俺は体育祭が始まる前、とあることに挑戦していた。
『この人は?誰?強いの?』
「ベストジーニストだ。本に載るような人が弱いわけ無いだろ」
どうも、学ぶことは嫌いじゃない、紅月魁雅です。
今学んでいること、それは”プロヒーロー”だ。消太さんから知っておいたほうがいいということだったので、やることも筋トレ以外特に無かったからついでに学んでおこうということだ。
この世界で販売されているチラシや雑誌、新聞などを大量に買い、そこに載っているヒーロー達を消太さんの指導のもと頭に入れ込んでいく。ただそれだけだ。…なのに何故だろう、とっても覚えるのに時間がかかる。
”
『……あーーもう!めんどくさいめんどくさい!別にいいでしょもう覚えなくて!』
「あのな、これはお前が魔界に帰るためでもあるんだよ。プロヒーローを知って、世界を知る。それが帰ることに繋がるのはお前でももう知ってるだろ」
いやそれオールマイトに教えてもらってなかったら知りませんでしたけどねェ!
『俺が覚えるのはエンデヴァーだけでいいの!なんか”百獣の王”も発動してないし、俺は昔全く勉強できない人間だったの!興味ある内容でもないんだし、もう無理だってぇ〜…』
悪魔という存在は、集中力というものが特筆して欠けている。特に興味がないものに対してはもはや一度も目を向けず、最初から無かったもののように扱ってしまう始末。
おかしいよね、俺って人間なはずなのに、どうして悪魔みたいになったんだろう。長い間悪魔たちと過ごしてきたからかなやっぱり。この能力も恐らく、自分の興味あるものに対して、意欲が上がったりするのだろう。アロケルめ、許さん(八つ当たり)。
まァだから、こんな俺とか悪魔にとっては興味ない話、勉強するのはもう厳しい、のだが…
「なかなか興味深いな。ここまで個性的だと、悪魔を模したヒーローもいるのか?」
「悪魔か、トップヒーローほどではないが、こんなヒーローならいるぞ」
「へぇ、面白い」
『…ねぇ、なんでソロモンがそんな興味津々なの』
さらっと俺の体から出てきたソロモンが猫の体を丸め、雑誌の前に座り込んでから消太さんと話し始める。自由に俺の体から少しだけ離れられるからって呑気なもんだ。猫の体のくせに。
『いっつも興味ないことは首を突っ込まない悪魔のくせに、なんでこんなことだけ話に乗っかってくるの』
「あまり悪魔を馬鹿にするな。お前が興味を持たなすぎてるだけだと思うがな」
『うるせぇ。お前だってヒーローに興味なんて持ってなかったでしょ』
「俺は色々探求心が高いんじゃないのか?
『このっ、調子乗りやがって…!使役者の恐ろしさ見せてやるっ』
油断しているソロモンを鷲掴みしようと試みたが、するりと避けられ、頭に乗っかってきた。小柄な体もこういうときに役立つんだな、とソロモンは感じていた。
「ったく……俺は少し寝てくる。二人で仲良くお勉強してろ」
「『はーい』」
消太さんはため息混じりで、自分の寝袋の中に入っていった。
『…俺も寝ていいかな?』
「駄目だ。少しはアロケルの能力無しでも学ぶ姿勢を見せろ」
『ちぇ〜…………ん?ねぇソロモン』
面倒ださっさと寝てやりたいと思いながらも、のっそりとした動きで雑誌を見始め、一つのページが目に入った。たまたま開いてあったページだ。
「なんだ?逃げる言い訳なら聞かないぞ」
『ちげぇよこれ見て。このヒーローさ、飯田と”個性”同じじゃない?』
そのページに乗っているヒーローを指差す。そのヒーローは全身パワードスーツのようなコスチュームを着ていて、足に飯田と同じマフラーが付いていた。そのヒーローの名は
「『インゲニウム…』」
『ほら見て、ターボヒーローインゲニウム、”個性”エンジン。やっぱ同じだよこれ”個性”の詳細は書かれてないけど』
