ーーーゲーム開発部ーーー
「……よし、これで大丈夫……かな」
私、花岡ユズはゲーム開発部の部室で、パソコンに向かって黙々とプログラミングをしていた。
新しく作るゲームのコードを調整しなければいけないのに、部員の才羽モモイと才羽ミドリは新作ゲームの発売日という理由で、さっさとお店に買いに行ってしまった。
「2人とも……期限が近いのに大丈夫なのかな」
そうぼやきながらもキーボードを叩いていると、廊下の方から足音が聞こえてきた。もしユウカ先輩だったら、作業をちゃんとしているか問い詰められるかもしれないし……でももし知らない人だったらどうしよう……。
足音はどんどんこちらへ向かってきているようだ。
「(ど、どうしよう……知らない人だったら……)」
私はとっさに、部室の片隅にあるロッカーに飛び込んで隠れる。
部室のドアが開き、誰かが入ってくる音がする。息を詰めて様子をうかがっていると、足音の主は部室の中をキョロキョロ見回し……私が隠れているロッカーを開けてきた。
「えっ……あ、あわわわ……!」
ロッカーの扉が開かれ、思わず変な声をあげてしまう。そこにいたのは、金髪の小さな女の子だった。どこかお嬢様っぽい雰囲気がある。
彼女は私の顔を見て目を丸くしていたが、すぐにやわらかな笑みを浮かべて、なんと私の頭をぽんぽんと撫でてくる。
「……」(にこっ)
「あ、あぅ……」
撫でられるなんて予想外すぎて、どう反応していいかわからない。恥ずかしさで頭がぼーっとしてきた。
しかも足の力が抜けてしまい、ロッカーの中で倒れそうになる私を、その女の子が支えてくれて……そのまま椅子へと座らせてくれた。
「あ、ありがとう……」
ほっとしたのも束の間、彼女は私を椅子に座らせると、自分も横に腰かけて私の頭を自分の膝の上に乗せてきた。いわゆる膝枕だ。
「わ、わ、私、大丈夫、ですから……!」
「…♪」
女の子はまったく動じる様子もなく、私の頭をそっと撫で続ける。
──これ、なんだか子ども扱いされてない……? でも、撫でられていると不思議と心が落ち着いてくるのがわかる。自分でも戸惑うくらい、ふわふわとして眠くなってしまいそうな、優しい手つきだった。
そこへガチャリと部室のドアが開く音が聞こえた。戻ってきたのは、ゲーム開発部の姉妹コ、才羽モモイと才羽ミドリだ。
「ユズ戻ったよー! ……ってあれ? 誰かいる?」
「本当だ、こんにちは」
2人とも、私に膝枕をしている女の子を見て目を丸くしている。
膝枕されている私を見つけると、少し呆れ顔になりながらも興味津々らしい。
「ユズ、いたんだ! ……何で膝枕されてるの?」
「こ、これはその……」
説明しようとしても、金髪の女の子がまた頭を撫でてくるせいで頭がぼんやりしてしまう。
なんだろう、この撫で方。本当に安心する……。
「珍しい、ユズちゃんがここまで人にべったりするなんて」
「わ、私はそんなつもりは……でもこの子が、そうさせるというか……」
「嫌なら逃げればいいじゃん?」
「そ、そうなんだけど……何だかこの人に撫でられると心が落ち着いて……うぅぅ」
言いながらも、私は女の子の撫でる手を拒めないでいる。なんだか不思議と安心感がある。
「それはそれとして……あなた誰? どうしてゲーム開発部に?」
モモイが身を乗り出すように尋ねると、女の子は生徒手帳をすっと差し出してくれた。
名前欄には“高橋みほ”と書いてある。
「ふーん、高橋みほ……か。私は才羽モモイ! こっちは妹の才羽ミドリ!」
「よろしくお願いします、高橋ちゃん」
