早朝。
本日も稼働するコロネベーカリー。
パンを焼き上げ、開店準備を終えたミオ。
移動販売用のパンをクルーザーのサイドバックに入れて出発の準備が整ったのであろうコロネ。
彼女が店の戸を開けると同時に外からアメリカンバイク特有の三拍子が店内に流れてくる。
「それじゃ、行ってくるね!」
「は~い。行ってらっしゃい~」
「あ、ママ。行ってらっしゃいのチューして!」
「行ってらっしゃいのチュー??」
目を閉じてその時を待つコロネ・・・
自身もコロネの元に近寄ろうとした時、ミオの脳裏に先日の一件が過った・・・
(誰と話してるの?もしかして奥さん?)
(ねぇ、マリンのパンツ見て~~)
「行ってらっしゃいの・・・」
依然として目を閉じたまま待つコロネ。
ミオは振りかぶった・・・
それは厳密には打撃の構えとは到底呼べない・・・例えるならば重量のある鉄球を遠くへ飛ばす『砲弾投げ』
体を捻り、つま先から足首、足首から膝、股関節から腰、肩、腕、手首・・・
体全体を余すことなく使用し、拳を加速させる。
「チュー!!」
『パンッ!』という快音が店内に響き渡った。
拳が音の壁を突き破ったのか・・・はたまたソレに近い速度を出す拳が肉に叩きつけられた音なのかは定かではない。
「・・・う~~~ん。強烈~~~!」
朝日を浴びなら何事も無かったかの様に去る父の後ろ姿は、まるで『数多もの試合に打ち勝ってきたボクサー』のようで神々しかったと、寝起きに一部始終を目撃したカナタは語る。
「そちらの方は順調?」
7041番地。広大な敷地、巨大な屋敷、敷地内にはプールも完備。
優雅な外観とは一変し、屋敷の中は閑散としていてどこか寂しい雰囲気を出している。
かつては一級の高級家具や歴史ある絵画が所狭しと並べられていただろう室内は、前オーナーが夜逃げした際に金融機関に回収されており、現在は広々とした冷たい空間があるだけだ。
いくつもの部屋がある屋敷。その一室でトワはサンアンドレアス外にいるメンバーへ連絡を取った。
「此方は相変わらず、みんな元気にしてるよ~振り込みの件、ありがと~!」
プライベート用の電話を使った遠距離の通信。
現在マークされていないのは分かってはいても、特定のワードや今後の作戦の内容を通話を使ってやり取りするのはあまりにも危険だと言える。
「そう、よかった・・・此方は、やっと羽を休める場所を見つけたわ。
合衆国、本土で情報収集、機材発注、撤退時の乗り物の手配を担当している『赤井はあと』は3画面に展開したモニターの情報を見比べながらトワに返答する。
「今のところ大丈夫かな~観光地図見ながら考えてみるね~。・・・明日くらいにお土産の件で電話していい?それまでに考えておく!」
「わかった。それじゃ、何かあったら電話して」
「はしゃぎすぎて怪我しないようにね!」
「・・・既にコケて怪我しちゃった子もいるけど・・・まぁ、大丈夫。ホテルではソーシャルゲームばかりしてるわ」
事前決めていたワードと先程の会話を照らし合わせながら、ハアトはクスリとわらった。
・・・どうやら拠点を確保し、強盗団の組織名も決まったようだ。
「へ~面白いの?なんて名前の
「ミリオンモンスターズって名前だけどしってるかな?」
本当にソシャゲーみたいな組織名になっている・・・
突っ込みたい気持ちもそこそこに、通話でそんな話も出来るわけでもなく「面白そうだね~」とトワに返答するハアトだった。
警察の引いた『ロスサントス包囲網』
内容はブレイン郡とロスサントスを繋ぐ道路の完全封鎖、貨物列車の運行停止、上空・海上の哨戒。
大量の麻薬や現金の入ったバックを車両に乗せて境界を超えるのならば警備に捕捉される事になるのは必然だった。
だが、もしも犯人が強盗成功した当日に資金洗浄を終えて、手荷物なく移動できる状態だったのならば?
乗り物を使用せず夜間、少数で山岳地帯を明かりもなく走破出来るアスリートが居たならばどうだろうか?
