ーーー放課後スイーツ部:部室ーーー
「あれ?今日は私が1番か」
部室の扉を開けると、今日は誰もいなかった。珍しいわね。いつもならナツかアイリが先に来ていることが多いのに。
私は明日に座り、スマホを取り出してスイーツ情報をチェックする。すると画面に鮮やかな広告が表示された。
「期間限定ケーキ、本日発売……ですって?」
写真には美味しそうなケーキが並んでいて、思わず生唾を飲み込む。
「皆んなが来たら一緒に買いに行こうかしら」
そう呟いていると、部室の扉が開く音がした。
「…」(ガラガラ)
振り向くと、そこにはノーネームが立っていた。
「ノーネーム、今日も来たわけ?部員でもないのによく来るわよね」
ノーネームはにこりと笑顔を浮かべる。その表情はいつも通り無口だけど、どこか安心感がある。
(最近よく来るわね。嫌じゃないけど)
彼女は椅子には座らず、じっとこちらを見つめている。きっと、仕事を探しているんでしょうね。
「また仕事探してるわけ?」
私がそう尋ねると、ノーネームは頷いた。
(やっぱりね。まあ、彼女に頼むと安心感があるし、いいか)
私は先ほど見たスマホの広告をもう一度確認する。そして、思い切ってノーネームにお願いすることにした。
「本当は部員の皆んなで行こうかなと思ったんだけどさ、期間限定のケーキを買ってきてくれるかしら?広告にはトリニティ区内のスイーツ店で売ってるみたいだから。報酬は期間限定ケーキを皆んなで食べるってのでどう?」
ノーネームは小さく頷き、すぐに行動に移ろうとする。だけど、私は彼女を一度引き止めた。
「待って、これ代金よ。……いつもパシリにして悪いわね」
そう言ってお札を手渡すと、ノーネームはふわりと笑って、私の頭を優しく撫でてきた。
「ちょ、撫でるな!恥ずかしいから!」
私は顔を真っ赤にしながら彼女の手を振り払う。
(コイツはいつも私の頭を撫でたり、膝枕させようとしてくるんだから……!)
「撫でるな!早く行きなさいよ!」
ノーネームは笑顔で手を振り、そのまま部室から出て行った。
「まったく……私はあんたの妹かっての……」
私は小さくため息をつきながら、スマホをテーブルに置いた。
ーーートリニティ区内:スイーツ店ーーー
「流石期間限定ケーキ、たくさん人が並んでますね」
私、桐藤ナギサは期間限定ケーキを手に入れるため、トリニティ区内の有名スイーツ店にやってきた。目的はもちろん、ミカさん、セイアさん、そしてヒフミさんとの茶会で出すためだ。
長蛇の列ができていて、店の入り口は人で埋め尽くされている。これほどの人気とは、さすが期間限定というべきかしら。
ふと後ろから強い視線を感じて振り向くと、そこにはノーネームが並んでいた。
「あら、ノーネームさんも期間限定ケーキを?」
「…」
ノーネームは小さく頷くが、何も言わずに私をじっと見つめている。その無言の圧が、なんとも言えない。
「これだけ並んでますからね。後ろの私達は購入できるか分かりませんね」
「…」
ノーネームは何も言わない。ただ、そのままじっとこちらを見つめる。
「……」
「………」
(なんだか気まずいですね……)
しばし沈黙が流れる。まあ、この方が良いのかもしれない。ノーネームは喋らないからこそ、私がつい余計なことまで喋ってしまう。それを彼女は狙っているのかもしれない。
(シスターフッドの歌住サクラコ、救護騎士団の蒼森ミネとも関わりがあるって報告されてるし……)
彼女が何を考えているのか、依然として謎だ。もしかしたら、クーデターの計画を進めるために、私から情報を引き出そうとしているのかも……。
「次のお客様どうぞー」
「あっ、はい! 期間限定のケーキを4個お願いします」
店員さんが笑顔でケーキを箱詰めしていく。
「はいどうぞ。お客様、運が良いですね。この4個で最後ですよ」
「あら、とても幸運ですわ」
(よし、これでヒフミさん達と楽しいお茶会ができるわね!)
