「……え?」
目的地の空き工場が目前に迫り、居ても立ってもいられず駆け出した私は、真っ先にその光景を目の当たりにして唖然とした。
「おいレッド! 勝手に一人で突っ走んなや……って、んあ?」
「そんなに急いでたら転んじゃうわよ……あら?」
私のあとに続いてイエロー、グリーン、ブルーが工場の中に入ってくる。
「こ、これは……」
そして私同様、目の前の光景に驚きを隠せていなかった。
黒い女の子が、リビディアンの妖魔……ルストを押し倒す。そんな光景を。
「ど、どないなってんねんこりゃ」
「えっと、あの黒い子も魔法少女なのかしら?」
「それも気になるが、ホワイトはどこだ? 姿が見当たらないぞ」
みんな、目の前の状況に理解が追いつかず戸惑っている。
そんな中で私は、こちらを凝視する黒い少女を見つめながら、無意識に呟く。
「……ホワイ、ト?」
……今、目の前に居るあの少女が、あのマギアホワイトだ。
なぜかは分からない。ただ、なんとなくそんな予感がしたのだ。
「はあ? ホワイトって、あの黒いのが?」
「う、うん、多分」
信じられないといった様子でイエローが私の顔をまじまじと見つめてきた。かくいう私も信じられなかった。
見た目もそうだが、纏う雰囲気もまるで違う。言った私でさえ、まだ半信半疑なのだ。
「……はぁ〜〜〜」
と、その時、黒い少女が酷く落胆した様子で、大きな大きなため息を漏らした。
「ったく、これからが良いところだってのに邪魔しやがって」
「え? え?」
一体なんの話なのか、分からないけど彼女はすごく不満げだった。
「……」
「……っ」
彼女は私たち一人ひとりを、頭の先から爪先まで舐め回すように見つめた。その視線に私は、言い知れぬ悪寒を覚えてしまう。
「キヒッ」
その終わりに彼女は、悪辣な笑みを浮かべた。
「そうだよなぁ、お前らにも散々振り回されてきたんだ」
少女はゆっくりとした動作で立ち上がり、馬乗りにしていたルストから離れる。
「───メスガキは
「「「「……!?」」」」
それから背中から漆黒の炎を立ち昇らせて、私達に悪意をぶつけてきた。
「う、うそ」
「なんやコイツ!? 急にこっち来るやんけ!」
「っ、理由は分からないが、向かってくる以上戦うしかない!」
「へ!?」
突然の展開に追い付けない私と違って、ブルーとイエローは既に戦闘態勢に入っていた。
「ま、待って! あの子、もしかしたらホワイトかも知れなくて」
「だとしたらなんや! なんもせなこっちがやられるんやぞ!?」
「そ、それは」
咄嗟に止めようとしたが、イエローに正論をぶつけられて何も言えなくなってしまう。
「キヒッ、何もしなきゃだって?」
一方で少女は、イエローの言葉を聞いて嘲笑し、
「何をしたって、お前らは俺に
そう叫びながら、私達に向かって一直線に突き進む。
「近づくなら射つ!」
「やってみろォ!」
「そうか、なら」
ブルーは弓に三本の水の矢をつがえて、狙いを少女に向けて引き絞り、放つ。
「喰らえっ、【アクア・バイト】!」
水の矢は空中で蛇となり、それぞれ軌道を変えて左右と直線の三方向に分かれる。
「ヌルいなっ!」
対して少女は、右手に黒い火の球を生み出し、それを前方に投げる。
火の球はブルーが放った水の蛇の一体を巻き込んで蒸発させ、そのままどこかへ飛び去っていく。
「それはどうかな?」
しかし、残る二体の水の蛇は、そのまま少女の背後に回り込み、食らい付こうと大顎を開けて襲いかかる。
「それがヌルいんだよ」
だけど、少女はそれを読んでいた。
先ほど前方へ投げた火の球が、弧を描いて戻ってきていた。それは少女の背後を横切り、
ゴウッ!