「東京に事務所を持ち、65人の
しかも次のページには、見覚えしか無いメガネを掛けたインゲニウムの姿が見えた。
「これは…もう」
『確定じゃね?』
『…てなことがあって』
「いつかは気づかれると思っていたが、まさかこんなすぐにだとは。君は本当に周りを見ているのだな」
『たまたまだよ』
インゲニウムは予想通り、飯田の家族、兄だった。個性遺伝子による同じ”個性”、似ている顔に同じメーカーのメガネ。逆にここまできて分からない方がおかしいと思っている。
「俺の家系はヒーロー一家なんだ。俺はその次男だ。規律を重んじ人を導く愛すべきヒーロー!俺はそんな兄に憧れてヒーローを志したんだ」
『…そっか。お兄さんも、今回の体育祭見てたらいいな』
「試合前に電話したんだが、出なくてな。恐らくまだ仕事中なのだろう」
『………』
一つ、可能性は低いが、嫌な想像が頭を過る。
「どうかしたか?」
『__いや、なんでもない』
これは流石に、考えすぎか。
「…それでは、俺はここで終わりだ。次の試合からも、君を応援していこう」
『ありがと。意思は受け継いでやるから、任せとけ』
控室の前でお互いが別れる。
念の為、頭の端にでも置いておこう。
●
『あ、緑谷手術終わった?』
上からゆっくりと芦戸対常闇、切島対爆豪の戦いを見ていたら、後ろの通路から手術が終わりいたるところに包帯を巻いた緑谷が見えた。
「うん。今の試合って…」
『切島対爆豪。お互い攻撃を仕掛けまくってんね〜、今回の体育祭じゃ珍しい戦いかも』
「そうなんだ、確かに切島君の”個性”はかっちゃんの”個性”を真正面から受けれる優秀な”個性”だし、攻撃にも使える。だけど結局は限界があるし、あのかっちゃんの反射神経にただの殴りで倒すのは無理があるから、切島君は早めに決着を付けないとまずいかも…いやでも、かっちゃんもいつかは素早さとか威力とかも下がるだろうし…」
『…ブレないなお前。手術後だから疲れてるんじゃねぇの?』
手術後はあの婆さんの”個性”で回復はするが相当な体力を持ってかれるはずなのに…コイツはいつもと変わらずって感じだな。
「疲れてはいるんだけど…やっぱり皆の”個性”とか戦い方は覚えといて損はないし」
_こう見ると、コイツを後継者にしたオールマイトの心情がよく読み取れる気がする。
最初は正直、よく分からなかった。何故コイツを後継者にしたのか。他にもっと優秀な”個性”の持ち主はいたのに、何故よりによって無個性にしたのか。世界の命運がかかるような”個性”を、何故コイツに託したのか。
特に運動神経が良かったわけでもない、出会ったばかりなのに。
「…紅月君?どうしたの?」
だけど、コイツを見てから、一つ思うようになった。
『いや、なんでもねぇよ。この世界に来てから色々考えることが多いんだよ、お前のせいで』
「僕のせい!?」
”実力”と”志”は、比例する。ただそれだけのことを。
●
【準決!サクサク行くぜ!正直この試合が一番気になる!紅月魁雅対轟焦凍!】
『やっぱお前ならここまで来ると思ってたよ、轟』
「……」
ずっと待ってた、この時を。だけど、緑谷戦以降から、ずっと轟の顔が曇ったままだ。前のように重い物がのしかかっているような表情ではなく、スッキリしている表情でもない。何かを、考えている。
…いやいや、別に前からずっと何かを考えてはいるけど。そこは変わらないのだが…なんだろ、一気に雰囲気が変わったというか、顔つきが変わったというか、
緑谷戦をずっと引きずっているのかは分からないし、それが分かったとて俺ごとき、轟の心情など理解できるわけがない。アイツにはアイツしか分からない問題があるだろうし、理解してほしくない場合だってある。
だけど【START!】
パキン!