私は満足げにケーキの箱を受け取る。そして、後ろに並ぶノーネームに目を向けた。
「悪く思わないでくださいね、ノーネームさん」
「…」
ノーネームは何も言わず、ただこちらを見つめている。
私は視線を逸らし、その場を足早に去る。
「お客様、申し訳ございません。本日のケーキは完売いたしました」
「…」
ノーネームは静かにお辞儀をすると、そのまま桐藤ナギサの後を追いかける。
ーーーセーフルームーーー
「今度こそ盗まれるわけにはいきません、警備を厳重にしなければ…」
前回の冷蔵庫には酷い目に遭わされたので廃棄処分し、電子パスワード式の冷蔵庫に変更をしたの。もちろん入力ミスをしても戦闘モードにならず、3回ミスをしたら警報が鳴るシステムになっている。
「それでは、この部屋の警備をよろしくお願いします」
「お任せくださいナギサ様」
「それでは私は失礼します」
「はい」
扉の前に1人ティーパーティーの人に警備をさせる。これで盗人も手も足も出ないはずです。
ーーー
ノーネームは外壁の出っ張りの上に立ち、窓から顔を少し覗かせてセーフルームの扉を見ると、ティーパーティーの人が警備をしているのを確認する。
ノーネームは小型電動式ガラスカッターを取り出し、窓に刃を当て、慎重にゆっくりと削っていく。
「はぁーあ、数時間だけとはいえ警備なんて面倒ですわ」
警備してる子は気づく様子はなく、ノーネームは無事に削り切り、窓を開ける事に成功する。
冷蔵庫は電子パスワード、4桁の数字でロックされていた。
ノーネームは無難に桐藤ナギサの誕生日を入力をしたが開くことがなかった。
思考を巡らせ桐藤ナギサが設定しそうなパスワードを考える。
「…!」
ノーネームは閃き、ヒフミの誕生日を入力をしたみた。
カチッ。
冷蔵庫が静かにロックを解除する音が響く。
ノーネームは冷蔵庫を開け、白い箱に収められた期間限定ケーキを取り出し、冷蔵庫の中に小さな紙を残す。
その後、開けた窓から静かにセーフルームを脱出する。
ーーーモモトークーーー
NO NAME『取って来た。場所は部室か?』
ヨシミ『うん、部室までお願い。皆んな待ってるわよ』
NO NAME『すぐ行く』
ーーー放課後スイーツ部:部室ーーー
「ほーう。またノーネーム来たんだね」
「うん、だから期間限定ケーキを買いに行ってもらったわ」
私達はノーネームが帰ってくるまで皆んなと談笑を楽しむ。
「でもなんだか、パシリにしてるみたいで申し訳ない感じがするよ…」
「でも本人が望んでるわけだし、それに嫌だったら断ったりするでしょ」
「確かにそうだけど、私はノーネームちゃんには危険な事をしてほしくないな」
アイリはチョコミントの事になるとちょっとアレだけど、友達の事になるととても優しい子だ。
窓の外を時々見てノーネームが大丈夫か心配している様子だった。
「今回は大丈夫よ。期間限定とはいっても多く作られてるみたいだから普通に買ってくるわよ」
「…」(ガラガラ)
私がそう言うと部室の扉が開かれ、ノーネームが入ってきた。
「あっ、ノーネームちゃん」
「お帰りノーネーム、頼んだ物は買ってきた?」
ノーネームは私に期間限定ケーキの箱と現金を返してきた。
現金を返してきたという事は、普通に手に入れる事が出来なかったのね。
「いつも悪いわね」
皆んなには見えないようにお金も受け取り、期間限定ケーキが入った箱を置く。
「流石はノーネーム、仕事人だね」
「それじゃあみんなで食べよう!」
「ほら、ノーネームちゃんも座って」
「…♪」
アイリに案内されて座るノーネーム。カズサが近づき耳打ちをする。
「ノーネーム、お金返してたでしょ?」
ノーネームは私から目を逸らす。
とっても分かりやすい表情だ。
「怪我はしてない?」
ノーネームは頷く。どうやら怪我は無かったみたいだ。
でも彼女は怪我をしても隠しそうなイメージがある。
念の為に肌が見える部分は目視で確認し、大丈夫なので安堵した。
「良かった」
「あっ、ケーキ4個しかないわ」
「4個?ノーネームちゃん5個買わなかったんですか?」
再びノーネームが少し慌てた様子で、目を逸らし始める。
(だから分かりやす過ぎる!)