直後、少女の背後まで迫っていた水の蛇二体に直撃し、まとめて蒸発させてしまう。
「なっ……!」
「そっちのやり口は知ってんだよ!」
完璧に見切られてしまったブルーは口を開けて驚く。そうこうしてる内にも彼我の距離は縮まっていき、
「次はこっちの」
「おいたはダメよー」
直後、少女の眼前で土の壁がせり上がる。
「あん?」
目の前の壁に少女が一瞬立ち止まる。
「大人しく良い子にしててね」
グリーンはその隙を突き、彼女の四方に土の壁を生成し、ドーム状に蓋をした。
「これでよしっ、と」
「た、助かったグリーン」
「ふふ、どういたしまして」
「しっかしこれ、どないしよっか?」
「……」
イエローの言う通りだ。グリーンのお陰で彼女は無力化できたけど、このままにしておくわけにもいかない。
「あの露出狂妖魔もどさくさに紛れて逃げよったし……レッドが言うには、あの黒いのはホワイトらしいやん?」
「う、うん、多分だけど」
私がそう言うと、イエローは苛立たしげにガジガジと頭を掻きむしった。
「あーもう意味分からんっ! 何がどうしたらあのホワイトが黒くなってアタシらを襲うことになるねん!」
「……いや、少なくとも彼女がホワイトで間違いなさそうだ」
そんなイエローにブルーが答える。
「さっきエルエムに聞いたが、彼女で間違いないらしい。ただ一種の暴走状態らしく、今の彼女には念話が届かないそうだ」
「……暴走」
───ああ、そうか。
「だからホワイトは」
「……お、お話してるところごめんねみんな」
その時、グリーンの少し焦っているような声が耳に届く。
「グリーン?」
グリーンはホワイトを閉じ込めている土のドームに両手をかざして、グググっと全身に力を入れながら辛そうにしていた。
「さっきから頑張ってるんだけど……ちょっとこれは、予想……以上……ッ!」
次の瞬間、土のドームから漆黒の炎が漏れ出て、そして爆発した。
「なっ……!」
「嘘やろコイツ!?」
「───これ以上おあずけされてたまるかよ」
崩壊する土のドームから、黒炎と共にホワイトが姿を現す。
……これまでどんな魔獣の攻撃も防いできたグリーンの土の魔法、それを彼女は、あっさりと破って見せた。
「元々焦らしプレイは趣味じゃねぇんだ……いいからさっさと
そう言って彼女は、真っ黒な欲望に満ちた眼差しを私達にぶつけた。
「っ、しゃあない、こうなりゃ実力行使に行くで、レッド!」
「え? な、なにを」
「いっぺん殴り飛ばして、頭を冷やさせる言うてるんや!」
「ええ!?」
乱暴なことを言うイエローを、私は止めることも、ついて行くことも出来ずに、そのまま彼女を見送ってしまう。
「ええ加減目ぇ覚ませやホワイトォ!」
イエローは拳を握り締め、ホワイト目掛けて一直線に突っ込んでいく。
「目なら覚めてる」
ホワイトが片手を前方へ突き出す。
「今までの俺がヘタレすぎただけだ」
その手から黒炎が噴き上がり、イエローの行く手を阻むように燃え広がった。
「チィッ」
目の前で広がる黒炎にイエローは思わず足を止めて、
「───そして俺は、
「なっ」
直後、黒炎の中から飛び出してきたホワイトに組み伏せられた。
「くっ、この……!」
虚を突かれてしまったイエローは、碌に抵抗も出来ない。
「もう我慢する必要なんてない! 隠す道理もない!」
それを上から見下ろすホワイトは、喜色満面の表情を浮かべていて、
「俺は、俺の
「───もうやめて!」
見ていられなかった私は、たまらずホワイト達のもとへ駆け出していた。
「あ?」
「もう、それ以上は」
私は分かってしまった。これまでホワイトが、どうして私たちを避けていたのか。
それはきっと、
「あなたの為にも!」
だから私は、彼女を止めようと、イエローから引きはがそうと手に持つ大剣を振るった。
「うるせえ」
「きゃっ!?」
結果として、その目論見は成功した。
ホワイトはイエローから離れて……そして、肉薄してきた私の肩を掴み、そのまま地面に叩きつけた。
「うぅ……ホワイ、ト」
馬乗りにされた私は、苦痛で呻きながらも彼女の顔を見る。
「やめて……こんなこと、あなただって本当は」
「さっきからなにワケ分かんねえこと言ってんだ」
私の必死の訴えは彼女は無視し、上から私の体をマジマジと見つめて、
「……キヒッ」
不気味に笑った。
「よし決めた。まず最初にお前から
「え?」
そう言ってホワイトはパチンと指を鳴らす。すると漆黒の炎が私達の周りをグルリと囲うように燃え上がった。
「なっ」
「そんな……!」
「クソッ、これじゃ近づけへん!」
ゴウゴウと燃え立つ黒炎の外から、みんなの声が聞こえてくる。炎の勢いは激しく、ひとたび入れば火傷じゃ済まない事を示していた。
「これで助けは来ない……さあ」
───お楽しみの時間だ。
「ひっ……!」
その時、ゾッと私の背筋が凍えた。ホワイトを助けるんだという気持ちは消え失せ、底知れない恐怖心だけが残った。
「い、いや、やだっ、やだよぉ!」
みっともなく泣き叫ぶ。ジタバタと必死にもがく。
だけど相手は両手足をガッチリと押さえ付けていて、逃れられない。
「おいおい、暴れんなっての」
怖い。目の前の存在が、助けたいと思い続けていた相手が、飢えた獣のように見えてしまう。
「やめて! 離して!」
「
だから私は、無我夢中に抵抗した。
「……」
「ひっぐ、やめてよぉ……!」
本気の本気で、拒絶した。
「……ぁ……ぇ」
▼▼▼
彼女は泣いていた。顔をグシャグシャに歪ませ、涙をポロポロと絶えず溢す──なんで?──そんな彼女の上に私は跨っていた──なんで?──己の肉欲に従い、彼女を犯そうとしたからだ。
そうだ。
なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで?
