真っ暗な闇の中、耳の尖った銀髪美女は迷いのない足取りで歩みを進める。
「……来たか」
延々と続くかのような闇は突如として晴れ、それと同時にしわがれた声が美女の耳に届く。
「すまない、待たせてしまった」
その言葉を聞いた彼女は、少し頭を下げる。
さっきまで闇だけが広がっていたそこには、薄暗い空間と、中央に大きな円卓、そしてその円卓を囲むように座る四人の人影があった。
「いえいえ、謝らなくて大丈夫ですよ。貴女は一仕事終えたばかりなのですから」
彼女の謝罪にいち早く反応したのは、首のない鎧の男。
存在しない頭部からは黒いモヤが絶えず
出ており、不気味な雰囲気を漂わせるが、その仕草は非常に物腰丁寧だった。
「……」コクリ
「おぅ、そぉだな。別に遅刻したわけでもねぇし、気にしちゃいねぇよ」
そんな彼に同意を示すように、全身鎧の屈強な大男が無言で頷き、小柄で耳の大きい緑肌の異形がフォローを入れる。が、そのフォローに対して彼女は首を横に振った。
「いや、時間ギリギリになってしまった。遅刻も同然だ」
「……お堅いねぇ」
彼女の頑なな態度に、緑肌の異形は呆れ気味に呟く。
「それで」
その時、しわがれた声の主が再び口を開く。
しわがれた声の主、その姿は杖を付いたヨボヨボの緑肌の老人。もっと言えば、年老いたゴブリンだった。
「今回の回収量は?」
「……っ」
ゴブリンの老夫は緑肌の異形に向けて言う。その言葉を聞いて彼女は、切れ長の黄金の瞳を悔しげに歪めた。
「……うぅーん」
一方、緑肌の異形は腕を組んで微妙な顔を浮かべていた。
「やっぱ前に比べて減っちまってるぜぇ」
「すまない」
「ああいやぁ、別にお前さんに文句は言ってねぇぜぇ? それだけ向こうの対応が早くなってるっつぅーだけだぁ」
「……マギアウィッチ」
彼女は苦渋に満ちた表情で、言葉を紡ぐ。
「奴らの練度が上がりつつあるのは確かだ。だが問題はそれだけじゃない」
「───マギアホワイト」
そんな彼女の言葉に続けてゴブリンの老夫が、その言葉を口にした。
「新たに現れたマギアウィッチ。ソレが猛威を振るっておるか」
「……そうだ」
ゴブリンの老夫の言葉に、彼女はより一層悔しげに顔を歪めた。
「いやぁ困ったもんだぜぇ。ただでさえ今までのマギアウィッチにも手を焼いてるってぇのに、そこに更に強いのが一人加わるってぇんだからよぉ」
「そうですね。このまま魔獣を迅速に退治され続けられたら、闇の魔力の回収自体が難しくなります」
「スロウの旦那が前に出てくれりゃぁ、すぐに解決するんだがなぁ」
「……すみません。敵といえど、やはり女子供に刃を向けるのはまだ抵抗が」
「おっとワリィ、イジワルなこと言っちまったなぁ」
……マギアウィッチ。それは、
「妖魔に堕ちたっちゃぁいえ、お前さんは高潔な騎士だからなぁ」
リビディアン。それが彼らの組織の名であり、そんな組織に属する彼らは、人間ではない。
皆、妖魔と呼ばれる人外の存在である。
「マギアホワイトの存在は脅威、一刻も早く対処すべきだ。……すべては、妖精界存続のため」
エンヴィは、そのしわがれた声とは裏腹にハッキリとした口調で言い放つ。
そんな彼の言葉に、この場に居る者達は力強く頷いた。
「……ところで」
不意に、プライドは口を開く。その目線は、空席となっている椅子に向けられていた。
「ルストの奴は?」
円卓には、六つの椅子が並んで置いてある。その内二つが空いており、一つはプライドのもので、もう一つがルストと呼ばれる妖魔のものだった。
「まだ来ちゃぁいねぇぜ?」
「……」コクリ
「……確か、今日戻ってくる筈だったが」
「まっ、アイツはお前さんと違って色々適当だからなぁ」
「……」
「……!」オロオロ
この場に居ない仲間に対して、プライドは無言で額に青筋を立てており、それを見てラースは慌てた。
もうじき彼女の怒りの沸点が頂点に達する。そうなろうとした次の瞬間、円卓の中央に闇の塊が現れた。
「───ハロハロ〜、ルストちゃんが帰ってきたわよ〜ん♡」
突然現れた闇の中から、人影が一つ出てきて、それは円卓の上に降り立つ。
