……実際あれ、原作の時点では全部でいくつあるんだろ。
それはさておき、色々決着する後編です。
「……よぅVチャン。休めたか」
「ちょっとだけね。ありがとグリフォン」
「ちと無理させちまったしな。……ところで、名前の訂正はしなくていいのかよ」
「諦めた。貴方わりと頑固なんだもん」
悪魔スロースから逃げた先は、地下水道だった。
そこも根だらけで、何体もの悪魔が蠢いている有り様だった。
ただ、さっきの巨大天使やスロースほどの力はないから、何とかグリフォン達と一緒に倒して安全を確保できた。
今は水道を出て、ベンチがあるところで休んでいたところだ。
「そこの電話が繋がれば完璧だったんだけどなぁ~」
「ネロっていう人だっけ。その人が、車で助けに来てくれる悪魔狩人」
「あのバカでかい樹から落ちてぺしゃんこになってなけりゃな。……まぁ繋がらない以上は仕方ねぇよ」
ベンチに座ったまま、杖をつく。
私の膝で眠っているシャドウの体が暖かくて、ついつい抱き着いちゃう。
「相当お前のことが気に入ってんだなぁ猫ちゃん。本当に珍しいんだぜ? 詩人ちゃんの時でももうちょっとはクールだった」
「詩人ちゃん。さっきも言ってたね」
「おう。……俺達の、主人だ」
グリフォン曰く、私が拾ったこの杖はその"詩人ちゃん"の持ち物だったらしい。
彼らが捜している"本"も、そう。
「クールな奴だった。その分スカしているし、人徳もそんなんじゃない。世間一般でいうなら、割と屑だ」
「でも、そんな嫌いでもないんでしょ? じゃなきゃ、その人の杖と本を探そうだなんて思わない」
「……まぁ杖に関しちゃ俺達が馬鹿やったから、その尻ぬぐいだよ。わかった上で無謀なチャレンジをして、無様に負けたまではいい。その時のどさくさで杖が下まで落ちたのは誤算だ」
「だから気合で化けて出たって言ってたね。……そういえば、本の方は心当たりないの?」
「残念ながらな。そっちはマジでどこにあるかわからねぇ。……ま、そもそもクリフォトの根をぶっ壊して結界を壊さないと身動きがとれねぇ。まずはそこだよな」
口には出さないけど、私は寂しい。
頼る場所も人も、この街のどこにもなくなって、ずっと心細い。
グリフォン達も、きっとそうだ。
話に聞く限り、例の"詩人ちゃん"はグリフォン達にとって大きな存在っぽい。
なのにこうして別行動をしているんだ。
それだけの事情がある筈で、だから彼らも本調子じゃない。
もしかしたらお互いに寂しいのを誤魔化したいから、お互いああいう約束をしちゃったのかもね。
『……るぅ』
「起きたか猫ちゃん。ちょうどいい、そろそろ動こうぜ。これ以上は日が暮れちまう」
「わかった。……いくよ、シャドウ」
『……がるっ』
◆
休憩を終えた後も、それなりに波乱万丈だった。
地下水道を完全に脱した後も、悪魔はいろんなところで蔓延っている。
だから街を歩いている時は一時も気を抜けないし、ましてやクリフォトの根には近づけない。
近づいたら、またあのスロースに襲われちゃう。
そういうわけで、しばらくはクリフォトの根から離れた場所を散策するしかなかった。
スロースを倒すのに必要なことだからだ。
「やっと見つけた。……ホワイトオーブだ」
「オーブ?」
「悪魔どもが落とすもんでな、悪魔の血が結晶化した宝石だ。集めれば取引の通貨として使えてな。例の"掃き溜め"に行けば魔よけのおもちゃくらいはあつらえてくれるかもな」
「あまりお世話になりたくないかな……」
「つれないねぇ。……で、そのオーブにはレアものがある。特にこのホワイトオーブは俺達にとって"大当たり"だ。魔力が回復出来て、また切り札を切れるようになる」
「……っ! ナイトメア!」
「そゆこと。……これでスロースに挑む準備は整ったってわけだ!」
そして、状況は整った。
ホワイトオーブを砕いて、体に何かが満ちるのを感じる。
