【カオ転三次】終末が約束された世界で生き抜きたい   作:ディストピア

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幕間

 

 

 

自分達は娘の事をろくに知らない

 

 

 

 

その事に気が付いたのは、娘がガイアグループに所属する為に村を去って、暫くしてだった

 

 

 

 

 

 

 

好きな食べ物も、嫌いな食べ物も知らない

 

 

 

 

学業に関しても、好きな科目、嫌いな科目、得意な科目、苦手な科目、それを自分達は何も知らない

 

 

 

 

 

アルバムを開いてみても、本当に幼い頃の写真には様々な表情の娘が写っている、しかし、6歳以降の写真には、それが無い

 

 

 

 

どの写真を見ても笑顔の娘が写っている

 

 

 

どんな時の写真にも笑顔の娘が写っている

 

 

 

 

同じ様な笑み(・・・・・・)を浮かべた娘が写っている

 

 

 

 

「ああ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

娘が10歳の時に村から去った(逃げた)家族を思い出す

 

 

 

 

その家族の事を村の皆が罵り、罵倒するのを、娘はどんな気持ちで聞いていたのだろうか

 

 

 

娘を戦わせたくないと連れ出した親だけでなく、連れて行かれただけの娘の事すらも口汚く罵っていたのを、どんな思いで聞いていたのだろうか

 

 

 

矢作り、弓作りの作業の合間に、端材を使って小物を作って渡す程に心を許していた相手を

 

 

 

自分の幼馴染を、唯一友達だと言える様な付き合いをしていた相手を、村の皆が罵るのをどんな思いで聞いていたのだろうか

 

 

 

「あぁ………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

里長は今日も娘、紫の部屋に籠もって謝っている

 

 

 

里長としてでは無く、祖母として泣きながら謝り続けている

 

 

 

遂に、祖母だと明かす事が出来なかった孫娘に謝り続けている

 

 

 

趣味らしい物が、何一つとして置かれていない部屋で

 

 

 

勉強机と、衣服をしまう箪笥、学年別に仕切られた教科書を収めた本棚、卒業証書が入った筒、眠る為の布団

 

 

 

それ以外に、何も無い部屋で

 

 

 

 

子供らしい事を何一つとしてさせられなかった孫に

 

 

 

物心付いた頃には、自分達が持ちうる退魔の知識と技術を身に付けさせようとしていた事を

 

 

 

初めから、選択の自由すら与えずに戦う事を強制した事を

 

 

 

8歳という幼さで戦場に立たせた事を

 

 

 

最初の一回はまだ良い、本人が言っていた通り、戦線が瓦解してしまえば化け物…………悪魔が異界から出て来て人を襲う、狭い村の事しか知らぬ幼子が滅びゆく村から逃げ出したところで生き延びられる筈がない

 

 

 

 

だが、二回目からはどうだ、弓による援護をさせ、戦いが終われば癒しの力による治療すら求める

 

 

 

最初の内は村の者達も感謝の言葉を述べていた、だが、治療されるのが当たり前だと思うように成ってからは、手足が千切れ、それを繋ぎ合わせてもらう様な重傷を負わぬ限り、感謝の言葉を口にする者は居なくなった

 

 

 

それどころか、勝利の祝杯だと言って酒を飲みながら治療される者すら居た

 

 

 

だというのに、あの娘は文句の一つも言わなかった

 

 

 

痛い、辛い、辞めたいと言った弱音を、村の誰一人として聞いた事が無い

 

 

 

 

村の救い主だの、まるで癒しの神様の子だとか言われた娘は、何を思っていたのだろうか

 

 

 

救い主だと、お前は自分達とは違うと

 

 

 

癒しの神様の子だと、お前は人の子では無いと…………言っているような

 

 

 

そんな言葉をどんな気持ちで聞いていたのだろうか

 

 

 

「…………なんて」

 

 

 

 

 

 

 

 

ガイアグループから齎された情報で、霊能関連の問題解決の依頼には数百万円もの大金が必要だと分かった

 

 

 

その依頼の半分近くがあの子の貯金によって賄われている

 

 

渡した小遣いを殆ど使うこと無く、貯金し続けていたのは何のためだろうか

 

 

 

村を出て、都会で暮らす為の資金だろうか

 

 

 

それを、一体…………何歳の時から始めていたのだろうか

 

 

 

 

私達は、何一つとして知らない

 

 

 

あの子がガイアグループの霊能関係の仕事をしているのは、それしか知らないから

 

 

 

 

戦う事しか知らないからなのではないか…………と、娘の尽力で得た平和と平穏の中で思う

 

 

 

娘が知らない、平和で平穏な日々を生きている

 

 

 

 

新たな異界の発生の危険性、悪魔による被害が全国各地で広がっていると言う娘の忠告は

 

 

 

不義理が過ぎるこの村への、最後の良心からの言葉なのかもしれない

 

 

 

 

 

村を出てから、ただの一度も連絡が無い、電話も手紙も、スマホへのメールの一つも無い

 

 

 

それは、村の事にも、両親である自分達にも、興味も関心も無いという、あの子からの無言のメッセージなのかもしれない

 

 

 

「あぁ…………私達は、なんて…………愚かしいんだ」

 

 

 

あの子の優しさに付け込み、頼り切りながらも感謝すらしなかった

 

 

 

それが当たり前だとすら思ってしまっていた

 

 

 

己の娘の事を、知ろうとすらしなかった

 

 

 

 

村を守るために戦っていた多くの者が後悔している

 

 

あまりにも遅い後悔を

 

 

自分達の子供は守る対象だと見ておきながら、あの子は戦って当然だと思っていた事を

 

 

 

村を纏めて救われて、平穏を謳歌し始めてからようやく気付いた矛盾に

 

 

 

自分達は救われ続けていながら、誰一人としてあの子を助けていない

 

 

 

自分達の子供は安全な場所に居るべきだと思いながらも、同年代か、或いは、より幼い子供を戦場に立たせるその矛盾に

 

 

 

 

多くの者が平穏を得て、ようやく気が付き、今更ながらに後悔している

 

 

 

あまりにも、遅過ぎる後悔を

 

 

 

 





以上、村に居る親視点のお話でした


親、連絡して無視されたり本音を知るのが怖くて連絡出来ない

紫、別に連絡するような要件無いですし………………故郷への認識?………………秘密です


紫は里長の孫=初歩とはいえ正式な霊能修行をしていた男の孫

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