(過去編続きで申し訳ございませぬ。今回で一旦終わります)
「なぁなぁソロモン。俺等でさ、
「…最恐?最強じゃなくてか?」
「そう!それが大事だ!」
どうも、人生楽しんだもん勝ち、紅月魁雅です。
「十分今のままでも、俺は強いと思うが?」
「そうだけど……って、”俺は”ってなんだ”俺は”って!俺も強ぇから!」
ソロモンと話していると、よく論点がズレる。
「確かに、”俺等は”!強いよ。だけど、いまいち決定打に欠けるんだよ。お前の魔力を使った、テクニカルな戦い方。だけど、お世辞にも火力が高いとは言えない場面が多いだろ?」
「…そうか?俺の魔力は強大だ。そんなこと無いと思うがな」
…これ、図星だろ。結局零を使わないと火力が足りない時は多かったし。
「そこでだ!どんな装甲も、どんな相手も!一発でぶっ壊せる技がほしいと思ってな」
「お前が何をしようと勝手だが、何かアテはあるのか?今すぐに火力の底上げ…いくらバラムの薬で難しいぞ」
「なーに言ってんだ、お前の力を使うんだよ。当たり前だろ?」
多分ソロモン自身も薄々気づいてたけど、面倒くさくてバラム先生に押し付けたんだろうな。
「俺には分かるぞ。お前、まだ何か隠してんだろ。いくら弱体化されてるとしても、破壊の悪魔ソロモンがこんなもんで終わるわけない」
「………」
「なぁお願いっ、どんなことでも受け入れるからさ!」
「___一つだけ。あと一つだけ、俺には出来ることがある」
「マジで!?」
ほら見たことか!もうすぐ出会ってから1年だぞ?そんぐらい分かるわ。
「だが、使うには一つ条件がある」
「えぇ、相変わらずケチだなぁ」
「それは、むやみにこの技を使わないことだ。この技は、確かにお前の望み通り、全てを破壊できるほどの火力を出すことが出来る。…だが、それ相応として、お前の魔力、そしてこの技で増やされた俺の魔力も全て使うことになる。そうなればその先どうなるか…お前でも分かるな?」
魔力は悪魔にとって体力のようなものだ。無くなったら当然動けなくなる。
「そして、この技は………その、あれだ。俺の技だが、俺の技じゃない」
「…は?俺の技じゃない?」
「一応この技は、俺が使えるものだが……なんで俺が使えるのかが分かってない。生まれたときから既に、何故か取得してて使い方も熟知していた」
「…で?それでも、お前は使えるんでしょ?その技。別にお前の技でいいじゃん」
「お前な……俺が努力したわけでも無いのに取得できた技を、自分の力のように見せるのが嫌なんだよ」
…変なこだわりだなぁ。まぁ、分からなくもないが。
「…ともかく、これが理由だ。むやみに使わないと約束できるなら、使わせてやってもいい」
「勿論。信用できるだろ?」
YesかNo、答えはどっちかな?
「…ハッ、どうだかな」
「ラウム・モラクス・フルカス・ヴァプラ・バーゲンティ」
「…は?何?独り言?」
「グシオン・カイム・セーレ・マルファス・ロノウェ」
きっとこれが、最後。目をつぶり全身に巡っている魔力全てに神経を注ぎ込み、ソロモンの魔力と、
「_カイガ?何して…」
「フォカロル・ビフロンス・グレモリー・アミー・フェネクス」
「もしかして、まだ足掻こうとしてる?もう俺は満足したから、さっさと終わらせよっか!」
「カイガ!避けて!」
(…言われずとも!)
