「ルナリ!サブノックの周りを、”
「え、えぇ!」
サブノックの周りをルナリが回復効果のある結界で包み込む。
「ラルト!お前は先生を呼んでこい!」
「わっ、分かりました「行かせると思ってるの?」ひっ…!」
「クッソ速ぇ…!ラルト!」
ラルトを屋上のドアから出させようとしたら、させんとばかりにアトリがラルトに距離を詰める。アトリの手は既に貫手の状態で、すぐにでもラルトを攻撃しようとしていた。間に合わない。
「ッ……!”光”!」
「チッ…!」
その瞬間、アトリの眼の前で光が爆発した。
「閃光弾…!?」
ラルトの仕業だ。ラルトの家系能力”
そしてその結果、ラルトは無事この戦線を離脱することが出来た。
「逃がすわけ…」
「”
「おぉ?」
「お前の相手は…こっちだよバーカ!」
ラルトを追おうとするアトリを、魔力の縄で縛り出口から遠ざける。
ラルトの邪魔だけは絶対にさせない。もし先生が来たら、それだけで勝率がかなり上がる。それに、屋上で戦闘をしていれば、いずれ音などで気づいてくれるはず。
「いい後輩持ってるね〜?もっと壊したくなってきた!」
「させねぇって…言ってんだろ!」
ソロモン魔力出力”70%”、
足に魔力を込め、アトリに距離を詰める。
「”大鎌”・嵐!」
距離を詰めながらの右足による回し蹴り、速度は十分に乗っているが、この悪魔を捉えるにはまだ遅かったようだ。アトリには軽々と上に避けられ、攻撃の構えを取られる。
「動きが単純だねぇ。もっと、こんなふうに「単純で結構!」」
だが、魁雅のスピード…いや、反射神経も負けてはいない。アトリが空中へと逃げた先を即座に目で追い、ソロモンの魔力が入った足でアトリと同じ高さまで飛び上がる。そしてその場で体を縦に2回転させ、足に遠心力をつける。
「”鉄槌”!」
そのまま足を振り落とし、踵落としを決め込む。威力は十分出ている。アトリは地面に叩きつけられた後、煙を出しながら後ろへ飛ぶ。
「いいねいいよ〜!素早い動きに威力の高い攻撃!並の生徒なら出せないね!」
「なんっでピンピンしてんだよ…」
無駄だ。手応えはあったが、ダメージが全く持って足りない。先のサブノックと戦っていた時、どんな戦いをしたかは分からないが、アトリだって傷ぐらいはついているはずだ。
なのに、それでもなお何事もなかったように立ち上がる。まるで、楽しんでいるような。
「…だけど、その姿、長くは持たないんじゃない?」
「全部お見通しってわけね…」
「流石にそれで終わりじゃないよね?」
”リミッター・零”の効果は、およそ5分。決して長い時間続くわけではない。当然、体の上限を引き上げる道具なので、体に対する負荷もでかい。決定的な一撃を決めるなら、今この状態のときに決めなければ、体力がなくなり終わりだ。
「…後のことなんて、考えてらんねぇな」
拳を胸の前で重ね合わせ、目を閉じる。
「…おぉ!」
魔術は基本、イメージだ。自分がこうしたい、こうなりたいと願うことによって、魔術はそれに応えてくれる。そのためにも、自分の身体の中にある魔力を、全て自分の頭で操る。それ相応の集中力が必要だ。
集中。肩から魔力の糸を一本一本出していく。そして、その魔力の糸は何重にも絡み合い、筋肉、皮膚、骨を再現していき、一つの腕を造り上げる。そしてそのまま、同じ工程で右肩、両サイドの肩甲骨辺りから、新たな腕を造る。
この腕は、魔力の糸から生成された。だから、この魔力一本一本を、全て自分の身体と認識し、正確に動かす技術が必要だ。しかも、それが4個だ。
だが、その魔力を使いこなした時、その悪魔の力、集中力は極限まで達する。
その姿、まるで修羅のごとく。
「”魔力創造術”・阿修羅」
「魔力で腕を形成して、パワーと手数の補強…ねぇ。考え方は悪くないし技術もあっぱれだけど、肝心の速さはどうなの?何も変わってないんじゃない?」