【おっと轟初手から容赦ナシ!紅月を氷で閉じ込めた!コレはさっきから一瞬で決着をつけていた紅月への因果応報なのか!?さぁこのまま出てこなければ勝者が決ま『それっぽいこと言わないでください』】
…相変わらず、この学校と生徒たちは考える暇すら与えてくれないのか。
ソロモン魔力出力”50%”、
『戦闘訓練の時から変わってねぇなぁお前………確かに、俺に対してすぐに試合を終わらせたいというこの一撃は評価しよう。だがな、流石に一発屋過ぎないか?』
【オイ、なんか氷の中から紅月の声と何かを叩く音が聞こえるんだが…まさか!】
『よいしょ―――!!!!』
【はァ!?なんと紅月、氷漬けにされたと思いきや内側から力ずくで氷を叩き壊した!】
『なんかもっと、面白いの見せてくれよ』
人差し指と中指をくいっと曲げ、挑発する。
まず、開始と同時に轟の氷が来る。来るとは大体分かっていたから、”
それに。これほどの氷の量、轟もデメリット無しで打っている訳では無い。このまま続けば、緑谷の時と同じく持久戦となるだろう。同じ展開は面白くないんだけどなぁ…
「っ…!」
轟の足元から出た氷がパキパキと音を立て迫ってくる。
『またそれかい』
迫ってくる氷を、”
「…お前だって、空飛べばすぐ終わるんじゃねぇのか」
『こんな大勢の観客がいる中で、なんの面白みもない一方的な蹂躙を見せるのはどうかと思ってな。俺だって色々、楽しみたいんだ___よっ!』
さてさて、防戦になるのも面白くない。自分から攻めに行こうじゃないか。足にソロモンの魔力を込め、一気に轟との間合いを縮める。狙うは、右。
そのまま踏み込んだ勢いを殺さず、体を僅かに捻る。右肩が前に出るのと同時に、機械仕掛けの右腕を折りたたみ、肘の尖った部分を横薙ぎに振り抜く。
「速ッ…」
『”大鎌”!』
【紅月、ついに攻めに出た!だが轟も負けていない!持ち前の反射神経で氷を出しながら防ぎ、距離を取った!】
流石の反射神経だ。クラヴガマの基本テク、”水平エルボーストライク”の応用的な感じで右肘を当てに行ったんだけど、見事氷を出されて防がれた。んじゃ、だったら今度は…
”
『捕まえ…た!』
「なっ…」
ウェパル師匠直伝、”
魔術の基本はイメージからだ。生成するのも利用するのも、全てはそこからがスタート。この術は特に、俺の想像次第だ。
「相変わらずチートだな…」
【轟、拘束されても動じず、縄を伝って氷を紅月に向けて放つ!これは紅月、避けようがないように見えるが!?】
なるほど、確かに、これを避けるのは縄を解いて距離を取らない限り、氷は縄を伝って俺のところまで来るだろう。瀬呂戦の時と同じだ。轟に対して直接的な拘束は、通常禁じ手だ。
『”ラファイア”』
だから、避けられないのならば溶かすまで。アスモデウス・アリスの得意魔術、炎系統の魔術だ。予想通り、炎は氷と同じく縄を伝わり、眼の前の氷を溶かしていく。本人曰く、家系能力というわけではないらしい。
『んじゃ取り敢えず__飛んでけっ!』
「くっ…」
その場で回転しながら、指から出ている魔力の縄を切り離し、轟を思いっきり場外へと投げ飛ばす。拘束は解けたけど、轟を場外近くに追い詰めれるならどっこいどっこいだろ。
【轟後ろに氷を生成して場外を防いだ!器用に使いこなしてるぜ!】
轟は距離を取りつつ、今度は地面に沿っているだけではなく、少し高さのある氷を出してくる。
『…まだ使わないか』
ソロモン魔力出力”70%”、
『”天穿封迅”!』
【またもや正面突破!紅月、轟の行動全てに対応できている!】
…いや、こんなの緑谷の真似事だ。言ってしまえば、正面から氷に衝撃を与えて壊せば、轟の動きには対応できてしまう。たった、それだけで。
デカい氷を出そうとも、何度も言うが轟には限界がある。左を使わない限りは。
『いい加減、戦い方を変えたらどう?正直、自分で分かってるでしょ?今のままじゃ無理だって』
「ッ……」
『俺に勝ちたいんじゃないの?勝ちてぇなら来いよ』
俺は体育祭が始まる前に言ったぞ。”楽しくやろう”、って。こんなもん、轟が試合の勝敗を放棄しているようなもんだ。俺から見れば。
…あー、イライラする。
「…お前は、何も『分かってないわけねぇだろが!』_!」
観客席に大声を出したときと同じく、腹から声を捻り出す。
『いい加減にしろよお前!お前のことなんか隅から隅まで知ってますー!自分をレア物だと思思い込み過ぎなんだよ!』
「……うるせぇッ!なんでお前はそんなに俺の家系に入り込んでくんだよ!関係ねぇだろ!」
【おっと轟&紅月まさかの口喧嘩!?若いのはいいことだがこれは…!?】
『俺は俺のやりたいようにやる、お前に俺の人生を決められる筋合いはない!』
自分勝手?それで上等!
「だったらお前こそ、俺の人生に干渉してくんじゃねぇよ!余計なお世話なんだよ!」
だったら、誰がお前を
『余計なお世話をして何が悪い!今お前に必要なのはそれ以上でも以下でもないだろが!』
そうでもしねぇと変わんねぇだろうがお前は!
「調子狂うんだよ!こっちは自分の意思貫きたかったのに、お前が揺さぶるせいで…!」
揺さぶってるわけじゃねーよ!
