」
「驚くのはまだ早いよ、二人とも。それで、最後。あそこを見てごらん」
右側と反対側、左側のフィールドを、フジキセキは指さした。
「「!?」」
「毎回、ランダムな地形となるバトロワの『特殊フィールド』。今回は、わたしもさすがに驚いたよ。なんせ……山、なんだからね」
山脈……そうとしか形容のできない。
連なる高い山々の景色。そびえたつ岩肌。
というか、高いところにあるはずのこの場所よりも、頂が高い場所にある山がいくつもあった。
それが、ガラスの一面に広がっていた。
「ま、マジか……こんなん、マジで一体どうやって作ってんだ……?」
「あ、あんなところで、一体どうやって闘うの……?」
「基本的には、立ち入らないことをお勧めするよ。特殊な地形であることに加えて、それだけ適応できる上位陣があそこには集まってくるんだ。都市フィールド以上の激戦区になる。バトロワ初心者である以上は、早々から立ち入ることはお勧めしないよ、二人とも。一応言っておくけど、蛮勇と勇気は違うからね」
「すっげぇ……これがバトロワか……!」
ポッケは目を輝かせ、拳をぐっと握った。
「え、ぽっけちゃん? お話聞いてた? 危ないんだよ?」
「ん? おお、ああ。危ないんだろ? もちろんわかってるぜ」
その時、どこからともなく、放送が聞こえた。
『URAバトロワの参加者が全員終結したことを確認いたしました。まもなく
「おお……!」
ポッケだけでなく、この広場全体がざわつき始めた。
そして同時に、空気がピリつき始めるのを感じる。
『
「離れて、ふたりとも」
言われた通りに、二人は距離を取った。
とたんに地面が揺れ始め、再び広場がざわつき始める。
そしてどこからともなく、窓や壁のあらゆるところに、巨大な
それはトゥインクルシリーズにつかわれる
そしてそのどれもが、虹色の扉で閉じられている。
それは立ちどころに、広場の壁や窓のあらゆる場所に出現を始めた。
「す、すげぇ……どうなってんだ?」
ポッケは思わず驚きの声を上げる。
「まったく運営も大したものだよね。いったいいくらの能力持ちを雇っているんだか……」
そういうフジキセキも、頬から汗をたらしているように見えた。
『
「だそうだ。君たちも自分のものを選ぶといいよ。場所は毎回ランダムだからね」
フジキセキはそういって、出場者たちに目を向ける。
「あと数分もすれば、ここで平和にしているウマ娘たちがぶつかり合い、闘いあう。今年も粒ぞろいが集まっているね……。推薦枠はもう見たかい?」
「いや、今年は見てないっす」
「え、見てないのポッケちゃん? 大丈夫なの?」
ダンツがポッケの顔を覗き込む。
「だってよ、闘う相手が分かってちゃつまんねぇだろ?」
フジキセキは笑みを浮かべた。
「はっはっは、ポッケらしいね。わたしは今年も発表の時の支配者だったから、いやでも知らされるんだけど」
「えっ、今年もフジさんだったんすか!? あ~、俺も見ときゃよかったかな~~~~~」
「あ、見てポッケちゃん! もうゲート開きそうだよ!」
ダンツの指さす方向に、ポッケは目を向けた。
大きなゲートの扉が、低い音を立てて、少しずつ開こうとしている。
「――――じゃあ、二人とはここでお別れだね」
「ハイ! フジさんも、頑張ってください!」
「応援してます、フジキセキさん……!」
二人に向かってひらひらと手を振って、フジキセキは他の開きつつあるゲートへと向かった。
「っし、じゃ、俺たちも行くか……。どのゲートがいい、ダンツ?」
「どのゲートでもあんまり変わらないと思うけど……。ランダムって話だったよね?」
「ああ。んじゃ、アレとか……」
適当なゲートを選び、二人はその前に立った。
周りを見てみれば、現れているゲートは合計で18つ。
100人だとすれば、ひとつのゲートで5人と少しくらいの人しか集まらない。
二人の近くには、ほかにも3人ほどの参加者が一緒に立っていた。
