◎轟Side
【長い戦闘の末勝利を手にしたのは………………轟焦凍!決勝進出だ!】
「いやースゲェ白熱した試合だったな!やっぱあの二人欲しいな!」
「口論してたのは少しアレだが…実力は底しれないぞ!」
…勝負は、一瞬だった。
お互い、最後の一撃。紅月の拳が届くのが先か、俺の氷が紅月を止めるかのどちらかだった。そしてその結果、俺は紅月を止めることに成功した。……なんて言葉で、この結果は片付けて良いのだろうか。
「…お前、なんで『いやぁ負けちまった!くっそー、結構自信あったんだけどな〜?』」
俺の声をかき消すかのように、氷に身動きを封じ込まれた紅月が声を出す。
今の試合、確実に勝利は紅月のものだった。俺はアイツの動きに反応できなくて、そのまま殴られ場外へと飛んでいっていただろう。…だけど、紅月は何故か、よそ見をしていた。
紅月があともう少し手を伸ばせば、拳は当たっていた。なのにアイツは俺の眼の前で横を向いて、何か恐ろしいものを見たような表情をしていた。
『ワリィ焦凍、これ溶かしてくんね?ちょっともう疲れちゃったわ』
「…分かった」
左の炎を使い、紅月の氷を溶かしていく。…恐らく、これも嘘なのだろう。
紅月の力があれば、こんな氷自力で脱出できるはずだ。体力だって、消耗しているはずがない。全力を出さない紅月の、一方的な試合だったからだ。そんなレベルで消耗してしまうなら、紅月はここまで勝ち上がっていないだろう。
『…っし、ありがと。ちょっと俺急用思い出したから、もう戻る』
「…大丈夫か?俺も付いて行く」
心配だ。当の本人は隠せてるつもりだろうが、こいつの眼の前にいる俺なら分かる。あの紅月が、ここまで
これはきっと、ただの急用ではない。
『大丈夫、
「…俺に関係なくても、別に『来ないでくれ。頼むから』……は?」
そんな言葉を残して紅月は、早歩き程度のスピードでステージから去っていった。
さっきまで俺の家系に手を出してきたくせに、いざ自分の問題となると話を聞かせてくれない……その紅月の行動は、俺を怒らせるには十分すぎるものだった。
「__何が”俺の問題”だよ…!」
それに、あの紅月の声は……何か、自分を騙そうとしているようにも聞こえた。
…なんとなく、なのだが。
●
◎紅月Side
嘘だ。
そんなこと無い。
ありえない、あってはいけない。
信じたくない、信じたくなかった。
…だけど、あの魔力は完全に
なんで、アイツがここに。
『ハァっ……ハァっ……消太さん!!!!』
「…魁雅?どうした」
「お前紅月か!?今体育祭中だろ!?」
『どうもっ…詳しい紹介はまた後でします、紅月魁雅です…』
ステージから少し離れた場所から全力で実況席まで走り、息を切らしながら消太さんとプレゼント・マイクの前まで向かう。消太さんも、普段俺が見せない姿を見て、只事ではないことを察してくれたようだ。
「お前っ……何があった」
『…街の方から、悪魔の魔力を感じた』
「なっ!?」/「はぁ!?」
その場に居た消太さん、プレゼントマイクが声を出して驚く。
「魔力の種類は?どんぐらいの強さだ?」
『かなり強大だし、凄い嫌な魔力。…もう、
「__お前、それってもしかして」
…想像したくもなかった、最悪の未来だ。
『俺の腕を壊した、悪魔の魔力』
●
その後、俺は体育祭を早退し、建物を足場にしながら街の調査を始めた。
消太さんから一度は止められたが、その後俺のわがままによって、消太さんから一つの命令を受けて体育祭の早退を許可された。
「絶対に無茶をするな。お前はまだ仮免を持ってないから、相手がヴィランでも殴るのは犯罪だ。ヤバいと思ったら、すぐここに駆け込め。プロヒーローがたくさんいるからな」
…とのこと。
確かにあそこにはプロヒーローが沢山いるけど、今のプロヒーローの仕事は雄英生の視察だ。ここで俺がそれを妨害するようなことをしてしまえば、プロヒーローだけでなく、スカウトされる側の雄英生にまで影響が出てしまう。
だから、今、この問題はなるべく俺が引き受けなければ。
『__おかしい、確かに魔力は感じたはず』
焦凍と技をぶつける瞬間、街の方から魔力を感じたのは事実だ。あの試合中によそ見してしまうほどの強大な魔力を。
…冷静に考えよう。
