寡黙な生徒   作:いえカニ

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初登校です(大嘘


寡黙な生徒とエンジニア部

―――ミレニアムサイエンススクール校内―――

 

「うあぁああああ──なんで──! 」

 

「何でじゃない! 今回ばかりは本当に許さないわよ、コユキ!」

 

私、黒崎コユキは今、ものすごい剣幕のユウカ先輩に追いかけられている。

といっても、別に私はそこまで大きなことはしていないはずだ。

ほんのちょっぴり、ミレニアムの資金を「拝借」して、カジノに行って遊んだだけ……。

……だけなのに、どうしてこんなに怒られているんですかぁぁっ!

 

「私はただミレニアムのお金をちょっと拝借してカジノで遊んだだけじゃないですか! ちゃーんと増やそうと思っていたんですよ! 結果的には減ったけど……」

 

「それが問題だから怒ってるんでしょうが! これから1週間、いいえ、逃げた罰として1ヶ月反省部屋行きよ!」

 

「そ、そんなぁー!」

 

心底嫌そうな顔を浮かべるユウカ先輩は、もはや私を許す気ゼロらしい。

反省部屋で1ヶ月とか、絶対無理! 嫌すぎる! そう思い、私は全速力で校内の曲がり角をひとつ曲がり、見つけた部屋に慌てて飛び込む。

床に倒れこんだ拍子にドアを無理やり閉め、息を潜めた。

 

「ふう……ここまでくれば……」

 

しばらくすると、ユウカ先輩の怒号が遠ざかり、足音も聞こえなくなっていった。

私は少しホッと息をつく。そしてスマホを取り出して考える。

 

「誰かに助けを求めたいけど……私の味方になってくれるような人、いたかなあ……」

 

色々と思い浮かべてみても、私に手を貸してくれそうな人はどこにもいない。

 

「ま、人生はギャンブルですよね……ええい、ままよ!」

 

私はスマホに適当な番号を入力し、電話をかける。

コール音が鳴り続けるが、出る気配がない。

 

「もう……無理やり出てもらいます!」

 

咄嗟に、私は相手の電話をハッキングして、強制的に通話モードにさせた。

ゴニョゴニョとスマホを操作すると、相手の端末が応答状態に切り替わる。

 

「もしもし!もしもし!聞こえていますか?」

 

相手からの声はないが、微かに息遣いのようなものが聞こえた。どうやら繋がっているらしい。

 

「私、ミレニアムの黒崎コユキっていいます!今ユウカ先輩に追われてて、反省部屋にぶち込まれそうなんです!助けてください!」

 

通話相手は無言を貫いている。

だけど私は焦っているから、どんどん続ける。

 

「お金ならいくらでも払います!何でもしますから助けてくださいーーー!!!」

 

「ふーん、何でもするねえ?」

 

「えっ……?」

 

背後から、静かで冷たい声が聞こえた。同時に、背筋がゾクッとする。

恐る恐る振り返ると、そこには微笑むユウカ先輩が立っていた。

笑ってはいるけど、その目は明らかに笑っていない。むしろ、怒りが有頂天という感じだ。

 

「それじゃあ1週間、いえ。逃げた罰として3ヶ月反省部屋行きに確定ね」

 

「嫌だあああぁぁああ!! 助けてええぇぇえ!!!」

 

私の悲鳴が学内にこだまする。

そのとき、床に落ちていた私のスマホにSMSの着信が届いていた。

『わかった。』

それだけの短い文。だが、私を救う“何か”の予兆のようにも思えた。

 

 

―――ミレニアムサイエンススクール区内―――

 

 

区内のとある場所では、ミレニアムの生徒が面倒くさそうにため息をついていた。彼女の名前は高橋みほ。

開発、研究、授業に対して今はモチベーションがあまりなく、「サボりたい」と願望している。

 

「あーめっちゃダルい……授業も退屈だしサボりたいんだけど」

 

誰に聞かせるでもない文句をだらだら漏らしていると、背後から肩をトントンと叩かれる。振り向くと、金髪の小さな少女が立っていた。見たところ、制服はトリニティのものだ。

 

「……」

 

「はあ? 何よ。 私に何か言いたいことでもあるわけ?」

 

少し尖った口調で尋ねると金髪の少女は、何も言わずに突如大金の束を差し出してきた。

 

「はぁっ!? なによ急に、こんな大金。私を買収でもしようってわけ? そ、そんなのに乗るわけないでしょうが」

 

