学校を休み、貞操帯という新たな武器を手に入れた私はその翌日、いつも通り学校へ登校していた。
(……よくよく考えたら、コレ持って登校するのは校則違反では?)
肩に背負っている学校用のカバン。その奥底には、
(いや、それ以前に狂気の沙汰、というか変態の所業のような……)
「あ、下成さん」
「カヒュッ……!?」
チラリとカバンの奥底にしまった貞操帯を覗いていた時、背後から声を掛けられて私は死んだ。(死んでない)
「……?」
「お、おは、おはようございます、
恐る恐る振り返って、私はその人物に挨拶する。
「はい、おはようございます」
急に固まった私を不審がりながらも、彼女は優しい笑みを浮かべて挨拶を返した。
ウェーブの巻いた長い茶髪に、丸メガネを掛けたこの女性は
ぷるんぷるん♡
(いつ見てもすごい胸だなぁ……)
レッド、ブルー、イエローに続けて、残る最後の魔法少女、マギアグリーン。その人である。
(くっ……! この胸にどれだけ惑わされてきたことか……!)
いったいそのおっぱいで何度●ちかけた事か。ルストが現れるまで、彼女は私のアソコの反応ティア表のトップに君臨していた。
このおっぱいと年齢で魔法少女は無理……とは言わない。だって私も中身いい歳した大人だし。なんなら前世の年齢と合わせたら先生よりも歳上だから、特大ブーメランになるし。
「昨日は体調不良で休んだみたいだけど、大丈夫?」
「はい、もう立ち直りました」
「そう、良かったわ。けど無理は禁物ね?」
「はい」
ただまあ、それを除けば彼女のことは尊敬している。
私も前世では先生を目指していた時期があった。今はもう挫折した夢だが、それを見事に叶えて、それを立派に務められている彼女は、素直にすごいと思う。
「下成さんは他の子より大人びてるけど、その分一人で抱え込みがちだから、辛い時はちゃんと先生に教えてね?」
「……はい」(本当、よく見てる人だなぁ)
鋭い指摘に思わずドキッとしてしまう。いつもおっとりしているけど、こういう所があるから侮れない。
(まあ、先生の言う事はご尤もだけど……これは流石に言えない)
魔法少女である事、TS転生者である事、そして何より生えている事。
前半二つはともかく、最後のだけは知られる訳にはいかない。私の心が死ぬ。
「ところで、さっきカバンの中をジッと見てたけど何が」
「そ、それじゃあ私は先に教室へ行ってますので……!」
私は逃げた。一心不乱に逃げた。
(
そうして死にたくない一心で廊下を駆け抜けていると、
「きゃっ!」
「……!」
廊下の曲がり角で人とぶつかった。
(危ない……!)
すかさず私がぶつかった相手の手を引っ張る事で、なんとか二人とも尻もちを付かずに済んだ。
「わっ、と、と……!」
「ごめんなさい、大丈夫かしら?」
「は、はい……あれ? 下成さん?」
相手は、私の顔を見るや否やそう告げる。一方の私も、彼女の顔に見覚えがあった。
(よく見たらこの子、
「ちゃんと前を見ていなかったわ。ごめんなさい」
「う、ううん! いいよ別に……あ、そういえば昨日、学校休んでたよね」
「ええ、少し体調が悪くて」
「もう平気なの?」
「ええ、平気よ」
「そっか、よかった」
みんな心配してたよ。そう言って不知火さんは微笑みかける。
(……う、うぅぅ、なんて良い子なんだろう……!)
みんな心配してたというのは大袈裟だが、そこも含めて彼女の優しさなんだろう。
そんな子のパンチラで、私は……!
「……ごめんなさい」
「え?」
「なんでもないわ」
下成さんが何かを呟いたような気がしたが、それを私が聞き取ることは無かった。
ちょっと気になるけど、まあ下成さんも「なんでもない」って言ってるし、蒸し返すほどのことじゃないんだろうと私はスルーした。
(……それにしても)
ふと、思ったことがあった私は、下成さんの姿を上から下までじっくりと眺める。
背はすっと伸び、立ち姿にはゆとりがある。静かな黒い瞳は、こちらの目を真っ直ぐに捉えていた。
(やっぱり下成さんって大人びてるなぁ)
「……?」
カナタ先輩にも似たものを感じるけど、あっちはどちらかと言えば『しっかりしてる』って印象が強い。
なんと言うか、下成さんには先生や私の両親みたいな大人の包容力が感じられるのだ。
(こういう所がみんなから慕われるんだろうなぁ……)
……それは、ちょっと思い付きだった。
「……ね、ねぇ、下成さん」
「なにかしら?」
物静かで、だけど頼り甲斐のある姿に、私は思わず縋ってしまった。
「実は、ちょっと相談があって」
彼女なら、もしかしたら……
▼▼▼
「……という訳で」
昼休み、不知火さんから相談があると言われた私は、屋上で二人一緒に弁当を食べていた。
「……なるほど」
相談の内容は、こうだ。
以前に自分を助けてくれた人が居て、その人は何かに苦しんでいた。それを助けたいと思うのだが、相手は事情を決して話してくれず、ならせめて友達になって支えようと思った、と。
……うん。
(……これ私のことじゃね?)