アトリの素早い貫手を、詠唱しながら感覚で避ける。アトリのような殺気を隠そうともしない存在は、今までの経験からか、肌がすぐに危険と察知し体も自然と動く。
それに、魁雅は今、攻撃に意識を向けていない。意識を向けている対象が、自分の攻撃ではなく、アトリと詠唱だけだから。避けることなど、容易だ。
「イポス・バルバトス・ベレト・ザガン・アンドラス」
「さっきから聞いたことあるような家名ばっかり…何がしたいの?」
「お前が知る必要はない、愚か者め」
「アンドロマリウス・ダンタリオン・キマリス・フラウロス・オリアス」
魁雅の頭の上には、魁雅の詠唱によって魔力が集められているソロモンの姿があった。
「いいかカイガ、集中しろ。一瞬たりとも気を緩めるな。俺を通してお前に入る魔力は、全部右腕に注ぎ込め。この技を使うとお前が決めた以上、今は体のことなど考えるな」
一粒一粒の魔力が重い。詠唱を続ければ続けるほど、体に負荷がかかっていくのが嫌でも分かってしまう。…だが、気にしてはいけない。自分の体ごと、壊すイメージを続けろ。
「前、俺がお前に教えたコツを思い出せ」
__壊したい。全部、ぶっ壊したい!!
「…クロセル・ウェパル・サブナック・ハルファス・フェネクス!」
「その衝動を全て、魔力に乗せろ!」
全ての魔力が集まり、右腕に収束されていく。
「破壊の悪魔、ソロモンに使役されし72の悪魔よ。今この場にて、己の魔力の解放を許可する」
「そして、その力は我らの物だ。我に貴様らの力を、全て預けよ。我が、欲のために」
「ッ!まじかっ…!」
アトリは今になってようやく、自分の身に降り注ぐ危険を察知し、魁雅に素早く近づき仕掛けた。だが、それももう遅かった。
魁雅は当然かのように攻撃を避ける。今までどれだけ攻撃に意識を向けていたのかがアトリでも分かるほど、動きが洗礼されていた。
「我がその力を使い、この愚かな現実を覆してみせよう!」
詠唱が終わるその瞬間、魁雅はアトリの目で追えないスピードで、翼で高く飛び上がり、右手に力を入れる。
自分の欲を、心に刻み込みながら。
「
魁雅が右手を振り下ろした瞬間、鼓膜を突き破るような轟音が鳴り響き、魔界全体が揺れたと錯覚するほどの衝撃が走った。
「っし…!!…押忍!!!!!!」
そして当の本人は、そのままピクリとも動かず大声を出して地面に激突した。
眼の前には大きな穴が空き、屋上から校舎の一階まで穴が突き抜けていた。恐らくアトリも、直接当てた訳ではないから死にはしてないだろうが、十分すぎる致命傷になったはずだ。
「っはぁ……おい、やったぞソロモン!…ソロモン?」
いつの間にか体の中に戻ったソロモンを呼びかけるが返事がない。
(…魔力全部使って倒れてるんだろうな。ありがと、ソロモン)
「カイガ!ちょ、ちょっと今の何!?今何が起きたの!?」
「説明は後!早く…逃げ、てっ…」
「カイガ!?」
力を入れ立とうとしたが、やはり予想通り。立つことなど出来るはずがなかった。魔力を全て使い果たし、体力だって相応に消費した。今すぐにでも気絶してしまいそうだが、そんなのも後。今は早くこの場から逃げて、なんとかして先生に見つけてもらわなければ。
「クッソ、覚悟はしてたけどな………おい!そこの1年生!サブノックの後輩だろ?」
「えっ、あっ、はい!」
ルナリの”
「ルナリと一緒に三人でサブノックを運んでくれ!」
「ちょ、待ちなさいよ!あなたはどうするの!」
「俺は体が動き次第、すぐに向かう!アトリだってまだこっちに「来ないとでも思った?」…は?」
…嘘だ、
なんで
なんで
「今のはすんごい効いたよ……カイガちゃ〜〜ん!!!」
「ルナリ!!!今すぐ全速力で逃げ」
バキッ
「かはッ…!」
アトリの容赦ない蹴りが倒れ込んでいる状態の魁雅に打ち込まれ、腹の中から鳴る嫌な音と共に壁まで吹き飛ばされ激突する。そして、それと同時に、制服の下に着ている白いシャツの一部が赤く染まり始めていることに気づく。
「カイガ!また血が「いいから逃げろ!!早く!!!」」
大声を出すと腹に激痛が走る。恐らく、肋にヒビでも入ったのか。だが、今はその怪我よりもこの出血量が問題だ。さっきのアトリの蹴りで、一度膜で覆った傷口が開いてしまった。早く止めなければ、出血多量で命が危ない。
…だが、今その傷口を防ぐための魔力は、もうない。
「いやぁひっさしぶりにヒヤヒヤしたよ!俺じゃなかったら死んでたね!」
「ッ…お前、どん、な手を…使い、やがった」
「ん〜、俺の糸は伸縮性バッチリだから…かな?」
「そんなんで、防げるわけが………ぐっ!」
アトリはゆっくり魁雅に近づき、抵抗できない魁雅の髪を掴み、片手で持ち上げる。そしてそのまま背中を壁に押し付ける。
「いい加減その無理して睨みつけてる目も………やめようか!」
「あぐっ…!!!うぁっ…」
腹に向けた膝蹴りが炸裂し、壁に背を向けてるのもあってか、どんな一撃よりも重く、鋭い一発だった。
