「雄英体育祭が迫っている…!」
「「「クソ学校っぽいの来たぁぁぁ!」」」
『うるさいお前ら。盛り上がりすぎ』
どうも、ストレスは溜まりやすい方、紅月魁雅です。
昨日はあの後マウントレディの事務所で、ずっと取り調べを受けていた。おかしいな、トラブルにあったうちのクラスのために休みが出来て、その日に気晴らしとして散歩に出かけたのに…何故か異様に疲れたぞ。休みとは一体。しかもまだその疲れが取れてないってのに、朝っぱらこんな騒がれちゃたまったもんじゃねぇ。
「なんでだよ紅月!あの体育祭だぜ!?そりゃァ盛り上がるだろ!」
『限度ってもんがあるだろ切島。まずそもそも、なんで体育祭なんて行事で盛り上がるんだ?修学旅行じゃあるまいし』
体育祭…うぇ、嫌な思い出しかない。引きこもりの癖に絶対運動しないといけない行事だったからな…過去1嫌いだった。
「プロがたくさん見に来るんだよ、色んな事務所から!いい成績を残せばスカウトもされるかもしれないんだぜ!」
「だけどよ、最近ヴィランが侵入してきたばっかだってのに、そんな時期に開催していいのかよ?」
「雄英体育祭は今や、オリンピックの肩代わりとも言えるヒーローを目指すには絶対に外せない行事だ。ヴィランごときで中止していい催しじゃねぇよ」
●
…とまぁそんなかんじで雄英高校体育祭の開催が予告された。
各々自分の目標に向けて好成績を目指す中、皆の思っている通り俺はあまりやる気は出なかった。だって、ヒーローになりたいわけじゃ(以下略)。まぁ皆が頑張ってる中そんな発言は出来ないと、そう思っている中、俺と緑谷が唐突にオールマイトから昼食を一緒に食べるお誘いが来た。あの人のことだしまぁただの昼食じゃないだろうな。
そして、仮眠室にて
「50分前後…!!?」
『50分前後…』
うん、すんげぇ弱体化喰らったな。
トゥルーフォームになったオールマイトから告げられたことはまず、自身の活動限界の話だ。今まではもっと活動が出来ていたらしいが、”OFA”の継承、先日のUSJにおいての事件等の影響で、どんどん活動限界が短くなっていき、今では50分前後戦えるかどうからしい。
『50分…ですか。確かに一時間未満には収まっておりますが、貴方であれば問題ないでしょう?それに、50分も要するのであれば、とっくに他の英雄方が駆けつけておられる頃合いかと存じますが』
「紅月少年の言う通り、時間だけ見ればそうなるかもな。だが私だって戦いたい時だけに戦えるわけではない。USJの時のように、もうすでに活動時間を消費している場合もあるんだ」
『…なるほど、流石平和の象徴ですね』
「…ごめんなs「謝らんでいいよ!全く私と似たとこあるねキミ!」」
緑谷が謝ろうとしたところにオールマイトが割って入る。
『ごもっともだ。別にお前は悪くないだろ』
「そうさ。そんなことよりも、体育祭の話だ。緑谷少年、君まだ”OFA”の調整できないだろ。どうしようか」
確かに、そういやまだ出来てなかったな。緑谷は”OFA”を受け取ったと言えど、自分の身体がその力に対応しきれてない。だから前のUSJの時みたいに力を使うたびに怪我をしてしまう。そんな超絶キツイデメリットを抱えた中、爆豪や轟といった優秀な生徒が蔓延るクラスでトップを取るのは…ほぼ無理に等しい。
「……あ、でも一回脳ミソヴィランに撃ったとき…反動がなかったんです」
『それって…蛙吹に
「うん。あの時はそいつに当てようとしてたんだけど…」
「言ってたなそういや!何が違ったんだろ?」
「………」
つかの間の沈黙が流れる…かと思いきや、緑谷は何かブツブツ呟いている。
「…初めて、人に使おうとしました」
「ウム…無意識的にブレーキをかけることに成功したって感じか」
