危険な勧誘   作:ダークネスドラゴン

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とても長いです。


どうか、最後までお付き合いください。






崩壊する楽園

 

時は遡り、数十分前…

 

 

「誰か助けてー!!」

 

 

エルザとジェラールの戦いの混乱に乗じてミリアーナの手から何とか逃れた猫のハッピーは楽園の塔の中を飛んでいた。目的は勿論、助けを求める為だ。

 

塔の中を飛んでいるハッピーの耳に騒ぎが聞こえてくる。

 

 

「地下の方が煩い、ナツがいるのかな…」

 

 

きっとナツ達が自分達を助けに来たんだろうと思ったハッピーは下の階へと向かっていった。

 

 

「地下への通路って何処だろう」

 

 

ハッピーは地下への道を探していた。焦りで中々見つからなかった。魔水晶で地下への道が塞がれてしまったのだ。ハッピーは焦り始めた。諦めて外に助けを呼ぼうと決意し、外に出ようとした。

 

その時だった。

 

 

ドガアッ

 

 

地下からの魔水晶を破壊して1人の人物が出て来た。その顔にハッピーは見覚えがあった。

 

 

「お前は…」

 

「ん?5日ぶりだな…」

 

 

下を見ると大量の衛兵達が倒れていた。どうやら彼は楽園の塔の人達の敵らしい。

 

突然現れた人物に困惑しながらも味方だと悟ったハッピーは状況を説明するのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

楽園の塔では最後の戦い、ジェラールとブルーの戦闘が行われていた。

 

 

流星(ミーティア)!!」

 

闇の光(ダークネス・レイ)!!」

 

 

星の光と闇の閃光がぶつかり合う。ぶつかった2人は衝撃で火花を散らしながら、互いの身体を削り合う。

 

開始早々速度での勝負となった。眼に見えない程のスピードでぶつかり合う。2人の速度はほぼ互角だった。

 

故に勝負は肉体の強さと魔力の高さで決まる。

 

 

「くっ…」

 

 

ジェラールの速度が下がって来た。ぶつかり合っていく内にジェラールは消耗していた。ブルーの肉体の方がジェラールのそれより圧倒的に強いのだ。ブルーの揚力は素の状態でジェラールよりも力が強い大柄なラクサスを吹き飛ばす程の強さである。身体のぶつかり合いではジェラールに勝ち目は無かった。

 

 

「隙だらけだジェラール」

 

「がはっ…」

 

 

闇の閃光がジェラールを撃墜した。ジェラールは魔水晶を破壊しながら下の階へと落ちていく。

 

 

「ぐっ、うっ…なっ…」

 

 

ゴオオオオオッ

 

 

ジェラールが上を見上げた時には闇の炎が迫っていた。漆黒に燃え上がる火球。

 

ブルーの魔法、闇の黒炎弾(ダークネス・フレア)がジェラールの目の前に来ていた。

 

 

(ミーティ)…ぐああああああああっ!!!」

 

 

咄嗟に魔法で躱そうとしたが間に合わず、魔法が直撃する。黒炎に焼かれるジェラール。炎はジェラールを焼くだけでなく塔をも破壊していく。

 

 

「ぐっ…俺が8年もかけて作り上げてきた楽園の塔を…!!」

 

「そいつは残念だったな。俺は作るのは苦手だが壊すのは得意なんだ」

 

「ぐっ…許さん!!」

 

 

塔の魔水晶を破壊されたジェラールは怒る。しかし、黒炎弾に焼かれて身体が思うように動かなかった。

 

 

「くっ…こうなったら、お前に罪をなすり付けてやる!!」

 

「!!」

 

 

ジェラールは魔法陣を発動しようとする。今までの魔法陣とは様子が違う。破壊系の魔法。様子を見ていたエルザが叫んだ。

 

 

「あれは煉獄砕破(アビスブレイク)!!塔ごと消滅させる気か、ジェラール!!」

 

「また8年、いや、今度は5年かけて創り上げてやる」

 

「貴様、ショウ達の労力を無駄にする気か!!」

 