「で、そこに膝枕されてるのが花岡ユズ。ゲーム開発部の部長だよ」
「う、うぇ……あ、よろしくお願いします……」
「…♪」
高橋さんはユズの頭を撫でながら、お辞儀をする。ずっと黙ってはいるけど、人見知りという雰囲気でもない。むしろユズには積極的にスキンシップをしているし、不思議な子だなあ。
「ねえねえお姉ちゃん」
「なに? ミドリ」
「もしかして高橋さんは、部活動の見学に来たのかもよ」
「見学? なるほど!」
私たちゲーム開発部は部員が少ないから、もし高橋さんを勧誘できればゲーム開発の助けになるかもしれない。なにより、こうしてゲームに興味を持って来てくれるなら大歓迎だ。
「よーし。なんとしてでも入部してもらおう!」
「うん、そうだね」
「それに、高橋さんはユズにメロメロみたいだし、ユズの“色仕掛け”で……!」
「さすがにそれはやめたほうがいいよ、お姉ちゃん……ユズちゃんが耐えられないと思う」
「だよね。でもほら、ゲーム開発部らしく、まずは一緒にゲームをプレイして仲良くなればいいんじゃない?」
ミドリはそう言うと棚から一本のゲームを取り出した。タイトルは**『大乱闘!モモフレンズスタジアム』**。
いつも4人対戦で盛り上がれる定番ソフトだ。
「高橋ちゃん、良かったらこのゲーム一緒に遊ぼ? みんなでできるし、操作も簡単だよ。やったことある?」
高橋さんは首を横に振る。どうやら初見らしい。
「そっか、それじゃ練習モードで操作方法を教えるね」
「…」(こくこく)
------
<練習モード>
「そうそう、ジャンプボタンはそこ。必殺技はここのボタンを押しながら……」
モモイとミドリが操作のコツを教えていくと、高橋さんはすぐに慣れていく。
ちょっと見ただけでボタン配置を覚え、相手を華麗にコンボで吹っ飛ばしている。
ユズは感心そうに眺め、私も「初心者とは思えない……」と心の中で呟く。
「凄いねえ、高橋ちゃん。これだけできればお姉ちゃんにも勝てるんじゃない?」
「私は初心者に負けるほど下手じゃないよ! 見てろー!」
「じゃあお姉ちゃん、高橋ちゃんと対戦してみなよ。私は正直、高橋ちゃんが勝つに一票かな……」
「なにをー! 言ったねミドリ! 高橋、私と勝負だよ!」
「…」(コクコク)
モモイはコントローラーを握りしめ、負けじと気合い充分だ。
------
<対戦:モモイ vs 高橋みほ>
「ぬっ! ぐっ! ええーっ! そんなのアリ!?」(ブンブンッ
「……」(サッサッ
モモイは必死の形相でコントローラーを振り回すけど、ことごとく高橋さんの攻撃を避けられ、逆に絶妙なタイミングで反撃を喰らっている。
挙げ句の果てにはモモイのコントローラーが高橋さんに当たりそうになるのだが、不思議なほど高橋さんはスッと身をかわしてしまう。
• 結果:
• 1位:高橋みほ
• 2位:才羽モモイ
「うわぁー! 負けたー! 嘘でしょ、初心者じゃなかったの!?」
「おめでとう、高橋ちゃん」
「お、おめでとうございます、高橋さん」
「…♪」
高橋さんはゲームが終わるとまたユズのところに行き、頭を撫で始めた。
ユズは頬を赤らめながらも、されるがまま。なんだか姉妹みたいな雰囲気になっている。
「それじゃあ、今度は私たち4人で乱闘しようよ。」
「今度こそ……今度こそ勝ってみせる!」
「が、頑張ります……!」
------
<4人対戦:ユズ・高橋・ミドリ・モモイ>
• 結果:
• 1位:花岡ユズ
• 2位:高橋みほ
• 3位:才羽ミドリ
• 4位:才羽モモイ
「また負けた……! みんなひどいよ~、全員で私を狙ってくるなんてさぁ!」