この世界における”個性”とは歳関係なく、”簡単に人を殺せる力”。その自覚が緑谷にあったからこそ、ブレーキをかけれたのだろうか。俺がこの世界に来てから自然と出てきたこの”個性”も、ぶっちゃけ人は簡単に殺せる。それも色々な方法で。
「なんにせよ…進展したね、良かった。ぶっちゃけ私が平和の象徴としていられる時間って、実はそんなに長くない」
「そんな…」
まぁ、先程までの話を聞いていれば、嫌でも察してしまう。これからもあの脳無と同レベルのヴィランが出てくると考えると、活動限界はどんどん短くなっていく一方だ。
『…なにうろたえてんの?』
「え?」
…だが、それとこれとはまた別。
『確かに、自分の憧れを失う辛さは俺にも分かる。だけどな、オールマイトはお前に”OFA”を渡したんだろ?それ即ち、お前は託されたんだよ。自分の限界が近づいている中、こいつならやれるって。そんだけ期待してもらってんだから、ここは落ち込んでないで、最後までその期待に答えるのが正解だろ』
「…そうなの、かな」
『はぁ…あのな、オールマイトだって人間だろ。所詮人間なんていつか限界が来て、死ぬ』
「そんなこと言わないでよ!オールマイトが、し…死んだ、ら…この世界だって…」
だーもう!このわからず屋が…!
『だからお前が次を継ぐって言ってんだよ!夢ばっか見てねぇで、いい加減現実見ろ!お前は、未来の平和の象徴なんだよ!分かったら返事!』
「えぇ!?は、はい!」
「はは…やっぱり、君達を選んで正解だったようだな」
オールマイトが机越しに俺等に対して微笑みを向ける。俺はぶっちゃけ近くでこの面白そうなものを見たいだけだったが、まぁ喜んでもらえているなら別にいいだろう。
『…もーいいや、疲れた。今日の本題は緑谷が体育祭でどう1位を取るか、なんでしょ?それなら経験者と2人っきりのほうが分かりやすそうだし、俺は帰りますよ』
「待つんだ紅月少年、体育祭の話は君にも利益がある話だぞ」
『…と言うと?』
扉に手をかけ帰ろうとした瞬間に、オールマイトから止められる。俺にも利益がある?なら俺にそれ相応の興味を持たせてほしいものだ。
「今更かもしれないが、雄英高校の体育祭は毎年、様々な事務所から沢山のプロヒーロー達が見に来る。それは、君たちが自分の事務所にふさわしいかを見極める、即ちスカウトのために来ているようなものだ」
『それと俺にどんな関係が?』
「君にはプロヒーロー達の目に入るような活躍を、体育祭でしてもらいたい。君の今の目的は、君の家である魔界に戻ることだろう?もしプロヒーローから高い評価をいただきスカウトされたら、将来的に事務所に入ることができ、世界へ進出する道が拓ける。さぁここで緑谷少年に一つ問題!今話したことと紅月少年にはどんな有益性があるかな?」
オールマイトがビシッと緑谷を指さし問う。唐突な投げかけに緑谷も驚きで声を漏らしていた。そこ俺に聞くんじゃないんだね。
「えぇっと……あ、もしかして、魔界に関する情報や、何かしらの噂を得ることが出来る範囲が広まっていく…ってことですか?」
「正解!今紅月少年はヒーローになることよりも、魔界に戻ることを優先している。ならばそれこそ事務所に入り、世界へ進出することが大事なのではないか?」
…確かに、一理あるな。雄英高校で情報を探そうと思いついたのは、単純に人が多い、という理由だったが…そこまで幅広くは考えたことがなかったな。今のままでは何も情報を得られていないし、ぶっちゃけこの学校で何かの情報を得るのは難しいと思ってる。…それなら、
『…少しだけ、頑張ってみます』
「その返事を待ってたよ」
『ってか、世界につながる事務所ってどんなのがあんの?そういうのは俺より緑谷とかの方が詳しそうなんだけど』
自分より詳しいであろう緑谷に問いかける
「うーん…有名なところで言えば、エンデヴァー事務所とか、ベストジーニスト事務所とかがあるけど…」
「エンデヴァー事務所に入るなら、轟少年との親交を深めておくのをおすすめするぞ。彼はエンデヴァーの息子だしな」
