寡黙な生徒   作:いえカニ

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初投稿です(迫真


寡黙な生徒と黒崎コユキの逃亡生活

ーーーアビドス区内ーーー

 

 

「それではあなたの家に行きましょうか!家は何処なんですか?」

 

私が尋ねると、無口な彼女はポケットから古いガラケーを取り出し、画面を私に見せてきた。

表示されているマップのピンは……え、トリニティの寮?

 

「……トリニティの寮?」

 

思わず呟いた声には、疑問と驚きが入り混じっていた。

 

「え、あなたトリニティ生徒なんですか!? あのド派手なテロ行為、お嬢様っぽくないどころか完全にゲヘナ生徒かと思ってましたよ!」

 

私の頭の中で、彼女の行動とトリニティのお嬢様というイメージがどうにも結びつかない。まさか、こんな人がトリニティの生徒だなんて……。

 

でも、問題はそこじゃない。トリニティの寮というのは、確かに安全そうに思えるけど、学園の管理下にある場所だ。ユウカ先輩の情報網がすでに彼女がトリニティ生徒だと分かっている可能性は高く、即座に学園側に通報されるだろう。

 

「このまま寮に帰ると、捕まってしまうかもしれませんよ。一旦別の泊まれる場所を探しましょう。」

 

私がそう提案すると、彼女は特に反論する様子もなく無言で頷き、近くを指差す。その方向を見ると、少し古びたビジネスホテルが目に入った。

 

「おお……あそこなら、確かに目立たずに泊まれるかもしれませんね。でも、このままの姿ではさすがに目立ちすぎるかも。少し変装しましょう。」

 

私は彼女の無言の態度に少し慣れつつ、次の行動を決めた。

 

 

ーーーアビドス・ビジネスホテルーーー

 

 

「いらっしゃいませ、お客様……!?」

 

ホテルの店員が驚いた表情でこちらを見ている。まあ当然だろう。グラサンとマスク、それに帽子を深く被った私たちは、どう見ても「普通のお客さん」には見えない。

 

「お、お泊まりですか? それとも……強盗……?」

 

「違いますよ!」

私は慌てて否定する。

「私たちは泊まりに来たんです!」

 

店員さんの疑念に満ちた目が痛いけど、ここで余計な誤解を招くわけにはいかない。

 

「そ、そうでしたか……お部屋はまだ空きがございますが、何泊をご希望でしょうか?」

 

「どうしますか?」

 

私は隣の彼女に話を振ると、彼女は少し考えた後、無言で電子パネルを操作し始める。

 

「……1ヶ月の宿泊ですね。その場合、3階のお部屋が空いております。」

 

彼女は迷うことなくポケットからカードを取り出し、決済を済ませてしまった。

 

「こちら、お部屋の鍵です。」

 

彼女が鍵を無言で受け取り、エレベーターへ向かう。私は慌ててその後を追った。

 

「……怪しい……怪しすぎるけど、まあ、このホテルで暴れてくれなければいいか……」

 

店員のつぶやきが背中越しに聞こえたが、聞こえないふりをしてエレベーターに乗り込んだ。

 

 

ーーービジネスホテル: 部屋ーーー

 

 

「うわー! 意外と豪華ですね!」

 

部屋に入るなり、私は変装を解いて大きなベッドにダイブした。ふかふかの感触に顔を埋めながら、思わず声が漏れる。

 

「いいですね……逃亡生活でも、これくらいの快適さがあればなんとか……あ、テレビつけよっと。」

 

リモコンを操作してテレビをつけると、ニュースが流れてきた。その内容を見て、私は息を飲む。

 

「あっ、これ……!」

 

ミレニアムサイエンススクールでの爆破事件が報じられている。映し出された映像には、赤髪の女の子を抱きしめる彼女の横顔が、はっきりと写っている。さらに、監視下にあった犯罪者が逃亡したという報道に、私の顔写真が表示される。

その後、事件の調査の中で、テロリストを学園内に入れたとして、ある生徒が処分を受けることとなった。その生徒は、テロリストと共謀し、爆破計画の一部を手助けした可能性が高いとされ、学園内で大きな波紋を呼んでいると報じられている。

 

「にははは! これで私たち、有名人ですね!」

 

私は笑いながら冗談めかして言うが、彼女は変わらず無言。

代わりに冷蔵庫を開け、ペットボトルを取り出し、慎重にコップへ注ぎ始める。その動きは妙に丁寧で、静かな空気に妙な落ち着きを感じる。

 

「これは……祝杯ってことですかね?」

 

私が尋ねると、彼女は微かに微笑み、静かに頷いた。

 

「それでは、あなたの依頼成功と、私の自由に……乾杯!」

 

コップを合わせ、一気に飲み干す。炭酸の刺激が喉を駆け抜け、体が軽くなったような気がし、ベッドに寝転がる。

 

「ねえ、そろそろ名前くらい教えてくれませんか?」

 

彼女はポケットから取り出した紙に「ノーネーム」とだけ書き込んだ。それがどういう意味なのか、私は彼女の表情を見て理解した。本名は明かせないけど、少なくともそう呼べということだろう。