まず、一瞬の間にあれほどの魔力をぶつけることは、ただ生きているだけでは不可能だ。自分から魔力を発したり、何かの技を使ったり。その場合だと、強い魔力を一瞬のうちに感じることができる。
だが、それにしては情報が少なすぎる。もしもあれほどの魔力を使って何か技を使っているなら、当然なにかこの世界に影響があったはずだ。なのに、それらしい痕跡はどこにも見当たらない。人だかりは出来てないし、破壊されたような跡もない。
自ら魔力を発する……これは、多分無いだろう。もしもあるとすれば、俺への宣戦布告か。この世界でこの魔力を感じ取れるなんて俺ぐらいしかいないだろうし、それ以外に理由がない。
『__だとしたら、残された理由はただ一つ、か』
一度その場で立ち止まり、改めて周りを見渡す。
『ソロモン。お前はどうだ?』
「特に無いな。俺も魔力は感じたが、ただそれだけだ」
『やっぱり何も無いよなぁ……また魔力出してくんない限り、場所特定は無理に等しいか…』
このままただ街を飛び回っても非合理的、時間の無駄だ。明らかに情報がなさすぎる。この人間界に来てから、あの悪魔は何をしているんだ?人間を殺すわけではなく、それ以外のトラブルを起こすわけでもなく。
今はまだ、どこかで潜んでいるのか?だったら、塚内さんとかの警察たちに、捜索を頼んだほうがいいのか。
そんな未来未来のことを考えてると、一人の男性が、声をかけてきた。
「誰か、お探しですか?」
『あ、はい。危険ですから降り…て………』
ここは、屋根の上なのに。
「久しぶり、カイガちゃん♥」
判断は一瞬。俺が先か、死ぬのが先か。
振り向いた先にいるこの
『い゛ッ…!』
俺の腹に鋭い指が突き刺さる寸前に、指を噛み盾を眼の前に生成して鈍い音を出しながら防ぐ。
それによって生じる反動は、まるで貫手で攻撃しているとは思えないほど重く、武器創生で盾を作り出しても、衝撃が腹の奥まで響いてくるほどだった。
『ッごほっ…!』
「カイガ!」
「なぁんだ、前となにも変わってないじゃ〜ん。せっかく楽しみにしてたのに〜」
『…やっぱお前か、アトリ!』
「大正解」
悪魔アトリ。
俺が魔界に居た時、教師という名を使い突如としてバビルスへと入ってきた、裏切り者。俺の腕を使えなくした、張本人だ。
一度バビルスの教師陣に正体がバレて追い詰められた時、元13冠、アムドゥスキアス・ポロによって連れ去られた…のだが
『なんでお前がここにいる。お前にこの世界は何も関係ないだろ』
「え〜?そんなの俺が知るわけ無いじゃ〜ん。ただ呼び出されて命令されてるだけだし、俺が一番知りたいよ〜」
『呼び出された…?お前一体誰とつるんで「どうでもよくない?」あぶねっ…!』
またもや鋭い貫手が襲いかかる。瞬きをしてなくても目で追うのが難しいほど、奴のスピードは早かった。おかしい、前アトリと戦ったときは、もう少し遅かったはずだ。明らかに強化されている。
決して魔術による自己強化ではない。何かに、作られたような。
それに、今こいつと戦うのは非常にまずい。体育祭の疲労で、体力が万全じゃない。減った体力がたとえ少しでも、こいつと戦うならその少しが命取りになる。
どうする、考えろ。
雄英に戻って、プロヒーローを呼んでくるか?いや、ここからじゃ間に合わない。隙を晒すだけだ。なら、少しの間逃げながら何処かにいるプロヒーローを探すか?…駄目だ、今この状況で雄英以外にプロヒーローがいる確証を持てない。
…皆が気づくまでの時間稼ぎ程度なら、できるか。
「そんな身構えないでよ〜?今日は視察だし〜」
『視察…?』
「色々面白そうなの見つかっちゃったしねぇ。あの、学校とか…!」
『っ!』
アトリの目の色が変わった。あの時も見た…元祖帰りの色だ。
コイツだけは、絶対に駄目だ。もし
『…お前、少しでもあいつらに手ェ出してみろ。今度こそ殺してやる』
「ヒュー!痺れるねぇ!…その時が来るのを、楽しみにしてるよ。カイガちゃん」
『!待てっ…!』
…っても、待つわけ無いか。
アトリは持ち前の素早さで、建物の屋根を渡っていきながら姿を消した。俺が追いかければ戦闘することも出来た……が、それだけだ。戦闘して、終わり。今の状態で勝つことなど出来ない。
それにしても、本当に何故、アトリがここにいるんだ?