轟……戦闘訓練とUSJの時しかまともに喋ってねぇな。ぶっちゃけどんな性格かも分からないし、どう関わっていけばいいかも全然分からない。まぁだけどクラス内に事務所の関係者がいるなら、そこの事務所目指すのが得策かな。
『分かりました、とりあえずそこを目指せばいいのですね』
「あぁ。だがエンデヴァー事務所は厳しいぞ。1位を狙う気で行ったほうがいいな」
『はーい、そんじゃもう流石に戻っていいよね?疲れたし。じゃーね』
オールマイトと緑谷の返事を聞かずに部屋から立ち去り、教室に戻る。二人の戦略を俺が聞いちゃ元も子もないだろうしな。
それにしても、轟との親交かぁ…どうすればいいんだろ。好きな食べ物でも知れば多少は仲良くなれるかな?魔界じゃそれで仲良くなれるときあるぞ。それかもう一つの手段としては、バトること!あれだよ、昨日の敵は今日の友ってやつ。それで互いをよく理解できるからさ。
…あれ、そういや轟って…
ドンッ
『わっ…!』
「ッ…」
意識を考えてることに向けてたら、扉を開けた先に立っていた相手に当たってしまった。人間は魔力がないから気配感じ取りにくいんだよな…
『申し訳ございません、お怪我は………げっ』
「お前…」
ぶつかった相手に手を差し伸べるが……この紅白頭は、もしかして…………
『…轟、か。悪いな』
「…あぁ」
そのまま轟を引き起こし、お互い目を合わせる。まさかこんなタイミングで出会ってしまうとはな、何も話すこと決めてないぞ。
「…何か用か?」
『あぁいや、別に…』
「そうか」
数秒の沈黙が流れ、轟から発言するもすぐに会話を区切ってしまう。…まずい、ただただ気まずい空間が流れているだけだぞ。流石の俺もこの空間は苦手すぎるんだけど。…ってかなんで轟は会話終わってんのにずっとこの場にいんの?どゆこと?
「…紅月」
『えっ?ど、どうした…?』
先にこの空間をブッ壊したのは轟だった。お互い静かになり、お互いがいつこの場を抜け出すか考えていると思っていた自分は、少し焦りも交えた声で返事をする。
『と、とりあえず座んない?立ち話もあれだしさ』
今この教室は運よく俺と轟しかいない、席も余り放題だ。皆昼飯を食べに食堂へ向かっているのだろう。
『…んで、伝えたいことって?』
「…俺はお前に、
『…は?』
「最近、よく分からねぇ感情…なのかすらも分からねぇけど、そんなものが頭の中にある。それがお前に対してだってことは分かるが、どんなものかは全く理解が出来ない。だから…」
『それがどんなものか、当の本人である俺に聞きたい…ってこと?』
予想外の質問に数秒戸惑ったが、なんとなく轟の意図は読めたので、適切な返事を返す。
『ったく、そんなの俺が知るわけないじゃん。特に俺お前になにかしてあげた覚えはないし』
「…そう、だよな。悪かった」
『…お前ってさ、意外と馬鹿なんだね』
「なっ…」
『推薦入学とか言うからどんな天才かって思ってたけど、そういう一面もあるんだね』
最初の方は、推薦入学と聞いて高校生という枠組みから外れた天才的な立ち位置だと勝手に認識してたけど、今この会話を聞いた後だと完全に天然バカな高校生の枠組みに入ったな。
「何ニヤニヤしてんだ。…もういい、引き止めて悪かったな」
『あそうだ、俺からも質問いいか?』
「あぁ」
これ、ちょうど今結構気になってたコト。
『お前、なんで炎使わないの?』
「えっ」
『いやさ、前々から結構謎だったんだよ。お前戦闘訓練で尾白と葉隠の氷を溶かす時は炎使ってるのに、俺からヴィランサイドとして核を守るときとか、USJの時とかは使う素振りを全く見せないからさ』
すでに轟には結構嫌な顔をされているが、せっかく話せる機会だし、それに…と会話を続ける。
『エンデヴァーの息子なら、もうちょっと使ってもいいんじゃないの?あの人だって炎が取り柄でしょ?』