「だって最初に落ちそうな人を狙うのは定石でしょ?」
「弱肉強食ってやつです」
「うわああん、私だって本気出してるのにー!」
床をバンバン叩いて悔しがるモモイをよそに、ユズと高橋さんはどこか和やかな空気だ。
高橋さんは初心者とは思えないくらい上手くなっているし、ユズもさすが部長だけあって腕前はピカイチ。
「やっぱユズちゃん強いね。高橋ちゃんも短時間でここまで上達するなんてすごいよ」
「そうですね。ちょっとしかプレイしていないのに、まるでゲーム慣れしてるみたい」
「…♪」
褒められた高橋さんは嬉しそうに笑みを浮かべる。しかし、口はまだ開かなかった。
それにしても、何でユズちゃんにはあんなに甘えまくるんだろう。ずっと撫で続けているし……。
「ね、高橋ちゃん。もし良かったらゲーム開発部に入ってみない? 部員が少なくて困ってるんだ」
「さんせーい! 私もまた高橋とリベンジマッチしたいし! 勝ち逃げは許さないから!」
「えっと……私も、入ってくれたら嬉しいです」
モモイ、ミドリ、ユズの3人で声をそろえて勧誘するが、高橋さんは少し考えるように首を傾げたあと、申し訳なさそうに首を横に振った。
「そっか……残念だな」
「えーっ、なんで! ほらユズ、ここはユズの出番でしょ? ユズにメロメロなんだから、こう……ハニートラップ的な!」
「は、ハニートラップなんて無理だよ! そんなこと出来るわけないっ!」
「やるったらやるの! こう、上目遣いで『お姉ちゃーん』とか言えばイチコロだよ!」
「お姉ちゃんやめなよ……」
モモイはユズの背中をぐいぐい押し、高橋さんの前に立たせる。
高橋さんは困った顔をしているけど、ユズも本気で戸惑っている。
「えっと……入部、してくれませんか……お、お姉ちゃん……?」
「……!」
高橋さんは思わずユズをぎゅっと抱きしめ、その頬にすりすりし始めた。
ま、まさか本当に効いてるの……? こちらが目を丸くしていると、モモイはガッツポーズ。
「やったー! これで部員ゲットだ! ユズよくやった!」
「ふ、ふえぇぇ……」
しかし、抱きしめられている高橋さんの目には、どこか涙のようなものが浮かんでいる。
嬉し泣きなのか、それとも別の理由があるのか……。
突然、部室の扉がバタンと開き、早瀬ユウカ先輩が入ってきた。
「ゲーム開発部! いるわね!」
「げっ、ユウカ……!」
鋭い目つきで部室を見回し、真っ先にモモイのところへ詰め寄る。
「またゲームばっかりやってたんでしょう! 実績を作らないと廃部にするって言ったわよね!!」
「き、今日はちゃんと理由があるんだよ! ま、勧誘……というか、見学してもらってたんだ!」
「見学? 言ってごらんなさい」
「こ、この子! 高橋さん! ──あ、ちょっと高橋さん、ユズから一旦離れて……!」
「…」
部室の中央で抱きしめていた状態だった高橋さんは、ユズを名残惜しそうに離れると、ユウカ先輩のほうへと視線を向ける。
ユウカ先輩の目に映ったのは、金髪で可愛らしい小柄な女の子。涙目で潤んだ瞳は、どこか訴えかけるようでもある。
「あなた……名前は?」
「……」
高橋さんは生徒手帳を見せる。
高橋みほという名前に偽りはないようだが、ユウカ先輩は眉をひそめる。
「ふーん、高橋みほ……か。私は早瀬ユウカ。ユウカって呼んでいいわよ」
「…」
高橋さんは小さくお辞儀をする。
モモイとミドリは安堵の表情だ。嘘じゃないと証明できたから、ユウカ先輩の怒りも少し和らいだようだ。