───なんで私は、泣いてる子に無理やりしようと
───ぁ
───あ、ああ
───あアァぁ嗚呼あゝア嗚あアあ!!!!?
▼▼▼
レッドとホワイトを囲う黒炎は、突如として掻き消えた。
「……はえ?」
その事に気づいたレッドは暴れるのをやめて、上に跨るホワイトを見る。
「ホ、ホワイト?」
「あ、ああ……!?」
ホワイトは明らかに様子がおかしかった。目を大きく見開き、顔を青ざめさせ、声にならない悲鳴をあげる。
「わた、わ、たし、なんてことを……!」
「ね、ねえ! どうしたの? 大丈夫!?」
「お、おい、次はいったい何が起きてんねん?」
「グリーン! 彼女に回復魔法を!」
「え、ええ!」
その尋常じゃない状態に少女達はすぐに戦意を緩めて、慌ててホワイトのもとへ駆け寄る。
「わたし……わたし……は……!」
一方でホワイトは、立ち上がってレッドから離れて、頭を押さえながら後ずさる。
「……ぁ」
そして糸の切れた人形のように、ドサリと力なく倒れた。
……それと同時に、彼女の変身が解けた。
「ホワイト! ……え?」
変身が解けて、露わになった彼女の本当の姿を見てレッドは唖然とする。
「…………下成、さん?」
そこに居たのは、学校で毎日会っていた少女。
クラスメイトの下成フタバ、その人だった。
▼▼▼
夜の十九時前、日が沈み、まだ西の空に明るさが残っている時間帯。私達はアパートの一室で集まっていた。
「「「……」」」
私と、カナタ先輩と、レイナ先輩。三人それぞれがリビングの椅子に腰掛け、静かに待つ。
「……みんなお待たせ」
「せ、先生……!」
そこに寝室の方からグリーンがやって来た。
途中、彼女は変身を解いて外していたメガネを掛け直す。そこにはもうグリーンはおらず、私のクラスの担任……豊生メグミの姿だけがあった。
「ど、どうでしたか?」
「不知火さん……安心して」
鎮痛な面持ちを浮かべる私に、先生は優しい微笑みを返してくれた。
「回復魔法で全身くまなく治したから、体にはどこも異常はない筈よ」
「そ、そうですか……!」
「ええ、けど私はお医者さんじゃないから応あとでちゃんと病院に診て貰った方がいいわ」
「は、はい……良かったぁ」
ひとまず彼女の安全が保障されたという事で、私は安堵のため息を溢す。
「いやー、先生が居てくれて助かったわ。アタシらんとこだと身内になに言われるか分からんし」
「ああ、そうだな。……家に上がらせて頂き、ありがとうございます、メグミ先生」
「いいのよこれぐらい……けどびっくりよねぇ」
言いながら先生は腕を組んで頬に手を添える。腕を組む時、上にドサリと乗っかる大きな胸がちょっと羨ましいなと思ったのは秘密だ。
「まさかホワイトの正体が下成さんだったなんて」
「……うん、私もすっごく驚いた」
件の魔法少女、マギアホワイト。その正体が学校の、それもウチのクラスメイトと、とても身近な存在だったなんて。
「ずっと近くに居たのに、全然気づかなかったや」
……そんな身近な人が苦しんでいた事に、私は気づくことが出来なかった。
「……まっ、それはそれとしてや」
「ああ、そうだな」
沈んだ空気を察してか、レイナ先輩とカナタ先輩は話題を変えようと
「聞かせて貰おうか、エルエム。彼女の秘密について」
「……うん」
部屋の隅っこでちょこんと立っていたエルエムは、二人に視線を送られた事で申し訳なさそうに私達の前へ出る。
「誤魔化すのは無しやで、あのホワイトの黒い姿とか、ホワイトがアタシらを避けてた理由、一切合切話して貰おか」
「……っ」
レイナ先輩の言葉を聞いて、私は少しだけ唇を噛む。
本当は彼女の口から、彼女の意思で明かして貰いたかった。
だけど今は、そうも言ってられない。実害が出てしまったし、その事で彼女自身が深く傷ついた。
目を覚まして、その事を思い出したら、きっと彼女は絶望し、より深い闇に呑まれてしまう。