肩口でふわりと広がる紫髪、愉快げに細めた切れ長の赤い瞳。頭部の左右に生えた小さな黒い角に、腰から伸びた細長い尻尾、背中に広がる蝙蝠を思わせる一対の翼。
脚を覆う黒タイツ、肩やヘソ、谷間など、至るところの素肌を露わにし、身体のラインをピッタリ沿った煽情的な黒い衣装。
それを纏う身体は程よい肉付きをしたモデル体型で、中でも胸はとびきり豊満……などなど、男を誘う色気がこれでもかと詰め込まれていた。
「みんな久しぶりねぇ、はいこれお土産」
リビディアン最後の構成員、
「……おい」
「あ、プライドちゃんにはコレね」
「要らん!」
「えーいらないの? 美味しいわよ?」
プライドの前に出されたのは、『Kyiv Cake』と書かれたケーキだった。
「……いただこう。それはそれとして、早く
「はーい」
ルストは悪びれた様子もなく、ピョンと円卓から降りる。
「なぁルスト、土産も良いが例のもんは集めたのかぁ?」
「ええ、もちろんよ」
グリードにそう聞かれたルストは、自身の豊満な胸の谷間に手を突っ込み、機械仕掛けの小瓶を五本取り出した。
「そんな所に入れるな」
「あら♡ もしかして羨ましい?」
「ほざけ」
「それで? 如何かしら?」
ルストは小瓶をグリードに投げ渡して尋ねる。
「……こいつぁすげぇな」
小瓶の中身を確認したグリードは、感心のため息を漏らす。
「全部満タンになってやがる」
小瓶の中にある黒いモヤ。それが五本全ての瓶の中いっぱいに詰められていた。
「こんだけの闇の魔力、一体どこで集めてきたんだぁ?」
「紛争地帯、あそこは負のリビドーでいっぱいよ」
魔力、それは人が持つ想いや感情……
「数日滞在するだけでご覧の通り。もっと瓶をくれたら、沢山集められたのに」
「バカ言うなぁ。今ある瓶はこれでぜぇんぶだし、作るのにも時間と手間がすげぇ掛かるんだっつぅーの」
これじゃいくらあっても足りないなと、グリードは嘆いた。
「……闇の魔力を集めやすいという情報も、素直に喜べませんね」
「まったくだ。仲間同士で争い合うなど、愚かな話だ」
少し暗そうに言うスロウにプライドが同意する。
「そんな奴らのせいで、我々は……!」
そしてプライドは、怒りのあまり拳をキリキリと固く握り締める。
「……」
ラースは、そんな彼女の姿をジッと見ていた。
「そういえば」
その時、お土産を配り終えたルストが口を開く。
「みんなも大変みたいね。たしかー、マギアホワイト、だっけ? 新しいマギアウィッチが出たらしいじゃない」
「……なぜ戻ったばかりの貴様がそれを知っている?」
「たまーにこの町の様子を見てたのよ。魔術でね♡」
ルストは得意げに語った後、円卓に両手を付けて、前屈みになってエンヴィと顔を見合わせる。
「ねえ、私がその子の相手をしてあげよっか? 面白そうだし」
「なんだと!?」
そのルストの言葉にプライドが真っ先に反応を示した。
「急に何を言い出す! 奴は私が」
「いいだろう」
「なっ……!?」
騒ぐプライドを無視して、エンヴィはルストの提案を呑む。
「待て、エンヴィ!」
「向こうはマギアホワイトという新たな駒を用意した。ならばこちらも、新たな手を打って対抗するしかない」
「だが……」
「我々の目的を忘れるな。必要以上の拘りは足元を掬う結果になりかねない」
「……承知した」
エンヴィに説得され、プライドは渋々と下がる。
「グリード、ルストに改造魔獣を一体、いや二体用意してやれ」
「りょぉーかい。ルスト、先にラボに行ってるから来てくれよなぁ」
「……私も、出番が来るまで再び待機しておきます」
そう言ってグリードとスロウは、闇に呑まれてその場からあっという間に消え去った。
「二人ともじゃあね〜……ねえオジサマ、どうして改造魔獣を二体もくれるの?」
「……これまでのマギアホワイトの動向を見て、彼奴が他のマギアウィッチと関わろうとせず、単独行動を好んでいるように感じた。故に、離れた場所にそれぞれ魔獣を配置すれば、どちらかをマギアホワイトが一人で出張ってくると踏んだのだ」
改造魔獣は貴重だから、あまり多用したくない手だが。と、エンヴィは付け加える。