「さぁて…どうかな!」
先程の動きをコピーしたかのように、足に力を入れて前に出る。何も小細工無しの、真正面から。
「また芸のない___ッ!?」
「
そう、小細工は無しの真正面。だがその瞬間、魁雅はアトリの後ろを取っていた。アトリはそれに気づけず、”阿修羅”により威力の上がった3つの拳を横っ腹から受け止めていた。別に、アトリは瞬きやよそ見をしていたわけではない。ずっと、魁雅を見ていた。だが、それでも追いつかなかった。
”魔力創造術”・阿修羅を維持するためには、魔力の腕を形成している魔力の糸一つ一つにとてつもない集中力を要する。だから今の魁雅は、飽き性の悪魔にとって信じられないほどの極限状態に達している。
その結果、魔術維持という難題がありながらも、一つ一つの動きが魁雅の体にとって最適化されており、今までの本人以上に体の扱いに長けている、ということだ。
「やっっっっといいの入った!!!!!!」
「…いいねいいいねいいね!これだよこれ!初めて見たときから殺りたいと思って正解だった!」
「ッ…だからぁ、いい加減少しは倒れてくれよ!」
当然、とでも言うべきなのか。アトリはまた立ち上がり、笑顔を強くしていく。
「焦んなカイガ。アイツの挑発に乗った瞬間、負けるぞ」
強化状態のソロモンが体から出てくる。
基本ソロモンは、俺の体が住処だから戦いに参加することが出来ない。使い魔召喚で魔力が切れるまで戦ってもらうことも出来るのだが、何故かソロモンは他の使い魔と違い、使役者、つまりは魁雅の魔力消費量が比べ物にならない。
しかも、ソロモンは使い魔召喚で猫の姿になってしまったから、召喚前の本来の力が薄くなってしまい、弱体化されてる。もしも、魁雅がソロモンを使い魔として召喚し、これでソロモンが負けてしまったら、魔力切れで打つすべはない。
「あぁ分かってるよソロモン!お前も、今回は今まで以上に力貸してくれよ!」
「当たり前だ」
だが、ソロモンの魔力を使うことは出来る。これを、どれだけ使いこなせるか。
「ほらほら早くしないと、こっちから攻めて『関係無し!』」
「天穿封迅・
体から形成された4つの腕と、自分の2つの腕。全ての腕を高速で動かし、手が増えたと錯覚…いや実際に増えてるのだが、圧倒的な手数をアトリに見せつけ食らわせる。
アトリもそれに対抗して、貫手を使い同じ行動を取って技を相殺する。
(なんで手が6つの俺と同じ手数なんだよ…!)
「ほらほら、もっともっともっと!」
「いい加減…しつこいんだよッ!!」
隙を見てアトリから距離を離し、別の手を考える。
(これで手数がどっこいどっこいなのか……なら)
ソロモン魔力出力”50%”、起動部位・
右手に、そして左手に。進化魔術で金剪の長の羽を進化させたことによってできた弓を、まず自分の手に取る。そして、今度は金剪の長の羽を矢へと進化させ、両サイドの魔力で作った腕に矢を4本ずつ持たせ、合わせて16個の矢を構える。
魔界における弓を扱う上で大事なことは、これまた集中力だ。ただ矢を引いて放つ、そんな簡単なことじゃない。自分の欲望を弓に伝え、弓と分かり合う。奴を射抜く、仕留めたい、と。そしてそこに使い手の集中力が混ざることによって、弓は本領を発揮する。
「全部……守る!」
これが、その欲望だ。
「バチコ師匠直伝・”16連射”!ばちっ………こん!」
弓から放たれた16の矢が、アトリの頭上から降り注ぐ。
魁雅は、同じ弓使いの入間と比べ、矢の正確性がない。入間より当たることは少ないし、当たったとしても急所を外したりしてしまう。
だがその代わり、魁雅には他の師匠の技、そして、ソロモンの魔力がある。結果、普通の弓からは想像できない矢が放たれる。この魔術、魔力の応用力を活かして、どれだけ矢の威力を上げ、どれだけ相手を翻弄できるか。
(当たらなくてもいい……狙いは、真正面!)
