「……フタバ」
新たな妖魔、ルストが現れた翌日の昼時、妖精のエルエムはマギアホワイト……下成フタバの家にやって来た。
(やっぱり落ち込んでるよね……)
あの日、フタバはマギアレッドのパンチラに興奮して射●してしまった。そのショックからか、今日は寝込んで学校に登校していない。
(まさかフタバが、あんなに取り乱すなんて)
昨晩もフタバの様子を見に行ったエルエムだが、その時の彼女の泣き叫びっぷりは今でも記憶に残っている。
妖精であるエルエムには、人間の性事情なんて分からない。というか性行為すらしない為、性全般に関する知識が著しく少ない。
だから、どうして彼女があそこまで嘆くのか、エルエムには分からなかった。
(でも、それだけフタバにとっては許されない行為だったんだね)
それでも、分からないなりに理解しようと彼は努力する。理解し、最大限寄り添う。
それが少女達に戦いの運命を背負わせてしまった者の責務だと、彼は考えていた。
『フタバ、今居る?』
『……エルエム?』
エルエムは意を決してフタバに念話で呼び掛ける。
『今君の家の前に居るんだけど、入っていいかな?』
『え、いや今はちょっと……ああでも、エルエムにならいっか』
『……? よく分からないけど、入っても良いんだね』
『うん、いいよ。ちょっと待ってて』
それから少しして、フタバが玄関の扉を開けた。
「はい、どうぞ」
「……」
「どうしたの?」
「あ、ううん、なんでもない」(あ、あれ? なんか元気そう?)
昨晩と打って変わり、いつもの調子を取り戻していたフタバにエルエムは少し面を食らった。
一体あの後何があったんだろうと思いながらも、エルエムはひとまずフタバの家を訪問する。
「それで、エルエムは今日なんの用で来たの?」
「うん……えっと、昨日フタバがかなり取り乱していたから、心配になって見に来たんだ」
「あーそっか、それはごめんなさいね。この通りほら、私はもう大丈夫だから」
フタバは体をくるんと一回転させて、エルエムに無事を証明する。
「ほ、本当に大丈夫なの? 我慢してたりとか」
「大袈裟だなぁ、確かに昨日はメンタルズタボロだったけど、子どもじゃないんだし一日経てば立ち直れるって」
まあ流石に学校は休んだけど、とフタバは自嘲しながら言った。
「そ、そっか……」
何はともあれ、どうやら本当に大丈夫らしいという事が分かったエルエムは、ホッと息を吐く。
「それで実は、昨日の事でちょっとエルエムに話しておきたい事があるの」
「話しておきたい事?」
「うん、実はあの時……」
リビングまでやって来たフタバは、エルエムにあの時起こった事の詳細について語った。
「……なるほど、君の精液は魔力の塊で、それを排出してしまうと魔力が減っちゃうのか」
「うん、だから前にエルエムが提案してた、事前に一人で発散するっていう手も使えないのよ」
「うーん、確かにそれは問題だね」
「そうなのよ。敵に
そう言ってフタバが脳裏に浮かべたのは、うっふ〜ん♡と誘うようにこちらを手招きしてくるルストの姿だった。
今はルストに対して何も感じていないが、変身して生えた状態だと途端に性欲が湧き立つ。
「だから、
「あるもの?」
「うん、付いて来て」
そう言ってフタバは、エルエムを自室まで案内した後、部屋にあるタンスの奥からあるものを取り出す。
「今日休んだのは寝込んだのもあったけど……コレを買いに行ったからでもあるの」
「それは……」
そしてフタバは、取り出したあるものをエルエムの前へと出す。
「……うーん?」
そのあるものを見て、エルエムは大きく首を捻った。
「なにこれ? 何かの筒? みたいに見えるけど」
「貞操帯よ」
「え?」
「貞操帯」
ステンレス鋼製の筒型貞操帯。お値段一万円ちょっと。大きさは本人の名誉のため伏せるが、エルエム(猫並みの体格)が両手で持てるレベルだと言っておこう。
「……てーそーたい?」
「そう」
「って、なに?」
「簡単に言うと、性器に付けて性的興奮を抑えるための物よ。それは男性用ね」
「へー!」
……繰り返し言うが、妖精であるエルエムは性知識を一切持っていない。ふたなり魔法少女であるフタバを手助けする為に色々と調べているが、その知識はまだまだ浅い。
「人間界にはそんな物もあるんだねぇ」
「……分かってはいたけど、反応薄いのね」
「そう? 便利な道具だなぁって感心してるけど」
「そういう意味じゃなくて……まあ、話が早くて助かるけど」
妖精なので人間の性事情に一々恥ずかしがることはないし、突っ込まれることもない。その点に関しては、彼女的には有り難かった。
……その為、未成年のフタバがどうして貞操帯(18禁アイテム)なんて手に入れられたのか、突っ込む者は誰も居なかった。
「私の場合、アソコが生えるのは変身している間だけ。そして変身を解除したらアソコと一緒に性欲も消える。つまり、一時凌ぎでも我慢できれば良いから
「───変身解除後もち●こが付いていなきゃね!!!」
フタバは貞操帯を握りしめながら叫んだ。
「でもまあここってニチアサワールドの筈だからぁ! そんなエロゲみたいな展開あるワケないよねぇ!?」
「え? き、急にどうしたんだい?」
「いや別に……ただ最近、私の世界観だけエロゲすぎる気がしたから、念のために言っておいたの」
「???」
「ごめん忘れて」
何を言っているのか本当に分からず困り果てるエルエム。しかしフタバはかなり真剣だった。
(お願いだからこれ以上変な設定追加しないで! もう子ども相手に欲情する変態になりたくないの!)