「せっかくっ……命令を破ってっ……君達をいたぶってたのに……さっ!」
「ぁ……が、ぐッ…」
一発、二発、三発と、どんどん威力の増していく膝蹴りが腹に入る。
意識が朦朧としていく。血もどんどん抜けていって、何も考えられなくなりそうだ。
「…ちょうどいいや。もう死んじゃうんだったら、せっかくだしもうちょっと遊んでみよう」
「っ…!」
不敵な笑みを浮かべたアトリは、髪を掴んでいた手を離し、逆の手で魁雅の右腕を掴む。
「今、君の右腕は…負荷をかけすぎただけじゃなく、表面が妙な魔力で汚染されている」
「何、を…言いたい」
「もし今の君の右腕に、もっと、そして
「っ!」
その瞬間、魁雅の脳裏に最悪な未来が過る。
「テメっ…」
「実験、開始…♡」
”魔力注入”
「がッ…!?ぐ…あぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
嫌な未来が見えたのも束の間、即座にアトリの魔力が右腕へと注がれ、右腕に
抵抗しようにも、魔力を使い果たしているせいで動くことが出来ない。ただ、その痛みに動かず耐えるしか無い。
「さぁ、見せろよ!絶望の表情を!大事な体の一部が壊れていく、大切な瞬間だぞ!」
「お前…だけ、はっ…絶対に………ぐぅッ!」
右腕はどんどん黒く変色していき、感覚が麻痺していき意識もさらに朦朧になる。
(ぁ……これ…ヤバ、い…)
助けは来ない。魔力はない。ソロモンもいない。
もう希望など、何も無かった。
(クソっ…たれが)
「その手を……離しなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」
「…あぁ?」
視界の外から、赤く変色したサブノックの武器が飛んできて、アトリの魔力注入を中断させた。
…この声は
「あっ、あんた!早くその手を離しなさい!私が相手よばーーーか!」
「ルナ…リ、お前…」
ルナリだ。”結界”を解除して、周りに落ちていたサブノックの武器をこちらに投げたのだろう。
「も〜、次から次へと、君達は最後にしようと思ってたんだけどなぁ?」
「何…やってんだ、お前…逃げろって言っただろ「うるっさいわね!まずそもそも、こんなデカい悪魔抱えてすぐ逃げれるわけ無いじゃない!私だって、これでも選ばれた生徒なんだから!守られてばかりじゃ選ばれた意味がないの!!!」」
自分を騙すためか、少し泣き目になりながらも大声を出しアトリを睨みつける。
「君が…俺と戦うつもり?そんな地味で弱っちい家系能力で?」
「っ……よ、弱っちくないわよ!これはカイガが認めてくれた、とってもとっても強い家系能力なんだから!」
心臓破りが始まってすぐのこと。魁雅にとってはいつものことだったが、ルナリにとっては、大事な大事な一言だった。
「それにね、私は馬鹿で、喧嘩っ早いし、それでいて弱いどうしようもない悪魔よ!だけど、私達はカイガの”宝”以前に、後輩だから!カイガが命を懸けて私達を守ってくれて…私達が命を懸けないなんて、そんなのおかしい!」
ルナリは泣いている目を擦り、覚悟を決めたような表情をする。
「ラルトだって、今必死に頑張ってる!どれもこれも、全部あなたのためよ、カイガ!だから…ちょっとは私達にも、頼って守られなさい!」
「…ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーうるさいなぁ!だったらお望み通り、殺してあげるよ!」
「ッ!ルナリ!」
アトリが俺を掴んでいる手を離し、ルナリに向かって一直線に距離を詰める。あれは、一発で仕留める気だ。
…だが、今は。信じろ。ルナリの、実力を。
(…ありがとね、カイガ)
「…”結界”・
「…止めた?」
アトリの貫手は、ルナリの”結界”に突き刺さり、勢いを殺した。
「私達ね、いっぱい期待されちゃってるの。だから………それに全部、応えないと」
「…”
「はッ…!?」
そして、アトリの勢いと同じ威力の衝撃波が”結界”から繰り出される。
なんと、ルナリが止めた。あのソロモンの魔力を使ってようやく同レベルの力になる、アトリの攻撃を。しかも、いとも容易く。
…もしかして、ルナリは
「ッ…だったら壊れるまで殴れば「それはこっちのセリフだ」かはっ…!」
アトリが再度ルナリへ距離を詰めようとした瞬間、見覚えのある
…こんな悪魔、一人しかいない。
「何やってんだ、お前ッ…!」
「バラム…先生」
「遅くなってごめんね…本当に、よく頑張ってくれた。事情は全部、ラルト君から聞いたよ」
「ラルト、から?」
「うん。彼、必死に走って、泣きながら僕に助けを求めてきたんだ。…いい後輩を持ったね」
考えれば、バラム先生が助けに来てくれたのはおかしいことだった。魁雅達には、存在を認知させない魔術がかかっていた。だから、バラム先生に気づいてもらえるはずが無かった。ただ今は、奇跡が起きたと考えることしか出来ない。
「かっ、カイガ先輩!!はぁっ…はぁっ…大丈夫、ですか!!」