その不思議な全能感と共に、踵を返す。
振り向いた先には、クリフォトの根がある。
たまたまどこかの線路に入っていたのだろう。
一本道で、根が生えているところまでいける。
『――』
そしてその根の前に、奴がいた。
天魔"スロース"。
複数の腕と、六本の剣を携える化け物。
「Vチャン。俺のアドバイスは覚えているか?」
「腰がひけてちゃダメ。どうせなら前のめりに行った方がうまくいく」
「そして、軽口や皮肉を交えていたらなおイイ。……やってきな」
「……うん!」
後ろで見守ってくれるグリフォンを尻目に、私は前に出る。
不気味な沈黙を保つ悪魔、スロースの前に。
『――』
「さっきはごめんね。ちょっと化粧が乱れちゃって。だからお色直ししてきたよ」
『――』
「ついでに、貴方のお色直しもしてあげるよ。特に、その不細工でセンスのない仮面は念入りにね!」
杖を突きだし、切っ先をスロースの仮面に向ける。
さっきグリフォンに指示されたのと全く同じ動きだけど、多分これでいい。
私の意図は、正しく奴に伝わったのだから。
◆
「よくやったVチャン。その勇気に俺達も応えるぜ! いくぞ猫ちゃん!」
『がるる!』
グリフォンがきりもみ回転しながらスロースに突撃する。
シャドウも、無数の刃を伴いながらだ。
『――』
でも、スロースには当たらなかった。
まるで瞬間移動でもしたかのように後退して、二人の攻撃を回避して見せた。
「Vチャン! こいつの狙いは……」
「わかってる! シャドウ、またお願い!」
『がるっ!』
その奇天烈な動きを何度か繰り返したかと思うと、いつの間にかグリフォン達や私をすり抜けるようにして、私の背後をとった。
そうなれば、奴は背負っている六本の剣を引き抜いて私に振り下ろすだろう。
だから、そのタイミングでシャドウの力を使った回避で避ける!
「ダブルチェックのチャージ完了! さぁ俺様の電撃コンボを食らってみろ化け物ぉ!」
『――』
その間にチャージを済ませていたグリフォンが、雷撃を放つ。
さながらVの字を描くようにして相手を挟み込む機動の電撃だ。
流石にその変則的な軌道はスロースと言えど予想外なのか、奴も回避に専念してこちらへの追撃が来ない。
今がチャンスだ。
「来て、ナイトメア!」
切り札を切る。
今度は地面を破るかのようにして現れて、そのまま地上にいたスロースを吹き飛ばす。
それが今回のナイトメアの登場だ。
「今だ! 畳み掛けろ!」
『がるっ!』
吹き飛んだスロースは、そのまま地面に倒れ込む。
そこへグリフォンがまた渾身の雷撃をぶち込んで、さらにシャドウも頭部を一本の巨大な針へと姿を変えてスロースを突き刺す。
「Vチャン!」
「わかってる!」
その針を足場にしてジャンプして、魔力が宿る杖の力を解放。
さっき天使達に対してやったのと同じように杖を分裂させて、その杖をスロースにぶつける。
必殺の威力こそないけど、相手の動きを止めることならできる。
そして、その止めた時間こそが私の目的だ。
『……』
ナイトメアは、巨体故に動きが鈍重だ。
だがだからこそ、それに見合う火力を叩きだす。
だから、私が動きを止める必要があった。
「ぶちこんでやれ、ナイトメア!」
『……!』
ナイトメアの巨大な光線を照射。
突き刺さる杖で動きを封じられたスロースは、その光線を避けることはできず、そのまま光に飲み込まれた……!
これでしまいだ……!
『――』
「おいおい嘘だろ。まだ生きてやがる……!」
「……っ!」
それでも、スロースは生きていた。
仮面こそひび割れてはいるけども……あれだけの力を注ぎ込んでいたのに、仮死状態にすらなっていなかった。
「……! ナイトメアが……!」
「ここに来てガス欠か……。あとちょっとだってのに……!」
『――』
うろたえている隙に、またスロースが瞬間移動を駆使してきた。
奴が現れた先は、私の目の前……!
