寡黙な生徒   作:いえカニ

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初投稿です(迫真


寡黙な生徒とブラックマーケット

ーーービジネスホテル:部屋ーーー

 

ノーネームは静かに目を覚ます。窓の外から差し込む朝の光が、部屋に淡い明るさを与えていた。隣のベッドではコユキが小さく寝息を立てている。彼女の今日の予定を思い出し、そっとコユキの肩を揺すって起こそうとする。

 

しかし、コユキは薄く目を開けると、寝ぼけた声で答える。

「あと5分……ううん、1時間くらい……」

 

その様子にノーネームは軽く眉を上げるが、すぐに肩をすくめて諦めたように立ち上がる。机に手紙を置き、「スマホとPCを買いに行ってくる」と書き記す。その下に、自分の電話番号も添えて。

 

コユキの額に優しく触れ、「ゆっくり休んで」とでも言いたげな視線を送ると、ノーネームは静かに部屋を後にした。

 

 

ーーーブラックマーケットーーー

 

雑然とした市場で、ノーネームはスマホやPCが並ぶ露店をじっと見つめていた。多種多様な商品がずらりと並ぶが、彼女にはそれらの性能や種類を見極める知識がない。顎に手を当て、真剣に考え込む。

 

そのとき、ポケットの中のガラケーが振動する。確認するとビジネスホテルからの電話でありノーネームは静かに電話に出る。すると、受話口からコユキの少し怒った声が飛び込んできた。

 

「どうして起こしてくれなかったんですか! 私、起きたら誰もいなくて、不安で不安で……!」

 

ノーネームは電話を耳に当てたまま、困惑したように眉を下げる。

 

「まぁ、見捨てられたわけじゃないからいいですけど!」とコユキが続ける。

「スマホはね、とにかく最新のやつなら何でもいいです。で、PCは……あ、ミレニアム製のやつなら大体大丈夫だと思います! だって性能良いし、ハッキングとか情報解析とかもサクサクできるはずですから! ほら、ミレニアムは技術系とかピカイチでしょ? とにかく、適当に選んでも外れないはずです!」

 

ノーネームは無言のまま小さく頷き、「了解」とでも言うように親指を立てるジェスチャーを見せる。しかしコユキにはそのジェスチャーは見えない。

 

「それじゃ、よろしくお願いしましたからね!」

 

一方的に話を終えると、コユキは勢いよく電話を切った。

ノーネームは少し肩を落としながら携帯をポケットにしまう。その動作はどこか「仕方ないな」といったニュアンスを含んでいた。

 

だがその直後だった。

 

「見つけた! テロリスト女!」

 

喧騒の中で鋭い声を響かせながら、みほは荒々しく歩み寄った。その視線の先には、例の無表情な女――ノーネーム。彼女の存在が目に入った瞬間、胸の奥から溢れる怒りが一気に噴き出してきた。

 

――あいつさえいなければ、私の人生はこんなことにならなかったのに。

 

心の中で何度も繰り返した言葉。昨日のことがすべて悪夢であってほしいと願ったけれど、現実は残酷だった。ミレニアム退学。これまでのすべてが奪われた。制服を着て教室を歩く自分の姿も、笑い合う友達の顔も、もう戻らない。

 

「アンタのせいで、私はテロリストの仲間だって疑われて……それで退学までさせられたんだよ! わかってんの!? あたしの人生、メチャクチャじゃん!」

 

怒鳴った声が自分でも分かるほど震えていた。でも、それを気にしている余裕はなかった。

 

「制服だってもう着られないし、友達にも会えないし、どうしてくれるのよ! あんたのせいで全部終わったんだから!」

 

ノーネームはそんなみほを、ただ無言で見つめている。その無表情な顔には一切の感情が見えなかった。

 

それが余計にみほの怒りを掻き立てる。

 

――どうして何も言わないのよ。謝罪の一言くらいあってもいいじゃない!

 

「何とか言いなさいよ! せめて謝るとかないわけ!」

 

その沈黙が答えだと分かった瞬間、みほの中の最後の理性が切れた。怒りに突き動かされるようにポケットから拳銃を取り出し、ノーネームに向けて構える。

 

「絶対に許さない!」

 

みほは銃をさらに強く握り直した。

しかし次の瞬間、ノーネームが一歩踏み出した。その動きは素早く、まるで迷いがなかった。

 

――早い!

 

みほは反射的に引き金に手を掛けたが、腕を掴まれた瞬間に銃の向きが逸らされた。衝撃に手が揺れ、撃つタイミングを完全に失う。

 

「離してっ……!」

 

振り払おうと必死にもがくが、ノーネームの動きは正確で無駄がなかった。みほの腕を巧みに捻り、わずか数秒で銃を奪い去る。

 

「くっ……!」

 

みほは歯を食いしばり、必死に足を使って抵抗を試みる。相手の足元を狙い蹴りを入れようとするが、それさえも簡単に避けられてしまう。

 

「ぐっ……このっ!」

 

最後の力でノーネームの腕を掴もうとするが、その瞬間、強引に地面へ押し倒された。

 

「痛っ……! ちょっと、放せ……!」

 

声を上げたものの、完全に抑え込まれた体は動けない。ノーネームは何も言わず、冷徹な目でみほを見下ろしていた。

 

――なんなのよ、あの目……! 私をただの邪魔者みたいに見て……!

