ポッケたちで異能力バトルロワイアル   作:ケンタ〜

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7話 ジャングルポケットVSシンボリクリスエス

 高層ビルの屋上の目の前に降り立ったジャングルポケットの前のウマ娘。

 

 青毛の髪と尾、焼けた小麦色の肌、目が覚めるような蒼穹色の瞳。

 

 ジャングルポケットは、この時初めて相手の姿を目にする。

 

 そして、ジャングルポケットはその名を知っていた。

 

 初参加のウマ娘ではない。

 

 それどころか、前年度に、ポッケの記憶に残るほどの活躍をしたウマ娘。

 

 前年度三位、シンボリクリスエス。

 

 前年度優勝のシンボリルドルフの遠縁のシンボリ家のウマ娘で、シンボリ家を象徴する深い緑色の勝負服を身にまとっている。

 

 そしてその瞳は、それと相反するような鮮やかな青色をしていた。

 

 ポッケは不敵に笑みを浮かべ、言葉を放つ。

 

「ずいぶんと余裕そうじゃねぇか。三対一だぜ? 逃げも隠れもしねぇのか?」

「…………」

 

 シンボリクリスエスは、何も口にせず。

 その蒼穹の目が、油断なくポッケを見つめていた。

 

(相手は格上……オマケに、どんな能力を持ってんのかもまだよくわかんねぇ……)

 

 ポッケもシンボリクリスへ視線を送る。

 その間、体の中からパワーを捻出し、いつでも動けるようにしておく。

 それはレースウマ娘としての基本だ。

 

「……私は、逃げも隠れもしない」

 

 シンボリクリスエスは口を開いた。

 

「私は、正々堂々と、勝負を、しよう」

「よく言うぜ。遠距離から狙撃しやがってよ。おかげでこっちはひとりダウンしてんだ。何が正々堂々と、だ?」

「……?」

 

 かすかに、シンボリクリスエスは首を傾げた。

 

「遠距離から狙撃……それは、正々堂々ではなくなるのか?」

「あ? 何言ってんだオマエ」

 

 クリスエスの言葉が、いまいち要領を得ない。

 

「おまえは、相手の攻撃する意思を、察知することができると、ルドルフから聞いた」

「!」

 

(こいつ、やっぱ会長と知り合いか)

 

「あの距離の狙撃では……察知ができなかったのか?」

 

 心底驚いた、と言うふうに、クリスエスはわずかに目を見開いた。

 

「てめぇ…………」

 

 自らの体にとどめておいたパワーをポッケは解き放つ。

 

 その途端、シンボリクリスエスは、手にしていたスナイパーライフルをポッケへと向けた。

 

 互いに臨戦態勢から戦闘へと移る瞬間だった。

 

 迷いのない動きでポッケの胴体をめがけ、クリスエスは銃爪を引き放つ。

 

 音速の何倍にも加速された銃弾が銃口から飛び出し、ジャングルポケットの命を狙う。

 

 その数瞬前、ジャングルポケットはすでにシンボリクリスエスの懐に飛び込んでいた。

 

「お会いできて光栄だぜ、前年度準準王者――――!」

 

 パワーで強化した拳をシンボリクリスエスの腹へと打ち込んだ。

 

「――――――!」

 

 衝撃――――クリスエスの体が吹き飛び、屋上のフェンスを直撃する。

 

 クリスエスの体は変形したフェンスの上を通り抜け、ずるり、と地面へと落下した。

 

(気絶はしてねぇ――――誘ってやがる。いいぜ、ノッてやるよ!)

 

 数歩、地面を蹴り加速して、ジャングルポケットはフェンスを飛び越え空中へ躍り出た。

 

(キィーン!)

 

 突き刺すように耳鳴りがする。

 

 ポッケはとっさに首を横に曲げ、頭を位置を変える。

 

 空気を鋭く切る音と、頬に走る小さな痛み。

 

「今のを避けるか」

 

 背を地面へと向け落下するクリスエスの銃口が、ジャングルポケットを向いていた。

 

 このビルの高度はせいぜい六十数メートル。ほんの数秒で地面へと到達する。

 

(フジさんと何回かやった落下中の戦闘トレーニングの勘からだと――――あと一秒ちょっとってとこか)

 

 何かと落下に縁のある大会だ――――

 

 そう思い、落下の衝撃に意識を向けたとたん、腹に鋭い痛みが走った。

 

「がふっ」

 

