『見た感じ厄介そうなのは、そこの黒いやつか…』
だって、なんか後ろでずーっとふよふよしてるし。ここの警備システムを乗り越えて入ってこれるのも、こいつの”個性”とやらの力か。
どうも、誰にでも喧嘩を売る姿まさしくヤクザの如し、紅月魁雅です。
何人かのモブヴィランが皆の方へと走っている。別に相澤先生もいるし問題はないと思うが。
ちょうど今から皆の避難も始まるはずだし、それまで時間稼ぎする程度で行くか。
『単刀直入に問おう。オールマイトを殺して、何をする気だ?』
「質問したいのはこっちだ。お前は一人で立ち向かう気か?」
『どうだろうね』
くえすちょんにはあんさーで返してほしいものだ、手がいっぱいの人。
うーんどうだろ、全員が一気に襲いかかってくるなら勝てる気はしないけど、負ける気もあんましない。いや油断はしないけどさ。
「…とりあえず、殺すか」
『随分ストレートなこと』
ついにヴィランが自分から動いてきた。とりあえず今は避けるけど、殺気が凄いな。
コイツだけでモブヴィランの何人分かの強さはありそう。
「魁雅!申し訳ないが、時間を稼げ!くれぐれも無茶をするな!」
『わーってますよ消太さん!』
とりあえず最初にしたいのは”個性”の把握だ。
真っ先に俺の顔面めがけて手の面を見せてきたけど、普通に掴もうとしてきたよな。
恐らく相手を触ったり掴んだりすることが発動条件だと予想できるけど、普通にそれめんどいし、それでどうなるかなんて俺には理解のしようがない。一回でも触れられたらゲームオーバーなんてチート”個性”の可能性もあるし、一度の自己犠牲も許されない。それに…
『…殺せないもんな』
「かなり悠長に考えるもんだな、ヒーローは」
『ッ!…あ〜もう、性格が悪いのはお互い様かよ』
…後ろのやつ、一瞬目を離した隙に…やっぱワープ系の個性か?
そう考えてるのも束の間、俺と皆は黒い霧に飲まれていった。
そして、霧が晴れて行き着いた先が…
『…水難ゾーン?』
ここ、USJの施設の一部、水難を再現した場所だ。
とっさに翼を広げて水には落ちないようにしたが…あと数名、水に落ちた気がするんだが。
水の中にゃヴィランもたくさんいる…もともとここに居るってことは、最初からあの黒い霧野郎は俺達を分散させる気だったのか?
そう考えると、これ結構念入りに計画建てられてるぞ。
「紅月ちゃん!受け止めて!」
『ん?その声は…って緑谷?』
「紅月君!?」
とっさに水の中から声が聞こえ、そこから緑谷が投げ込まれた。
受け止めてとのことだったから、とりあえず冷静にキャッチ、そのまま船へ。
あと一人はなんか雑に投げられてんな。そんで、この声の主は…
『蛙吹か』
「梅雨ちゃんと呼んで。いい判断だったわ紅月ちゃん」
『そちらこそ』
俺を含めた四人、緑谷、蛙吹、峰田が全員水難ゾーンにある船に乗り込んだ。
「ありがとう蛙吹さん…」
「梅雨ちゃんと呼んで。しかし大変なことになったわね…」
『あぁ、実に面倒くせぇ。黒い霧野郎のセリフからして、俺等のカリキュラムは全部あいつらに筒抜けの可能性がある。それも不自然なぐらいに』
しかもあいつらの真の目的はオールマイトを殺すこと。ぶっちゃけそこが一番面倒。
「でもよでもよ!オールマイトを殺すなんて出来っこねぇよ!オールマイトにかかればあいつらなんかけちょんけちょんだぜ!」
「…殺せる算段が整ってるから、連中はこんな無茶をしているんじゃないの?」
『梅雨ちゃんの言う通りだ峰田。確かに普通に考えりゃ、オールマイトなんて殺せねぇ。…だけど、ここは天下の雄英高校だ。そんなところに何も考えずに入ってくるなんて、ありえない』
「そもそも連中は私達を殺すと言っているのよ?オールマイトが来るまで、私達が生き残れるかどうか…」
「みみみ緑谷ァ!なんだよコイツら!」
信じたくねぇけど、梅雨ちゃんの言っていることは正しい。
こいつらは全員、ヒーローの卵…それかそれ以下。ましてやただの高校生だ。
たとえあいつらの実力が低いほうだとしても、こいつらを基準にするならレベルが断然変わってくる。
…だから、其の為にも今俺がするべきことは…