自惚れじゃなければ、自分を助けてくれた何かに苦しんでいる人
「あ、け、けど、その為だけに友達になりたい訳じゃないからね!? 本当に、本心からその子と友達になりたいと思ってるの!」
「……そう」(おうふ……こ、これって
本気で友達になりたいだなんて、前世でも今世でも言われたのは初めてだ。
「でも、友達になろうといざ思っても、どうすれば良いのか分かんなくて……話しかけようにも、すぐに逃げちゃうし」
(うん、それは本当にごめん)
「りっちゃん……えっと、私の友達なんだけど、その子に聞いた時は、『アスカ氏の正直な気持ちを全部言えば万事OK!』……って、言われたけど、やっぱり不安で」
「……」(うーん、実に困った)
普段の私なら、そのりっちゃんと同じ意見を述べるだろう。
友達というのは、自分の素直な気持ちを素直にぶつけられる相手の事だ。それが無理なら、そもそもその人とはソリが合わないという事だろう。
ただ今回、不知火さんが友達になりたいと言っている相手は私だ。私自身、なんのしがらみも無ければ喜んで不知火さんと友達になるんだけど……
(コレのせいでなぁ……)
私は腰元の前側、今はまだ何もない虚空に目を向けた。
このどうしようもないふたなりち●こは、敵味方友達に関係なく反応する。例え彼女と友達になっても、変身した状態でベタベタくっ付かれたら問題無用で●ち上がるだろう。
(クソッ! 友情にち●こが邪魔すぎる!)
自分に一々発情して●起する友達とか、もし近くに居たら絶縁するわ!
(あーもうっ! 私はどうしたら)
「……やっぱり迷惑だよね。親しくもないのに、こんなこと相談されて」
「……っ」
どうすればいいか悩んでいると、ずっと無言な私を見て不知火さんが口を開く。
「あはは……ごめんね、下成さん。あと、話を聞いてくれてありがとう」
「……不知火さん」(違うだろう、私)
私は己の誤ちに気づき、自分を叱咤する。
彼女は本気で悩んでいる。その悩みの原因は私なんだが、だからこそ真剣に向き合い、解消してやらなきゃいけない。
子どものために自分の感情は後回しにする。大人として当然の対応だ。
───アスカ氏の正直な気持ちを全部言えば万事OK!
(……正直な気持ち、か)
ふと、不知火さんの友達の言葉を思い出した私は、思い切って口を開いた。
「不知火さんは、その人のことをどれだけ知ってるの?」
「え?」
私の話を聞いて、それまでずっと無言だった下成さんは、突然口を開いたかと思ったらそんな事を聞いてきた。
「助けたと言っても、気まぐれかも知れない。もしかしたら裏では悪いことをしていて、それがその人の本性なのかも知れない。そうでなくても、人には言えないような後ろ暗い秘密を抱えていたり」
「ち、違うもん!」
畳み掛けるように告げてきた内容に、私は思わず話を遮ってしまっていた。
「た、確かに私は彼女のことをよく知らない。でも、彼女は何度も私たちを助けてくれた! 私たちだけじゃない。その周りにいる人たちもたくさん助けてきた。それは変わらない。そんな人だから私は……私は……!」
ハッと、思わず怒鳴るように喋っていたことに気づいた私は、少し冷静さを取り戻してからポツリポツリと秘めたる想いを紡ぐ。
「……私は、助けたいの。あの人はたくさんの人を助け続けているのに、あの人自身は苦しみ続けて、それなのに助けを求めようとしない。そんな人だから私は、放って置けないの」
「……」
きちんと話せたか分からない。それでもなんとか、私は自身の胸の内を曝け出した。
「……それは」
それを静かに聞いていた下成さんは、
「その気持ちは、届いたわ」
ゆっくりと、そしてハッキリと、そう告げた。
「え?」
「あなたがその人を助けたいという気持ちは、その人にも良く伝わっているわ」
どうしてそう言い切れるの? そんな疑問は、不思議と無かった。彼女が言っているのだから間違いないと、そんな気持ちさえ湧いてきた。
「それでも助けを求めないという事は、きっと、その人は怖いのよ」
「怖い……?」
「ええ、多分その悩みが、打ち明けてもどうにもならないようなもので、逆に打ち明けることで相手に幻滅される事が……とても、とても怖いのよ」
「……」
そう言いながら、下成さんは俯いて物思いにふける。
その瞬間だけ、下成さんからはいつもの大人びた雰囲気が消えて、見た目相応の、どこか怯えた子どものように見えた。
「───大丈夫」
それが見ていられなかった私は、思わず彼女の手を取っていた。
「え?」
「私は、どんな秘密があっても受け入れる。受け入れて、ずっと側に居る」
これだけは今言わなきゃいけない。そんな気持ちに駆り立てられた私は、言葉を続ける。
「それを今すぐ信じて貰わなくても良い。信じられるまで側に居る。……それで、信じてくれた時に聞かせて貰うの」
だから大丈夫だと、安心してと、私は笑みを浮かべた。
「不知火さん……」
「……って、あはは、下成さんに言ってもどうにもならないよね」
そこでハッと正気に戻った私は、照れ隠しの笑いを浮かべながら下成さんの手を離した。
(う、うわー! なに言っちゃてるの私!? 絶対下成さんに変な子だって思われちゃったよー!)