上から降り注ぐ矢と同時に、アトリへと距離を詰める。さっきは真正面ではなく、背後から殴りを入れたが、それは決定的な一撃では無かった。
だから、今回は正面から。気合の入った一発を叩き込む。そのための弓矢だ。16もの矢を射つことによって、アトリの動きを制限する。矢の精度が正確じゃないからこそ、矢の軌道が読まれにくいのを利用して、少しでも動きを鈍くできれば。師匠から教わった、この技で。
手を掌底の形にし、3つの手を思い切りアトリの腹に当てる。
”
「”
「ッかはっ…!!」
こいつは、何回殴っても傷一つつかなかった。それが特殊な魔術によるものなのかただ単に表面の硬さ故なのかは分からないが、ただの攻撃では何も攻撃が通らないことは確かだ。だが、これは前者後者どちらの意見だとしても関わらず、
だったら、内部はどうだ。どんな人間、悪魔でも、内臓などが物質的に頑丈になることはない…と思われる。そんな内部に直接攻撃を当てることが出来たら。外の壁関係なく、攻撃が届いたら。
魔力の粒は一つ一つが空気よりも繊細だ。悪魔の体を些細な隙間から貫通できるほど。その魔力をアトリの体の中に入り込ませ、その後に魔力の密度を上げる。そして、”重力操作”で勢いの上がったその魔力を、掌底の要領でアトリの体の中にぶつける。
その結果、アトリが血を吐き出し後ろへ思いっきりふっ飛ばされる程の威力を生み出すことが出来る。
吹き飛ばされた先は煙が舞い、様子を確認することが出来ない。
「はぁっ…はぁっ…よしっ、やっと一発_____ッ!」
「カイガ!ちょっとあなた大丈夫!?」
「…あぁクソっ、ここでかよ…!」
時間切れだ。
リミッター・零の効果が切れ、ソロモンの魔力が薄くなり、魔力が溢れていたことによって紫色になった髪も徐々に色を失い、元の白い髪に戻っていく。それと同時に、阿修羅によって形成されていた4つの腕も全て消た。
「大…丈夫か、ソロモン」
「…あぁ。お前は自分の身体を心配しろ。早く、ルナリとサブノックを連れて…」
「る、ルナリさん!駄目ですっ!」
「大丈夫!ちょっと待ってて!すぐそっちで”結界”貼るから!」
「っ!おい馬鹿来るんじゃ「邪魔しないでくれるかな?」」
煙の中から余裕のある声が聞こえる。サブノックの後輩の声が聞こえ、振り向いてみれば周りの”結界”を解除してこちらに歩み寄るルナリがいた。すぐさま引き止める。脅威はまだ、消えていないから。
「…えっ」
「ルナリ!!!」
「先に殺しちゃおうか」
グサッ
「___カイガ?」
「ぁ…ぐッ……何、してんだよ…!」
アトリの貫手が、腹に突き刺さる。
迷わなかった。ルナリを確実に殺そうと、アトリがルナリに距離を詰めた時。何も考えず、体が動いて。ルナリを横へ突き出し、体へ穴を空けられたのは魁雅の方だった。
アトリも少し驚いたような表情をして、俺の体から手を引っこ抜き、一度距離を置く。無理やり手を抜かれた痛みで、顔がゆがむ。
「い゙っ…絶対に動くなって…言っただろ…!」
「ごっ、ごめんなさい、私、私…」
「いいから…早く、サブノックのところに…」
「………うん」
ルナリは返事一つしてから黙り込み、走ってサブノックの近くに戻り、”結界”を展開した。
「お前その出血…!これ以上無茶すんな!死ぬぞ!」
「ソロモン……悪い、それには、応えない」
”魔力創造術”・膜
魔力の糸を縫い合わせ、布のようなものを造り、傷口に簡易的な止血を施す。
「安心しろ。これで…止血は、しといた。俺の血は、お前のも混ぜてあるし、アイツが暴走する心配もない…」
「そういう問題じゃっ…!」