 

悔しさと怒りで顔が熱くなる。

 

「こんな事して良いと思ってるわけ!アンタなんか、いずれ絶対に痛い目見させてやるから! 」

 

声を振り絞ってそう言葉を吐き捨てるも、声が震えているのが分かった。強がっても虚しさが増すばかりだった。

涙がぽろぽろと溢れる。地面に押さえつけられたまま、それ以上の反抗はできなかった。

 

「制服も着れなくなったし、友達とも会えないし……私の青春、どうしてくれるのよ!」

 

みほが涙声で叫んだその瞬間、ノーネームの表情がふと変わった。

 

先ほどまでの冷徹さは薄れ、その代わりに、どこか申し訳なさそうな、複雑な感情が浮かび上がる。口元がわずかに動き、眉が下がる。まるで何かを言いたそうにしているようだった。

 

ノーネームはみほを立たせると、彼女の手を掴み、そのまま裏路地の方向へ歩き出した。

 

「ちょっと、離しなさいよ!」

 

みほは力強く腕を振りほどこうとしたが、ノーネームの握力は予想以上に強い。

 

――どこに連れて行く気!?

 

みほの脳内で次々と不安が膨らんでいく。

視線を向けるたびに無言のノーネームの横顔が見えるが、その表情がさっきとはまるで違っていた。

 

――何よあの顔……。さっきまでの冷たい目じゃなくなってる……むしろ、なんか妙に困ってるっていうか……

 

みほは怯えながらも、彼女の表情が柔らかくなっていることに気づいた。どこか申し訳なさそうで、それでも何かを決心したような顔だ。

 

「ねぇ、何するつもり……」

 

声に不安を滲ませながらみほが問うと、ノーネームはふと立ち止まり、みほの顔をじっと見つめた。

その視線に、みほは息を呑む。先ほどまでの無機質で冷たい瞳は影を潜め、代わりに何かを伝えたいような、もどかしそうな感情が浮かんでいるようだった。

 

ノーネームはポケットに手を入れ、何かを取り出した。それは小さな紙片だった。彼女はその紙をみほの目の前に差し出した。

 

「……え? これ、なに?」

 

みほは半ば怯えながら紙を受け取り、そこに書かれた文字を見た。

 

「モモトークのID……?」

 

読み上げた瞬間、ノーネームは大きく頷き、表情がさらに柔らかくなる。次に、手でスマートフォンを操作するような仕草を見せた。

 

「これを登録しろってこと?」

 

ノーネームは再び頷き、目を見開いて期待するような表情を浮かべた。

 

「……わ、わかったわよ。そんな顔しないで!」

 

――なんなのよこの人……表情の振り幅が広すぎるでしょ! さっきまでの怖い感じはどこ行ったのよ。

 

みほは仕方なくスマートフォンを取り出し、紙に書かれたIDを入力し始めた。震える手を止めようと必死だったが、どこかホッとした自分がいることにも気づいた。

 

「これでいい?」

 

モモトークの登録を終えたみほは、スマートフォンを持ったままノーネームに問いかける。ノーネームは軽く頷くと、自分のスマートフォンを操作し始め、すぐにメッセージを送った。

 

ノーネーム:登録ありがとう。これで話す。

 

「……は? 話すって、ここで直接言えばいいじゃないの。」

 

呆れたように言うみほに、ノーネームは再びメッセージを送る。

 

ノーネーム:私のせいで退学させてしまった。友達とも会えなくして申し訳ない。

 

その文字を見た瞬間、みほの中で怒りが一気に湧き上がった。

 

「……謝って済むと思ってんの!? あたしの青春、どうしてくれるのよ!」

 

声を荒げてスマートフォンを握る手が震える。だが、ノーネームはみほの怒りを静かに受け止めるように、申し訳なさそうな表情を浮かべたままだった。その目は言い訳すらしない覚悟を感じさせたが、それが逆にみほの苛立ちを煽る。

 

「そんな顔しても許すつもりなんてないから! あたしがどんな思いでここにいると思ってんの!?」

 

ノーネームは再びスマートフォンを操作し、メッセージを送る。

 

ノーネーム:私はテロリストじゃない。何でも屋だ。

 

「何でも屋……? それが理由で爆破なんかしたって言うの?」

 

みほは眉をひそめながら問い返した。ノーネームは少しだけ視線を外し、またメッセージを送る。

 

ノーネーム:依頼を成功させるためなら何でもする。それが私の仕事。

 

「依頼を成功させるため……? そのせいで、あたしは退学になったんだけど!」

 

みほは声を張り上げ、ノーネームを睨むように見つめた。その怒りを受けて、ノーネームは一瞬視線を下げたが、すぐに真っ直ぐみほを見返し、またメッセージを送る。

 