俺がソロモンを召喚したり、死柄木が(推測だが)悪魔を召喚したのと同じで、あいつもだれかに召喚された?…いや、だったらアトリがあそこまで強化されている辻褄が合わない。俺が魔界に居ない間に何者かによって強化された可能性はあるが。
ともかく、これは異常事態。すぐに消太さんに連絡して、街の警戒を高めてもらわなければ。
『ったく、この世界で、何が起きてんだよ…』
●◉◎◯
【…分かった、こっちも対応しておく。よく頑張ったな】
『別に何もしてないから。これからこの事件が解決するまで、プロヒーローは巡回を強化したほうがいいかも』
街の調査を終え、戻ってきたときには体育祭が終了していた。勝者は爆豪、無事選手宣誓の有言を実行することが出来ていた。試合は後ほどVTRでも見れるとのことなので、いつか見てみようと思っている。
今は消太さんに先程起こったことを電話でありのままに話している。アトリが街にいた事、まだアトリは動かないから、今のうちに警備を強める、などなど。
アトリの対策、しといて損はない。だが、対策をしないと勿論利益が出るわけもなく。今やれるべきことは、全てやってしまおう。
『アトリがいつ来るか、そんなの俺にはわかんない。だから、場合によっちゃ、次の職場体験を中止にすることも視野に入れたほうがいいかも』
【そうだな。…お前も、あまり無理はするな。何かあったら『心配性かよ。別に、あの時のことなんてもう気にしてないから』___そうか】
そう言い電話を切って、張り詰めた心臓につかの間の休息を与える。ついでに、右手にも。
『…………』
今回は、全部拾うことが出来るのだろうか。
約1年前
悪魔学校バビルス、心臓破り試験中盤。
『はぁっ…はぁっ…ここまで逃げれば追手も来ねぇだろ!』
心臓破り。それは魁雅のクラス、
そんなクラスに課せられた試験、心臓破り。この試験は、問題児クラスの優秀さを教師陣が認めた結果、他のクラスとの差別化を図るためにこのクラスにだけ特別に課せられた試験である。
ルールは至って単純。問題児クラスの14人は、それぞれ二人の1年生後輩悪魔を”宝”として死守すること。もし2人の1年の尻尾にある
勿論魁雅もそのルールに則り、二人の後輩悪魔がいるの、だが…
「離してぇぇぇ!私はまだ負けてないし、戦いたいの!」
『ルナリお前もう風船割られてるだろ!家系能力も攻撃向きじゃねぇし、大人しくしてろ!』
「だっ駄目だよルナリさん…キョーシはあんなに強かったんだし、これ以上戦ったら絶対…「ラルトあんたは黙ってて!あなたこそ攻撃向けの家系能力のくせに、ビビり過ぎなのよ!」うぅ…」
『おいやめろ!ラルトをいじめない!お前もあんま弱気になるな!』
成績優秀者という名目はどこに行ったのやら。少し目を離せば…いや、離さなくても喧嘩ばっかりする二人の悪魔が揃ってしまった。
まず一人目、マリジス・ルナリ。とても気が強く、言ってしまえばとても単細胞な悪魔だ。家系能力は”
説明するととてもタンク向きな家系能力なのだが、当の本人が見てもらったら分かる通り、ありえないほど戦闘狂だ。家系能力を使えと言っても戦いたいと言って使わない時があったりと、全く持って家系能力と相性が悪い悪魔だった。
そして二人目は、アンリル・ラルト。こいつはルナリとは全く逆の性格で、内気で繊細な悪魔だ。この情報だけで分かる通り、ルナリとの相性は最悪。内気なラルトに単細胞のルナリがキレて、ラルトはなすすべなし。