「へー、さっすがリビディアンの知将ね。うふふ、楽しくなって来たわねぇ」
「……ルストよ、あまりマギアウィッチを舐めて掛かるな」
「はーい♡」
エンヴィに咎められても、ルストが妖艶な笑みを崩すことはなかった。
「……ところでルスト、貴様さっき『数日滞在するだけで小瓶が全て満タンになる』と言っていたか?」
「? ……あ」
その時、プライドの整った美貌に般若の面が浮かんだ。
「貴様が遠征に出て三ヶ月、いったいどれだけ遊び呆けていたんだぁ???」
「じ、じゃあ私は今から改造魔獣を貰いに行くから、さよならっ!」
「あ、おい待て!」
……それから、プライドとルストの鬼ごっこが始まったのは言うまでもなく、
「……はぁ、ラースよ」
「……」コクリ
見かねたエンヴィがラースを使い、逃げるルストをとっ捕まえる事で事態は収束するのだった。
▼▼▼
それから少し時は流れて、ルストは二体の改造魔獣を連れて
「う〜ん?」
実際に彼女と対峙、その予想斜め下の結果にルストは肩透かしを喰らっていた。
(本当にこの子があのマギアホワイトなの?)
まずはお手並み拝見だと、連れて来た改造魔獣の一体をけしかけたものの、ホワイトは改造魔獣に勝つどころか終始防戦一方だった。
【GRARARA】
連れて来た改造魔獣は、喉袋が異様にブクブクと太っている巨大なヒキガエル。
暴食魔獣グラトニトード……を、模したものである。
【GRAAA!】
グラトニトードは、口から長い舌を出して大きく薙ぎ払う。
「……っ」
それをホワイトは、横に大きな氷柱を出して防御する。しかもただ防御するのではなく、氷柱を斜めに出して攻撃の軌道を頭上に逸らすという巧みの技を使っていた。
(能力はある。戦い方も巧い。だから解せない)
なぜそれほどの実力を持ちながら、改造魔獣一体に手こずるのか? 戦いが始めってから、ルストの頭にはその疑問がずっと浮かんでいた。
改造魔獣は、誰でも使役できるという利点はあるが、元にした魔獣に比べると、その能力は低い。
噂に聞くマギアホワイトならこの程度の相手、すぐに倒せるだろうとルストは思っていたのだが、
「はあ! はあ! はあ!」
(あらら、そこまで激しく動いてないのにもうそんな息を荒げちゃって)
弱い。弱すぎる。しかもときたまルストの方をチラ見しており、明らかに戦闘に集中できていない。
「はぁ〜、なんだかガッカリだわ」
空中から観戦していたルストは、両腕を組み替えながら残念そうにため息をこぼす。
「……ッ!」
「あら? どうかしたの?」
その瞬間、ホワイトから強烈な視線を向けられる。
「……んふふ、文句があるなら早くソイツを倒してみなさい」(さっきの言葉が癪に障ったのかしら? 気概だけは一丁前ね)
ルストは、ホワイトからの熱い視線の意図を汲み取り、逆に挑発して返してやった。
……その視線が、ルストが腕を組み変えた時に厭らしく形を変える胸に注がれていた事に、彼女は気付かなかった。
「ほらほら〜♡ どうしたの?♡ 早くしないと
「……っ、ぁ」
ルストが畳み掛けるように挑発してやると、ホワイトは体をフルフルと震わせて、とうとう前かがみに倒れてしまう。
「ねえねえ♡ 早く早くぅ〜……って、随分と呆気ないわね。……あら?」
あっさりとダウンしてしまうホワイトを見て拍子抜けするルストだったが、背後から迫る気配を感じ取って、すぐにその場から移動する。
その直後、さっきまでルストが居た場所に一本の矢が過ぎ去った。
「これって……」
「そこまでだ」
その時、凛とした少女の声がルストの耳に届き、思わず聞こえた方向に視線を向ける。
「あちゃー、そっちはもう片付いちゃったのね」
そこに居たのは、四人の少女達。ルストは初めて出会うものの、その存在は仲間達から良く聞き及んでいた。
「助けに来たよ、ホワイト!」
マギアウィッチ。その中の一人、マギアレッドが快活な声でホワイトに向けてそう告げた。
▼▼▼
「これでトドメ! 【ブレイブバーン】!」
【GRARARAAAA!?】
商店街に現れたヒキガエルの魔獣。それを相手に私達は戦い、そして今しがた勝利した。
「……ふぅ〜、これで一件落着!」