基本、悪魔に人間の血を見せるのはタブーだ。 悪魔にとって人間は、強大な力を得るための極上の食物…らしいが、そのせいか、悪魔は人間の血を少しでも嗅いだだけで正気を失い、凶暴性が増す。当然、普通なら今の魁雅の血にもその影響はある。
だが、今魁雅の体の中の血液には、悪魔ソロモンの血が混じっている。魁雅に近づく悪魔が、絶対に暴走状態へと陥らないために、サリバンが魔術で施してくれた。要するに、魁雅の血の特性を、ソロモンの血で相殺させているのだ。
だから、アトリも暴走状態に陥らない。
「言っただろソロモン。俺は…全部守るって。その野望だけは、絶対に曲げない。だからお前も、もう少し俺と一緒に無茶してくれよ」
「っ………」
ソロモンから、苦い表情が見える。
…不思議なものだ。最初は、お互いを嫌い、陥れようとしていたのが、この2人の関係だった。だが、今はどうか。互いを心配するところまで来ている。随分丸くなったもんだなと、心の中にそう留めておく。
「…分かった。信じてるぞ、カイガ」
「ありがとな、相棒」
その言葉の方が嬉しかったのは、昔からだったらしい。
バラム師匠直伝”リミッター・零”
体の限界と魔力を底上げする飴玉をまた使う。今の身体的にも、使用上限はここか。これ以上使用すると、体が壊れかねない。時間稼ぎでもいい、今ここでこの場を乗り越えることが、最重要目標だ。
「…ねぇ、なんで庇ったりしちゃったわけ?あの子邪魔でしょ?早めに消しといた方がこっからも楽だったし、君も怪我すること無かったじゃん」
「うっ……ご、ごめんなさ「邪魔なわけあるか馬鹿が」えっ?」
端で俯きながら謝ろうとするルナリを遮る。
「ただ俺が勝手に守ろうとして勝手に怪我しただけだ。ルナリを責める権利は、誰にもない」
「…正義感って、本当に面倒くさいんだね〜。だって、
「か、カイガ。悪いのは私、だから…「俺の宝だって言ってんだろ」」
「勘違いすんなよルナリ、お前とラルトは守られる側の悪魔だ。好きなだけ俺に守られとけ」
「…うん」
「カッコつけるのはいいけどさぁ、そろそろ始めない?時間がもったいないよ」
「…分かったよ」
地面に落ちてある、サブノックが家系能力で生成したであろう槍を持つ。
「”チェルーシル”」
そしてその槍を、片手剣へと姿を変える。
魁雅に剣技はまともに使えない。だけど、武術はもう効かない。まだ手はあるが、アトリは今の魁雅の武術スキルでは、絶対に倒せない。時間稼ぎも出来ない。さっきの5分間で、動きが殆ど読まれてしまう。
それに、先生だってもう少しで来てくれるはずだ。ラルトが先生を探しに行ってから異様に来るのが遅い気がするが、ここまで戦闘音を立てていれば、流石に気づいてくれるだろう。
「早く来てくれよ、ラルト…!」
ソロモン魔力出力”70%”、起動部位・剣
「そんな使い慣れてないもんで…」
「ふんっ!」
使いこなせないものなんか、投げ捨ててしまえ。足に力を入れてアトリに距離を詰めるように見せかけ、その場で踏みとどまり、思い切り剣をアトリへと投げる。
こっそり加速系の魔術と”重力操作”を剣に組み込んでいたため、速度も乗っていた。が…
「フェイントなんてするもんじゃないでしょ?」
「あぐっ…!」
突如、アトリは後ろに立っていた。最初の動きとは比べ物にならない速さで、目で追うのが不可能だった。魁雅が後ろへ振り向いた瞬間、アトリの強烈な蹴りが腹に直撃。皮膚なんか関係なく、内臓に直接攻撃してくるような威力で。
「いっ……たいな馬鹿野郎!」
(”魔術融合” 弓+”重力操作”+”加速”+”リ・ベーラ”!)