「はーはっはっはっはっ!!所詮は奴ら等、俺の駒に過ぎない。今度はもっと良い手駒を用意して楽園を創り上げる!!待ってろ、ゼレフ!!」

 

 

魔力が込もってきたジェラールが魔法を発動させようとする。

 

だが、それを通すわけには行かない。ジェラールが魔力を込めてる間にブルーも魔法陣を発動させた。相手の魔法に対して発動する魔法。天から闇の魔法陣が光る。

 

 

「させるか、電闇石化!!」

 

「なっ、ぐああああああああ!!!」

 

 

天から闇の電撃が落ちて来る。そしてその雷はジェラールの魔法陣を粉々に粉砕した。無事ジェラールの禁忌の破壊魔法を封じる事が出来た。

 

 

「馬鹿な…、俺の煉獄砕破(アビスブレイク)が…」

 

闇の電撃波(ダークネス・サンダーフォース)!!」

 

「ぐああああああああ!!」

 

 

上からジェラールに闇の電撃波が命中する。ジェラールはまともにくらい階層を突き破った。再び魔水晶が破壊される。

 

落ちたジェラールはその場で動かなくなった。

 

ブルーはその前に立つ。

 

 

「もう塔がこれだけ破壊された。お前はもう支配者になれない。投降しろジェラール。お前に勝ち目は無い」

 

「くっ…」

 

 

ジェラールは震えていた。だが、しかしやがて動きが止まり、そのままの姿勢で一言。

 

 

「降参だ、お前の勝ちだ、牢獄に連れて行け」

 

「ジェラール…、すまない、そうさせて貰う」

 

 

俺はそのままジェラールに近づいた。上の階からエルザと猫のハッピーが降りてくる。

 

 

「ブルー…」

 

「なんだ」

 

「最後に俺の頼みを聞いて欲しい」

 

 

ジェラールは力を振り絞って起き上がろうとして、そのまま倒れた。更に近づいたブルーにジェラールは小さな声でこう言った。

 

 

「エルザと話させてくれ、少しだけ言い残した事がある」

 

「分かった。エルザさん、ジェラールが貴方に話す事があるみたいです」

 

「ジェラール…」

 

 

エルザはジェラールに歩み寄った。ジェラールは両手で起き上がろうとするが起き上がれない。エルザはそんな彼の身体を支え、そっと起こした。ジェラールはエルザに寄りかかった。

 

 

「エルザ、俺はお前に言いたいことがある」

 

「なんだ…」

 

 

掠れ声で話すジェラールにエルザは距離を縮め、彼に耳を向けた。

 

 

「エルザ、済まなかった。今やっと正気に戻ったんだ」

 

「ジェラール…」

 

「俺はずっと闇に取り憑かれていた。8年前、俺が魔法教団に捕まった時、ゼレフの亡霊が俺に語りかけたんだ」

 

「…」

 

 

一言一言、小さな声で1つずつ思い出すようにジェラールは呟いた。エルザはそんな彼の言葉を何も言わずに聞いていた。

 

 

「ゼレフは俺に呟いた。真の自由が欲しいかと…。俺はその時思ったんだ。ゼレフについていけば俺は自由の国を創れるんだと。俺はその為に1人選ばれたのだと思った。自由になれないならその場所を創り上げるしかないと思った」

 

「ジェラール…」

 

「8年間、それだけを信じて楽園の塔を創り上げた。Rシステムさえあれば俺達は自由になれると信じて疑わなかった。自由さえ手に入るのなら全てを犠牲にする。その為に俺は生きていた」

 

「……」

 

「だが、1つだけずっと俺の心に引っ掛かっていた事があった。それは、エルザ、お前の事だ」

 

「私だと…」

 

「そうだ、俺はお前を忘れられなかった。俺の中でずっとお前は俺の仲間だった。8年前も、今もだ。俺は一度としてお前を忘れた事が無い」

 

「……」

 

 

掠れ声で話すジェラール。その姿は全てを失った人であるかのようだった。

 

 