これから、この人たちと闘う事になる……。
ダンツフレームは心の中で実感がわき始めるのを感じた。
トゥインクルシリーズと違って、地形無用、ルール無用の乱闘になる。
ぎゅ、と彼女は自分の服の裾を掴んだ。
「緊張してるの?」
「!?」
びくり、とダンツは跳びあがった。
誰か、知らないウマ娘に話しかけられた。
「あ? なんだお前?」
ダンツとそのウマ娘の間にポッケは割り込むように入る。
「ああ、そんなに警戒しないでよ。わたしの名前はサーティバスキン。知らない? 一応、推薦出走者なんだけど」
ポッケは目つきを悪くして、サーティバスキンと名乗るウマ娘をにらみつける。
黒い軍服のような勝負服を身にまとった背の高いウマ娘だった。髪は青毛。
その表情にはニコニコとした笑顔を浮かべている。
「ああ、トレセン学園じゃなくて、一応卒業生の、今はプロ転向したウマ娘なんだけど」
「しらねーよ。俺は今年の推薦出走枠確認してねーんだ。それに、バトロワでやらしい顔して近づいてくるやつにノコノコついてくほど心の余裕ねーんだよこっちは」
「これは手厳しいなぁ。初出走なら、それも仕方ないか、ジャングルポケットさん?」
「あ? なんで俺の名前知って……」
「だって、今年の推薦出走枠だったじゃん。知ってるよ、ジャングルポケットさんと、ダンツフレームさん」
「だから……」
なおもかみつこうとするポッケの方を、ダンツフレームがぽんぽんと叩いた。
「ん? なんだよダンツ?」
「ちょっとくらい話聞こうよ、ね? それに、わたしたち、初出走だし……」
「わたしもそうした方が良いよ思うよ、仲間は多い方がいい。それに、少しぐらい、心の余裕を持った方がいいんじゃないかな?」
「あ!? てめ……」
「ぽ、ポッケちゃん! ね? ちょっとくらいいいじゃん」
「……」
鼻から息をついて、ポッケは顔を上げた。
「わぁったよ。で、てめぇ、サーティワンとか言ったか?」
「ふふ、サーティバスキンだよ。この大会には出場して長くなる。いろいろと教えてあげられることもあると思うよ。それに、運がよかったね。ここは、ある特定の場所にだけ出る枠だよ」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。
「信用できねーな……。証拠がねぇ」
「勘ぐりぶかいなぁ、善意で話してるのにさ」
ポッケは耳をぴこぴこと左右に動かした。
「……わーったよ。てめーらも一緒に通るんなら、覚悟はできてんだよな?」
「もちろんだよ。それに私はプロだからね。というか、別に君たちが望むのなら、同盟でも組んで闘ってもいいんだよ」
「それ以上喋んない方が良いぜ。信頼できなくなる――――――」
再び放送の音声が鳴りはじめる。
『まもなく出走時刻です。秒読みを始めます。10、9、8、7……』
「ほら、もう始まるよ」
ポッケとダンツとサーティバスキンは横並びで扉の前に立った。
『4、3、2、1……出走です!!』
宣言と同時、ゲートへと脚を踏み入れた。
瞬間、浮遊感を感じる。
「は?」
内臓が軽くなる感覚。そして、眼下には、遠くにある草原の地面。
「ええええええええええええええ!?」
「ぽっけちゃああああああああああああああああああああん!?」
(
耳を動かして、敵の場所を把握する――――
までもなく、耳に声が飛び込んできた。
「あーあー、言い忘れてた! 空中に出るんだよ、このゲート! ごめーーーん!」
(くっそ! 空中じゃ体もうまくひねれねぇ! ってか、ほかにもいた二人は仲間か! やべえ、やられる……)
二人のウマ娘が、自分の方へと飛んでくるような音が聞こえてきた。
飛行能力持ち。空中で身を守れない自分たちには相性最悪だ。
「ダンツ! 防御しろ!」
「う、うん!」
体に『パワー』をみなぎらせ、敵の攻撃に備える。
だんだんと、仲間の二人が近づいてくる。
(っそうだ! フジさんに教えてもらった空中での体のひねり方……っ!)