「ラルト……悪い、ちょっともう、限界かもしんねぇ……………寝ていい?」
まぶたが重い。安心と疲労で、今すぐにでも意識が落ちてしまいそうだ。
「カイガ先輩!?だっ、駄目です!寝たら死んじゃいますーーーーー!」
「ちょちょちょっとラルト!何してるの!?あまりカイガを揺らさないでよ!めちゃくちゃ怪我してるの見て分からない!?」
「だってルナリさん!カイガ先輩がぁ、カイガ先輩がぁ!!(泣)」
「えっ、カイガ!?あなた寝ようとしてるの!?今この状況で眠くなるってことは……………絶対ヤバい!早く起きなさーーーーい!!!」
うるせぇ。ただ眠るだけだわ。
…と、バカ後輩コンビに言ってやりたいが、そんな体力も残っておらず。
「待って待って嘘でしょ!?ねぇ寝たら駄目!くっ、こうなったら………ラルト!死なない程度に”
「うん!ごっ、ごめんなさいカイガ先輩!これも、先輩のため「ダメダメダメ絶対にダメ!彼の傷口は防いでるし、もう寝て大丈夫だから!ね!?」あ、そっ、そうなんですか?良かったぁ〜…」
良かった。バラム先生の制止がなければ、魁雅は感情をコントロールが出来てない不安定な状態のラルトによる、加減を知らない爆殺劇が行われるところだった。真の敵はすぐそばに居たか。
(…あ〜、もう、無理かも…)
色々考えてたら、視界が暗くなってきた。まぶたが落ちてきて、周りの音も小さくなっていき、状況を把握することが難しくなってきた。
「それに、アトリはまだやられてない!魔術で軽くしたから、早くサブノック君とカイガ君を医療班のところまで連れて行ってあげて!」
「「は、はいっ!」」
…これならもう、安心して、眠れるかな。
●
「…………」
知らない天井、ではないか。
なんだか、上の方で歓声が聞こえたからつい目覚めたが、あの後は、安心してすぐ寝てしまったのだろう。それで、ルナリとラルトに運ばれ、この医務室まで来たと。
「…こいつら、風船割れたわけじゃないだろうに」
まだ傷が完全に癒えきってなく、重く所々が痛む体で起き上がると、ベッドの両サイドにうつ伏せになって寝ているルナリとラルトの姿があった。風船が割れたわけではないから、まだ試験中だというのに、そんなのお構いなしにここで爆睡とは。
だが。その疲れと安心からの睡眠が、二人がよく頑張ってくれたことを示唆しているのだろう。
「ありがとな、お前等」
左手でルナリを撫で、右手でラルトを撫でようと手を伸ばそうとするが
「…あれ」
「おぉ!級友!起きたか!」
「サブノック!良かった、無事…ではなさそうだけど」
隣のベッドで、サブノックが魁雅の存在に気づき、元気に声を出す。その更に隣には、カムイも寝ていた。サブノックの傷は、所々に包帯を巻くほどの重症なはずだが…まぁ、本人がここまで元気なら心配する必要もなさそう……なのか?
「ちょうど、今結果発表が終わったようだぞ。まだ結果は分からないがな」
「へぇ、試験ももう終わったんだ。…じゃ、ルナリ達も生き残った判定ではないか」
ということは、俺もルナリもラルトも、位階昇級はお預けか……まぁ、既に位階5だし、これ以上上がるのも期待はしてなかったが。二人はまだ位階2で、昇級の機会も欲しかっただろうに。
「だがまず、心配すべきはヌシの怪我だ。カムイは教師と戦いあそこまでの重症を負ったようだが……ヌシのその異様な傷の量は、何が原因なのだ?」
「あ〜…そっか、お前は知らないもんな。…アトリだよ」
「…アトリ、だと?」
サブノックは、魁雅が屋上に来たときには既に気絶していた。だから、あの後何が起こったのか、サブノックは知らなかった。なるべく、この事実は知ってほしくなかった。この後のサブノックの反応など、大体分かってしまうから。
「たまたま、屋上に行ったらお前が居たんだよ。そんで、鉢合わせ」
「…ということは、アトリからその傷を受けたのか?」
「そう。だから「何故逃げなかった!!」」
「ヌシの実力があれば、後輩悪魔を連れて逃げることなど、容易かっただろう!なのに…何故助け、逃げなかった!早く逃げていれば、その傷は…」
サブノックが大声を出してからすぐ、場が静まり返った。
「
「………」
サブノックが抱く感情は、罪悪感。普段抱くことはないだろうこの感情が、サブノックの心を蝕んでいく。…このままでは、助けたことにならない。命を賭けて助けた結果が、自分にとっても相手にとってもマイナスになる結果なのならば。
…無理やりにでも、助けてやる。
「っ…サブノック」
痛む体をゆっくり動かし、ベッドから降りてサブノックのベッドの隣に立つ。その時、ラルトが膝近くで寝ていたため、目を覚まし始めた。
「ん……ふわぁあ……あれ、カイガ先輩!良かった!無事「ふんッ!!!」先輩ぃぃぃ!?」
ラルトが目覚めて安心したのもつかの間、魁雅はサブノックの額に容赦なく頭突きをかます。治りかけの魁雅の頭からは血が流れ、サブノックの額は少し赤くなる程度だった。防護魔法でサブノックの額を、薄くだが守ったのだ。