「ずっと思っていた。もし楽園を創り上げた後にお前と一緒だったらと。俺の隣にお前が居てくれればと願っていた。だが俺がお前にした事を思い出す度に無理だと思い知らされた。俺は罪人だ」

 

 

エルザから離れて1つの魔水晶へと向かうジェラール。

魔水晶に片手を突っ込んだ。

 

 

「俺はずっと闇に取り憑かれていた。正気じゃなかった。だが信じて欲しい。俺はお前との時間を忘れた訳じゃない」

 

「ジェラール、お前、自ら魔水晶(ラクリマ)に…!!」

 

 

エルザが思わず声を上げた。魔水晶がジェラールを侵食し始めた。ジェラールの身体は徐々に魔水晶へと吸い込まれていく。

 

 

「最後にそれだけを言いたかった。もう直ぐこの塔は崩壊する。俺が塔の魔力と同化して時間を稼ぐから2人共逃げてくれ…」

 

「っ…待て、待つんだジェラール!!」

 

 

彼女は駆け出した。エルザはジェラールに抱きついた。そのままジェラールを引きずり出した。

 

そして、その身体を抱きしめた。

 

 

「エルザ…」

 

「ジェラール、お前が死ぬと言うのなら、私も共に行く」

 

「何を言って…」

 

「私はお前を救えなかった。その為の罪滅ぼしだ。ずっと外にいただけで何も出来なかった…」

 

 

エルザはより強くジェラールを抱きしめた。ジェラールは驚いた様子で、しかしエルザの身体を抱き返す。

 

 

「俺は…」

 

「何も言わなくて良い。お前がこの世から消えると言うのなら私も行く。私はお前の味方だ」

 

「俺は救われたよ…」

 

 

ジェラールは小さく呟いた。エルザを抱き締めたまま、一度眼を閉じる。

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

「くっ…、ははははははっ…!!!」

 

 

そのまま立ち上がり、大声で笑い出した。

 

 

「ジェラール…!?」

 

「ふははははは、愚か者め!!拘束蛇(バインド・スネーク)発動!!」

 

「ぐっ…」

 

 

突如、エルザの身体に黒い縄のような物が走った。エルザは動けなくなる。

 

 

「くははははっ!!こんな簡単に引っ掛かるとはな!!どうだブルー!!エルザは取り返したぞ!!」

 

「……!!」

 

「ジェラール!!お前、まだそんな事を!!」

 

 

魔法でエルザを拘束したジェラールは嗤う。

 

 

「くくくっ…動くなブルー、一歩でも動いたらエルザを殺す」

 

「……」

 

「卑怯だぞ…!!ジェラール…!!うぐっ…」

 

 

エルザの首を絞めるジェラール。ブルーは何もせずに立っていた。

 

 

「そのまま動くな…絶対だぞ…、動いたらこの女の命は無いと思え…」

 

「……」

 

「くくくっ…終わりにする。せめてお前に似合うこの魔法で殺してやろうか。無限の闇に堕ちろ!!ブルー・インフェルノ!!」

 

 

ジェラールが魔法陣を発動させる。光源とは逆に影が伸びた。物理法則を無視するその魔法には殺傷能力の高さが伺える。

 

 

「天体魔法、暗黒楽園(アルテアリス)…」

 

「くっ…やめろ…、ジェラール…!!」

 

「黙ってろエルザ。あの男を殺したら儀式の再開だ。受けろ、我が魔力!!」

 

 

ジェラールは漆黒の大きな魔力砲を俺に放出する。辺りの魔水晶を破壊しながら、ブルーの方に魔法が飛んで来た。

 

 

ドオオオオオオオッ

 

 

辺りが黒く爆発する。魔水晶は破壊され、塔が崩れる。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ジェラールは魔法を放った方向を見詰める。

 

やがて、暗黒楽園の魔力が消えると視界が晴れてきた。

 

ジェラールとエルザの眼にブルーのいた場所が映る。

 

 

「なっ…ブルー!!」

 

 

エルザが叫んだ。そこにブルーの姿は無かった。評議員の服だけがボロボロになって焼けていた。

 

 