『安心しろ、何があっても俺がお前等を守る、必ずだ』
先輩の俺が、こいつらを引っ張ってやる。
「…ありがたいけど、一人で無茶をするのはよくないわ紅月ちゃん」
「そうだよ!奴らに今、オールマイトを殺せる算段があるとしたら…今僕達がすべきことは、戦って阻止すること!」
『…余計な心配だったらしいな』
「か、勝つったってよ、結局どうやってあいつらに勝てばいいんだよ!アイツら大人じゃねぇか!俺等高校生だぞ!?」
『ぶっちゃけ言えば、あいつら自体は弱い。大体チンピラの集まりみたいなもんだからな。…だけど、今有利な状況に立っているのは、間違いなくあいつらだ。勝てねぇわけでもねぇが、普通に戦うとジリ貧になって色々面倒だ』
焦る峰田を落ち着かせる訳では無いが、とりあえず今の状況の報告。
今俺一人があいつらと戦えば、緑谷達も逃げるタイミングぐらいなら作れるだろう。
だが今相手は水の中ときた。
もし逃げる瞬間を作れたとしても、その道中で何が起こるか、そればかりは保証できない。
…このまま待ってもいずれか船が壊される。仕留めるとしたら、行動は早めにしなければ。
『梅雨ちゃん、峰田。2人の個性を教えて。あいつらは多分だが、俺らの個性を理解してない』
「…確かに、もしも理解しているとしたら、蛙す…つっ梅雨ちゃんはこんなところに送られてくるはずがない!」
『そういうことだ』
「…私の個性は、カエルっぽいことが出来るわ。壁に張り付いたり、舌を20m程度伸ばしたり…あと胃袋を出したり毒性の粘液を分泌することが出来るわ。後半2つは役に立たないから忘れてもいいかも」
『…なるほど、蛙か』
確かに、梅雨ちゃんはこの場によく適している。
だけど、戦闘能力が高いようにはあまり見えないから、逃がす時専用か。俺は飛んで逃げれるから、梅雨ちゃんには緑谷と峰田を連れて行ってもらう必要がある。
まぁ心配いらないだろう。
「僕は…超パワーだけど一回使ったら骨がバッキバキになる…諸刃の剣的な…あれです」
『んで、峰田は?』
「超くっつく。体調によっては一日くっついたまま。もぎったそばから生えてくるけどもぎりすぎると血が出る。オイラ自身にはくっつかずに跳ねる」
………………
『弱いな』
「紅月君!?」
うん、物事は正直に伝えたほうがいいよな。
昔から俺は伝えられる側だったし。
「そうなんだよ俺の個性はバリバリ戦闘不向きで〜〜!」
『今のお前じゃって話だ馬鹿野郎』
「…へ?」
少し泣き目になりながらも、俺の発言に号泣するのを止める峰田
『お前、普通に考えたら相手にしたくないほど強力だろ。だけど使い手が弱いって確信してたら強い使い方が思いつくわけねぇんだ』
『例えるとすれば、いくら強い剣でも、使い手が手入れを怠ればゼリーすら切れない。だけど、いくらなまくらな剣でも手入れをしっかり行えば、岩まで切れる物となる…と言ったところだ』
例えるの得意じゃない?って思ったよね。それは師匠たちからの受け売り。
やっぱずっっっと教えられてると、自然と身につくというか。
「お前、何が言いたいんだよ…」
『んじゃ、簡単に言おう。もっと欲深くなっていけ』
「は?」
『お前の個性は、工夫次第でめっちゃ化ける。だから、この個性が弱いとか、自分が弱いとか、そんな欲のないこと考えんな。今お前が考えるべきは、自分はこうなりたいとか、そういう欲深いこと考えてけ。そうすりゃ多少なりともやる気出るだろ』
「…おう」
『…はぁ、メンタルケアってこんな大変なもんなんだな』
ほんと、バラム先生とムルムル先生には感謝しかない。
「ねぇ緑谷ちゃん、何かおかしいと思わない?さっきからずっとあいつら襲ってこないわ」
「…確かに、なんでずっと水の中に…」
『あぁ大丈夫、それ俺のせいだから』
「…えぇ!?」
確かに緑谷達には説明してなかった、ヴィランがずっと水の中にいる理由。
とは言っても、トリックは至って単純。
『ソロモンにビビらせてもらってるだけ。まぁ、多分そろそろ…うぉ』
頃合いだろう、と言おうとすると、船が傾き始めた。
「ひぃぃ!」
「船が割れた…!なんて力…」
「もう通用しないみたいだ、お前もそろそろ動け」
