ボクの上段   作:発破六十四

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ボク、試合に出る重みを知る

夏休みが終わり、2学期が始まった。なんだか実力テストとかで、ドタバタと9月も終わりに近づいて、ちょっとだけ涼しくなったのは嬉しい……やっぱり防具はくさいけど。

 

 代替わりして2ヶ月が過ぎたけど、新チームも良い感じ。

 川井先輩は優しく穏やかにみんなをまとめてくれるし、恵子は仕切りが上手く川井先輩のサポートを良くやってくれている。

 2人がいるから、ボクたちは薙刀をやる事に集中できていると思う。

 

 そして、この9月の一番の出来事といえば、薙刀の級を取ったことだ。

 

 実はバタバタしていた理由のひとつがこの昇級試験だった。ボクが取ったのは四級。

 いきなり四級って言うと凄い!となるかもしれないけど、別に飛び級がOKな薙刀だと普通の事らしい。

 だけど、賞状とかを貰った事がほとんどない(3月の優勝は団体だからボクのじゃないし)ボクとしては、そんな四級でも嬉しかった。

 

 昇級試験は基本的な薙刀の動きと、『しかけ応じ』っていう2人1組で、決まった動きの攻防を見せる。

 ちなみにボクと唯と明日香の『初心者トリオ』の3人とも四級に合格して、恵子たち経験者組は3級に合格した。

 初心者トリオから四級トリオになったボクたち。なんだかちょっとだけ成長した気分かも。

 

 級を取ったその日、ボクは賞状を持って家に帰り、お母さんとお父さんに見せた。

 

「祐希が初めて取った級と賞状やけん飾らない?」

「良かね。額を買わんと」

 

 なんて2人で嬉しそうに言い出したけど、恥ずかしいからやめてってボクは返した。

 

 そうやって忙しかった9月の終わり、佐々木先生からボクらに嬉しい知らせがあった。

 

「来月下旬にF県のK市で試合があります。個人と団体、両方です。団体は1チーム4名、個人は6名出れます……メンバーは私が選出して、後日伝えるのでよろしくお願いします」

 

 試合。3月の以来の試合がある。稽古の後の帰り道、ボクはその事に少し舞い上がってみんなに話しかけていた。

 

「試合だって試合!みんな、久しぶりの公式戦だよ!楽しみだねぇ」

 

「そーだね、ユウちゃん。私もすごく楽しみ!」

 

 愛ちゃんも笑顔でとても嬉しそうに応じてくれる。みんなもきっと楽しみだと思う。

 

 だけどこの時のボクは全然事の本質ってのをわかってなかった。

 

 家に帰ってご飯とお風呂を済ませて、自分の部屋に戻ってスマホを見ると恵子からRINEのメッセージが来ていた。

 

『祐希、アンタ帰りちょっとのぼせとったけど、分かっとると?今度の試合団体は補欠入れて4人、個人は6人しか出られんとよ?』

 

 どういう意味だろ?ボクはよく理解できずに、恵子にそれぐらいわかってるよと返事をした。

 

『やっぱりわかっとらん。団体は良かさ、愛理と2年の先輩3人で確定やろ。けど、個人は団体の4人と、まだまだ試合に出せるレベルじゃない、唯と明日香ば抜いたら、アンタと美咲と私で残り2枠ば争うとよ?』

 

 ……ボク、美咲、恵子。小学生低学年からの友達。その3人で2枠?……そうか…確かにそうなっちゃうか。

 初めてその事実に気づいたボクの胸に、これまで感じたことのない緊張感がじわりと広がっていった。

 

『順位戦で私たち3人は9.10.11位やったけど、最近の祐希は本当強くなった。だから私や美咲が外される事もあると思う。でもそれが武道やスポーツばやるって事やもんね』

 

 恵子の大人な言葉がボクに刺さる。ボク、薙刀は少し上手くなったかもしれないけど、全然まだまだ子どもだったんだ。って自覚させられた。…恵子の言う通りのぼせてたんだボク。