「くくくっ…、ははははははっ…!!粉々に散って行ったか!!つまらん、実につまらんよブルー。こんなに呆気ないとはな!!」

 

「くっ…、くっ…」

 

 

エルザは震えだした。あまりの事に涙を流した。しかし彼女は動けない。ジェラールが再びエルザを振り返る。

 

 

「くははははっ、そう泣くなエルザ、直ぐにお前も同じ場所に連れて行ってやる。奴のような犬死にではなくゼレフ復活の代償としてな!!」

 

「それは無視出来ないな」

 

ドガアッ

 

 

突如、声が聞こえたと思うと、ジェラールは吹き飛ばされていた。魔水晶に彼の身体が激突する。

 

 

「ぐっ…、なっ…」

 

 

痛みで震えながらジェラールが顔を上げる。エルザの横には、絶対にそこにはいない筈の、ついさっき殺したと思っていた人物が立っていた。真紅の眼を光らせて。

 

 

「何故だ!!さっき消した筈だ!!何故お前が生きている…!!ブルー!!」

 

「魔法の爆発と影に隠れて瞬間移動させて貰った。これで良いか?」

 

「ブルー…!!」

 

 

エルザが涙を流しながらブルーを見上げる。ブルーは無傷。動きに支障は無さそうだった。

 

 

「お前、人間なのか…!!」

 

「そうだな、俺は人間だが、俺の中には人でない何かがいるとだけ言っておく」

 

「ふ、巫山戯るな!!魔法発動、六連星(プレアデス)!!」

 

 

ジェラールは魔法を放った。流星群のように6つの魔力砲がブルーに襲いかかる。ブルーの眼に六連星の光が映る。

 

その片腕に闇の魔力を纏った。

 

そして…

 

 

ドガガガガガッ

 

 

「なっ…」

 

 

ブルーはジェラールの魔法を全て腕で弾き飛ばした。弾かれた六連星が魔水晶に激突し、破壊していく。

 

 

「馬鹿な!!天体魔法だぞ!!全部片手で弾き飛ばしただと!!」

 

「ジェラール…今終わらせてやる」

 

 

一気に閃光になった。闇と真紅が混ざった光。それは聖十大魔導士のジェラールの眼にも見えない速度で彼に突撃した。

 

ジェラールは吹き飛ばされる。ブルーは光となってその真下に瞬間移動の速度でジェラールの真下に移動。そして蹴り上げた。ジェラールは防御の姿勢すら取れない。そのまま上の階の魔水晶を破壊しながら突き進んでいく。更に追撃をかけるべくジェラールに突撃するブルー。

 

 

「うあああああああ!!」

 

「俺は決めたんだ、必ず妖精の皆に恩を返すと、そしてジェラール、お前を止めるって!!」

 

「があああああっ!!」

 

 

ジェラールを吹き飛ばす。

 

そのまま塔の天井を突き破る。ジェラールが塔の外まで吹き飛ばされた。ブルーとジェラールの距離が少し離れる。

 

 

「俺はお前にこれ以上の罪を犯させない!!」

 

「くっ…、がはっ、がはっ…、流星(ミーティア)!!」

 

 

攻撃してくるブルーにジェラールは咄嗟に魔法を発動し、塔から離れ、逃げようとする。ブルーの眼が真紅に光る。

 

そして…

 

 

闇の光(ダークネス・レイ)!!」

 

「がはっ!!」

 

 

中央が真紅に光る闇の閃光となり、ブルーはジェラールを撃墜した。そのまま彼に追いつき、再び拳を繰り出す。

 

 

「受けろ!!」

 

「ぐああっ!!」

 

 

再び吹き飛ばされるジェラール。今度は塔の壁を破壊し、再び塔に戻される。ブルーは下の方をちらりと見ると再び閃光となって塔の中に戻った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「何だ…あれ」

 

 

グレイが呟いた。塔の外では楽園の塔に辿り着いた妖精の尻尾の皆がブルーとジェラールの戦いを見ていた。中央が真紅に光る闇の閃光が星の光となったジェラールを撃墜した。

 

 