今の私の顔は、それはもう真っ赤っかになっている事だろう。それを見られたくなかった私は、慌てて下成さんからそっぽを向く。
「あ、あはは、な、なんだか急に暑くなってきたなー? もう夏だもんねー?」
「……そう、ね」
だから気づかなかった。下成さんの頬もまた、ほんのりと赤く染まっている事に。
(う、うわー! なにこの子なにこの子! 元気っ娘な王道ヒロインかと思ったら、こんなイケメン属性隠してたの!?)
私は盛大に慌てていた。
自分の素直な気持ちを打ち明けたら、カウンターにメロい台詞を返されてしまった。
(い、いやダメだ、女の子同士でこんな感情……あれ? でも私って前世は男だよね? ……あ、いや、その前に成人済みの社会人だった。じゃあ尚更ダメじゃん!)
だ、大丈夫だ。確かにちょっとときめいたが、それはメロい台詞を言われたからであって、本気で好きになった訳ではない。
(落ち着け〜私、クールになるのよ下成フタバ)
『───みんな! 魔獣が現れたよ!』
(ひゅいッ!?)
「ひゃあ!?」
次の瞬間、脳内でエルエムの大声が響き渡った。
フタバ『だから念話する時はもうちょい丁寧にやってよ! これ毎回ビビるんだって!』
アスカ『も、もーエルエムってば! 念話する時は先に言ってよ、変な声出しちゃったじゃん!』
レイナ『おいエルエムテメェゴラ! 念話する時は静かに喋れって何度言わせんねん! ドタマぶち割ってやろか!? ああ!?』
カナタ『了解した。すぐに向かおう』
メグミ『あら〜、今出ちゃったの? 次の授業に間に合うかしら』
エルエム『アワワワ……! ご、ごめんよみんな』
いきなり念話してきたエルエムに苦情を入れると、予想以上に慌てた様子で謝ってきた。きっと他のところからもクレームが来てるんだろう。
「……あ、あー! えっと、その私ちょっと用事を思い出しちゃって」
なんて事を考えていると、不知火さんがわざとらしく声を上げて立ち上がった。
「そういう訳だから、じゃあね下成さん!
「……ええ、そうね」
そう言い残して彼女が颯爽と屋上の階段を下っていくのを、私は見届けた。
「……さて、私も」
そして屋上に一人残された私は、食べ終えた弁当を片付けた後、手慣れた動作で胸元に手を当てる。
「───マギアチェンジ」
瞬間、私の体から眩い光が放たれた。
強烈な光はすぐに消え失せる。しかしそこに立っていたのは、先ほどの少女ではなかった。
アイスブルーの髪と目に、身に纏うのは真白のドレス。そして周囲には、仄かに冷気が漂っている。
「無情に凍てつく白き魔法使い、マギアホワイト」
変身を終えた私は、静かに、己の名を告げた。
(……変身するたびに口にしなきゃいけないの、ちょっと恥ずかしいな)
ニチアサもののお約束とも言うべきか、変身後は名乗りを上げるものだ。
私も例外じゃなく、意識せずとも思わず名乗ってしまう。
(まあいいや、早く魔獣を倒しに)
ピキーン!!!
「は???」
その時、変身した事で生えた私のアレが起き上がった。
(え? は? なんで? だって周りには
『───私は、どんな秘密があっても受け入れる。受け入れて、ずっと側に居る』
『───それを今すぐ信じて貰わなくても良い。信じられるまで側に居る。……それで、信じてくれた時に聞かせて貰うの』
(あ、あれかー!)
あの時、不知火さんの口から出た胸キュン台詞へのドキドキ。その余韻が残っていたのだ。
(バカ! この大バカち●こが! 確かにキュンとしたけどそれで●つバカがいるか!)
あーもうさっきの話が台無しだよ!
「……スゥー……はあああ〜〜〜」クソデカため息
……私は、カバンの中の貞操帯を付けてから魔獣の居る場所へ向かった。
▼▼▼
私は建物の屋根を足場にぴょんぴょん跳んで目的地に到着する。
他の魔法少女の姿は見えない。どうやら私が一番乗りだったらしい。
……で、だ。
【LUS LUS LUS!】
現れた魔獣は、頭部に無数の目が存在する巨大なタコの姿をしており、町の一画にあるアパート前に居座っていた。それは良いんだけど……
「きゃー!」
「うぅ〜、ヌルヌルするよぉ……!」
「誰か助けてー!」
【LUSSSS!】
……タコの魔獣は、自身の触手で女性を捕まえて、その触手から分泌されるヌルヌルの粘液で女性達を粘液塗れにしていた。
(……私の最近の相手、こんなのばっかだな)
どうやら今回現れた魔獣は、触手プレイ大好き野郎だったらしい。
【LUUUS LUS LUS!】
帰れ。