「お疲れ様。最後のレッドの一撃、凄かったわよ」
「えへへ、そうですかね?」
「うふふ」
せん……グリーンに褒められた私は、照れて頬を掻く。それを見てグリーンは、頭を撫でてエラいエラいと更に褒めてくる。
「しっかしまあ、手ごたえのない相手やったなあ。
「ああ、それにあの魔獣、見た目や攻撃方法が前に倒したものと妙に似ていた」
「あ、やっぱりそう思いますか?」
ブルーがイエローに言った事に、私も同調する。
今さっき倒したヒキガエルの魔獣。なんだか妙にメカメカしい見た目だったけど、同じ見た目の魔獣と前に戦った事がある。ただ、イエローの言った通り、その時と比べても今回の魔獣はいつもより弱い気がした。
「しっかしホンマ間の悪いヤツやで〜、テストが返される直前に来よってからに」
「私は前の時間に返却されたがな。どうする? 先に私の点数を聞いておくか?」
「はんっ、えらく自信満々やないか。脅しのつもりかぁ? こけおどしにすらなってへんぞ」
「こらこら、二人とも喧嘩しないの」
「あ、あはは……」
ちょっと気になったけど、ブルーとイエローが喧嘩をして、それをグリードが止めるといういつもの流れになった為、その話は流れる事になった。
(……そういえば)
その代わり、私は別の事に思いを耽た。
(ホワイト、今日は来なかったな)
マギアホワイト。正体不明の魔法少女で……多分、私達の味方。
いつもなら私達より先に魔獣と戦っているか、私達の後に来るか、そうでなくても何処かで私達の事を見ていた。それなのに今日は来ていない。
(何かあったのかな?)
彼女だって普通の人間だ。私生活で問題があって行けなかっただけかも知れない。
けど、何故か私の中で胸騒ぎが止まらなかった。
「───みんな!」
と、その時、商店街の路地裏から一匹の三毛猫が飛び出してきて、その猫から少年の声が聞こえてきた。
私達に魔法少女の力を与えた妖精、エルエムだ。
「エルエム……?」
「はあ、はあ、はあ……!」
「なんやお前、えらい疲れとるけどどこ行っとったん?」
イエローの言った通り、今まで何処に行っていたのか。エルエムはここまで走ってきたのか息を切らしていた。
「エルエム、どうかしたのか?」
「はあ、はあ……お願いだ。マギアホワイトを、彼女を助けて!」
「え!?」
マギアホワイト。ついさっき頭に浮かべていた当人の名前が出てきた私は、思わず驚きの声を出す。
「なんだと?」
「エルエムくん、ホワイトがどうかしたの?」
「今、こことは別に北の大通りで魔獣が現れているんだ。ホワイトはそいつと戦っているんだけど」
「なんやて!?」
グリーンの疑問に、エルエムは聞き捨てならない答えを返してくる。
「おいエルエム! テメェなんでそれを早く言わねぇんだ!」
「ご、ごめん、ホワイトに口止めされてて」
「はあ!? つかテメェやっぱあいつと繋がってたのかよ!」
「ほ、本当にごめん!」
「わわっ、は、離してあげでイエロー!」
イエローがエルエムのタキシード服の襟首を持ち上げてガンを飛ばし始めたので、私は慌ててイエローを抑えた。
「エルエム、向こうは今どんな状況だ?」
「ホワイトが魔獣と一人で戦ってて防戦一方。しかも魔獣の側には知らない妖魔もいる」
「知らない妖魔? プライドじゃないのか……」
どうなっているんだと、ブルーはブツブツと独り言を始める。
「敵の狙いはなんだ? 新しく現れたという妖魔に何か関係が? いや、そもそもホワイトは本当に私達の味方なのか……」
「〜〜〜っ! ね、ねえ!」
私は我慢できず、大声を上げた。
「早くホワイトを助けに行こうよ! あの子はいつも私達の窮地に駆けつけてくれたんだよ? 今度は私達の番だよ!」
「! ……レッド」
私の言葉にブルーはハッとする。
確かにホワイトは正体も目的も分かってなくて、怪しいとは思う。でも、彼女に何度も助けられたのは事実で、だからこそ私は、彼女を仲間だと信じているんだ。
「そうね、私もレッドの意見に賛成よ」
「せやな、散々助けられとんのに、その義理を返さなきゃあ筋が通らねえ!」
私の意見に、グリーンとイエローがコクリと頷いてくれた。
「……そうだな」