突如思いだしたそれを実践し、体をくの字に曲げて、上半身と下半身を回して後ろを向く。
そして目にしたのは、サーティバスキンが二人のウマ娘の拳を受け止めている光景だった。
「あっ!?」
ポッケは思わず声を上げる。
「ごめーん、ホントにごめん! ぐえっ!」
「うわっ!」
二人のウマ娘の攻撃に弾き飛ばされ、サーティバスキンはポッケの腕の中におさまった。
「てめ、裏切ったんじゃ」
「ちょっとジャングルポケットさん、もうすぐ着地、気を付けて!」
「! ダンツ、教えてもらったやつ!」
「うん!」
ジャングルポケットの体がバスキンの能力によって減速する。
ドドドッドドッ!
「よしっ!」
一人地面へと落下したダンツフレームは、器用に
そのすぐそばに、バスキンとポッケがふわりと着地する。
「大丈夫、ふたりとも!」
ポッケから離れ、バスキンが焦った顔で声を上げる。
「だ、大丈夫です、バスキンさん!」
ダンツが返事し、ポッケは頭を後ろを掻きながら返事をした。
「……わり、騙されてたかと思ったぜ、サーティワン……だっけ」
「サーティバスキン! それより気を付けて、上からくるよ! 飛行能力持ちが!」
「ポッケちゃん!」
ダンツがポッケを呼ぶ。
「ああ、分かってる! ふたりとも、耳ふさいどけ――――!」
言われた通りに、ダンツは耳をふさぐ。バスキンも困惑したが、同じように耳をふさいだ。
そして、ポッケは体中にパワーをみなぎらせる。
「すぅ――――――――」
ゆっくり、大きくと息をする。
次の瞬間、膨れた肺と腹が、一気に縮んだ。
「――――――おおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
「「!!」」
ダンツとバスキンは顔をしかめた。
ビリビリと、全身が震えるかのような衝撃が襲い来る。
次の瞬間、どさ、どさり、とすぐ近くに、二人のウマ娘が落下してきた。
「っしゃ、やりぃ!」
「…………!」
バスキンは目を見開き、地面に倒れ込んだウマ娘たちを目にした。
次の瞬間、ウマ娘の姿たちが掻き消える。脱落判定となり、運営の能力で移動させられたのだ。
「じゃ、ジャングルポケットさん……! す、すごい……」
「へへっ、だろ? げほっ、ちょっと喉いてぇけど……」
すこしせき込みながらも、ポッケはにかっと笑った。
そのポッケに、ダンツは抱き着いた。
「すごい、ポッケちゃん! 早速二人も倒したね!」
その二人を見ながら、バスキンは苦笑した。
(あの二人は私がマークしていた常連参加者だ……。一人で撃退できるか不安だったから、この二人に声をかけたけど……すごい
心強く思うと同時に、バスキンは武者震いをした。
捕捉設定コーナー
サーティバスキン
ふたりをだましてやられる役になる予定でしたが、それだと自分が参考にしている大好きなとある作品まんまになるうえ、せっかく自分が作ったウマ娘のキャラクターを悪いキャラにするのもなんだったので、気分で味方キャラになりました。
今後はオリジナルウマ娘が一緒の物語になりますがご了承ください。
それともしその『某作品』を知っている人がいてこれを読んでいて、既視感を覚えたら、たぶん正解ですのでこの小説をほっといてそっちの作品を読みに行ってください。そしてその人の作品をほめたたえてください。
サーティバスキンの名前はサーティワンアイスからです。
『サーティ』ワン・『バスキン』ロビンス
からとりました。