そんなラルトの家系能力は”
『いいかルナリ、
「むぅ…」
SOS。最恐の悪魔、サリバーンが解放されるのを防ぐために、複数人の協力が必要だった高難易度イベントだ。勿論キョーシはその場に居た生徒を狩りたくて仕方がないため、キョーシ三人が一つの場に集まり、その場で壊滅したチームもいた。
だが、魁雅達問題児と後輩悪魔達は、なんとかキョーシの猛攻をかいくぐり、ルナリの風船が割られるという事故がありつつも、見事ミッションを成功させた。
そこで今は、そのミッションが終わったため、その場に集まっていたキョーシから逃げていた。
『取り敢えず、屋上に行くぞ。まだそっちのほうが安全だ、そこで作戦立てる』
「はっ、はい」
少し不機嫌そうなルナリを横目に、走りながら屋上へ向かっていった。
「…ねぇ、カイガ」
『カイガ先輩だろ。なんだ』
「どうしてあなたは、そこまで戦闘を避けるの?あなたの強さなら、キョーシ1人相手にするぐらいならいけるでしょ」
唐突なルナリからの質問に、魁雅は目を丸める。
実際、SOSの時には、魁雅が一番前線でキョーシを相手にしていた。他生徒からのサポートがあったものの、魁雅の強さが目に見えるぐらいには実力が明らかだった。だから、だからこそ、何故魁雅は逃げ纏うのか。戦闘を好むルナリにとっては、それが疑問だった。
それを聞いた魁雅は、少し頬を緩ませる。
「ぼ、僕も少しそう思ってました。もっと、他生徒のサポートに行ってもいいんじゃ…『なんだお前等、そんなに俺のこと強いって褒めてくれんのか』…え?」
『確かに俺は強いし、それを褒められるのも悪い気はしない。努力の結果だし。だから、実は戦闘なんてばっちこい精神なんだよな』
魁雅は、強いと言われるために特訓を積み重ねてきたわけではない。だがかと言って、強いと褒められて嬉しくないと感じるわけでもない。魁雅は、守るために強くなった。どんな困難も乗り越え、鍛え上げられ、今の魁雅がいる。守るための強さは、今の魁雅の存在理由そのものだった。
そんな中、周りに強いと認められるということは、自分の実力があがったということ。
「じゃあ、なんで…」
『だけどな、今回の試験は、俺一人じゃない。お前等だっている。後輩悪魔という宝を守るのが、俺等の試験、役目だ。無理に戦闘に挑んで風船を割られちゃ、俺だって位階昇格が遠ざかるし、お前等の大事な初ステージも無様な結果に終わる。嫌だろ?それに、俺はお前等に期待してるんだよ』
「…期待?」
『あぁ。SOSの時気付いた、こいつらはやるときゃやるやつだって。だから、期待しちゃうんだ。ルナリたちなら、きっと面白い悪魔になれる。そんな期待を守護欲に変えて、お前等を守ってる。それがSDの性ってやつなんだよな』
SDとは、とっても自分勝手な存在だと、魁雅は思い込んでいる。勝手に期待して、勝手に忠誠する。…まぁ、それは魁雅だけかもしれないが。兎も角、そんな期待できる悪魔が出来てしまったのなら、SDはその悪魔を期待通りの未来へ導いていくのが、SDの役割だ。
そして、それを全うするのが新人SD魁雅の役目。対象範囲は、彼の気分次第。
『勿論、来たるべき時が来たら死ぬ気で戦ってやるさ。それだって、SDの守護の一環だ』
「…じゃあ、その時は私達も一緒に戦っていい?」
『ラルトと仲良く出来たら、な』