 意思と反した声が口の中から飛び出る。

 

 それと同時、耳をつんざく轟音。

 

 視界の端には、空中を漂う赤く鈍い色の血が舞っていた。

 

「二発、装填できんのかよ……!」

 

 その声と共に、ジャングルポケットは着地した。

 

 ずきり、と激しい痛みが腹の奥を駆け巡る。

 

 銃の反動で態勢を整えて一足先に着地したシンボリクリスエスは、数メートル先の離れた場所で、ジャングルポケットを見据えていた。

 

「くそっ……!」

 

 悪態をつき、飛ぶように立ち上がる。

 

「一度うつごとにreloadしなければならないとは、私は一言も言っていない」

 

 変わらない声の調子とトーンで、シンボリクリスエスは粛然と告げた。

 

(さっき一発ごとにリロードしてたのは、ブラフか、それか能力の性質かなんかか……?)

 

 あの遠距離で二発撃てたのならば、そうしなかった理由がない。遠くでの射撃のほうが、今のように接近するよりもはるかに簡単にポッケたちを戦闘不能にさせることができる。であれば、後者の可能性の方が高い。

 それかもしくは、近接戦闘により自信を持っているか、あるいはほかの手札を隠し持っているか……だ。

 

「まだ闘えるようだな。では、続きをしよう」

 

 がちゃり、と銃がむけられた。

 

 その銃は、先ほどまで手にしていたスナイパーライフルとは異なった形をしていた。

 

(銃の入れ替え!)

 

 銃爪が引かれた。

 

 短機関銃へと変化した銃の銃口から、絶え間なく弾丸の嵐が放たれる。

 

 ポッケはとっさに地面を蹴って離脱しビルの方へと走った、

 

 遮蔽物に隠れなければ――だが、クリスエスの射線が上がる方が速い。

 

 銃弾がポッケの背中に直撃し、体が吹き飛ばされる。

 

 ガシャアアアンと音を立てて、ポッケの体がガラスを突き破り、ビルの中へとつっこんだ。

 

 クリスエスは命中したことを確認すると、即座に走り出し、ビルの中へと入る。

 

 しかしそこに、確認しようとしていたジャングルポケットの姿はなかった。

 

(いない……それともすでに脱落した?)

 

 考えた途端、背後から気配を感じる。

 

 銃を盾にしながら振り返った途端、鈍い音とともに胸を衝撃が襲った。

 

 それと同時にクリスエスは地面を蹴り、衝撃を受け流しながら、後方へと着地した。

 

「クソッ」

 

 そう毒づくのは、明らかにジャングルポケットの声だった。

 

 口の端から血が垂れているが、彼女はそれを拭って、体にパワーをみなぎらせる。

 

(パワーで背をガードしたあと、天井か何かに掴まって、姿を隠したのか)

 

 クリスエスは冷静に分析して、チラリと銃に目を向け、確認をした。

 

 機関銃は中程あたりからひどく折れ曲がって変形していた。

 これではとても弾丸を放つことなどできない。

 

(食らっていれば危なかった)

 

 クリスエスは能力を行使し、銃を小銃に入れ替えた。

 

 そしてそれはポッケも認識していた。

 

(やっぱ能力は銃の入れ替え……今度は何だ……? クソッ、もっと銃について勉強しときゃよかった)

 

 悪態をつきながら、ポッケは背中の激しい痛みに耐える。

 

(痛え……パワーでガードしたけど、流石にマジモンの銃……)

 

 このバトロワには武器の使用制限はない。核爆弾などのひどく極端なものでなければ、ほとんどの武器は使用可能だ。

 それに、今クリスエスが使っているものはおそらく能力による武器。この場合は、そもそも規制の対象に入っていない。

 

 ポッケの背の服は大部分が吹き飛び、そこにひどい裂傷ができていた。

 

 カチャリ、とクリスエスが小銃をポッケの方へ向ける。

 

 それを感知して、瞬時にポッケは地を蹴り、ビルの柱へ身を隠した。

 

 ダダダダダ、と小銃の爆ぜる音がして、柱へいくつもの弾倉を残す。

 

 それをみとめると、クリスエスは位置を変え、柱に隠れているポッケを狙い撃とうとした。

 

 クリスエスがポッケの姿を目に捉えた途端、ポッケは喉にパワーをみなぎらせる。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 ビリビリとクリスエスの大きな耳を轟音が貫いた。

 