『はいはいありがとソロモン。流石にもうビビらないか』
”
流石に耐性がつきはじめたみたい。
「ううう〜〜…うわぁぁぁぁ!」
『おいバカやめろ』
峰田が恐怖のあまり、個性を適当に投げまくる。
やけになれとは言ってないのだが…まだ緊張が残ってたか。
「…紅月君、ちょっといい?」
『ん?』
「一つ、思いついたんだけど…ゴニョゴニョ」
緑谷がヴィランに聞こえないように小さな声で俺に伝える。
…なるほど、これはこれは…
『…面白いじゃねぇか。お前、さては頭いいな?』
「えっ!?そんなことないよ…」
●
結果から言わせてもらおう、俺等の完全勝利だ。ここだけなら。
俺は特に目立ったことはしてないが…まぁいいだろう。峰田だって成長したぽいっし
それと、緑谷今度は指を怪我しやがった。まぁコントロールの練習のためと言っていたから今回は見過ごしたが…
「このまま出口に向かって水辺を沿って歩こう。それが最善だと思う」
『今は消太さんがヴィランのヘイトを買ってくれてる。間違っても邪魔になるようなことはするな』
「うん、分かってる…ただ、隙を見て…少しでも先生の負担を減らせれば…」
『…消太さん?』
なんだあのデカブツは。何故、消太さんが負けている?
腕が、軽々と折られてる。消太さんはあいつを見てる。だから、個性は消えてるはずなのに、なんで。
…あぁ、あの時以来だろうか。
目の前に、これ程とてつもない悪が出てきたのは。そして、それと同時に
守りたいというとてつもない欲が生まれたのは
「…おい紅月、お前まさか」
『行ってくる!』
すまない峰田、俺は欲が強いんだ。
『
「ッ?」
『ひとまず俺と話そうぜ、化け物さんよ』
加速の魔術を唱え、消太さんを早く緑谷達の下へ連れて行く。
この化け物も、意外と状況を理解できてなさそう。
『…さて、この落とし前、どうやってつけるつもりだ?』
「知らないね、そんなの。それよりお前等、死んでなかったんだな」
『舐めんな。ってかそんなことよりそいつ、明らかに人間じゃねぇな。…どんな手使いやがった?』
「お前等ガキが知ってどうする」
『後世にでも語り継いでやるよ』
「脳無」
そいつはしびれを切らしたからか、その化け物を俺に向かわせてきた
『…ハハッ』
「紅月く」
グシャ
●
最後の笑い声と同時に、紅月くんは自分に降りかかる拳に対抗して、拳をふるった。
グシャという聞きたくないグロい音と共に。
戦力差は明らかだった。相澤先生の腕を枝のように折る力。
例え紅月くんでも、対応できるものではなかった。
…なんて思ってたけど
「…斬れてる?」
化け物の拳が、切り裂かれていた。
それに…紅月君は、無傷で化け物の背後に立っている。
『パワーが強い?知らねぇなそんなの。あまり俺の先生たち舐めんじゃねぇぞ』
よく見てみると、紅月君の手が剣のような形になっていた。
…これも、
『はいここで朗報〜。なんと、これは個性なんかじゃありませ〜ん。…せっかくだし、見せてやるよ。魔界の魔具ってもんを』
「…もしかして、その手…!」
『魔術解除』
…驚きが隠せない。原因は、彼が中途半端に破けた右手の手袋を、外したこと。
たったそれだけで、自分はかつてないほど驚いている。
『さて、魔界では拷問で口を割るのが主流だけど、ここじゃ許されてないよね。…だけどさ』
だって、その手は…
『別に殺さなければ…良くない?
銀色に光り輝いている、機械だったから。
〜用語解説のコーナー〜
・ムルムル先生:悪魔学校バビルスの精神医学担当。家系能力で相手の精神状態や能力などを把握できる。ちなみに登場回数が少ない割にはかなり上位レベルの人気キャラ。見た目や性格が可愛いのに一人称が俺だからとかいう理由だったはず。
〜裏話〜
・なんか紅月君が先輩だのなんか言ってるけど、それについてはいつか話そうかと
・作中でゼリーの話がありましたが、あれは魔入間作者西修先生が原作として連載している魔男のイチという漫画からパク…引用させてもらいました
・間違えて五話を先に投稿してしまったので、勢いで四話も投稿しちゃいました。まだnoteの裏話は五話も同じく書けていません