なんとも、随分丸くなったなと魁雅は思う。いや、丸くなったと言うか、素の状態がこれなのだろう。心臓破りという緊迫した状況の中、張り詰めた心が緩んできたのか。…ラルトはまぁ、恐らく変わらずだが。
後輩悪魔とここまで仲良く出来るのは、魁雅も想定外だった。
「分かったラルト?これからも私の足、引っ張んないでよ!」
「先走るから、引っ張ることも出来ないんだけど…」
「なによ、あなたがついてくればいいじゃない!」
『ほらほらそういうとこ。もう屋上ついたし、こっから切り替えて…』
だが、少し頭から外れていたことがあった。
ここは悪魔の学校バビルス、人間界の常識など、1ミリもない。
『サブノック!おいお前大丈夫か!?』
屋上には、凄まじい戦闘の跡地と、気絶して倒れ込んでいる同じ問題児、サブノック・サブロがいた。
「すごい傷っ……早く治療しないと、まずいんじゃ…」
「かっ、カイガ!これどういうことなの!?明らかに試験の範疇を超えてるわよっ!」
『俺が知るか!とりあえず、早く先生に連絡を!このままじゃ…』
「俺が連れて行こうか?カイガちゃん」
『あ、アトリ先生!?』
唐突な状況に全員混乱を隠せてない中、一人の教師が話しかけてきた。新任教師のアトリだ。試験中以外でも薄々感じていたが、このヒトは気配を隠すのがうますぎる。アトリ先生から話しかけられるまで、気づけなかった。
「すごい傷だね〜?もう安心していいよ、俺が連れて行ってあげるから」
『わ、分かりました。それじゃあ俺は、サブノックの後輩を「先輩!!!!!」』
サブノックのいる反対方向から、腹の底から出したような大きい声が聞こえる。
『あ、お前等がサブノックの後輩か!こっちこい!今からアトリ先生と』
「その悪魔、先生じゃないです!!!!!」
『…え?』
…そういえば、アトリ先生に気配を隠す必要はあったのか?
「…バラされちゃった?」
一瞬。
『マジかッ…!』
その場で左足を軸に回転し、勢いをつけて右足で回し蹴りを放つ。だが、その勢い虚しく右足は空を切った。
「せっかくもっといたぶりたかったのに、バラされちゃったらなぁ…」
バラム師匠直伝 ”リミッター・零”
「ヒュー!」
『”天穿封迅!”』
「カイガ!」
バラム師匠から貰った、ソロモン魔力増強剤を即座に使い、顔面めがけて拳をお見舞いする。
…が、その一撃は軽々と片手で受け止められ、アトリも余裕の表情を見せる。その一方魁雅は、頬に冷や汗を浮かべ、焦りの感情に加え、恐怖の感情も浮かび上がる。
あの時、ウォルターパークの時とは違う。強大な敵からの威圧感による自分の弱さからの恐怖ではない。これは、”死”への恐怖。
「震えてるよ?逃げたいんじゃない?」
『ッ…』
体が、逃げろと言っている。死んでしまう、ここで終わってしまうかもしれない。
『…あぁ分かってるよ!』
掴んでいたアトリの手を振り払い、後ろに飛んで距離を取る。…まだ、震えが止まらない。
『だけどな!こっちは大事な”宝”抱えてんだよ!絶対に傷つけたくない、大切な!』
ルナリ、ラルト、サブノック、サブノックの後輩。全部、俺の”宝”だ。今ここで俺が逃げて、もし宝を失いでもしたら。それは、もはや自分自身の存在の否定だ。
『守りてぇもんは全力で守る、それが俺だ!』
「それでもし、君が死んじゃったら?」
『本望、とでも言おうか!』
それが、俺流のSD道。
『お前には…俺も俺の”宝”も、絶対に壊させねぇよ!』
「………だっる」
過去編を書くのは大好きです。