ラルトは起きてすぐの意味不明な魁雅の行動にあたふたしているのに対し、ルナリはそんな状況お構いなしに爆睡している。どんな幸せな夢を見ているのか。
「んむみゃ……もっと、たべるぅ……」
「ヌッ…!?ヌシ、何を…」
「かっカイガ先輩!?えっ、あっ、ちょっ、何、何をしてっ、えっ?」
「クッソいってぇな…………おいサブノック。お前の欲、なんだっけ?」
血が流れ出ている額を気にせず、話を進める。
「は?い、いや、何を「はいはいさっさと答える!くえすちょんにはあんさーで答えろ!」…ま、魔王になりたい、だ」
「そうだろ?…はぁ。今回は俺が助けたいて思ったから助けただけ。だからこの怪我は俺の責任。俺の責任を勝手に盗むな馬鹿野郎」
ベッドに座り、未だに慌てふためいているラルトの頭を左手で撫でる。
「…今のお前は分かってなさそうだから言っておくが、相手から送られてきた”助けたい”って気持ちは、自分では想像もできないほど大きくて、温かい。そんな気持ちに気づけなくて、受け取れなかったら……絶対に、後悔する」
「カイガ先輩…」
「勿論、お前とルナリにはめちゃくちゃ感謝してるよ。お前達の気持ちは、既に受け取ってる」
「えへへ…」
ラルトの頭をさらに撫でる。くそ、可愛いヤツめ。アトリとの戦闘と試験が終わってすっかり気が抜けてやがる。位階昇級見送りなど気にもとめてなさそうだ。
「…実際、大切な相手から与えられた”愛”に気づかないまま、二度とその相手と会うことが出来なくなって、何度も何度もその後悔と、罪悪感に押し潰されそうになったやつもいる。その相手だって、捧げた愛に気づいてもらえずに終わってしまったら、その愛も意味はなくなってしまう」
「だからこの先、頑張った相手のためにも、自分の人生が後悔で終わらないためにも。お前は、その気持を受け取らないといけないんだよ。分かったか?」
「……ウム、そうだな。身勝手な発言をしてしまい、申し訳なかった。それと……」
サブノックは、こちらを真剣な眼差しで見る。さっきまでとは、全然違う。
「己達を助けてくれ、感謝する!」
「…どういたしまして」
これで、助けたことになったなら、俺はなんだっていい。
「…あっ、カイガ先輩。早く額の血を「カムイ君!サブノック君!魁雅!」ひぇっ!!??」
「ぴぃっ!!??!?ねっ、寝てない!寝てないから!!」
廊下からドタドタと走り近づいてくる音が聞こえ、何が迫ってくるのかと考え始めた瞬間。医務室の入口から、聞き覚えのある声が音量MAXで聞こえてきた。そしてそれと同時に、さっきまで寝ていたルナリが目を覚ました。
「おぉ、級友!」
「入間!それに皆も!試験お疲れさ「魁雅!?何この傷!全然治ってないじゃん!待ってね、今すぐバラム先生呼ぶから!」待って入間!違うから!バラム先生の処置は完璧だったから!悪いのは俺だから!」
問題児クラス全員が医務室に駆け寄り、いつもの日常が戻ってきた………いや、いつもの日常よりも十分喧しいか。入間は魁雅の額の血を見て、顔を青ざめてからすぐさまバラム先生を呼ぼうと医務室から飛び出そうとしていた。
「色々あったんだって色々!別にそんなヤバくないから!」
「いやだけど…その傷抜きにしても十分ヤバくない?サブローも。ホントに大丈夫?」
リードが心配そうに魁雅とサブノックを見つめる。確かに、包帯の数で見たら、大丈夫と言われても信じれないものだ。
「ウム!ホントに大丈夫だ!バラム師とブルシェンコ教員が治療してくれたのでな!もうほぼ回復………ヌ゙ッ!!首席!貴様5に上がったのか!遅れを取ったが…次は己が上がるからな!」
「えっ、アリス5に上がったの!おそろじゃんおそろじゃん!」
なんと。アリスがこのクラスで3番目の5になっていた。試験中にアリスがどんな動きをしていたかは分からないが、4から5に上がるほどだ。相当なことを成し遂げたのだろう。
「…それだけ吼えられれば、貴様ら二人とも心配いらんな…」
「あっ、そうだ。誰でもいいんだけど、一つ頼みがあって「合点承知!なんでもしますぜ!」おっ、クララがやってくれる?」
”誰でもいい”という言葉に反応したのか、クララが即座に手を上げ、満面の笑みを浮かべた。
「どこにいるか分からないと思うんだけど、バラム先生連れてきてくれない?ちょっと大事な話があって」
「りょうかーい!バラムせんせーい!カイちが呼んでるよ〜!」
医務室の入口から顔を出し、大声でバラム先生を呼び出す。
「いやいやいや、そんなんで来てくれるわけ…」
「どうしたんだい?カイガ君」
「来た!?早すぎ………じゃなくて!」
瞬きをした間にベッドの隣にはバラム先生がいた。つい驚きで本題を忘れるところだった。
「あの…一つ話したいことがあって、色々怪我を治療してもらった後に頼むようなことじゃないんですけど、いいですか?」
「…ちょうど、僕からも話したいことがあったんだ。実は……その……」
「俺の右腕がもう二度と動かないこと、ですよね?」
「……えっ」