だからそうなる前に、私達は知らなければならない。真実を知り、そして必ず彼女を……下成さんを救うんだ。
「……まず、最初に言っておくと、ボクもあの黒い姿は初めて見たんだ。だから、今から言う事は全部ボクの想像で、本当かどうかは分からない」
エルエムはそう前置きをして、ポツリポツリと語り始める。
ホワイトの力は、私達のように
その
「つまりホワイトは、あの黒い時のが本来の姿って事なんか?」
「うん、そうなるかな」
「……そっか」
エルエムの説明を聞いた私は、あの時抱いた考えが正しかった事を知る。
「だからホワイトは、ずっと私達を避けてきたんだね」
───私は、穢れた存在だから。
今でも鮮明に思い出せる。あの時、彼女が告げた言葉。あれは、こういう意味だったんだ。
「あの姿を、見られたくなかったから」
「「「「……」」」」
私の呟きにみんなは何も答えず、ただ俯く。きっと私と同じ結論にたどり着いたのだろう。
「確かにフタバは、ずっと隠し続けてきた。で、でもそれは、みんなを守る為でもあって、信用していなかった訳じゃ」
「ううん、大丈夫」
必死に擁護しようとするエルエムに、私は手を前に出して続きを遮った。
「アスカ……?」
「大丈夫、ちゃんと分かってるから」
理由は分かった。彼女が抱えているものを、私達は知ることが出来た。……だから、
あとはただ、伝えるだけだ。
彼女に───を。
▼▼▼
「……ん、うぅ」
ゆっくりと意識が浮上していく。
フタバは重たげに瞼を持ち上げる。ぼんやりとした視界に映ったのは、見知らぬ天井。
「ここは……」
此処はどこだろうと、フタバはハッキリとしない意識の中で考える。考えながら、しばらく瞬きを繰り返しているうちに、少しずつ意識が鮮明になっていって、
「わたし、は……っ!」
そして思い出す。
「そうだ」
気を失う前、
「あの時、私は……」
自分がいったい何をしでかしたのかを。
「私は……!」
「───大丈夫だよ」
……震えるフタバの手を、誰かがギュッと握りしめた。
「……っ!?」
それに驚いたフタバは、バッと隣を見る。
「……し」
そこにはマギアレッドが、不知火アスカが、
「不知火、さん?」
自分が泣かせた女の子が、自分に優しい笑顔を向けていた。
「おはよう、下成さん」
それともこんばんはかな? と言ってアスカはにへらと笑う。
「なんで……」
「んー、ちょっと待っててね。先にみんなを呼んでくるから」
「みんな?」
フタバの疑問にアスカは敢えて答えず、スタスタと部屋から出ていく。
……それから少しして、複数の足音を連れてアスカが再び部屋に入ってきた。
「お待たせ」
「思ったより早く起きれたのね。良かったわ」
「よっ、ホワイト、体調はどうや?」
「レイナ、今はそっちの名前で呼ぶな」
その後ろには、見知った顔三人が続けて来た。
「豊生先生、それに先輩方、ど、どうして」
「ごめんね」
戸惑うフタバに、ベッド横の椅子に再び腰かけたアスカが申し訳なさそうに告げる。
「実は私たち、エルエムから聞いたの。マギアホワイト……下成さんのこと」
「え……」
「それと、隠していた秘密のことも」
「……っ!」
それを聞いたフタバの顔は、みるみるうちに青ざめていった。
「それ、は」
フタバはなんとか言い繕おうと口を開き、結局何も言えずに閉じてを繰り返す。
「そう、なの……」
そうして最後には観念して、すべてを諦めたように顔を俯かせた。
「……幻滅したでしょ。まさか私が、こんなモノを持っていたなんて」
一言一言、フタバは口を開くたびに心が張り裂けそうになる。その痛みに耐えながら、彼女はなんとか言葉を紡いでいく。
「ごめんなさい。ずっと私は、あなた達に穢れた感情を向けていた。それを我慢していた、なんて言って正当化したりはしない。こんな気持ち、抱くことすら罪だもの」