ノーネーム:責任を取る。君を専属傭兵として雇う。面倒を見る。復学できるよう努力する。

 

「……専属傭兵?」

 

その言葉にみほは困惑した表情を浮かべた。

 

「何それ。責任取るって、利用するだけ利用する気じゃないの?」

 

みほの問いに、ノーネームはじっと彼女を見つめ、少しだけ表情を和らげた。そして、真剣な眼差しを向けながら静かに頷いた。

 

その目を見て、みほはノーネームが冗談を言っていないことを悟る。しかし、彼女の中にはまだ不信感が残っていた。

 

「復学のために努力って、そんなこと、あんたにできそうに思えないんだけど。」

 

吐き捨てるように言いながら、みほは頭の中で自分の状況を整理しようとしていた。

 

――私にはもう行く場所がない。学校にも戻れない。……けど、利用されるだけなら、こっちも利用してやればいい。

 

みほは深く息を吐き出した。そして、ノーネームに指を突きつける。

 

「……わかったわよ。渋々だけど、その話、受けてやる。」

 

ノーネームはメッセージを送り返した。

 

ノーネーム:了解。必ず守る。約束する。

 

「……本当に信用していいのかしらね。」

 

ノーネームが送ってきたモモトークのメッセージを読んで、みほは画面越しに眉をひそめた。

 

ノーネーム:スマホとPCの作成はできる?

 

「……いきなり何よ。」

 

苛立ちを込めて呟きながら、ノーネームに向き直る。すると、ノーネームは期待するような瞳でこちらをじっと見つめ、表情豊かに首をかしげたり、小さなジェスチャーをしてみせた。その仕草に、みほは呆れながらも答える。

 

「まあ、研究とか物作りには自信あるから、それくらいはできるけど。」

 

軽く肩をすくめると、ノーネームは小さな拍手をし、安心したように胸に手を当てた。

 

「……やたらと表情豊かね。」

 

そう言いながらも、みほは続きを促した。ノーネームは再びメッセージを打ち始める。

 

ノーネーム:仲間が必要と言っている。スマホとPC、高性能なものを作ってほしい。素材は私が買う。

 

「仲間って誰よ?」

 

ノーネームは一瞬考えるように視線を泳がせた後、スマホを打つ手を再開した。

 

ノーネーム:黒崎コユキ。私に脱走の依頼をした人物。

 

「……黒崎コユキって、あのミレニアム爆発に乗じて脱走したやつじゃない。」

 

みほは声に苛立ちを込める。彼女が退学の理由を問い詰められた尋問の中で、何度も聞いた名前だった。その顔が頭をよぎり、無意識に拳を握りしめる。

 

「そいつがあんたに依頼したせいで、私が退学になったんだけど?」

 

ノーネームを睨みつけるように言い放つと、ノーネームは一瞬驚いた表情を浮かべた。しかし、すぐに申し訳なさそうな顔をして小さく頷く。その姿に、みほは苛立ちを覚えながらも、ふと冷静な判断を下す。

 

(……怒りをぶつけたところでどうにもならないか。むしろ、この状況を利用したほうがいい。)

 

みほは内心でそう結論づけると、深く息を吐いた。

 

「……いいわよ。作ってあげる。ただし、そのコユキってやつのために作るんじゃなくて、あくまであんたに貸しを作るって形だからね。」

 

ノーネームはその言葉に、嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、またもや親指を立ててみせた。その無邪気な反応に、みほは思わず呆れた表情を浮かべる。

 

「で、具体的にどんな性能が必要なのよ?」

 

ノーネームはすぐにスマホを操作し、みほにメッセージを送る。

 

ノーネーム:スマホは最新型。PCはハッキングがスムーズにできる性能が必要。

 

「ハッキングがスムーズに……って、要するに高性能で処理速度が速いってことね。」

 

みほは呆れたように言いながらも、スペックの構想を頭の中で描き始めた。

 

「まあ、それくらいなら作れるけど、素材をちゃんと揃えてよね。」

 

ノーネームは再び頷き、小さな拍手をしてみせる。その仕草に、みほはまたも苦笑しながらスマホをしまった。

 

それから二人は、素材を揃えるためにブラックマーケットを歩き回ることになった。ノーネームは自分の知識不足を補うために、みほを頼りにしきりにモモトークで質問を送ってくる。

 

「ほら、それ違うってば!ハイエンドなCPUならこっち!」

 

みほがノーネームに向かって呆れながら指を差すと、ノーネームは目を輝かせて頷き、すぐに指示されたものを購入し始める。

 

「ほんと、世話が焼けるんだから……。」

 

文句を言いつつも、みほはどこか楽しそうな自分に気づき、少しだけ笑みを浮かべた。

 

(まあ、利用するんだから手を抜くわけにはいかないわね。)

 

そう自分に言い聞かせながら、みほは素材のリストを再確認し、買い物を続けていった。

 




誤字、脱字、このようにした方が面白いなどありましたらアドバイスよろしくお願いします。
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