「あれ、絶対、ブルーだよね」

 

「ああ、間違いねえ…」

 

 

ルーシィの言葉にグレイが頷く。ナツも船酔いと数日前のブルーの激闘で動かない身体を起こしてその光景を見ていた。

 

 

「私達、どうすれば良いんだろう」

 

「ブルーがいるならエルザはとっくに助かってるだろ。外にいる兵隊共を倒して行くぞ」

 

「そうね、開け、獅子宮の扉!!」

 

「やあルーシィ、君の白馬の王子の登場だよ」

 

 

ルーシィは黄道十二門の金色の鍵からレオ(ロキ)を召喚する。ロキは眼の前の光景を見ると状況を直ぐ察した。

 

ルーシィ達に気付いた衛兵が突撃してくる。

 

 

「ロキ、お願い!!」

 

「任せて、レグルス・インパクト!!」

 

「アイスメイク・ランス!!」

 

「ハッピーを返せ!!火竜の咆哮!!」

 

 

ナツとグレイ、ロキの猛攻で眼の前の敵は次々と粉砕されていく。

 

 

塔の中から何かが飛んで来た。

 

 

「ナツ〜!!」

 

「ハッピー!!」

 

 

背中から翼を生やしたハッピーがそのままナツに抱きつく。

 

 

「エルザは無事だよ。それにあの強い人もいる」

 

「よっしゃあ!!流石だエルザとブルーだ!!」

 

「だっはっはっ、ざまあ見やがれ!!」

 

「凄いね、流石は僕のライバル」

 

「良かった!!もう、本当に心配したんだから…」

 

 

エルザの無事を喜ぶ一同。

 

 

「ブルーには外で待ってろって言われたよ」

 

「なら、丁度良いわね。ついでに見張りの奴らを全部やっつけてやりましょ」

 

「思いっ切りやってやるぜ!!」

 

 

外の騒ぎを聞き付けた衛兵がナツ達に向かってくる。ナツは両手から巨大な火球を作り出す。

 

 

「火竜の煌炎!!燃えろおおお!!」

 

「「「「ぐああああああああ!!!」」」」

 

 

しかしナツ達はいとも簡単にそれを迎撃した。妖精の尻尾の精鋭チームにとって楽園の塔の兵隊は敵では無い。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「がはっ…」

 

 

ジェラールは倒れていた。彼の身体はボロボロでもう動けそうに無い。そこにブルーが降りてくる。

 

 

「馬鹿な、この俺が…」

 

 

立ち上がろうとするジェラール。しかし身体は言う事を効かない。

 

 

「こんな所で俺は止まってられない…。自由の国を作るのだ…絶望の中でゼレフは俺に呟いた、真の自由が欲しいかと…、俺は選ばれし者で…」

 

「本当にそれがお前の望む未来か?」

 

 

ブルーはジェラールを見下ろした。ジェラールは血を吐きながらも何とか魔力を込めて立ち上がろうとする。

 

 

「かつての仲間を欺き、同胞を騙し、そして人を生贄にしてまで得る自由に何の価値がある」

 

「黙れ!!俺にお前ほどの力があれば、俺は自由国家をとっくに作っていたんだ!!」

 

 

ジェラールは叫んだ。彼は自由になりたかった。例え他人の力を借りてでも。例え、人を騙しても。例え、大勢に憎まれても。そして、人を犠牲にしても自由を求め続ける。

 

 

「俺は、お前のようになりたかった!!それだけの力があれば世界を支配出来る。そして自由を手に入れられるのだ!!」

 

「…無理だ…俺は自由になれない。今の俺がそれを証明している」

 

「ふっ…その理由は俺でも分かるさ。貴様には手駒がいないからだ」

 

「仲間の間違いじゃないか?」

 

 

ブルーはジェラールに近づいた。

 

 

闇の超黒渦(ダークネス・オーバー・ホール)

 

 

そのまま魔法で彼を吸い込むとエルザのいる階へと向かっていく。

 

程なくして辿り着いた。そこには動けないエルザとジェラールが倒れていた。ジェラールは渦から落とされて動けない。魔力も空になっていた。ブルーはジェラールの前に立った。