 ポッケは瞬時に地面を蹴る。

 

 突き出した拳が、クリスエスの顔面を捉え、大きく吹き飛ばした。

 

 クリスエスの体が柱へと叩きつけられ、鈍い音が生じる。

 

 その時すでにポッケは再び地面を蹴り、クリスエスの腹部へと狙いを定めていた。

 

「オラァ!!」

 

 繰り出されるロケットキックがビルの柱ごとクリスエスを向こう側に吹き飛ばす。

 

 クリスエスの口から鈍い色の血が飛び出した。

 

 地に落ちる直前に受け身を取り、地面を転がりすぐに立ち上がり、同時に銃口をポッケへ向ける。

 

 しかしやはりそこにもポッケの姿はなかった。

 

 顔に強烈な痛みを覚える。

 

(速――――)

 

 蹴り飛ばされたクリスエスの体が今度は受け身を取る暇もなく地面に叩きつけられた。

 

(銃では間に合わない――――)

 

 そう判断し、クリスエスは手にしていた銃を消失させる。

 そこへ割いていた分のパワーと根性のエネルギーを全身に回し、どこから来るかわからないポッケの攻撃に備える。

 

 強化された五感により次の瞬間の攻撃の気配を察知したクリスエスは、胸の前で腕を交差させた。

 

 予測通り、そこへ強烈な衝撃が遅い来る。

 

(防御でき――――!?)

 

 その瞬間、クリスエスは自分が今どこにいるのかわからなくなった。

 

 次の瞬間、自らの後ろ半身がなにか硬いものに受け止められ、痛みが走る。

 

 そしてすぐに状況を理解した。

 

(わたしは今向かいのビルのロビーまで吹き飛ばされている)

 

 自分の背を熱く迎えてくれたのは、そのロビーの柱だった。クリスエスの体はそこにめり込んでいる。

 

「がっ……」

 

 損傷した内臓からの血がせり上がり、そのいくらかが地面に滴る。

 

 即座に内蔵の損傷部位を特定してパワーと根性のエネルギーで応急処置し、クリスエスは立ち上がった。

 

(ジャングルポケット……)

 

 向こうのビルの方から、ゆっくりと歩いてくるジャングルポケットの姿。

 

 明らかに様子が違った。

 

(立ち上るパワーの総量が膨れ上がっている)

 

 何かの能力(スキル)によるものだろう、とクリスエスは結論づける。

 

 彼女(ポッケ)は今ようやく、能力を使い始めた。

 

(特定しなければ)

 

 全身にエネルギーをみなぎらせて、クリスエスは冷静に、やってくるポッケを注視した。

 

「強えな、テメー」

「!」

 

 ジャングルポケットが口にする。

 

「ひっさびさだぜ……こんな強えやつと戦うのは……」

 

 その言葉には、笑い声が混じっていた。

 

 ポッケが顔を上げ、クリスエスの目を見据える。

 その目は、まるで燃え上がるかのように、パワーで満ちていた。

 

「だから、こっからは本気(マジ)で行くぜ……!」

 

 その言葉と同時に、ポッケは自らの能力を、再び(・・)発動する。

 

 ――――突撃魂(ぶっちぎるぜ)!!

 

 ポッケのパワーがまるで爆発するように爆ぜ上がる。

 

 その瞬間、クリスエスの目に映るポッケの姿が膨れ上がった――急接近してきたのだ。

 

 眼前にかざしたクリスエスの腕を、ポッケの膝が捉え、吹き飛ばす。

 

 そのクリスエスが吹き飛んだ先に、ジャングルポケットはすでに回り込んでいた。

 

 その背へと、渾身の右ストレートをぶちかます。

 

「ぐっ!」

 

 流石にクリスエスも苦悶を漏らし、ガラスを突き抜けビルの外へと着地する。

 

 しかし今度は巨大化するポッケの像を捉え、踏ん張る脚と防御する腕にパワーを集中させ、遅い来る拳を受け止めた。

 

 ズシン、と地面にヒビが入る。

 

(受け止めんのか! 能力も何もなしで……!)

 

 ポッケの口角が思わず上がった。

 

 驚愕する彼女をよそに、クリスエスは空いた左手でポッケの右手首を掴む。

 

「ッ!」

 

 ブンッとポッケの体が宙を舞った。

 

 地面に脚をつけるまでは、防御しかできない。

 

 クリスエスが繰り出した飛び蹴りを、ポッケは両腕で受け止めた。

 

「ッッッ!!」

 

 ギシギシと全身の骨格が悲鳴を上げる。

 

 ビルのフロアのガラスを突き破り、地面を跳ね、もう一つガラスを突き破って外へ出る。

 

(単純なパワーの操作だけでこのやべぇ威力……!)