「……下成さん」
「とくに不知火さん、あなたにはとても酷いことをしたと思うわ。我慢できなくなった私は、あの時、あなたを」
「っ、下成さん!」
黙って聞いていたアスカは、突然彼女の頬を両手を挟み、無理やり顔を合わさせる。
「むぐぅ!?」
「お願い、聞いてちょうだい」
フタバはアスカと目が合い、そしてアスカの真剣な眼差しに気がつく。
「言いたいことはたくさんあるけど、これだけは言っておくね……私たちは、あなたに幻滅したりしていない」
目を見て、はっきりと、淀みなく、アスカは答える。
「……え?」
それを聞いたフタバは、呆気に取られてしまった。
「そんな、だって私は」
とても信じられなかった。
「確かに最初見た時は驚いたし、襲われた時も怖かったよ?」
だけどその目に、声に、表情に、嘘は微塵も感じられず、
「けどね、それ以上に助けたいって思ったの」
「たすけ、たい?」
そうしてふと、フタバは思い出す。夏休みに入る前、アスカにかけられた言葉を。
『───私は、助けたいの。あの人はたくさんの人を助け続けているのに、あの人自身は苦しみ続けて、それなのに助けを求めようとしない。そんな人だから私は、放って置けないの』
「うん、だって下成さん、私を襲った後にすっごく取り乱してたじゃん。だから分かったの。下成さんは……マギアホワイトは」
『───私は、どんな秘密があっても受け入れる』
「私が思っていた通りの、優しい子なんだって」『受け入れて、ずっと側に居る』
「ーーー」
開いた口が塞がらない。
フタバは分かってしまった。
彼女は本当に、心の底から
「で、でも、私のアレは
「はっ、なーにが本性やねん」
それでもどうにかして彼女たちを遠ざけようと、なんとか紡ぎだしたフタバの言葉は、しかしレイナにあっさりと鼻で笑われた。
「お前さんはその
「ああ、そうだな」
レイナの言葉に、カナタが続けて答える。
「君は今まで、己の悪と戦いながら私達を力を貸し続けてくれた。そのことに深く感謝しているし、私は、君のその高潔な在り方を心から尊敬している」
「お、陸千先輩、天宝院先輩まで……どうして」
どうしてみんな、平然と受け入れられるの?
「ふふ、そんなの当然よ。だって」
その疑問に答えるように、メグミが前に出た。
「みんな、あなたを信用してるんだもの」
もちろん私もね。そう言って彼女はフタバの頭を優しく撫でる。
「……いいの?」
不意に、フタバの視界がじんわりと滲む。
「こんな私が、あなた達のそばに居て」
「もちろんだよ!」
いったいどうしたんだろうとフタバは困惑し、
「また、暴走してあなた達を襲うかも知れない」
「そんときはぶん殴って止めたらぁ!」
「ああ、道を踏み外しそうな時は、私達が導く」
ポタリポタリと、ベッドのシーツに雫が落ちていったのを見て、
「あなた達を、傷ものにしてしまうかも」
「安心して。一人の教師として、教え子たちをそんな事には絶対させないわ」
自分が泣いていることに、ようやく気付いた。
「ふふ……じゃあまずは自己紹介から!」
涙を流しながらも、その瞳に希望の光が宿ったのを見て、アスカは場の空気を変えるように元気よく言った。
「私はマギアレッドの不知火アスカ! こっちはマギアブルーの天宝院カナタ先輩で、こっちがマギアイエローの陸千レイナ先輩! それでこっちはマギアグリーンの……まあ下成さんなら知ってるよね、ご存知豊生メグミ先生!」
「よろしく頼む」
「よろしゅうな!」
「よろしくね~」
一人一人が、フタバに笑顔を向けてくる。
「……っ!」
その事実がフタバには嬉しくて、慌てて目にたまった涙を手で拭い、口を開く。
「わ、私はマギアホワイトの、下成フタバ……その、よろしくお願いします」
気まずさか、恥ずかしさからか、フタバは苦笑を浮かべる。
しかしそこには、確かに本物の笑顔が浮かんでいた。