 

「ノーネーム……? それが名前なんですか?」

 

彼女は無言で頷く。表情にどこかいたずらっぽさを漂わせていて、こちらの反応を楽しんでいるような気がした。

 

「まあいいです。それじゃ、ノーネームって呼ばせてもらいますね!」

 

私が手を差し出すと、彼女は少し迷うように視線を動かしつつも、その手を握り返してくれた。

 

「私は黒崎コユキです! コユキって気軽に呼んでくださいね!」

 

彼女はまたも無言で頷くだけ。でも、身振りや表情の変化が豊かで、言葉がなくても彼女の意思が伝わってくる。

 

「……ひょっとして、声が出ない病気とかですか?」

 

彼女は即座に首を横に振った。それを見て少し安心する私。

 

「そうですか……まあ、喋らない理由は追々教えてくださいね。それより今は、これからどうするかを考えないとですね!」

 

彼女がまた頷き、指で「どうしたい?」という仕草を見せる。

 

「私はとりあえず、新しいスマホが欲しいですしミレニアムで落として無くなってしまったので。それとPC! それがあれば私の真の実力を発揮できますから!」

 

私はベッドから飛び起き、彼女の前に座り直した。

 

「スマホやPCを手に入れれば、私がどれだけすごいか分かりますよ! いや、わざわざ説明しなくても、すぐに結果で見せれるんですけどね!」

 

ノーネームは首を傾げて、「どういう意味?」といった仕草をする。私はその反応を見てニヤリと笑った。

 

「まず、暗号系のパスワードは私にかかれば秒殺です。システムのセキュリティ? 笑わせますね! どんなに高度な暗号でも、最適なアルゴリズムで解いてみせます!」

 

私は自慢げに胸を張る。ノーネームは、驚いた表情を見せるでもなく、ただ真剣に耳を傾けている。それが少し物足りなくて、私は続けて得意げに語り出した。

 

「でもね、それだけじゃないんですよ。物理的なパスワードも、直感で分かるんです。金庫だろうが、ロック付きの扉だろうが、“なんとなく”開けられるところです!」

 

ノーネームは少し首を傾げて、「どういう意味?」というような仕草をする。それに私は得意げに笑い返し、部屋の隅に備え付けられた金庫を指差した。

 

「ほら、あの金庫で試してみましょうよ! まずはあなたが鍵をかけてみてください!」

 

ノーネームは少し考えた後、金庫の前にしゃがみ込むと、数字キーを押し始め、慎重に暗証番号を設定していく。最後に「カチッ」とロックをかける音を鳴らすと、金庫の上に手を置き、「どうぞ」と言わんばかりに私を見つめてきた。

 

「いいですね! じゃあ、私が解いてみせます!」

 

私は金庫の前にしゃがみ込み、数字キーを指で触れた。その瞬間、頭の中にぼんやりと「正しい気がする数字」が浮かんでくる。

 

「うーん、なんとなく……これかな?」

 

私は「3」「5」「7」「1」と入力していく。数字を押すたびに、指先に妙なしっくり感が伝わってきて、まるで金庫自体が正解を教えてくれているようだった。だけど、理由なんて全然分からない。ただ……『これだ』って直感がそう言うんだから仕方がない。

 

最後に解錠ボタンを押すと、金庫は「カチッ」と音を立てて開いた。

 

「ほら、開きました!」

 

私は金庫の扉を開けながら振り返ったが、ノーネームの目は驚きに見開かれていた。そのリアクションに、私は得意げに笑った。

 

「まあ、これくらいはね! いつものことですよ!」

 

ノーネームは私を見つめたまま、首を傾げる。「どうして開けられるの?」というようなジェスチャーをするが、私はその問いに首をかしげる。

 

「え? どうしてって……そんなの分かりませんよ! 感覚的に分かるだけですって! なんとなく、この数字だろうなーって思ったら開いちゃうんですよ!」

 

私は気軽に言ったが、ノーネームはまだ少し不思議そうな表情だ。

 

「え? 普通はできないんですか? いやいや、こういうのって直感で分かるものじゃないんですかね?」

 

ノーネームは「いや、それは普通じゃない」とでも言いたげに片手を振る。そして、金庫の中身を確認しながら小さく拍手をしてくれた。

 

「ふふん、でしょでしょ! ま、私にかかればこんなものですよ!」

 

私は調子に乗って胸を張る。

 

「にははは!これがコユキ様の真の実力ですからね! 次の作戦では、私があっと驚く方法で大活躍しますよ!」

 

ノーネームは微笑みながら、親指を立ててくれた。

その穏やかなリアクションに安心した私は、次の日に向けて休む事にした。部屋の暗がりの中で、彼女の静かな姿が妙に落ち着く。無言のままで、何も言わずにただそこにいるだけで、まるで私の心を見透かしているかのような感じもしてくる。

 

「……おやすみなさい。」

 

私が軽く言葉をかけると、ノーネームは再び静かに頷き、窓際に座っていた。ベッドに横たわりながら、ふと彼女がこれからどうするつもりなのか、ノーネームが何で喋らないのか、過去に何があったのかまったくわからない。