「まずい、避けろVチャンーーーーー!!!」
◆
「隙だらけだぜ、クソ悪魔」
『――』
次の瞬間、私は真っ二つ……になっていなかった。
私へ剣を振り下ろしていた筈のスロースは、しかし青白い大きな腕で掴み上げられていた。
「……ここで登場とか、ヒーローかよ!」
「よぉ、チキン野郎。まだ根が残ってると思って、クソみたいな壁を壊してここまで来たが、まさかお前が生きているとは思わなかったぜ」
スロースは一瞬にしてその腕から逃げ出し、それからすぐ剣を構えて腕の持ち主に襲い掛かる。
だが腕の持ち主は、赤くて巨大な剣を背中から引き抜いたかと思うと、そのまま力任せにスロースの剣を地面へ叩き潰してしまう。
そしてそのまま青白い腕を伴う右手でスロースの顔面をぶん殴って、仮面もろともスロースを吹き飛ばした。
勝負ありだ。
「貴方は……」
「ネロだ。さっき俺が電話で呼ぼうと思った相手だ。……まさか腕が生えてやがるとはなぁ」
スロースを倒したその人は、ネロだった。
短い銀髪に、青い服。
話の上では隻腕で義手を使って戦っていたらしいけど、どうやら訳ありらしい。
普通に腕が生えていた、
「そういうお前こそ、主人のことはいいのかよ? あいつ、魔界に行っちまったぜ」
「アァー……その件なんだがよぉ」
そんな人との遭遇で、何が何だがと困惑している私とは裏腹に、グリフォンはどこかばつの悪そうな顔をしていた。
てっきり軽口を叩き続けるかと思っただけに、意外だ。
「大将が、迷惑をかけた」
「……らしくないぜ。それに、そういう文句は本人にしこたまぶちこんだ。だからまぁ、気を揉むな」
でも、多分これは私なんかが介入していい話じゃなくて。
だからその件は、できるだけ刺激しないようにした。
「ところで、その大将の本を探してんだが。心当たりないか?」
「……これのことか?」
「っ! お前が持ってたのかよ……!」
「あいつに渡されてな。"次は負けん"って捨て台詞付きでな」
「なるほど。じゃあ"本"の方はお前が持ってた方がいいわな。そういうことなら俺達にも報連相してくれよなホント……」
そして。
どうやら"本"も見つかったらしい。
これでグリフォンの目的は達成ってことになる。
「グリフォン……」
つまり、これでグリフォン達との約束も終わりになる。
「謝罪が遅れて悪かった。……今回の件、結局は俺達の主人が元凶だ。あいつがクリフォトを呼び出したようなもんで、この街を滅茶苦茶にした。尻拭いもネロとダンテに任せっきりだ」
「……。でも貴方は助けてくれた。シャドウも、ナイトメアも」
「褒められたことじゃねぇよ。……あいつは、どういう形であれ魔界という地獄に堕ちた。なら俺達もそこに行くのが筋だ。その前にちょっと閻魔様に待ったをかけたのが今の俺達だよ」
「でも……!」
「そんなツラすんなよVチャン。どうせ俺達は一度死んだ身だ。今でこそ気合で化けて出てるが、いずれ時間切れが来る。未練が晴れたなら猶更だ」
「だって……!」
「……ごめんな」
思わずグリフォンの顔を見る。
嘘だって、言って欲しくて。
正直、いきなりすぎて寂しいんだ。
難しいことは私にはわからなくて、でもグリフォン達は私にとって命の恩人で。
思わず涙が滲んじゃうぐらいには、いつの間にか情が移っていて。
でも、グリフォンの顔は本気だった。
「ネロ。迷惑ついでで悪いんだが、この娘を街の外まで連れてってくれるか? 俺達はあいつのとこに戻らねぇといけねぇからよ」
「それは別にいいが……」
「こいつが何者かだって? ……探し物を拾ってくれた、ただの恩人だよ!」
グリフォンが、私の杖を奪い取る。
その時はまだうまく納得しきれなかったけど、今度こそ杖を返さなければならない時だった。
「あばよVチャン! ……スロースの奴への啖呵、かっこよかったぜ!」
『がるるぅ!』
『…………』
「グリフォン! シャドウ! ナイトメア!」
グリフォンだけでなく、シャドウもナイトメアも一瞬だけ私の前に現れて、そして消えて行ってしまった。
まるで、心にぽっかり穴が空いたかのようだった。
でも後々から気づいた。
一瞬だけでも姿を出してくれたシャドウもナイトメアも、多分私に別れを告げるために最後の無理をしたんだって。
きっとそれだけの価値が、彼らにとっての私にはあったんだって。
それに気づいた時は、ほんのちょっとだけ心が暖かくなった。
「……なんとなくは察したけどよ。とりあえず、名前を聞いていいか」
「あ、はい。……私は、V flower」
「ブイ フラワー……ややこしい名前だな」
「……遅れてやったきた一言目がそれかよニコ」
「じゃあなんて呼ぶんだ? わざわざ毎回さっきのを言う気かよ」
「それは……」
入れ替わるように、車がやってきた。
多分グリフォンが言っていた、ネロの車。
その車を見て、ようやっと安心できた。