 

 

「くっ…、負けだ…。殺せ…」

 

「そんな気はない」

 

「ふっ、なら何だ。このままラクリマに俺の身体を吸い込ませて魔力の暴走を抑える気か」

 

「ジェラール、俺からお前に1つ教える事がある」

 

 

ブルーはそう言うとエルザの方を見た。

 

 

「ふん…何を考えているのが分からない奴だ。これから拷問でもする気か?」

 

「違う、お前にも知って欲しい事があるんだ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)を…、いや、エルザさんの本当の声をだ」

 

「……」

 

闇の鏡(ダークネス・ミラー)

 

 

ブルーの両眼にそれぞれ、エルザとジェラールが映った。そして2人の身体が闇に染まる。

 

 

「はっ…」

 

「エルザさん、もう動ける…」

 

 

ブルーの声にエルザは正気に戻った。拘束蛇(バインド・スネーク)で動きを封じられていた彼女の身体が動くようになっていた。彼女の身体からは黒い縄のような魔法が消えていた。

 

代わりに…

 

 

「くっ…」

 

 

ジェラールの身体には黒い蛇が走った。彼の身体は動かなくなっていた。

 

 

「エルザさんの魔法をお前に移し替えた。これでお前はもう動けない…」

 

「くっ…」

 

 

ジェラールは歯噛みした。これで文字通り、ジェラールは何も出来ない。魔力は空に、体力も尽き、身体の自由すら奪われた。エルザがブルーの方を見る。

 

 

「ブルー、ここは私に任せてくれないか…」

 

「……」

 

「私はジェラールに伝えたい事がある」

 

「分かった…」

 

 

ブルーは背を向けた。代わりにエルザがジェラールの方に向かってくる。

 

 

「お前をどうするかはエルザさんに決めて貰う」

 

「くっ…」

 

 

エルザはジェラールの前に立った。

 

 

「エルザ…何をす…」

 

 

バチン、と乾いた音がした。エルザがジェラールの頬を叩いたのだ。ジェラールは眼を見開いた。

 

そんな彼にもう一発。再び乾いた音が鳴り響いた。

 

 

エルザとジェラールの眼が合う。エルザはジェラールを睨んでいた。仇を見るような眼だった。

 

そして…

 

 

「この、大馬鹿物が…!!」

 

「……!!」

 

 

次の瞬間、ジェラールは抱き寄せられた。エルザの体温がジェラールに伝わってくる。エルザはガシッとジェラールを抱いて離さなかった。

 

 

「っ…何故だ…、俺はお前を、お前達を…」

 

「……っ…良い訳ない!!だが、こうせずにはいられないんだ!!」

 

 

エルザは強く抱き締める。ジェラールは動揺していた。何故自分にそうするのかが分からなかった。

 

 

「俺はお前達を消そうとしたんだぞ…!!」

 

「分かってる」

 

「魔水晶と同化させる気なら早くしろ!!俺はもう何も望まん!!」

 

「それはしない」

 

「だったら何だ!!俺をどうする気だ!!」

 

「ジェラール!!」

 

 

エルザの大きな声にジェラールはビクッと震えた。エルザは正面からジェラールを見詰める。

 

 

「私はお前に殺されかけた。私はお前達に槍玉に上げられた。それでも…」

 

 

言葉が震えだした。エルザの片方の目から涙が溢れ落ちる。

 

 

「それでも、私はお前を憎み切れない、お前がどう思っていようと、私にとってお前達は、ずっと大切な私の仲間なんだ!!」

 

 

エルザの声にジェラールは何も言えなかった。何故8年間も自分を苦しめた男を憎まないのかジェラールには分からなかった。

 

 

「くっ…ふっ…」

 

 

離れて聞いていたブルーの口から笑いがこみ上げてきた。そして彼も再びジェラールの方を向いた。

 

 

「ジェラール、分かるか?分からないよな。俺にも分からない。だが、エルザさんは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の奴らはこんな奴らなんだ…」

 

「……」

 