吹き飛ばされながらも体制を整え、弓を構えた後、2つの矢を放った。1本は真正面から、そして2本目は重力操作で真後ろから。1本目が当たらなくとも、その隙に2本目が当たれば
「真正面___と見せかけて後ろ。まだ小細工が通用すると思ってる?」
「なんでっ…!」
1本目を、そのまま避けずに左手で掴まれるのは想定内だった。いや、これだけ魔術を重ねて何事も無かったようにされるのは辛いが。2本目の矢を当てるのは、1本目の矢で隙を作るのが条件だから、それで良かった。
だが、2本目は、アトリも視線を向けてなかった。なのに、右手で止められた。まるで、そこに矢が来ることを分かっていたような。
今の魁雅は、腹の傷や、零の負担もあり、立つことでも集中力を要する程極度の疲労状態だった、視界だって安定しない。そんな状態で当たると信じていた攻撃が、当然かのように防がれる。希望を一つずつ一つずつ、ゆっくりと壊されていく。
「だぁもぅ、いい加減に………がっ!」
アトリは魁雅に近づき、右手を伸ばして首元を掴み上げた。
「なんだか、面白みがなくなっちゃったねぇ〜。さっきまであんなに強かったのに」
「うるっ…せぇ…! ぅぐっ!」
アトリの首を締める手の力が強くなり、魁雅の呼吸を困難にしていく。手で引き剥がそうとしたり、足で蹴ろうと抵抗するが、体に酸素が回らなくなり、力が出ない。それなのにアトリはもう何度も殴っているのに、一向に力が弱まる気配がない。
「まぁ頑丈なことには変わりないし、遊べるからいいけど……ねっ!」
アトリが魁雅を壁に向けて投げつけ、背中に鈍い痛みを感じる。頭からも血が流れ出し、貧血によるめまいが訪れる。幸い、首元の締りは解放され、咳き込みながら酸素を取り込むことが出来るようになった。体に酸素を取り入れるために、荒い呼吸をしながらも立ち上がる。…だが
「馬鹿野郎……がっ…」
「カイガ!!!!」
「えぇ?もう終わり〜?」
”零”の効果がまた切れ、一度は立ち上がるも、すぐその場に膝をつく。外側の傷が多いのに加え、”零”の連続摂取による身体的疲労で、もう、まともに立つことも出来ない。アトリに空けられ応急処置をした腹の穴も、無理に動いたせいで傷口が開きつつある。
そして、血の足りない頭で考える。何故ラルトは、こんなにも遅い?