ここはアイリを心配させない為にノーネームのフォローをする。
「限定物だからね、買いに行ったときには4個しかなかったんだよ。ね、ノーネーム」
「…」(こくこく)
ノーネームはもう少し嘘をつけるようにした方が良いと思った。
「そっか、それじゃあ5人分になるように分けようか」
「…!」(ブンブン)
ノーネームは首を横に振って遠慮をするが、ヨシミはノーネームの肩を組む。
「なに遠慮してんのよ。ノーネームが盗っtあっいや、買ってきたんだからたべなさい」
「…♪」
ノーネームはまた私の頭を撫でてくる。
「撫でるなぁ!」
「あはは、ノーネームちゃんってヨシミちゃんをよく撫でるよね」
「まったく、人前でも普通にするから恥ずかしいったらありゃしないわ」
「そう言っときながら嬉しいんでしょ?このツンデレヨシミー」
「うっさい!」
「あたっ!」
ナツの頭を軽く突き、ひどーいと言ってくる。
「でもさ、こうして2人並ぶと姉妹に見えるね。同じ金髪だし」
「確かにそうだね」
「ふふん、私達が姉妹だったら当然私がお姉ちゃんね!ノーネーム私より背が低いし」
「…!」
ノーネームは怒った表情で頭を下に押してくる。
「あいたたた!頭押さないでよ!」
「それは禁句だよヨシミ」
「ノーネームが気にしてる事を言うヨシミが悪い」
「あははは…」
そう言ってナツとカズサは助けてくれようとせず、アイリは微笑している。
「私はノーネームちゃんの方がお姉ちゃんに見えるな」
「ぅえ?どうしてよ?あいたたたっ!謝る!謝るからもうやめて!」
私が謝るとノーネームは頭を押すのをやめる。
「あはは…ノーネームちゃんはなんていうか雰囲気がお姉ちゃんって感じがするの、人のために頑張る姿とか、ヨシミちゃんを撫でたりしてる時とか」
「…」(スッ)
アイリがそう言うとノーネームは少し悩む素振りをし、皆んなに1枚の写真を見せてくる。
「写真?これは…」
「ノーネームちゃんによく似てるね」
「この子誰なの?」
ノーネームは写真の裏側を見せてくる。
『妹 ソラ』と書かれていた。
「妹のソラ…えっ!ノーネームって妹いたの!」
「…」(こくこく)
「おおー見た目も雰囲気も似ていて可愛いね」
「今度会わせてよ」
「…」
ノーネームは首を横に振る。
「何か訳ありみたいだね、ー二つのクッキーの間に甘いクリームが挟まれているマカロンのように甘くてお互いを尊重するように、仲良くした方が良いよ」」
「……はいはい!みんな暗くなってるよ!せっかくの限定ケーキなんだから明るく食べるわよ!」
「う、うん、そうだね!」
暗い雰囲気を払拭するため、皆んなで明るくケーキを楽しむのだった。
ーーーセーフルームーーー
数時間後、私はセーフルームに戻り、ティーパーティーの子に何事も無かったか確認する。
「お疲れ様です。誰か入ろうとしたり、通ったりしましたか?」
「いえ、ずっと警備させていただきましたが誰も来たり入ろうとしたりはありません」
「そうですか、長時間の警備お疲れ様です。しっかりおやすみください」
「はい!ありがとうございますナギサ様!」
(ふふふ、どうやら今回は私の勝ちみたいですね)
安心してセーフルームの扉を開ける。
「ふんふふーん。さてと限定ケーキは……へっ?」
目の前に広がる光景に言葉を失う。
窓が開け放たれ、冷蔵庫も半開きのまま。そして、中を確認すると……紙が一枚、ひらりと落ちてきた。
「何これ……?」
紙には丁寧な文字でこう書かれていた。
『美味しくいただきます』
「美味しくいただきますですってぇ……絶対に!絶対に許しません!このケーキでヒフミさんともっと仲良くなるはずだったのにぃ!!!!」
私はテーブルをバンバン叩く。こう何度も盗まれ、しかも置き手紙までされると、さすがに悔しすぎる!
「絶対に許しませんわーー!!!!」
セーフルームにナギサの叫び声が響き渡り、その怒りは夜の静寂に溶けていった。
ーーー
「ナギちゃーん、その手どうしたの?」
「……少し手を捻ってしまいまして」
「気をつけたまえよ?君はどこかの誰かさんみたいに頑丈じゃないんだから」
「もしかして喧嘩売ってるセイアちゃん?」
ミカさんはジト目でセイアさんを睨むが、セイアさんは涼しい顔で微笑んでいる。
「いいや、そんなつもりはないよ」
「……」
ミカさんは少し不機嫌そうな表情をするが、セイアさんは気にせず優雅に紅茶を飲み始める。私ははため息をつき、手首をさすりながら悔しそうに顔を伏せる。
「次こそは必ず捕まえてみせます……!!!」
「……なるほどまたやられたのか」
「そうみたいだねー」
ミカとセイアは苦笑し、ナギサに同情な目を向けた。
ナギサ様はノーネームに勝てるのでしょうか?
誤字、脱字などありましたらご報告ください。
これからも黒歴史作成を頑張ります。