先程まで宴のごとく盛り上がっていた医務室が、一気に最初の静寂を取り戻した。
「…やっぱり、分かってたんだね」
「謎だったんですよ、起きたときから。右腕を動かそうにも力が入らないし、ベッドに触れてるはずなのに感覚がない。まさかとは思ったんですけど……あってますよね?」
「…うん。君は、この短時間で右腕に負荷をかけすぎたんだ。僕の零を使ったとしても、ソロモン君の魔力に、君の筋肉が耐えれなかった。それにそこから、アトリに無理やり魔力を注ぎ込まれたせいで……神経が、壊れた」
…当然の結果だろう。普通なら一個でも使うと筋肉疲労などによって体に負荷がかかる”リミッター・零”を、三回も使った。そして最後には、大量の悪魔の魔力を一斉につぎ込む、あの技まで使い、アトリの魔力も入った。
魁雅がいくらオペラの元でソロモンの魔力に耐えるトレーニングを行っていたとしても、限界はとっくに超えていたらしい。
「……ごめんなさい」
「ルナリ?」
「わ、私がもっと早く、カイガを守ってれば…」
…ここは自責の念を持つものが多すぎるな。
「大丈夫。お前の責任じゃないから。あんま悔やむなよ」
「__うん……」
「…なんで」
「? どうした入間?」
「なんでそんな無茶するの!!」
泣いているルナリを慰めていたら、今度は入間が泣き始めた。大変だなこりゃ。
「なんで逃げなかったの!なんで無理して戦ったの!なんで…なんでっ…」
「ちょ、ちょっと入間くん。気持ちは分かるけど、カイガも色々あったんだって…」
入間はその場で泣き崩れ、最近は滅多に見せなかった、大粒の涙を流す。ジャズが隣から慰めに入るが、全く持って意味をなさなかった。
「なんで……っ。どうして魁雅が、こんな目に遭わなくちゃいけないの……? 確かに僕は……守ってほしいって、そう言ったよ。でも……また、
主人を悲しませることが、SDにとってどれだけの失態か。オペラ先輩にバレたら、1時間説教コースだろう。
だから、仕事は全うしなければ。
「…入間
「――魁雅?っ!」
ベッドから降りて座り込んでいる入間の眼の前に目線を合わせ、痛みながらもなんとか左腕を動かし、入間の背中に優しく添え抱きしめる。
「まず、あなたの気持ちに寄り添うことが出来ず、申し訳ございません。私が未熟なばかりに、このような事態を引き起こしてしまいました」
「…違う。魁雅のせいじゃない。魁雅のせいじゃっ…」
「ですが大丈夫です。私を、見てください」
入間が俯いている状態から顔を上げ、魁雅と目を合わせる。
「たとえこの身がどれほど傷つこうとも、この腕が壊れようとも――あなたをお守りする限り、私だけは決して壊れはいたしません。……何より、現にこうして生きて帰ってきました。こうして今も、あなたの目の前に立っている。それが何よりの証でしょう?」
「だけどっ、また魁雅が傷ついて、もう会えなくなったりしちゃったら…」
「ご安心ください。この身に何が起きても、――私は決して、あなたのお側を離れません。いついかなる時も、私はあなたのお側におります。それだけは、どうか、忘れないで。私はあなたのSDで……親友ですから」
「っ……うんっ…!」
入間の顔に笑顔が戻った。いつもの我が家で見せる、皆が幸せになりそうな笑顔だ。この笑顔に、俺はどれだけの数救われたことか。きっと、数え切れないほどだろう。
「入間様は、そちらのお顔の方がよく似合っています。今のあなたに、涙は相応しくない」
「うんっ…ありがとう、魁雅…!」
逆に昔は、どれほど涙が似合ってそうな顔をしていたか。少しでもつついたら壊れそうで、いかにも小動物ですって顔してた。だけど、一緒に数々の窮地を乗り越えてきて、今の入間になった。
この笑顔を守れるなら、腕の一本や二本くらい、どうなったっていい。…いや、左腕は駄目か。
「…それと、入間様」
「何?どうかしたの「服の中にお菓子、入ってますよね?」…あっ」
だが、それはそれこれはこれ。しっかりと叱ってやるのも、SDのしごと。
「言いましたよね?入間様、あなたは最近お菓子ばっかり食べて……健康の問題上、決まった時間以外のお菓子は避けろと……」
入間は俺と違い、極度の暴食だ。普段の食事なら特に言うこともないのだが、それ以外なら話は別。少しだけのお菓子なら許容範囲だが、入間は0から99までがない、100しかない存在だ。食べていいと言えば死ぬほど食べ、食べるなと言われても死ぬほど食べる。
だから、糖分や塩分などの大量摂取すると体に害を及ぼすお菓子の、食事前の摂食、決まった時間以外の摂食は、オペラ先輩、そしてアリスとクララと共に禁止にしていた。
なのに。今度は授業中では飽き足らず、試験中にもお菓子を持ち込むとは。
「あ〜…えっと、これはその…」
「アリス、クララ。やってやれ」
「お菓子警察しゅつどーーー!」
「ぐぇっ!ちょ、クララ!やめっ……うわぁぁぁぁん!」
クララが勢いよく入間に飛びつき、馬乗りの状態で身柄を拘束した。そして服の中に隠し入れていたお菓子を全て取り上げ、入間は悲痛の叫びを上げた。