市警の行うものとしては大規模な封鎖措置だが、完全な物とは言えなかった。
国境警備の様に境界を隔てる強固な壁やフェンスはない、昼夜問わず暗視装置の搭載された哨戒ヘリが警備を行っている訳でもない。
ロスサントスの捜査が一段落付くと次に行われるのは、強盗犯が逃走した方角では無い『ブレイン郡』、そしてサンアンドレアス全土の捜索となる。
街の捜査が一段落するタイミングを見計らってミリモンの半数が山越えを決行、情報収集後に拠点確保。
安全を確認後に残りのメンバーに招集をかけた。
アキ・ロゼが部屋の扉を開けると数日振りに見るトワの姿があった。
「長旅ご苦労様。報告事項はない?」
トワの問いにアキは『特にない』と首を横に振る。
「それじゃ、私の方から状況と今後の方針について話すわ」
警察の動きは予定通り。再犯を警戒して銀行、コンビニ、路上の巡回の強化・・・銀行に至ってはセキュリティーサーブという警備会社に依頼して防御を固めている。
「名目上警備会社になっているけど私兵団の様な連中よ。防弾車両に機関銃を取り付けたテクニカル。
元より荒事を主体としてきた連中よ、これまでの『銃を所持しているだけの警備員』とはわけが違う。
「銀行への襲撃は今後は行えない。模倣犯が根こそぎ撃沈してるのがいい例ね」
「島外に居るはぁちゃまに情報を探ってもらった。近日中に島外から大規模な取引が行われるらしいわ」
強盗が行われ口座は凍結、FIBが調査に入り資金洗浄していた銀行職員を逮捕。
資金が不足した犯罪組織は持ち合わせの在庫を島外の組織と取引し、現金化を狙う。
「私達はそこを狙う!」
犯罪組織同士の取引。警察に嗅ぎつかれない様に場所や日時を決めている。
今や今やと待ち構えている店舗を狙うよりも、練度の低いチンピラの集団から略奪した方が合理的。
元より市民から搾り取った利益。今度は自身が搾取される立場になったところで犯罪組織に何の同情も沸かないと言った感情もあるのだろう・・・とアキはトワの話を聞きながら感じた。
「正確な日時は明日、情報を貰う。とりあえず銃とアーマー、荷物を多く積める車は必要ね。アキ・・・この前の取引に利用した組織は信頼できそう?」
「報酬さえ払えば依頼した内容はキッチリこなしてくれる筈よ。私が保証する」
資金洗浄で利用した組織。割高な手数料ではあったのだが、私達の情報が漏れる事無く指名手配されずに過ごせている現状を垣間見るに信頼できる組織ではあるのだと判断できた。
「偽造文章を発注できるかな?車と合わせてオカユの所に持っていけば足のつかない様にしてくれる筈」
「私はブラックマーケットで銃を手配してくるわ」
部材調達も状況によって変わる。街は既に警戒態勢、多少費用は嵩むが『盗難車』で足が付くよりも安全をとる事をトワは選んだ。
部屋の戸に手をかけ、思い出したように振り返るトワ。
「あ、皆に余った資金を分配しなくちゃね。何事も息抜きが必要!」
「今日の初お仕事~~~~!」
『BAUBAU!!』
パン屋の主人コロネは現在、救急車で搬送されていた。
「痛いですか~?コロネ先輩」
「もうバキバキに骨が折れているよ~」
何のことも無い唯の交通事故。
バイクと電柱が熱烈なキスをして、バイクに乗っていたコロネはロケットマン宜しく宙に放り出されたのだ。
「ちょっと待ってて下さいね~「どうしたんですか?」」
救急車を運転する医療スタッフの双子、『フワワ・アビスガード』『モココ・アビスガード』が心配そうに話しかける。
車両の後部、防振ベット・ストレッチャーに過剰なまでにグルグルとベルトを巻かれ、拘束されているコロネは深刻そうに事故の経緯を話し出した・・・
「バイクを運転していたら眩暈がして事故っちゃった・・・」
今朝、ミオから受けた『行ってらっしゃいのチュー』のダメージはコロネの体にしっかりと蓄積されていたようだ・・・
『Ahhhhh』
双子なだけあって完全に息もぴったり。見事にシンクロしたリアクション、ほのぼのとした雰囲気にコロネの心は癒されていた。
「シートベルトとかなかった?」
「バイクってシートベルトあるのかな?」
※ありません
「フワモコ乗った事ないから分かんない」
「今度乗せてあげるよ!」
「先程事故ったけど大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫」
「今シートベルトしっかりとしてくださいね?」
フワワが談笑しながらコロネに安全確認を行う。
勿論、担架にグルグル巻きにされて身動きが取れないコロネにはどうする事も出来ないのだが・・・
サイレンを鳴らしながら交差点へ進入する救急車。しかし此処はロスサントス。
信号無視する一般車両なんてざらにある。
回避しきれず接触し、強烈な衝撃が車体を襲う。
担架を固定していたベットのロックが衝撃で外れ、運転席・助手席の間を通り抜けてフロントガラスに突き刺さる。
それだけでは勢いは止まらず車外に排出される担架。そして、担架の上には身動きの取れないコロネ・・・
「フワモコーーーーーー!!!!」
本日、2回目となるコロネの絶叫がロスサントスの町に木霊した。
次話から作戦開始!(n‘∀‘)η