そして、ブルーも。
「よし、行くぞみんな! ホワイトを助けに!」
▼▼▼
「助けに来たよ、ホワイト!」
「……あなた達」
私が前かがみになっていると、彼女達が助けに来てくれた。
(良かった)
その時、私は不本意ながら安堵してしまった。
情けない話だ。彼女達を守るために戦っているのに、その彼女達に守られるなんて。
……だけど、助かったのも事実だ。
(危なかった)
本当に、あと少しで、
(危うく
白くてネバネバしたアレが、アソコからマジで発射する五秒前だった。
「うわっ、本当に間一髪ってところやないか」
「ああ、何があったかは知らないが、かなり追い詰められていたのだろう」
「それにあの魔獣も、さっき倒したのと同じ奴やんけ」
「あらあら、大丈夫かしら? 今回復してあげるわね」
私の様子を見かねてか、グリーンが近づいてくる。
彼女は土魔法と回復魔法の使い手。それで私を癒すという事なんだろうが。
ボッイ〜ン♡
「い、いえ、大丈夫……っ、だから、来なくていい」(やめてー! 今そのおっぱいに来られたら、今度こそ私
先ほどの露出狂妖魔と違い、彼女は目に優しい緑のドレスを着ているが、その程度じゃ隠しきれないほどに彼女の胸は豊かに実り、強調されていた。
「そうは言うけれど、フラフラじゃない。無理しない方が」
タプン♡ タプン♡
「いいから! それ以上来ないで!」(ふおおお!? ゆ、揺れとりますがな! なんすかソレ! そのおっぱいで魔法少女は無理でしょ!?)
ダメだ。思考と口調がぶっ壊れてきた。見たらダメだって分かっているのに、視線が勝手に彼女の胸をロックオンしてしまう。
「マギアホワイト、大人しく手当てして貰え」
「せやせや、その間にアタシらでコイツらぶっ飛ばしとくやさかい」
必死に拒む私だが、そこにブルーとイエローが追い打ちをかけてきた。
「……ふーん?」
一方、露出狂妖魔ことルストが私の方を見て、何やら意味深な笑みを浮かべていたが、それに私が気付くことはなかった。
「……まあいいわ。今日はこれぐらいにしましょうか」
「はんっ、逃がすと思っとんのか?」
「勿論♡ 魔獣ちゃ〜ん、あの子達の相手をしてあげて」
ルストは彼女達に魔獣を仕向けた後、自身の背後に闇の塊を出現させる。
「そういえばあなた達には名乗ってなかったわね。私はルスト、これからよろしくねん♡」
「待て!」
ブルーの静止も虚しく、ルストは闇に中に入ると、そのまま闇と共に霧散して消えていった。
【GRARARA!】
残ったのは、魔法少女と一体の魔獣だけだった。
「逃げられたか」
「しゃーない。とりまもっぺん行くで、レッド!」
「うん!」
ブルー、イエロー、レッドは、襲いかかる魔獣を迎え撃つ。
【GRARARA……!】
真っ直ぐ突き進んでくるレッドとイエローに対して、魔獣は大きな喉袋を目一杯膨らませる。そして、
【───GRAAA!】
毒々しい液体を口から吐き出す。
吐き出された液体は巨大に見合った体積を有しており、それがレッドとイエローの頭上を覆い被さるように降ってくる。
「レッド!」
「分かってる!」
それに対して、二人の行動は早かった。
先行していたイエローがその場に留まり、レッドが前に出た。
今にも降りかからんとする毒液にレッドは大剣の切先を向ける。直後、彼女の四肢から炎が噴き出た。
「───【ブレイブバーン】!」
次の瞬間、大剣から炎が噴出した。
毒液は炎で一瞬にして気化し、毒液の波の中に、魔獣へと続く
「イエロー!」
「あいよ!」
その穴目掛けて、イエローが思いっきり跳躍した。
跳躍の勢いは毒液の波を通り抜けるだけに留まらず、そのまま魔獣へと肉薄し、
「オラァ!」
【GRAAA!?】
魔獣の開きっぱなしの口にイエローが突っ込み、その喉奥にイエローが拳を叩き込んだ。
「よっと……うわクッセ! もう絶対あの中には入らんわ」
すぐさま魔獣の口の中から脱出したイエローは、ネバついた拳の悪臭に鼻を曲げていた。
【GRARARA……GRAAA!】
「あん?」
渾身の一撃を受けた魔獣は舌を伸ばして、それを攻撃してきたイエロー目掛けて叩き落とす。
ヒュンッ!