ラルトが先生を探しに行って、もう10分以上経つはずだ。今回の試験はいたるところに教師がいて、ただ歩くだけでも教師に見つかる可能性があるというのに。
「お前……ラルトに何しやがった…!」
十中八九、原因はコイツだ。まずそもそも、ラルトが教師を見つける見つけない以前に、俺とサブノックはもう長い時間ここで戦っている。あそこまでの実力を持った教師陣が、こんな雑音に気づかないわけがない。
なにかコイツによるトリックをかけられたのはラルトだけじゃない、この場にいる俺等もだ。
「実はねェ、俺の知り合いに、魔術がすっごい得意な悪魔がいるんだぁ。そいつに頼んでみたら、ただの隠密じゃない、特別な魔術を見つけたんだよね!」
「っ!」
「存在を他人から消させる、最高の魔術さ!」
…最悪だ。
「…えっ、ちょっと待って。忘れさせるって…」
「お前等耳塞「単純だよ。今この屋上と、君達と、さっき走っていった子は、この魔界の誰からも忘れられて、認識もされない。だから、助けになんて来るはず無いし、あの子が教師に見つけてもらうこともない。君達はもう…助からないよ」」
「____嘘」
絶望、なのか?俺が知っても、ルナリには知らないでほしかった。まだ俺を信じて、助かると期待してくれていたから。
俺だって、最初は信じていた。ラルトが先生を見つけて、先生が助けに来てくれる。そうでもしないと、今の自分では勝ち筋が見えなかったから。
なのに、なのに。縋るように抱いていた最後の希望は、目の前で無慈悲に踏みにじられた。
「_嘘よ、そんなの絶対嘘!だってラルトが頑張って先生を探してくれて、カイガが頑張って戦ってくれてるのに!それが全部無駄なんて……そんなの、絶対信じないから!!!!!」
ルナリの泣きながら叫ぶ声が辺りに響く。目の前にある真実を見ようとせず、ただ現実から逃れるように首を振り続けた。
「だからぁ、そんなのも全部無駄なんだって!君達は絶対に、見つけてもらえない!いくら泣き叫んでも、いくら助けの声を出しても、いくら戦っても!全部、無意味さ!」
「アトリっ…!お前は、絶対に…!」
「殺すつもりかい?いい加減現実を見ろよ。…君じゃ、俺は殺せない」
信じたいのは、自分の実力だ。だが……目の前の現実は、それすら嘲笑う。
「…さっきからゴチャゴチャゴチャゴチャと、喧しい悪魔だ」
「あ?」
「”ラファイア”」
次の瞬間、眼の前が炎で覆い尽くされる。
「ソロモン、お前っ…」
「全く、カイガには前教えただろうが…」
猫の姿をしたソロモンが、体から抜け出し魔術を使っている。だが、魁雅は使い魔召喚の魔法陣を使っていない。少しの距離体から出ることは可能だが、魔術を使うのは使い魔召喚じゃないと不可能なはず。
「何?今度は。使い魔の念子ちゃんが相手?小動物をいたぶる趣味は無いんだけどなぁ」
「なんでお前、魔術が使えて…」
「お前は自分の身体を乱暴に扱いすぎだ。体から抜け出すことなど容易だったぞ」
「…なるほど」
ソロモンは、魁雅の体に閉じ込めているようなものだ。当然、器が壊れれば、それを抑えることは容易ではなくなる。そして逆に、中身は力を出すのが容易となる。
だからソロモンはそれを利用した。魁雅の体が戦闘で衰退しきっているところを逆手に取り、魁雅が魔界に来た時からソロモンの一つの野望、”魁雅の体からの脱出”を果たした。
そうなってしまえば、使い魔召喚などの制約など関係ない。ソロモンは好きに魔術を使い、戦うことが出来る、のだが。
「”重力操作”」
「ッ!」
ソロモンが”重力操作”を使い、アトリはその場で膝をつく。
「まだ立てるか?カイガ」
「_一応、な」
「あれ、使い魔なのに主人に頼っちゃうの?主人と使い魔は絶対的な主従関係。それなのに、主人を守ることすら出来ないのかな?」
「悪いが。コイツとそんな関係になった記憶など、ない。それに、俺はとある悪魔のせいで一生この姿なんだよ。本気を出したくても出せないようになっている」
昔、初めて魁雅がソロモンの魔力を使おうとした時。その後にサリバンの魔術で、ソロモンは使い魔召喚されていない時でも、猫の姿で固定され、実力を出すことが出来なくなった。
「…ソロモン、お前あとどんぐらい魔力と体力残ってる?」
「体力は少し減ってるが、魔力ならまだまだ有り余ってるぞ。問題は、お前の体だ」
「んなもんどうだっていいんだよ。…あと一回、”零”行けるな?」
「…お前は本当に、無茶という言葉を知らないのか」
リミッター・零のソロモンに対しての負担は、殆ど無い。ただどんな状況でも、どんな魔力量でもソロモンの魔力を最大限まで増やすだけで、徐々に魔力が減っていくだけだ。
だが、魁雅はそれを全て受け止めるための体が必要だった。だから、魁雅の体の上限を引き上げた。そして、体が壊れかけた。一個で壊れかけ、二個でまた壊れかけ。三個も使うとなると、魁雅の体は……恐らく、崩壊する。
「俺だって、こればかりはあの
「…ケチだなぁ。だけど、分かる?実は、お前に拒否権なんて無いんだ」
「ッ!お前待て「待たない!!」」
バラム師匠直伝”リミッター・零”!