「…お前、なんでそれを?」
『あっいや、それは…』
まずい、色々と喋りすぎたな…人の家の家庭環境に土足で入り込むほど迷惑なものはないよなそりゃ…どうする、ここはどういった言い訳で…
「…どうせオールマイトか相澤先生から教え込まれたんだろ」
『え、よく分かったね』
「俺は、炎は絶対に使わない。母さんだけの力でヒーローになって、アイツを完全否定する為に」
…恐らくだが、家庭的な問題なのだろうか。轟の父であるエンデヴァー、そして轟の言う母さん。この二人の関係が、今の轟を生み出しているのだろう。だけど、今俺に言えることは…
『良く分かんねぇな、スマン』
「別に分かろうとしなくていい」
今はまだ、俺が干渉していい話じゃない…よな。
『…なぁなぁ、今度の体育祭、俺とお前で競う…なんて話はどうだ?』
「俺が、お前と?」
『いやさ、俺実は職場体験エンデヴァー事務所に行きたいんだよ。見れる世界が広がるし。そこで俺と轟が戦って、俺が勝てばお前の親であるエンデヴァーに目をつけてもらえて、お前が勝てば”悪魔みたいな人間に勝てた”…なんて奇妙な称号を得ることが出来る。お互いこれでWin-Winだろ?』
…こんな宣戦布告、ソロモンの時以来かもな…。
『
「…やる」
『その言葉を待ってた』
よし、これで今一つの目標”轟との親交”を5割ぐらい達成したな。後は、体育祭で良い結果を残して、エンデヴァーに目をつけてもらう。意外とイージーゲームか?これ。
『…そんなことないか』
「どうした?」
『え、あぁ。なんでもな「紅月と轟じゃん!珍しい組み合わせだな!」』
この声…
『上鳴か。他二人もおそろいのようで』
「雑な紹介だなオイ」
扉がガラガラと空いたと思ったら、聞き慣れた声が聞こえて自然と体をその方向へ向ける。そこには昼飯を食べ終わったのであろう上鳴率いる切島、瀬呂の三人組がいた。ってか組み合わせって何やねん。
『…んじゃ、とりあえずそういうことだ轟。そして、最後に一つ…』
「なんだ?」
『楽しくやろうぜ』
●
「うおぉぉぉ…何事だぁ!?」
早く帰らせろ!
…コホン、時は過ぎ、帰宅時間となった放課後。家までの帰り道が同じ相手がいるわけでもないので、さっさと麗日が開けたドアから帰ろうとしたら、何やら大量の他クラス生徒が集まっていた。人数的にも隣のクラスB組だけでなく他の科…普通科などもいるだろう。
「出れねーじゃん!何しに来たんだよ!」
『敵情視察的な?』/「敵情視察だろザコ」
「なんか片方から聞き捨てならねぇのが聞こえたぞ!」
俺じゃないぞ峰田、爆豪だ。まぁ、仮にもこのクラスはプロヒーローの助けがあったとはいえ、ヴィランの襲撃を耐え抜いた衝撃のクラスだ。体育祭が始まるまでに一度でも見てみたいのだろう。…だが、それにはプラスの感情だけが入っているわけではなさそうだ。
「とりあえず意味ねぇからどけモブ共」
「へぇ…ヒーロー科に在籍するやつは全員こんなやつなのかい?」
「あぁ!?」
「こういうのみるとちょっと幻滅しちゃうなぁ。普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから入ったって奴、結構いるんだ知ってた?」
ヒーロー科はA組とB組、1クラス20人の少し少ない人数で構成されている。そんな中ヒーロー科にはたくさんの生徒が入学を希望するため、大多数の生徒がヒーロー科に入ることを許されないこととなる。そしてその生徒たちが、この普通科に集まっている、とこの紫髪は言いたいのだろう。
『…んー、なんか面倒くさいね。君』
「やっぱ相手を下に見るだけなのか?ヒーロー科は」
「調子乗ってんじゃねぇぞA組!こっちまで被害来るだろうが!」
俺の言葉によく反応するなB組は。やっぱりヴィランに遭遇したことはそれだけ興味のあるものだったのかな?