「……ま、勧誘活動なら部活動の一環と見なしてあげるわ。今回は許してあげる」
ユウカの言葉に、モモイはほっと胸を撫で下ろした。
すると、高橋さんがガラケーを取り出してユウカに画面を見せる。
「コユキの写真じゃない。コユキに用があるの?」
「…」(こくこく)
「そう……あの子は今、反省部屋送りで外部との面会は禁止されてるの。悪いけど、今日は会えないわよ」
高橋さんの瞳が潤んでいく。
その視線に耐えきれなくなったのか、ユウカ先輩は視線をそらしつつ息をつく。
「……まあ、少しくらい会話するだけなら、特別に許可してあげてもいいわ。私も今からコユキに食事を届けようと思っていたところだから」
「…♪」
高橋さんは一気に顔を明るくし、深々とお辞儀をする。
「じゃあ私と一緒に来て。コユキのところまで案内してあげる」
「…」
高橋さんは手で「ちょっと待って」のジェスチャーをして、紙に何やら文字を書き、モモイたちに差し出した。
ユズにも小さなメモを渡すと同時に、最後にユズを抱きしめる。…また撫でてる。
その様子をユウカはじっと見つめていたが、何やらスマホを取り出し、こっそり写真を撮っている。
「ユウカ、それ盗撮じゃないの……?」
「そ、そんなんじゃないわよ! これは部活の実績、そう、ちゃんと活動してた証拠のための記録よ!」
「ふーん……まあいいや」
モモイが呆れた目でユウカを見上げる。ユウカは咳払いをひとつ。
「と、とにかく! 高橋さん、コユキが待ってるわよ。早く行かないと食事抜きになっちゃうかもしれないから」
「…」
高橋さんはもう一度ユズを名残惜しそうに見つめたあと、ユウカ先輩のあとをついて部室を出て行った。
扉が閉まる瞬間まで、しっかりユズを見つめていたのが印象的だ。
「ねえ、もらった紙には何が書いてあるの?」
モモイがメモを開いてみると、そこにはモモトークのIDらしき文字列が記されていた。
「え、これ、モモトークのIDか……」
「とりあえず登録してみようよ、お姉ちゃん」
「う、うん」
私たちは急いでスマホを取り出してIDを検索すると、アカウント名は**「NO NAME」**と表示されていた。
「……これが高橋ちゃんのモモトークなのかな?」
「一応メッセージ送ってみよう」
ーーーモモトーク:ゲーム開発部グループーーー
モモイ
『やっほーモモイだよ! 高橋さんだよね?』
NO NAME
『はい』
ミドリ
『良かった~。名前欄がNO NAMEだから違う人かと思っちゃったよ』
NO NAME
『申し訳ない。』
モモイ
『これからもよろしくね、高橋ちゃん』
NO NAME
『はい。それと……ユズをちゃん』
ユズ
『は、はい。何でしょうか?』
NO NAME
『ごめんね。撫でたり、抱きしめたりして。ユズを見ていると、少し懐かしい気持ちになってしまったから』
ユズ
『わ、私は気にしてないです。むしろ、撫でられるのも抱きしめられるのも……悪くなかったので』
NO NAME
『ありがとう。それと……先に謝っておく。ごめんね』
モモイ
『えっ、どういうこと?』
------
そこまで打ち込んだ後、既読がつくことはなく、**高橋みほ(仮)**の画面は沈黙してしまった。
最後に言った「ごめんね」は、いったい何に対しての謝罪だったのか──私たちはすぐに知ることになった。
最近は執筆速度が遅くなりました。
しかしシーシャと葉巻を吸いながらのんびりと考えております。
誤字、脱字などがありましたら
ご報告ください。
また感想、評価などしてくれたらありがたいです。
これからも黒歴史を執筆していきます。