「俺は絶対に絶望なんてしねぇし、お前等にもさせたくない!それに、言っただろ!こいつらを守れるなら、死んでも本望だって!俺の体は守れなくなるけど…この”宝”達を、俺が次の世代へと紡いでいける、架け橋になれるなら!どんな無茶でも…覚悟の上なんだよ!!」
「…だったら、尚更体を大切にしろ。お前が死んだら、どれだけの悪魔が絶望すると思う」
魁雅には、期待をしてくれている悪魔が大勢いる。
主人として、今後も自分を守ってもらえることを期待してくれた、入間。
今回の試験で、無事
今この場で、魁雅の実力を信じ、期待してくれてる、後輩たち。
沢山の存在が期待をし、魁雅に負けないでほしいと、願っている。
「全く………これで、最後だ。これで負けたら、その時は…俺がお前をぶん殴ってやる」
「…それの方が助かるよ」
「だが、どうする。俺は回復魔術など使えない。もう今のお前の体じゃ、戦うことは…」
「一つだけ、たった一つだけ。俺等には、アレがあるだろ?」
「…お前、まさか」
そろそろ、実戦で使ってみたいと思ったところだ。
「大丈夫だよ。どうせ、もうまともに戦えないし、使った後に倒れても倒れなくても関係ない。これで、全部決まるからな」
「…お前の、残り魔力は?」
「零で無理やり上限まで引き伸ばしてるから、実質満タン。その分負担エグいけどな」
「何があっても、俺は責任を取らないぞ?」
「勿論」
心配するソロモンと、その心配を全て飲み込む魁雅。もはや、どっちが人間でどっちが悪魔か。
「…チャンスは一回だ。これを外したら、本当に全てが終わると思え。この後の結果は…全部、お前次第だ」
「今更何する気か知らないけど、もうさっさと諦めたら?君はもう俺に勝てないんだから」
「…今さっき思い出した、とある悪魔の助言、お前にも教えてやるよ。一番必要そうだからな。よーーく耳かっぽじって聞いとけ」
否。答えは
「気に入らない未来、常識なんてのは……全部、ぶっ壊す」
どちらも悪魔、と言ったほうが合理的だろう。
おまたせしてしまった割にクオリティ低くてすいません。やっぱ戦闘シーン無理だ。
〜最近忘れていた用語解説のコーナー〜(ごめんなさい)
・バチコ師匠:入間と魁雅の共通の師匠。2人に弓の使い方を教えた、ありえないほど弓がうまい悪魔。キャラの細かい詳細は、原作を読んでね。(これからも同様)
・ウェパル師匠:魁雅とアブノーマルのメンバー、ガープとアガレスとの共通の師匠。水を巧みに扱うことが出来て、魁雅に”魔力創造術”を教えた悪魔。
・零:リミッター・零の略称。
〜裏話だったり色々〜
・魁雅のセリフを『』から「」に変えました
・忘れてた用語解説は、今後その用語が出てきたときに解説します。
・ルナリとラルトは完全オリキャラです。どれだけ検索しても出てこないよ。
・”
・何度も言いますが、ソロモンは黒子猫の姿をしています。見た目は読者に任せます。だ