しかし、風切り音と共に放たれた水の矢が魔獣の舌に命中した事で軌道が逸れて、舌はイエローのすぐ真横に衝突した。
「油断するな」
「おう、わりぃわりぃ……っと!」
イエローはこれ幸いにと、すぐ横に落ちて来た舌目掛けて踵落としを決める。
【〜〜〜!?】
「レッド、トドメしいや!」
「うん、分かった!」
反撃されて怯む魔獣に向かってレッドは跳ぶ。
(やっぱりみんな、連携が巧いな)
「いっくよー!」
(……うん?)
そんな彼女達の連携プレイに感心していた私だったが、レッドが魔獣の真上まで飛び上がった時、ある場所に視線が行ってしまう。
「本日三度目の」
(あ、ちょ、待って)
元気溌剌な彼女に相応しい赤いドレス。そのドレスのスカートがヒラヒラとはためく。
(ここからだと見え)
「【ブレイブバーン】!」
ピラッ♡
(あっ……)
…………ピン……ク……。
ピュルッ
▼▼▼
レッドが放った【ブレイブバーン】により、魔獣は完全に消失した。
「ふぅ……」
戦いを終えたレッドは一呼吸入れた後、彼女の方に体を向ける。
「……」
マギアホワイト。彼女はなぜか皆から背を向けており、さっきから何も喋らない。
「……えっと、大丈夫? ホワイト」
その姿に少し違和感を抱きながらも、レッドは彼女に話しかける。
「……」
それでも彼女は、無言を貫いていた。加えて放たれる妙な気迫に、レッドだけでなく他の少女達も何事かと冷や汗をかき出す。
「……ね、ねえ、思ったんだけどさ、やっぱり一度話し合おうよ」
それでもレッドはへこたれなかった。今度こそはと、彼女は心に決めていたから。
「今日のホワイトの様子、なんだかおかしかった。普段ならあんな魔獣すぐに倒せる筈なのに」
「……」
「私、絶対にあなたの助けになってみせる!」
レッドは意を決してホワイトのもとへ一歩踏み出す。
「だから、何があったか教え」
「来ないで!!!」
……その一歩は、彼女のあまりにも悲痛な叫びに押し返された。
「……え?」
「ごめんなさい、合わせる顔が無いわ」
「な、なに? どういう事?」
「ごめんなさい」
「ねえ、なんで謝るの?」
「……ごめんなさい」
急に謝れてレッドは困惑する。理由を尋ねようとしても、ホワイトから返ってくるのは「ごめんなさい」の一言のみ。
「……やっぱり私は、穢れた身よ。もうこれ以上、あなた達と一緒に居るべきじゃない」
「そ、そんな……!」
そんな事はない。そうレッドが叫ぼうとするものの、ホワイトはその一瞬すら待たずに逃げ出した。
「ま、待って!」
どれだけ叫んでも……、どれだけ手を伸ばしても、彼女には届かない。その手を掴んでくれない。
「お願い……話を、聞かせて」
どうしてあんなに苦しんだ顔をするのか。何がホワイトをそうまで追い詰めるのか。
「……う、うぅ」
それを聞き出す事の出来ない己の無力さに、レッドは悔しさで涙を流した。
▼▼▼
もう限界ギリギリだった。あと少しの欲情で決壊する。不可抗力だった。
どれだけ言い訳を並べても、起こった事実は変わらないし、取り消せない。
私はやってしまった。
───
「ふ、ふぐぐぅぅぅ……!」
家に帰った私は、ベッドの上で盛大に涙を流す。もう枕がずぶ濡れだったが、それを気にする余裕は今はない。
「ざ、ざい゙でい゙だ! ざい゙でい゙ずぎる゙! じに゙だい゙!!!」
叶うことなら首を括って死にたかった。周りに迷惑が掛かるから出来ないけど!
「何やってんのよ私! 今はJKとは言え中身は大人のおっさんでしょ!? こんなの警察沙汰だ! 児童ポルノものだあー!!!」
何が腹立たしいって、変身を解除したら発射した白いアレも一緒に消えた事だ。つまりアレも魔力の塊という訳で、アレを
「なんだよそのエロ同人みたいな設定! これ以上変な設定盛り込まないでくれよおおおをわあああ!!!?」
……その日、私は一晩中泣き叫んだ。