「俺は、お前と同じように彼女達の命を奪おうとした。2度もだ。2度目は魔力を奪い、魔道士として生きられないようにしかけたんだ」

 

「……」

 

「だが、それでも彼らは俺を嫌わなかった。それどころか俺を治療し、ギルドの中に入れてくれた奴らなんだ」

 

「…そんな事…あり得な…」

 

「あり得るんだよ。この包帯を見ろ。妖精の尻尾が巻いてくれた包帯だ」

 

 

ブルーは腕を見せる。そこには確かに妖精の尻尾の皆が彼に巻いた包帯があった。

 

 

「信じられないだろう。俺もだ。だがこれが証拠だ。こいつらの心は俺達が想像出来ないくらい自由で広いんだ」

 

「自由だと…」

 

「ああ、お前も知ってるだろう。評議員だったんだからな。妖精の奴らがどんな奴らか知っている筈だ」

 

 

ジェラールは思い起こす。ジェラールの知る妖精の尻尾は他から何を言われようと自分達の思うがままに生きる集団だった。誰に何を言われようと自分達の意思を通す人達。そんな彼らを一言で表すならどうなるだろうか。

 

‘自由’と言う2文字がジェラールの脳内に思い浮かんだ。

 

そしてそれはずっと彼が求めていたものだった。

 

ブルーの話は続く。

 

 

「それに、お前に言っておくことがある。俺がお前の部下になってお前とウルティアと仕事をしていて思っていた事だ。あの窮屈な空間にいた時の話だ」

 

「何だ…」

 

「そうだな。簡単に言えばだな…」

 

 

ブルーは少し下を向いたが再びジェラールの眼を見た。

 

 

「俺はお前とウルティアを本当の意味で俺の仲間だと思っていた」

 

「!!」

 

 

ジェラールは眼を見開いた。ブルーの話は続く。

 

 

「凄くキツかった。仕事は終わらないし、上からの風当たりは強かった。俺にとって評議院の仕事は地獄だった」

 

「……」

 

「でも、仲間がいたからここまでやっていけた。1人じゃないと思っていたから今の今までやって来られたんだ」

 

「仲間だと…」

 

「そうだ、俺にとってお前達2人は上司であるだけでなく仲間だった。こればかりは変わらない。周りがクズばかりだからそう思っただけかもしれないが」

 

 

ジェラールは言葉が出なかった。そんな彼をエルザが再度抱き締めた。

 

 

「ジェラール、勘違いはするな、私はお前を許した訳では無い」

 

「…分かってる…」

 

「お前がした事は今も、この先もずっと私は忘れないだろう。私はお前を信用してない」

 

「……」

 

「だが、それでもお前には生きて欲しい。こんな所で終わって欲しくないんだ。外の世界を知って欲しいんだ。そして、少しでも…」

 

 

より強く抱き寄せる。

 

 

「昔のお前に、優しく強くあったお前に戻って、そして私と一緒にいて欲しい」

 

 

ジェラールは思い出した。エルザと出会った頃を、名字を持たないエルザにジェラールがつけた名前があった。『スカーレット、お前の髪の色だ』そう言って笑ったあの頃を思い出した。ジェラールの眼から涙が浮かんで来た。

 

 

「ジェラール、まだ聞きたいか。私達の声が」

 

「……」

 

 

何も言えなかった。が、ふっ…と笑うとその目から涙が溢れ出した。

 

 

「もう充分だ…俺はもう…」

 

「ジェラール…」

 

 

エルザは涙を溢すジェラールの顔を胸に抱き寄せた。体温が伝わってくる。これが、本当の仲間なのか…とジェラールは感じた。その胸で涙を流し続けた。

 

ブルーは胸を撫で下ろした。

 

 

その時だった。

 

 

ガラガラッ

 

 

ラクリマが落ちる音がする。

 

3人で上を見ると魔水晶が落ちて来た。

 

 

「Rシステムが…」

 

 

エルザが呟いた。塔が遂に崩れ出したのだ。

 

 






楽園の塔編が終わり切れなかった。


また投稿します。


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