『君は多分、”個性”とこの学校の入試方法に恵まれなかった、ただそれだけじゃない?それで俺等に喧嘩売りに来るのは、ちょっと違うと思うんだけど』
「…結局は”個性”に恵まれてねぇとヒーローにはなれないってか?」
『いやそういうわけじゃないんだけどね』
こいつはちと気が早いな。人の話をあんまり聞かなくて、自分のことしか考えない。この世界じゃ、そのような思考も入学できる者とできない者の差を生み出しているのだろうか。
「体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。そしてその逆もまた然り…らしいよ敵情視察?少なくとも俺は、宣戦布告しに来たつもり」
『へぇそうかい、君は俺等によほど勝つ自信があると』
「あぁ」
…いいねー、ゾクゾクする。
『言っとくけど、
「……」
ありゃりゃ、黙り込んじゃった。あんまり強く言った気はしないんだけどなぁ?…しょうがない、もう帰ろう。これ以上ヘイト買っても意味ないしな。爆豪の後ろに張り付いて帰ればいいか。
「待てコラどうしてくれんだ!おめーらのせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねぇか!!」
「関係ねぇよ……上に上がりゃ、関係ねぇ」
上か…面白いこと言うなぁ。爆豪、話したこと全然ないけど、面白そうなやつだな。あ、ってか爆豪帰っちゃった。まぁ爆豪だってついてこられるの多分嫌だろうな。大体察せる。
『…なんか、大変なことになっちゃったね』
「お前のせいだろ!」
『まぁいいさ。俺等もヒーロー科として、
「えぇ!?ぼ、僕ッ!?」
”個性”に関してはお前も例外じゃねぇだろ、って言おうと思ったけど、ここじゃ駄目だよな。緑谷だって元々個性が無かった身、アイツの経験は痛いほど身にしみるだろう。緑谷がいつアイツに気づけるかはまた別の話だが。
「いやお前無駄に敵増やしただけじゃねぇか…ってどこ行きやがったアイツ!」
残念もう俺はすでに教室の外だ。
色々と面白そうな事になってきた。轟への宣戦布告をしたと思いきや、今度はまさかの普通科からの宣戦布告を受け取ってしまった。ってか、普通科がヒーロー科に宣戦布告とか、改めてスゲェ自信があるんだなって思ったわ。
個性もきっと、俺等に勝てると確証を持てるようなものなのだろう。なんだろう、初見殺しタイプのやつかな?だとしたら一発屋として終わりそうだけど。だけど、それでヒーロー科落ちたって考えると、あの入試ロボットには通用、発動しないような個性なのか?