 

 感嘆と同時に立ち上がると、ポッケの爆発していたパワーの波がフッと凪いだ。

 

 クリスエスが地を駆けこちらへ向かい来る。

 

 四度目(・・・)の能力を発動すると、ポッケのパワーが再び爆増する。

 

 突撃してくるクリスエスの攻撃を予測していたポッケは不意を取られた。

 

 攻撃してくるかと思ったクリスエスの姿が消えた――――

 

 クリスエスはポッケの懐に飛び込む直前、全身の力をスムーズに抜き、背を瞬時に縮め、ポッケの視界から足元へと消えた。

 

 その脱力した体を、今度は一気に力を込め、解放する。

 

 クリスエスの長い脚でパワーが爆ぜ、卍蹴りが炸裂した。

 

 脚がポッケの真正面を捉え、地面へと叩きつける。

 

 それに合わせクリスエスはポッケの体へ脚を巻き付けて、ポッケの(マウント)を取った。

 

 それと同時に能力を発動し、スナイパーライフルを手に召喚し、ポッケへ突きつけた。

 

(やべぇ!)

 

 あまりにも強烈で、しかし滑らかに速く上を取られた。

 

 ようやく思考が追いついたポッケだったが、明らかにもうそれは遅かった。

 

 クリスエスは迷いなく銃爪に指をかけ、それを引いた。

 

「ッ!!」

 

 ギリギリでポッケは首をひねり、ダアンッと弾丸は地を穿った。

 

 瞬時に素早く迷いのない手つきでクリスエスは弾丸をリロードする。

 

 そしてその瞬間に、ポッケのパワーは凪ぐ。

 

(クソッ! ブーストが終わった! コイツ、脚の力がとんでもねぇ……! 腕だけでも抜――――)

 

 もうすでにクリスエスは銃爪に指をかけていた。

 そして今度は、それはポッケの首を狙っている。

 

 もう避けられない。

 

(クソッ――――!)

 

 弾丸が、放たれた。

 

 ギィン――――

 

 甲高い音が響く。

 

「!?」

 

 クリスエスの眼下にあったのは、撃たれたはずのポッケの首ではなく、巨大なバトルアックスに弾丸が突き刺さっている光景――――

 

(もう一人の――――!)

 

 顔をバトルアックスの柄が伸びる方向に向けた瞬間、強烈な打撃がクリスエスの体を撃つ。

 

「ぐっ!」

 

 拘束から解かれたポッケは即座に立ち上がり、自らを助けた仲間の名を呼んだ。

 

「ダンツーーーーー!!」

 

 そして、その仲間も顔を晴れさせる。

 

「ポッケちゃーーーーーん!!」

 

 なんとかギリギリで間に合ったダンツフレームが、その強靭なバトルアックスでポッケを救ったのだ。

 

「大丈夫ポッケちゃん!? ポッケちゃんがここまで追い詰められるなんて って、あの人、シンボリクリスエスさんじゃない!?」

「おめー気づかずに助けてくれたのかよ! ありがとうなダンツ!」

「えへへ、それほどでも!」

「ダンツフレーム……」

 

 体制を整えて立ち上がったシンボリクリスエスが、その名を呼んだ。

 

「宝塚記念の……」

「お、ダンツのこと知ってんのか」

「いや、違うよ。わたし、シンボリクリスエスさんと宝塚記念でレースした事あったから…………」

「そう言うことか……じゃあダンツ、コイツの手の内知ってるのか」

「いや、日本のトゥインクシリーズは能力でも武器とかは禁止だし……」

「よっしゃ、じゃあ、フェアだな」

「え?」

「シンボリクリスエス!」

 

 ポッケは声を張り上げ、名前を読んだ。

 

「なんだ」

「こっからはタイマンじゃねぇけど、いいか?」

「……? これはBattle Royaleだ。当たり前だ」

「よっしゃ、じゃ、ダンツ……一緒に、前年度準々王者、ぶっ倒そうぜ……!!」

「うん! ポッケちゃん!」

 

 ポッケは再び、全身にパワーをみなぎらせた。

 

 

 

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