『なーにが自分の意思だ!
たんだよ!こんなの、ただ自分に言い聞かせて本当の意思を隠してる本物の馬鹿だお前は!』
「ッ……お前だって馬鹿だ『あぁそうだよ大馬鹿だ!自分には関係ないと思いながら結局いろんなもんに手を出す、かなりの大馬鹿者だ!だがな、自分の
人間界に来てから、ホントにそんなことばっかだ。あの時の子供だってそうだった。別に、あの子供は俺の主人じゃないし、緑谷みたいに面倒見る相手でもなければ、知り合いでもなんでも無かった。
なのに、体が動く。自分には関係なく、意味がないことも十分理解しているはずなのに。
本当に、俺は矛盾しまくりの馬鹿な人間だ。
そのまま轟に、腰や足に力を入れながら歩み寄っていく。
『いいか!まず、お前のことを一番分かってないのはお前自身だ!自分のことを理解してねぇやつが、強くなれるはずねぇ!』
「__うるせぇ…!」
轟から少し勢いの強まった氷が来る。だが、それは本当に勢いが強まっただけだった。先程までの頭を使った使用法ではなく、少し投げやりのような。
『お前に今一番必要なのは、その”余計なお世話”なんだよ!お前はさっきの緑谷の思いを、全部無駄にする気か!』
「違う!_分かんねぇんだよ…!俺は、どうするべきなのかが…!」
次々と来る投げやりの氷を、全て殴って蹴って壊しながら前に進んでいく。だが轟はそれを防ごうと、氷を壁にするように生成しぶつけてくる。
『_だったら、俺が教えてやるよ…!』
伝えたいことは、真正面で…!
ソロモン魔力出力”50%”、
『”大鎌・嵐”!』
足に魔力を込め、轟に一気に距離を詰めると同時に回し蹴りで眼の前の氷を壊し、轟の胸ぐらを掴む。
『いいか轟!耳かっぽじってよく聞け!お前は……………”個性”じゃねぇ!轟焦凍だ!』
「ッ…!」
『何が個性婚だ!何が道具だ!どんな経緯で、どんな”個性”で生まれたって、お前はただの弱っちい人間、轟焦凍なんだよ!自分の生まれた理由を馬鹿な勘違いしてるから、お前は一生育たないんだよ!』
『No1を超える”個性”を持つために生まれた?そんな腐った理由捨てちまえ!人間は、自分のやりたいこと、欲のために生を受け、その生を歩んでいく!家族だろうがなんだろうが、そのお前の本当の欲をぶっ壊して生きる理由を変える権利なんて、あるわけねぇんだ!』
『だからお前は、その閉じ込めた本当の欲ってもんを心の中から出してみろ!親父を否定するためにヒーローになりたい?またそんな偽物の欲語るつもりなら……俺が本気でぶん殴ってやる!』
『お前の、本当の欲は!言ってみろや………焦凍!』
「__俺は…!」
「__ヒーローに、なりてぇよ…!」
『…じゃあ、なんで「忘れられないんだよ…!」』
ほんの数秒の沈黙の後に見えた焦凍の表情は、緑谷戦以前とはまた違った、酷く悲しく、幼い子どものような表情だった。
「左を使うたび浮かんでくるんだよ……アイツの顔と、アイツのせいでおかしくなった母さんの顔が…!」
左の髪の毛を握りしめながら、焦凍は俯き弱々しい声で語る。
「…だから、俺はそんなすぐには変われねぇよ。この”偽物の欲”が、”本物の欲”を押さえつけてる限りは」
『…そうか』
胸ぐらを掴んでいた手を離し、また数メートル距離を空ける
『もういい。これ以上は時間の無駄だ。観衆にも申し訳ねぇしな』
この口論だけで数分も使ってしまった。あの実況が黙り込むほどだ。観客は相当置いていかれていただろう。流石に、そろそろ試合に戻らないとな。
『次でラストだ。お互い、これで終わらせよう』
「……」
お互い、真剣な顔つきで数分ぶりの戦闘態勢を取る。俺の拳が先か、焦凍の反射神経が先か。
【さァなんか色々あったがついに決着がつきそうだぞ!果たして勝者はどっちだ!?】
『…焦凍。最後に言っとく』
ソロモン魔力出力”50%”、
”
『俺はいつでも待ってる、そんで諦めないからな』
足と腕に炎、ソロモンの魔力を纏い、焦凍との間合いを縮める。焦凍の反射神経でも反応できない程の、素早いスピードで。
『
やっべぇトモコレとスト6楽しすぎて投稿遅れた。