「あ、でも、それはそれとしてまた暴走に巻き込んだらいけないから、一緒に行動するのは控えた方が」
「おいまだゴネる気かこのアホんだらが!」
「こらこら陸千さん、そんな怒鳴らないの」
「で、でも本当にもしもの事があったらいけないし」
「だ、大丈夫だって下成さん!」
「だが確かに、内容はともかく対策はしておくべきか。あの時、ホワイトが目を覚ましてくれたから良かったものの───」
「───あのままだとレッドを殺しかねなかったし」
「……ん???」
▼▼▼
「わざわざ送ってもらってすみません」
「いいのいいの、夜中に女の子を一人で歩かせるわけにはいかないもの」
「ありがとうございます」
その後、私は豊生先生に車で送ってもらい、家に着いた。
「それじゃあボクも」
私が車から降りた後、エルエムもそれに続いて来る。
「あら、エルエムくんも降りるの?」
「うん、ちょっと用事がね」
「そうなのね」
エルエムの意味深な発言、それに先生は有り難いことにとくに理由を追求することもなく、あっさりと返事した。
「下成さん、明日ちゃんと病院で診てもらうのよ?」
「はい、分かりました」
「ふふ……それじゃあ、今日はゆっくり休んでちょうだい」
そう言って先生は車を走らせる。私はその後ろ姿を、見えなくなるまで手を振り続けた。
「……さて」
そして見えなくなった後、私はエルエムの方に顔を向ける。
「いやー良かったねフタバ! みんな君を受け入れてくれたよ」
「うん、それはいいんだけど」
「? そういえば、帰ったら話したいことがあるって念話で言ってたけど、結局話したいことってなんなの?」
「うん……ちょっと聞きたいことがあって」
アパートで彼女達と和解した後、気になったことがあった私はエルエムに念話で連絡をした。
うん、そうだ、そんなわけがない。あんなに感動的な場面だったんだ。
「私が眠っていた時、みんなはどういう事を話してたの?」
まさか、まさか
~~~説明中~~~
「───という事があったんだ」
「……」
家の自室で私は、ベッドの上に腰かけてエルエムの話を聞いた。
「ボクも説明中ずっと不安だったけど、みんな嫌な顔一つしないから驚いたよ」
「……」
なんというか、うん
「彼女達の善性も素晴らしいけど、これも今までフタバが頑張ったお陰だね。やっぱり君たちを選んで正解だったよ!」
「……」
……スゥーーー……
「うん? どうかし「ぜんっっっぜん分かってねえええ!!!」たぁはっ!?」
全部勘違いだったよチクショウ!!!
「え? え? どうかしたの?」
「どうかしたの? じゃないよっ! なんにも伝わってないじゃん! ふたなりち●この話とかみんなに全然話してないじゃん!?」
「そ、それは言ったらフタバが嫌がると思って」
「それは本当にありがとうね!? でもそのせいでみんな早とちりしちゃってるじゃんか!」
そう、エルエムは確かにみんなに説明した。そこに嘘は何も混ざっていない。ただ私の事を想って、ふたなりである事だけは隠していた。
そしてその結果、私の
「で、でもみんな受け入れてくれたよ? きっと性欲の事を話しても受け入れて」
「
殺される事と犯される事じゃ覚悟の持ち方が違ってくるのよ!
「ど、どうしよう? 今更引くなんて絶対無理……というかそんな事したら陸千先輩あたりに本気でシメられそう……うぅ~!」
分かってるわよ。ええ分かっていますわよ。どうせ進むべき道は一つだけなんだってことぐらい。
……
ええそうよいつも通りよ。ただ難易度がイージーからノーマルすっ飛ばしてハードに変わっただけよ。ずっと前から気分はハードモードだったけどね!
「なんで……なんで……!」
嗚呼、このニチアサワールドを作った制作関係者様方、居るなら出てきてください。
「なんでこうなるのよ~!」
そしてどうか、健全な
あと一発ぶん殴らせろ。