とは言いながらも、思わず目が釘付けになってしまう。

心の奥底では「え、ちょっと欲しい」と思ってしまっている。

さらに金髪の少女は私のミレニアム制服の袖を、クイッと引っ張る。

 

「……」

 

「え、まさか……私の制服が欲しいわけ? はあ? 何その意味不明なリクエスト」

 

すると、少女はこくこくと頷く。どうやら本気で制服の交換を望んでいるらしい。私は呆れつつも、胸の内では別の思惑を張り巡らせていた。

 

(……サボるためには、トリニティの制服に着替えて姿をくらませるのもアリかも。あっちの施設をうろついたって、誰もミレニアムの生徒だって気づかないだろうし。いや、それにしても……この金額って、さすがにヤバいほど多いわね)

 

私は大金の束にちらっと目をやり、鼻先でフンと息をつく。

 

「あー、まあ別に、私がサボるのにちょうどいい機会かもしれないし……。どうしてもって言うなら、交換してあげても……いいわよ?」

 

最後の言葉を少しだけ小声になってしまった。

まるで「別にあんたのためじゃないんだからね」と言わんばかりに、どことなくツンデレっぽい言い回しだ。

 

「……」(こくこく)

 

「じゃあ……そこにあるトイレの個室に入りなさいよ。ほら、行くわよ!」

 

言い捨てて、私は先に立ってトイレへ向かう。

金髪少女は相変わらず無言だが、トコトコとついてきた。

 

 

ーーートイレの個室ーーー

 

 

トイレの個室に入り、私と金髪少女はそれぞれ隣のブースで服の交換を始め、トリニティの制服に袖を通す。

 

「……ふん。サイズはぴったりなのね。ま、着てやるからありがたく思いなさいよ」

 

ブースから出てきて鏡を見ると、自分で言うのもなんだけどトリニティの制服が思いのほか似合っている気がする。なんだかお嬢様になったような気分ね。

一方、金髪の少女のほうも私のミレニアム制服を身につけて個室から出てきた。

 

「へえ……あんた、結構似合ってるじゃない。まあ、私のほうが似合ってるけど。ほら、じっとしなさいよ、写真撮るから」

 

私は自分が開発したカメラ機能付きのスマホを取り出して、手際よく「証明写真」をプリントする。それを手持ちの学生証にペタリと貼りつけて、金髪少女へ渡した。

 

「はい、これで少なくともミレニアムの施設内ではバレにくいはず。ま、完璧ってわけじゃないから、気をつけることね。特に生塩ノア先輩には絶対会わないようにして。あの人、マジで鋭いから一発で見抜かれるわよ」

 

金髪少女は何度かお辞儀をした後、私に向かってそっと大金の束を差し出す。私はそれを受け取って、思わずニヤリとする。

 

「ま、受け取っておいてあげるわよ。別に嬉しくなんかないけどね! ……ふん、こんなに大金があるなら、やりたい放題できそうね。久しぶりに遊んでやるんだから!」

 

そう言いながらみほ上機嫌そうに言う。

金髪少女はもう一度ペコリと頭を下げると、トイレを出て行った。

こうして制服交換はあっさり成立したのだった。

 

 

―――エンジニア部―――

 

 

「さて、今回は何を作ろうか?」

 

「そうですねぇ、何か迫力があるものがいいですよね。最近はこぢんまりした試作品が多いですし」

 

「迫力のあるものか……確かにいいかも。爆発系とか、大規模戦闘用ドローンとか?」

 

ミレニアムのエンジニア部は、いつも新しい発明や開発を行っている。

私たちメンバーは日夜あれこれ試作しては爆破したり、思ったような結果ではなく失敗したりの繰り返しだ。

そんな会話をしていると、部室の扉がそっと開いた。

そこに立っていたのは、金髪の小さな少女。1年生くらいに見える。

 

「やあ、いらっしゃい。何か作ってほしいものでもあるのかな?」

 

「……」

 

少女は何も喋らず、キョロキョロと部屋を見回している。

ひょっとして見学に来たのかもしれない。

 

「もしかして見学に来てくれたのかな?」

 

「……」(こくこく)

 

「おお! 見学者なんて久しぶりですね!」

 

「そうだね。最近は開発依頼はあっても、見学に来る人はめっきり減っていたから嬉しいよ」

 

私たちエンジニア部は顔を見合わせ、にっこり微笑む。

ちょうど新入部員も欲しいと思っていたし、こういう積極的な子は大歓迎だ。

 