「さてと…すいませんねバラム先生、うちの主人が迷惑をかけて。早速、右腕について話したいんですけど…一旦、二人きりになりませんか?」
「そうだね。ここじゃ、君の話もしづらいだろう。動けるかい?」
「はい。もう大体回復してます」
医務室という静かにすべき場所で行われている乱闘に紛れ、こっそりバラム先生と医務室から抜け出す。
「それじゃ、これからの君の方針について聞いとこうか」
「方針…ですか」
「うん。申し訳ないけど、もうその右腕は、今の技術じゃ治りそうにない。だけど、ずっとそのままでいるわけにもいかないでしょ?」
まぁ、確かに。動かない腕をずっとぶら下げながら生きるのも、実に面倒だ。それに、俺の戦闘スタイルはオペラ先輩直伝の格闘技。左腕が使えても、右腕が使えないだけで十分戦力が落ちてしまう。雪見だいふくを一個落とした感じ。
とは言っても、この腕はもう治らない。…さて、どうしたものか。
「………あ。一個ひらめいた」
「閃いた?方針が?」
「方針というよりかは…解決策ですけど。ブルシェンコ先生とマルバス先生を呼んでもいいですか?この策は、この二人の先生が必要なんです」
「う、うん。それじゃあ、先に僕の実験室に戻ってて。二人を呼んでくるから」
この問題はうまく解決するのだろうか。…そもそも、一番の問題が残ってしまうが。
●
「「「…機械腕?」」」
「はい。可愛い生徒のわがままだと思って」
今この場には、医療学専門のブルシェンコ先生、拷問学専門のマルバス先生、生物学専門のバラム先生がいて、その三人の悪魔の前に俺がいる。
「マルバス先生は、拷問学だけじゃなくて魔具に関しても詳しいですよね?だったら、俺の右腕の代わりとなる腕も作れるんじゃないかって思って」
「いや待って待って、まだ了承してないから」
マルバス先生とは一度、拷問を背景にとある深いことについて話し合っていた時があった。その時に、マルバス先生の拷問学に対する熱意、マルバス先生の家系、マルバス先生の親戚の話。ここまで深くお互いを知り合っていたからこそ、今回のお願いが通ると思ったのに。
やはり、どれだけの拷問をしようとも、一応生徒を大事にする教師。すぐに首を縦に振ることは出来ないだろう。
「…確かに僕は魔具と深く関わってきた家系で、多分君が望んでいることも出来ると思う。だけど…君は、それで大丈夫なの?」
「私も同意見だ。恐らく私を呼んだのは、手術の際の適応者だからだと思うが……お前の腕を治せないのは、今の技術が足りないからだ。どれほどの月日が経つかは分からないが、いずれか治す技術が生まれるまで、待つという選択肢もあるぞ」
ブルシェンコ先生は、家系能力”
マルバス先生は普段からぽやぽやしてる人だから、なんとかなるだろうって思ってけど…ブルシェンコ先生は気難しいよなぁ。あまり話したことも無いし。
「それじゃ駄目なんですよ。今すぐにでも腕を動かせるようにしないと、いざという時に困るでしょう?」
「それもそうなんだけどさ…やっぱり自分の腕なんだし、もっと大事にしたほうが…」
「俺の右腕なんかよりも、入間の方が大事なんで」
「君はもう少し、体を大事にしたほうがいいと思うよ…」
「あなたに言われたくないですね」
前自分に電気を大量に浴びせた悪魔が何言ってんだ全く。
「―――分かったよ」
「えっ、バラム先生?…本気ですか?」
「悪魔学校バビルスは、生徒の欲を第一に考える。彼も彼なりの考えを持って、今回僕たちに頼んでます。それを無駄にするのは……少し、勿体ない気がします」
バラムの目には、笑みを浮かべながら何度も頷く魁雅の姿が入っていた。先程戦闘の場に居た魁雅とはうってかわって、平和そのものを具現化した、入間のような和やかさがあった。
その和やかさの裏に、この思いは存在していた。主人に引けを取らない、極度のお人好しが。
(――全く、どれだけ主人に似てるのやら)
「それでそれで、答えの方は?Yes or No!?」
椅子から身を乗り出し、三人の先生に顔を近づける
「僕はイエスだけど……お二人は?」
「正直機械腕なんて作るの初めてなんだけど…ちょっとワクワクしてるんだよね!だから、僕もイエスで!」
「――まぁ、ここまで信頼されて応えないのも興ざめだな。私もイエスということにしよう」
「やった!やっぱ大好きです先生!!」
可愛い。
三人の先生の頭の中に同じ言葉がよぎった。…この生徒が、先程の試験で我々の相手をしていたと考えると…勿体ないと思うような、お得と思えるような。だんだんと恐怖心すらも覚えてきた。
「後は、君の家族だね。理事長とオペラ先輩、そして入間くんが、君の考えに賛成してくれるか。その返答次第では、僕たちもまた考えを改めることになるよ」
「了解です。それじゃあ、もし皆からOKが出たら、明日すぐ、手術を始めてもいいですか?」
「うん、約束だからね」
●
次の日…
「バラム先生ーー!」
「あ、カイガ君」