 

 試合に出ること。それが単なる「楽しみ」だけではないことを、ようやく理解し始めた瞬間だった。

 

 学校では普通に話せたのに、次の稽古の時ボクは何だか恵子や美咲の顔をしっかり見れなかった。

 気のせいかもしれないけど、2人も意識をしているような気がする。

 

「よーし、試合に向けて頑張るぞ」

 

 なんて言ってる愛ちゃんがいつも通り過ぎて安心する。きっと天然主人公気質な愛ちゃんなら『出場争い?楽しそう!』とかあっさり言うかもしれない。

 

 そんな感じだから、その日の稽古にはいつもと違う空気が漂っていた。

 特にボクたち中央中の3人が地稽古をする時は、お互いの動きにどこか緊張が滲んでいる。

 なんだか練習でのやり取り一つ一つが、誰が選ばれるかに繋がっているような気がする。

 

 防具越しの鋭い視線。手に持った薙刀が重い。お互いどこか慎重になりすぎて、中々有効打を打ち込むことができない。

 だからその後楽しそうな愛ちゃんや、とにかく思いっきりやってくる唯や明日香とやるとなんだかホッとした。

 

 でも、ボクの心の中では、次の試合のこと、そしてその選考をめぐる重圧がずっと消えなかった。

 試合の場に立つということ。それは、みんなが憧れる舞台であると同時に、誰かがその舞台から降りるって事。

 独特の緊張感の中で——ボクは初めて思い知った。

 

 そんなどこかスッキリしない稽古の後、ボクが着替えていると、隣の愛ちゃんが制服のスカーフも結ばずに小声で話しかけてきた。

 

「ねぇユウちゃん、中央中のみんなどうしたの?今日なんか変だったよ?ケンカでもしたの」

 

 愛ちゃんの言葉に、ボクは一瞬ドキッとした。やっぱり、気づかれちゃうか。あの空気、隠しきれないよね。

 

「うーん、ケンカじゃないけど……ちょっとね」

 

 どこかごまかすように答えたけど、愛ちゃんは納得していない様子でジーッとボクを見つめてくる。

 

 後でRINEするよって言ったら『ありがとね。ユウちゃん』って、かわいくイタズラっぽく笑う。

 その顔、男の子にしたら1発で彼氏できるよって言ったらキョトンってしてた。

 

 その後家に帰ってRINEで愛ちゃんに説明すると、愛ちゃんは『あーなるほどね』って返信をしてきた。

 続けて『でもさ、それって良いことじゃない?みんなそれだけ本気で頑張ってるってことだもん』とも来た。

 

 愛ちゃんらしい、とても真っ直ぐな言葉だった。それを見てボクは少し笑ってしまった。愛ちゃんはいつだって迷いがない。

 だけどその次に来たメッセージは、こないだの恵子とは違った意味ですごく大人な文だった。

 

『きっとどんなスポーツも武道も、私とユウちゃんみたいに、同じチームでそうやって競争して、さらに他のチームと競争するから、残酷な時もあるけど楽しいんだよね。切磋琢磨って奴?それができるって、とても幸せな事なんじゃないかなって私は思うよ』

 

 幸せ………。ボクはそのワードを何度も胸の中で繰り返す。

 仲が良くて大好きな友達と、薙刀で競う。そして試合では榊原とか久保田とかとまた競う。

 競えば当然勝ち負けがついてくる。だけどそれは悲しいとか悔しいとかだけじゃなくて、楽しくて幸せな事でもある。

 

 もちろん人それぞれだし、一人一人考えは違うと思う。

 だけど、今の愛ちゃんのメッセージみたいに思えたら、何だか……すごく良いなってボクは感じる。

 