「なら、Vって呼んでよ」
こうして、私の冒険は終わったんだ。
◆
と、まぁ。
あそこで終わっていれば、単なる出会いと別れのお話だったんだけど。
蛇足ながら、もうちょっとだけ続きがある。
あれからネロの車で街を脱出した後、色々あって私は日本に渡った。
そこで改めて音楽の道を歩みなおして、それから少しはみんなに歌を聞いてもらえるようになったんだ。
いつの間にか、ヒメちゃんとミコトくんっていう後輩もできたなぁ。
「コーヒーうまうま」
「よくブラックを飲めるよねヒメ……」
「コーヒーはブラック以外認めません。それがヒメちゃんの信念なのだ!」
「よくわからない……」
これは、そんな後輩二人と一緒にカラオケに行った帰りの話だ。
「この匂い……もしかして、悪魔?」
「あれ、どうしたんですか先輩?」
「気を付けて! もしかしたら…………え、グリフォン?!」
どこにでも駅前商店街の中で、グリフォンの羽を見た気がした。
「ごめん! 二人共先に帰ってて! 私、ちょっと用事ができた!」
「え、ちょ……?!」
「ま、待って先輩! ……V先輩!!!」
思えば、その時の二人には悪いことしちゃったかもしれない。
でもその時の私は、悪魔がいるかもしれないという恐怖と、グリフォン達にまた会えるかもしれないという歓喜で駆け出していた。
「……やっぱり悪魔か! まさかまた悪魔狩人の真似事をするなんてね!」
グリフォンの羽が消えていった方の路地に入ると、見覚えのある化け物がいた。
あの時の街にもいた虫の悪魔"エンプーサ"だ。
だから、私も背負っていたケースから魔具を取り出す。
"ネヴァン"。
厳密にはそれを模したという、ギター型の武器だ。
「さぁ、私のライブは一味違うよ! ……全員まとめてバーベキューだ!」
悪魔との縁ができてしまったのが後々心配になって、だから"掃き溜め"のお店に向かい日本の珍しい酒と引き換えに譲って貰った"魔よけのおもちゃ"。
私のような普通の人間でも扱えるようオリジナルと比べて性能を弱くしたものらしいけど、その効果は折り紙付き。
私がギターをならせば、それに呼応して雷撃を纏うコウモリを召喚できる。
後は、あの時の要領で使役して悪魔に突っ込ませるだけ。
それで悪魔に対する護身程度はできる。
エンプーサ程度なら、普通に倒せる!
「どんなもんだ!」
「いいものを見せてもらった。褒美をやろう」
「……え?」
そうしてエンプーサの群れを倒した後。
一人の男が現れた。
銀髪の男だ。
髪の毛をオールバックにして、黒いコートを身に纏っている。
そして特徴的なのは、その手に携えていた刀。
……この人も、悪魔狩人なのだろうか。
「"お前"の出番だ」
「あ、ちょ……!」
かと思えば、その人はいきなり自分の体に突き刺した。
その時の私は、もうパニックだ。
念のために備えてはいたけどまた悪魔と戦う羽目になって、かと思ったら同業者がいて、けどその同業者がいきなり自殺まがいのことをし始めたのだ。
「グリフォンの、杖……?!」
でもそれは自殺じゃなかった。
男の人は、いつの間にか姿を変えていたんだ。
黒いウルフヘアをしていて、黒いノースリーブの服を着ている。
そして何より目を引くのが、その細身の体に刻まれたタトゥーと、かつて私が使っていた"杖"。
「俺の杖だ。……"こいつら"が世話になったと聞いた」
「……っ! 貴方は……!」
「"名前などない。生まれて二日目だもの"」
その男は、左手で本を読むような動作をしながら詩を読んだ。
でもその手に肝心な"本"がないのは、多分そういうこと。
「冗談だ。Vと呼んでくれ」
「よう、久しぶりだな!」
『がるっ!』
『…………』
そうだ。
私は、また会うことができたんだ。
あの時一緒に冒険した、みんなと!
もっと他に言うことあるだろ……というツッコミはなしでお願いします。どうせ口にはしないのがあいつです。
と、いうわけで「Vと花」はこれにて以上です。
短く拙い内容でしたが、ここまでお付き合いいただけたなら幸いです。
以下、ちょっとしたおまけがあります。合わせてお楽しみください。
おまけ
ニコのレポート「V flower」
少しややこしい名前が特徴の少女だ。通称は"V"。……これもこれでややこしいんだが、当人が気に入っているんだから仕方ない。
レッドグレイブ市の音楽系の学校に通っていた学生だそうだが、そのままクリフォト出現による魔界化に巻き込まれたわけだ。
だが幸運なことに、悪魔に襲われていたところを、Vから離れて行動していたグリフォン達に救われたそうだ。
一見して普通の女の子のようだが、助けありきとはいえ悪魔がうろつく街から脱出できた辺り、気概はある方みたいだな。
……それにしても。あのチキン野郎、意外と面倒見がいい奴だったんだな。この私には何も言わずに消えやがったのは、心底気に入らないがね。