『…ま、そんなこと考えてても無駄か』
今はただ家に帰って、筋トレずっとしてればいい。
●
『消太さんもう家帰ってよかったの?仕事は?』
「この状態で出来るわけないだろ、特別に早く帰らせてもらってるんだよ」
『そうなんだね〜。んじゃ、今日のご飯何がいい?』
「なんでもいい」
『モテないよ消太さん』
「余計なお世話だ」
うん、久しぶりだな、この何気ないやり取り。消太さん前まで病院で入院してたから、ずっと消太さん家で一人だったんだよな。ご飯は俺が作り、一緒に食べ、後は個人時間。このただの日常がやっぱ一番普通でいいなって思える。
『…ねぇねぇ消太さん』
「なんだ」
料理の準備を始めながら、会話の流れ(?)でとある質問を消太さんに投げかける。
『この世界の夫婦ってさ、やっぱ”個性”とかなんか関係あるの?』
「…何を言い出すかと思えば、お前にはまだ早すぎる話じゃないか」
『俺が前いた地球は”個性”なんて無かったからさ、なんか”個性”によって夫婦関係に亀裂が入ってるのかなって思っちゃって』
「まずそもそも、どこでどんなことがあってそんな疑問が生まれてくる」
『うーん、それは内緒』
一応きっかけは轟のあの意味深な発言。”炎は絶対に使わない”、”母さんだけの力でヒーローになってアイツを完全否定するため”、の2つ。母さんだけの力でヒーローを目指すと言うのならば、今まで氷しか使ってこなかったのを思う限り氷は母の個性遺伝子を受け継いだものなのだろう。
そして、炎は言わずもがなエンデヴァーの個性遺伝子。そしてそのエンデヴァーと轟の母が夫婦となり、二人の個性が合わさった”轟焦凍”が生まれた、と考えるのが妥当なのだろう。
だがそれで謎なのが、何故アイツの家庭にヒビが入っているのか。今のところだと、ヒビが入る要素、ドコにもない気がするのだが。
「…この世界には一つ、個性婚という概念がある」
『個性婚…とな?』
「お前も流石に知ってるとは思うが、子供の個性は両親の遺伝子をよく受け継ぐ。そしてそれを利用して、自分の個性が配偶者の個性により一層強化し、それを受け継いだ優秀な子供を作るための結婚、それが個性婚だ」
『…なんか胸糞悪いね』
…もしも轟がその子供の対象ならば、轟は完全に利用されている。だけど、なんでそこまでして轟を強くさせたいんだ?確かに自分の個性が強化されるのは魅力的だが、何故それをわざわざ結婚という面倒くさいことをしてまで轟に全てを一任させるのか。
「最近はもうめったに見ないがな、昔はかなり批判されていた行為だ」
『そりゃあね。…ヒーローも、綺麗事は世間の目が入る表にしか出さないんだね』
「…そうかもな。ヒーローだって、お金が貰える仕事だ。それを目的としてヒーローになる者もいるぐらいだしな」
ヒーローでもただの社会人の一人、って思考でいいのか。
『消太さんは絶対にそうならないでよ〜?まぁ消太さんに綺麗事って概念があるのかすら不安だけど。はいご飯』
「仮にも俺は大人だぞ。立場を理解しろ立場を」
この人はどうせ、表裏なんてないだろ。いつもの俺に対する態度で他に人にも接してんだろな。まぁ、それがこの人のいいところでもあるんだけどネ。
「というかお前、体育祭は大丈夫なのか?」
『消太さん…俺を何だと思ってるの?高校生の体育祭で苦戦するほど魔界は優しくなかったって』
「違う。お前、どうせ手ェ抜くだろ。今はまだそんなこと言ってるが、結局途中で面倒くさくなるだろ。お前のことだし」
…この人の俺に対しての認識はそうなってるのか?まぁ確かに人間界に戻ってから、色々面倒くさいと思うことが増えてきた。あんな苛烈な環境から送られてきたからか、少し刺激が足りず面白くないのだ。ってか逆に、
『…うーん、どうだろうね、
「アイツ次第…?またお前は妙なことを…」
『失礼な』
今、自分はヒーローを目指して雄英に入っているわけではなく、ただ自分の私利私欲のために雄英に入っている。自分の社会への評価を上げたいわけでもなく、誰かと競いたいわけでもない。それが、
…だが今この瞬間、この瞬間だけは、矛盾してしまうような一つの欲が湧き出でしまう。しょうがない、それが人間の性なのだから。
『…ねぇ消太さん』
「何だ?」
『練習、付き合ってくんない?』
人間とは、欲深い生き物である
彼らにまだ線はありません