 ……また愛ちゃんに…ボクのライバルに大事な事を教えてもらった。

 ボクは愛ちゃんにお礼を送ってスマホを机に置いた───よし、次の稽古では慎重になりすぎず、もっと真っ直ぐ戦おう。

 そう思いながらボクは壁に立てかけている自分の薙刀を見た。

 

 

 

 次の稽古の日、ボクはもう美咲と恵子に対して意識しすぎず向かっていけた。

 と言っても最初は少しだけ緊張したけれど、一本一本を考えすぎずに攻めて守るをしているうちに、いつもの稽古の感覚が戻ってきた。

 ボクがそうして自然体で向き合ったからか、こないだのギクシャクが嘘みたいに、恵子も美咲もいつも通り真剣に戦ってくれた。

 

 ボクが恵子の面を打ち、恵子がボクの小手を打つ。美咲がボクのスネ打ちを避けて、逆にボクのスネを狙うのを下段の構えに変えて防ぐ。

 当たり前といえば当たり前の攻防。それがなんだか嬉しかった。

 試合に誰が選ばれるとか関係ない、本気で競うこの感じ。これを愛ちゃんは言いたかったのかもしれない。

 

 ──これで良い。たとえ試合のメンバーに選ばれなくても、悔しいけど後悔はしないですむと思う。

 

 その日の稽古が終わった後、小学生以下のみんなが帰ってボクら中学生組だけが残こされた。

 10月の試合のメンバー発表だ。ボクも含めてみんな察している。

 

「中学生の皆に残って貰ったのは、こないだ言った試合のメンバーを発表するためです。まずは団体から…」

 

 団体は予想通り愛ちゃんと2年生の先輩3人。だけどなんと愛ちゃんは大将だった。

 今クラブで一番強くて1年生で大将。しかしそれを聞いても、愛ちゃんは全然驚いてなかった。

 

 というか当然のことみたいに平然としている、うーん愛ちゃんはやっぱりすごい。

 なんて思いながらも、ボクは少し緊張し始めていた。

 

 次はいよいよ個人戦のメンバーだ。まず団体戦に選ばれた4人が呼ばれる。これは当然で後2人。

「5人目は、横田さん。行けるわね?」

「ハイっ!」

 

 恵子だ。ピシッとした横顔がボクの目に映る。後1人、ボクか美咲か。緊張のせいか口が渇く。

 

「6人目は……藤野さん」

 

 ボクの名前が呼ばれた。ボクは反射的に声を上げた。

 

「はいっ!」

 

 その声が自分のものだと気づくまでに、少し時間がかかった。頭が真っ白になる感覚。でも、不思議と緊張は消えていく。

 

「5月の順位戦の結果通りとはならなかったけど、今年1月からの貴方の頑張りと、成長。そして薙刀に取り組む姿勢の良さ。それらを総合的に考慮して選びました。大丈夫ね」

 

 佐々木先生がボクの目に、強い視線を向ける。まるでボクを試すみたいに。ボクは大きな声で答えた。

 

「はい!頑張ります!」

 

 その後ちょっとした話をして解散になった。並んでいたみんなが別れる時、美咲と目が合った。

 どうしよう。何か言いたいんだけど、なんて言ったら良いのか分かんない。

 そうしてボクの頭がぐちゃぐちゃになっていると、美咲がニコって笑った。

 

「…おめでとう、祐希ちゃん。けど、次は私が選ばれるように頑張るからね。負けんよ」

 

 そう言われた瞬間、ボクは泣きそうだった。きっと美咲は悔しくてたまらないはずなのに。

 笑顔でボクにそう言ってくれてる……ボクはなんだか胸がいっぱいになった。

 

 

「ありがとう、美咲……」

 

 涙をこらえて震える声で返事をするのが精一杯だった。

 

 友達を──美咲を押し退けてボクは試合に出るんだ。この笑顔と気持ちに、報いるためにも頑張らないと!

 ボクは胸の中でそう強く決意しながら拳を握りしめた。

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