果たしてその願いが叶うのか。それともその発言がフラグになるのか。
真実はまだ、誰にも分からない。
▼▼▼
学校の昼休み、私たち魔法少女は、話し合いも兼ねて中庭に集まってお弁当を食べていた。
「ぜったいにおかしい。あのホワイト、ぜってー腹にヤバいもん抱えとるで」
そして、マギアイエローことレイナ先輩(私の一個上の学年)が唐突にそんな事を言い出した。
「……どうしたいきなり、そんなの以前から分かっていた事だろう」
まさか気付いていなかったのかと、マギアブルーことカナタ先輩がナチュラルに辛辣な言葉を返す。
「ちゃうわボケ! アタシが言いたいのは、アタシらが思うてる以上の事情がアイツにはあるっちゅーことや」
「……確かにそうだな」
それに怒鳴り返したレイナ先輩を軽く受け流しながら、カナタ先輩は彼女の言葉に同意を示す。
「正直、私は彼女の事を計りかねている。彼女が本当に味方かどうか……」
「え? そ、それってどういう意味ですか?」
聞き捨てならない発言に私、マギアレッドこと不知火
「だってホワイトは、いつも私達を助けてくれた。それなのに味方じゃないって」
「落ち着け、あくまで可能性の話だ。私も本気で彼女を敵だとは思っていない」
「ほな、なんで味方じゃない言うたんや?」
レイナ先輩はお弁当の卵焼きを一口食べた後、箸をカナタ先輩に向ける。
「お前のことや、それなりの理由はあるんやろ?」
「おい、箸を人に向けるな、まったく……ああ、そうだな」
カナタ先輩はこれまでの事を振り返っているのか、青空を見上げながらポツポツと語る。
「マギアホワイト、彼女は心根の優しい人間だと思う。……だが時たま、彼女から邪気を感じる事があるんだ」
「邪気……?」
「ああ、それが何なのかは分からない。だが、彼女から
「あー、なんか分かる気ぃするわ。アタシも一回変な目で見られた事あったな」
「そ、そうなんだ」
カナタ先輩の話にレイナ先輩も納得した風だったが、私にはよく分からない理屈だった。
邪気なんてもの、ホワイトから感じた事なんてないけどな?
「……でも、そうだよね」
それでも、私は二人の話を聞いて一つ納得する事があった。
「私は、あの子が何に悩んでいるのかなんて何も分からない。なのに、軽々しく事情を話してだなんて……」
「「……」」
私は後悔していた。私の歩み寄ろうとする姿勢そのものが彼女を追い詰めた。そんな気がしてならないのだ。
……それでも、
「……ほんで、お前はこのまま」
「だから考え直したの」
「諦めるんか……って、へ?」
レイナ先輩が何かを口にするより先に、私は立ち上がって声高らかに宣言する。
「事情を聞くのは後回しにして、まずは友達になろうと思うの!」
隠し事なんて誰にでもある。私も幼馴染のりっちゃんには魔法少女である事を隠しているけど、仲良しのままだ。
むしろりっちゃんは、そんな隠し事をしている私に優しく寄り添ってくれるし、それは私の心の支えの一つになっていた。
「事情を知らなくても寄り添う事はできると思う。だから私は諦めない! 絶対ホワイトと仲良くなってみせる!」
「お、おお……」
そう私が宣言すると、レイナ先輩が唖然と口を開けて私を見ていた。
「アスカ……お前たまにすげぇよな……」
「へ?」
レイナ先輩の言っている意味が分からずポカンとしていると、カナタ先輩がクスクスと笑みを溢した。
「どうやら発破をかける必要はなかったらしいな?」
「う、うっさいわボケェ!」
「葉っぱ? 葉っぱを何にかけるんですか?」
「じゃかぁしいぞアホンダラ! もう好きにすりゃええやろが!」
「え、えー!?」
レ、レイナ先輩が怒ってる……! なんで???
「はぁーもう心配して損したわ」
「ふふ……だが、そうだな、アスカの言う通りだ」
カナタ先輩はひとしきり笑った後、食べ終わった弁当箱を片付ける。
「相手が腹に一物を持っていたとしても凛と構えるべし……家でも良く言われたものだ」
そして、意気込むように立ち上がった。
「私も
「……はんっ、流石は高貴な生まれの奴は発想が違うな」
それに続けて、レイナ先輩も立ち上がる。
「アタシもあれぐらいで助けられた借りを返し切ったと思っちゃいねぇ。今度は襟首引っ掴んででも礼を言ってやらぁ」
「カナタ先輩、レイナ先輩……!」
二人が各々意思を示してくれたことで、私もより一層気合いを入れる。
(待っててねホワイト、今度こそ私、あなたの助けになってみせるから!)
(神様お願い! 私も健全なニチアサものに加わりたいの!)
……一方その頃、フタバ(マギアホワイト)は貞操帯片手に懇願していた。