「私は白石ウタハ。よろしくね」

 

「私は豊見コトリです!分からないことがあったら何でも聞いてくださいね!」

 

「私は猫塚ヒビキ。よろしく」

 

金髪の子はぺこりとお辞儀して、学生証のようなものを差し出してきた。

そこには「高橋みほ」と書いてある。

 

「高橋みほ……いい名前だね。それじゃあ、早速だけど私たちが作ってきた発明品を見せてあげようか」

 

◇◇◇

 

まず私たちはエンジニア部の実験室兼・射撃場へ高橋さんを案内し、ヒビキがあるハンドガンを取り出してきた。

 

「これは私が発明したハンドガン。見た目は普通だけどね、ちょっとした仕掛けがあるんだ」

 

高橋さんはハンドガンを手に取り、興味深げに眺める。

 

「まずはあの的を撃ってみて」

 

ヒビキに促され、高橋さんは無言のまま的を狙い、発砲。

「テッテレー♪ お見事100点!」

 

的のど真ん中に命中し、スピーカーからやたら楽しげなSEとアナウンスが流れる。

 

「このハンドガン、命中箇所に応じて音声で褒めてくれるんだよ。ちなみに100点は満点だよ」

 

無表情に見える高橋さんだけど、瞳はキラキラしている。どうやら興味をそそられたらしい。

次々と撃つ高橋さん。結果は全て100点。

「パーフェクト!」という電子音が連続し、私たちは目を見張る。

 

「……すごい腕だなあ。C&Cとかに入れたら即戦力になりそう」

 

と、ウタハが驚き混じりに感心している。

 

「でね、このハンドガンにはもうひとつ、お楽しみギミックがあってね……」

 

ヒビキは高橋さんからハンドガンを受け取り、部室の隅に向かって思い切り投げる。

 

「そしてこのボタンを押すと……」

 

バコーーーンッ!!

すさまじい爆発音と閃光が走り、あたりに煙が立ち上る。

 

「こうして自爆装置が作動するの! いざというときは証拠隠滅もバッチリ!」

 

「……」

 

呆気にとられる高橋さん。でもどこかワクワクしているようだ。

普段、こんな爆発兵器を面白そうに眺める子はなかなかいない。

 

「よかったら同じのをいくつかあげようか?」

 

「……♪」(指で3本)

 

「三つ欲しいの? えーっと……確か予備があったかな……あったあった」

 

ヒビキは机の引き出しをゴソゴソし、3つの同型ハンドガンを取り出す。

高橋さんは財布からお金を出そうとしたが、ヒビキは首を振った。

 

「お金はいらないよ。せっかく見学に来てくれたんだし、お近づきの印にね」

 

受け取った高橋さんは相変わらず無言だけど、笑顔……というよりは小動物のように目を輝かせて嬉しそうだ。

 

「それじゃあ次はコトリの発明を見てみようか」

 

◇◇◇

 

私、コトリが案内するのは、巨大なディーゼル発電機のあるエリアだ。

 

「これが私の自信作、ディーゼル発電機です! もしこのミレニアムサイエンススクール全体が落雷や何かで停電しても、これがあれば一瞬で復旧できます!」

 

ゴツい鉄の外装、大量のパイプが絡み合った複雑な構造は、見る者に“迫力”を感じさせる。

高橋さんも近くに寄って、まじまじと発電機を観察している。

 

「ちょっと動かしてみましょうか。スイッチオン!」(カチッ)

 

「ちょっと待てコトリッ!!!!」

 

ドゥルルルルルルル!!!!!!

突然の轟音が研究棟を震わせる。

 

「う、相変わらずすごい音だ……!」

 

「み、耳が……っ!」

 

ウタハとヒビキは耳を塞ぐ。高橋さんも同じように耳を塞いでいるけど……目は輝いている。

どうやらこの騒音すらも楽しんでいるようだ。

 

「まあ[ガガガガガガガ]がこんな感じに[ガガガ]」 

 

「コトリ早く止めてくれ!苦情が来てしまう!」

 

「おっと、そうですね……あはは、すみません!」(カチッ)

 

スイッチを切ると、爆音はピタリと止む。

 

「ごめんなさいね、高橋さん。どうですか?気に入ってくれましたか?」

 

「……♪」(こくこく)

 

嬉しそうに頷いてくれる高橋さん。私は思わずその頭をナデナデしてしまう。

 