職員室の扉を何の迷惑も考えず、勢いよく開ける。周りからは基本、小動物を見るような目で温かく見られているが、一人の陰湿教師からは害獣を見るような目で見られている。
「どうだった?入間君達に、OKもらえた?」
「勿論!というか、意外と簡単でした。俺がその事を話したら、”カッコいいからむしろなってほしい”、とか言ってました。軽いんですよあの二人は」
家に帰ってからすぐ、入間とオペラ先輩の二人に相談した。サリバン様は、今回の事件の後処理で魔管署に行っていたそう。一時はまた心配されて大変なことになるんじゃないかって思ってたけど、余計なお世話すぎたな。
それにしても、本当にあの二人は軽かった。一応家族が腕を機械にするっていう突拍子もないことを言い出したのに、それを”カッコいいから”で済ませるとは。少し嫌な方向であの二人を見くびっていたのかもしれない。
「そ、そっか。じゃあ、僕がマルバス先生とブルシェンコ先生を連れてくるから、先に医務室に向かっててくれるかい?」
「はーい!了解です!」
周りの魁雅を見る教師の目が、見守るような目から不安からなる目に変わっている。だが、当の本人は、何も気づいていない。だって、本人が今回の件に、特に何も重みを感じていないからだ。
どんなことがあろうと、結局はいつも通りになる。そんな自信があるのだろうか。
●
「お前何俺に話さずに進めてるんだよ!馬鹿か!?馬鹿なのかお前は!?!?」
「しょうがねぇじゃん!お前魔力切れで寝てたんだし!起こせねぇんだよ!」
「俺はお前の体が住処なんだよ!勝手に変な改造されたら困るだろ!」
「変じゃねぇし!俺がちょっと体変えただけで対応できないあなたが時代遅れなだけじゃないんですかねぇ!?」
「はぁ!?お前の身勝手な行動に対応できたら今まで苦労してねぇよ!少しは自重しろ馬鹿が!」
がるるるる、と威嚇をしながら相手を下に下げ自分を棚上げする。
醜い、とても醜い。今回の件は魁雅とソロモン、お互いに反省点があったはずだ。なのに、口を開けば”自分は悪くない”、”お前が悪い”。先日共に死闘を繰り広げた仲とは到底思えない。
「あの〜…カイガ君?もう良いかな?」
「あっやべ……ごめんなさい!もう大丈夫です!一旦戻ってろソロモン!」
「後できっちり話すぞ!忘れねぇからな!」
最後の最後まで大声で威嚇しながら、ソロモンは魁雅の体の中へと戻っていった。
「全く…使い魔としての立場ってもんがありますよねぇ?」
「うん、それは一旦置いといて。先生たちを呼んできたから、早速始めようか」
今この場には、バラム先生、マルバス先生、ブルシェンコ先生、他にも多数の教師が集まっている。なんか、マルバス先生だけ凄い笑顔なんだけど。
「おぉ…こんなに集まるとは思いませんでしたよ」
「昨日手術方法を考えてたら、結構大掛かりな作業になりそうだったからね。出来る限り呼べる先生たちを呼んできたよ」
「成る程、ご丁寧にありがとうございます。それで、手術方法というのは?」
「内容自体は単純だよ。今から君に麻酔を打って、その間に腕を切り落として、マルバス先生の作った機械腕を君に付ける。手術は基本、ブルシェンコ先生にやってもらうから」
そう、バラム先生はここまで手伝ってもらっているが、医学関係の教師ではない。生物学を生業としている教師だ。それに対しブルシェンコ先生は、医学専門。その家系は古くから様々な状況に対応してきたらしい。
機械腕も、マルバス先生が作ったものとなれば、心配する必要もないだろう。
「よし……それじゃあ、お願いしていいですか?」
「――覚悟はできてるね?」
ここで改めて考えると、今まで自分が使ってきたものが無くなるのは、やはり少しさみしい。あんなクソみたいな人生でも、思い入れはあるというもの。
……だけど
「勿論」
今は眼の前の大事なものを、なんとしてでも拾いたい。
「頑張ってね」
最後にそんな台詞がバラム先生から聞こえ、そのまま麻酔により、意識を落とした。
…その後、目覚め新たな右腕を見た魁雅はこう言った。
「え、めっちゃカッコいい!」
・魁雅君のテンションの高さはあえて魔界と人間界で大きく差をつけるようにしてます。
・次回は番外編です(なので少し短め)
・これからも過去編をいっぱい書くことがあると思います。許してちょ。
〜用語解説のcorner〜
・マルバス先生:フルネームはマルバス・マーチ。バビルスの拷問学担当の先生。いつもふわふわしてて、穏やかな性格だが…?
・ジャズ:フルネームはアンドロ・M・ジャズ。相手の物を盗むことを生業とする家系。普段はチャラ男の印象が強いが、本人は皆からお兄ちゃんとして見られるのを結構好んでいる。
・リード:フルネームはシャックス・リード。相手の五感を奪う家系能力を持っている、生粋のギャンブラー&ゲーマー。身長が低いことを気にしている。
・カムイ:フルネームはカイム・カムイ。動物などの言語の違う生き物との会話が可能になる家系能力を持っている、変態で紳士。