 

「明日は何かもっと面白いことができるといいですね。」

 

私はそう呟きながら、目を閉じて眠りについた。

 

………

……

 

夜中の2時過ぎ。窓の外には月明かりが静かに街を照らし、ビルの隙間を通る風の音が微かに響いている。デジタル時計の青白い光が「2:14」を示し、部屋には静寂が広がっていた。

 

「……ん……」

 

私はふと目を覚ました。隣のベッドを見ると、ノーネームの姿はなく、窓の方に目線をやると窓際の椅子に座るノーネームの小さな背中が目に入った。月明かりが彼女の輪郭を柔らかく照らし、彼女はじっと外を見つめている。

 

(……まだ起きてるんだ、ノーネームさん。)

 

私は毛布を肩にかけ、そっと彼女の隣に腰掛けた。

 

「……眠れなかったんですか?」

 

ノーネームはゆっくりとこちらを振り向き、ポケットから小さなメモ帳とペンを取り出した。そして、静かに文字を書き始める。

 

『少し、考え事をしてた。』

 

「……何を考えてたんですか?」

 

ノーネームは少し考えた後、ゆっくりとペンを走らせた。

 

『妹のこと。』

 

「妹さん?」

 

私は思わず聞き返した。ノーネームさんに妹がいるなんて、全く想像していなかった。

 

「ノーネームさん、妹さんがいるんですね……」

 

彼女は小さく頷き、再びペンを走らせる。

 

『人見知り。でも、私にはよく話しかけてくれた。いつも私の後ろに隠れてた。』

 

(ノーネームさんに、そんな大切な人がいたんだ……)

 

「今……妹さんはどうしてるんですか?」

 

その問いに、ノーネームは少し迷うように視線を泳がせた。そして、ゆっくりとペンを動かす。

 

『コンビニでバイトしてる。今は運営管理も任されてる状態ですがみたい。』

 

「えっ、運営管理? それってもう、ほとんど店長代理みたいなものじゃないですか!」

 

私は素直に驚いた。人見知りだったという妹さんが、そんな責任ある仕事を任されるなんて。

 

「すごいですね……きっと真面目で、信頼されてるんですね。」

 

ノーネームは小さく頷く。しかし、その頷きには少しだけ影が差していた。

 

「……ノーネームさん。」

 

私は少し迷いながらも、彼女に問いかけた。

 

「どうして、危ない依頼を受けてまでお金を稼いでるんですか?」

 

その言葉に、ノーネームは少し驚いたようにこちらを見た。そして、ゆっくりとペンを走らせる。

 

『妹には、楽をしてほしいから。』

 

「楽を……?」

 

ノーネームは再びペンを動かす。

 

『お金の心配をしないで、学園生活を楽しんでほしい。』

 

「学園生活……」

 

ノーネームは小さく頷く。

 

『友達を作って、勉強して、遊んで。普通の生徒として、毎日を楽しく過ごしてほしい。それが私の願い。』

 

その言葉を見た瞬間、私は胸が締め付けられるような感覚に襲われた。

 

(ノーネームさんは、こんなにも妹さんの幸せを願っているんだ……)

 

「ノーネームさん……本当に優しいんですね。妹さんのこと、とても大切に思ってるんですね。」

 

ノーネームは少しだけ微笑んで、再び窓の外に視線を戻した。その横顔には、どこか穏やかで、それでも儚い影が見えた。

 

「……ねえ、ノーネームさん。」

 

私はノーネームかお金を稼ぐ理由を聞き、私を脱走させてくれたのに報酬を払えなかった事が申し訳なくなった。

 

「私を助けてくれたとき……私は何も返せなかったですよね。」

 

ノーネームは少し驚いた顔をして、ゆっくりと私を見つめた。

 

「あなたは妹さんのためにお金を稼いでるのに、私は何も返せなくて……それなのに助けてもらって、本当にごめんなさい。」

 

言葉にすると、涙が込み上げてくる。

 

ノーネームは少しだけ驚いた後、ゆっくりとペンを走らせた。

 

『それはもう気にしなくていい。それにこれから協力してお金を稼がせてくれるんでしょ?』

 

思わず顔を上げると、ノーネームは少しだけいたずらっぽく笑ったように見えた。

 

「そ、そうですね! 私もちゃんと協力しますよ! 頼ってください!」

 

私は涙を拭って笑顔を作った。ノーネームは静かに頷き、その表情には少しだけ安心感が滲んでいた。

 

「ねえ、今日はもう寝ましょう。少しだけでも、ちゃんと休んで明日の買い出しに備えましょう」

 

私はノーネームの手を引いてベッドに誘う。彼女は少し躊躇いながらも、私の隣に横になった。

 

「おやすみなさい、ノーネームさん。」

 

ノーネームは小さく頷き、目を閉じた。その横顔には、少しだけ安らぎが戻っているように見えた。

 




誤字、脱字、何かありましたらご報告ください。
これからも出来るだけ黒歴史を作っていきます。
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