「よかったー。こういう大掛かりな機械を、喜んでくれる人は貴重なんですよね!」

 

◇◇◇

 

次にウタハが紹介するのは、ロボットエリアに配置された特殊なタレットだ。

 

「この子はね、ロックオンした相手の嗜好を分析して、好みの飲み物を自動提供してくれるタレットなんだ」

 

「……」

 

ウタハは、高橋さんにコップを渡してからタレットを起動する。

タレットは小さく起動音を鳴らすと、ひとしきりカメラで高橋さんをスキャンして……

 

『分析中……コーラをどうぞ』

 

コポポポ……とコップに炭酸飲料が注がれた。

 

「へえ、意外だね。見た目がお嬢さまっぽいから、紅茶が出ると思ったけど」

 

「……♪」

 

高橋さんはニコッと笑い(声は出さないけれど)、コーラを一気飲みしている。

なんだかギャップがあって可愛い。

 

「それだけじゃなくて、戦闘モードに切り替えると――」

 

タレットの前に的を置き、ウタハが操作すると銃撃音が響いた。

 

『敵を確認、射撃します』(スガガガガッ)

 

「こんな感じで攻撃をしてくれる、弾は氷なんだけどね。」

 

「……♪」

 

またしても高橋さんの目が輝いている。まるで「もっと見せて!」とでも言いたげだ。

 

◇◇◇

 

そのとき、高橋さんの視線が、部屋の片隅に置いてある奇妙な装置に注がれた。

私たちが共同で開発した「なんでも開ける君」だ。

 

「これが気になるのかい? これはね、どんな電子扉でも“一瞬”で開けちゃう優れもの」

 

「……」

 

高橋さんは興味津々といった様子で、その装置を凝視している。

この「なんでも開ける君」は、実は奇跡的な偶然で完成した試作品で、再現が不可能と言われている。

外見は小さな箱型で、タブレットのような画面と奇妙な配線がむき出しになっている。

しかも内部のエネルギーはほぼ使い果たしていて、あと一回分しか使えない。

 

「でも今はほぼエネルギー切れで、あと一回くらいしか動作しないはず」

 

「……」

 

高橋さんは、その装置をしげしげと眺めている。

私たちは気づかず、そのまま次の発明品を紹介し始めた。

 

◇◇◇

 

「それじゃあ次に見せるのは、私が作ったモバイル型3Dプリンター……」

 

私たちはその後、いくつもの開発中のガジェットや実験装置を見せながら、楽しそうに高橋さんに説明した。

彼女は喋らないが、表情から「すごい!」「もっと見たい!」という興奮が伝わってくるので、ついこちらも熱が入る。

 

「あー、今日はいい見学者さんが来てくれて嬉しかったなー」

 

「どうだったかな? 楽しんでくれた?」

 

「……」(こくこく)

 

高橋さんは満足そうに頷き、最後に私たちにペコリとお辞儀をした。

 

「よかったら、また来てくれ。歓迎するよ」

 

「次はもっと凄いのを作りますよ!」

 

「またね、高橋さん」

 

高橋さんは再びお辞儀をして、部室を出て行く。

 

◇◇◇

 

「ふう、今日は充実してたねー」

 

「うん、久々に見学者が来てくれたから、見せ甲斐があったよ」

 

「あれ?おかしいですね……」

 

部室の中を見渡していたコトリが、首をかしげる。

 

「どうしたの? 機材に何か問題でも?」

 

「いえ、えっと……ここに置いてあった『なんでも開ける君』が……見当たらないんですよ」

 

「なに……? そんなはずは……ん?」

 

ウタハがあたりを見回すと、足元に一枚の紙切れが落ちている。

そこには――「ごめんなさい」とだけ書いてある。

 

「もしかして……高橋さん、持って行っちゃった……?」

 

ヒビキは苦笑いを浮かべる。

 

「どうやらやられてしまった様だね。何に使うか分からないが、大目に見てあげよう、今日は楽しませてもらったからね」

 

あの金髪の少女――高橋みほの笑顔を思い出していた。

“無口”だけど、“表情”はとても豊かな不思議な子。彼女があの装置をどう使うのか、ちょっとだけ興味がある。




誤字の報告、感想ありがとうございます。
正直上手く小説出来ている自信ありませんが、楽しんでいただけたら幸いです。
キャラの喋り方が変などもありましたら教えてください。
黒歴史をこれからも投稿を頑張ります。
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