「1911がお好き?結構!では益々好きになりますよ。持ってみてください。良いでしょう?余裕の音だ、精度が違います」
「ああ!お客様!?弾は込めないで!困ります!!お客様!?」
ガラス張りのブース。
並べられた銃器の数々。
少女がブースの戸を開けると彼女の来訪に気づいたのか、スーツを着た部屋の主はゆっくりと振り返り少女と対峙する。
「お待ちしておりました、お嬢様・・・発注した品が届いております」
机の上に深みのある木目の化粧箱を置き、手袋をした手でゆっくりと箱の錠を外すソムリエ。
「インフィニティ・ファイアアームズ製レースガンです。由緒正しい45口径、IED、銃身は6インチ、銃口には格闘戦を想定したマズルガードを採用、トリガープル及びグリップをお嬢様が扱い易い様に変更しております」
50万円以上のベースガンを更に個人の好みにカスタマイズを行っている・・・
カスタムガンメーカーの手がけた芸術品の様な拳銃。
信頼性、精度、耐久性、どれをとっても一級品。
確認する必要性が無いと分かってはいても最早癖みたいなものなのだろう、黒光りする銃身に手を伸ばし、グリップの感覚や動作を確認する。
例え粗悪品であろうと彼女であれば使いこなす事が出来る。
だが、命を預ける物に妥協はしたくないという意思は、同じく銃を扱う彼にとっても痛いほど共感できた。
「お気に召されたようで何よりです」
まるで魅入られたかのように手にした銃を眺める少女。
一方、ソムリエは子供に武器を持たせなければならない現状に(嫌な時代になったものだ・・・)と心の中でため息を吐いた。
「あやめちゃん、ちょっと荷物下ろすの手伝ってくれる?」
アジト、屋敷の正面玄関前に堂々と駐車した黒塗りのSUV。
カラカラ4×4の荷台に積み重ねられた木箱の一つに手を伸ばしながらトワは、丁度良いタイミングで屋敷から出て来たアヤメに声を掛けた。
トワの呼びかけに応じ、少し持ち上げ重量を確認した後に何事も無かったかのように軽々と抱え上げる少女。
『ゴツリゴツリ』とブーツが石畳を踏みしめる音が異様に低い。
(思いのほかに重量がある・・・)
「
「ブラックマーケットで買った物よ」
まるで金属の塊を抱き上げているかのような重量にアヤメは首を傾げながらトワの後に続いて屋敷へ向かう。
前回の少量の発注とは違い、今回は機材準備に使用できる予算は潤沢にあった。
屋敷に入りリビングへ。他のメンバーがソファーの上で寛いでいる中、中央のテーブルへ『ゴトリ』と音を立てて木箱を置く。
「開けていいわよ。べーちゃん、こより、まだ荷物があるから手伝って」
次々とリビングへ運び込まれる木箱。
ペコラはバールで最初の木箱を抉じ開けて中身を取り出す。
1つの木箱の中に緑色の金属製の缶詰が6つ。
そのまま持ち上げるにはかなりの重量があり、この箱を軽々と運び込んだアヤメの筋力に亜人として種族の差を感じずにはいられない。
(只人は私達の事を一括りに『亜人』と呼ぶけれど、実際は違うペコ・・・)
獣人とは言えども兎と狼では得意としている分野が全く異なるのと一緒だ。
鬼神であるアヤメが小柄で可憐な少女の見た目であるにも関わらず、その見た目に反する出力を叩き出す。
索敵能力に特化した兎の獣人であるペコラにこれと同じことをしろと言われても土台、無理な話なのである。
そして、ペコラが手に掛けた物はスパム缶。
弾薬の保管に使用される密閉された缶詰。
湿気に注意し、正しく保管すれば弾薬は数十年間使用可能。
だが、軍で保管している弾薬は暴発、不発はもっての外。
品質的に問題のない状態であっても20~30年ほどで在庫の入れ替えを行う事となっている。
5.45と記載された古びた外装・・・
この弾薬箱は期限が切れ、廃棄予定になっていた物の一つの様だ。
中にはギッシリと弾薬が詰められており、当然の事だが詰められた弾薬の量だけ重量も増加する。
早々に木箱のまま纏めて移動させる事を諦めたペコラはそのまま木箱を横倒しにし、スパム缶の一つを引きずり出した後に、缶切りを手にし開封を行う。
ペコラが開封した缶詰から取り出した紙包の山。2160発の5.45×39mm弾薬の入った缶が6つ・・・
他のメンバーが開け始めた箱には大量の空の弾倉とそれらを使用するライフルが納められている事だろうとペコラは察した。
「戦争でも始めるつもりペコか?」
「上手くいけば必要ないわ」
(つまり・・・今回は失敗する可能性が高いって事?)
口から出かけた言葉を飲み込むペコラを横目にトワは作業中のメンバーに招集をかけた。
「皆集まってるわね。それじゃ、次のビジネスのミーティングを始めるわ」
「はぁちゃまから情報が入った。次のターゲットはカラーギャング・バゴス。この島で最も力を持っている・・・黄色をファミリーカラーに掲げているラテンアメリカ系ギャングよ」
バゴス以外のギャングが麻薬や大麻などで利益を得ているのに対し、バゴスは
「控えめに言ってクズ野郎共ね・・・奴らの現状は武器を買いたくても動かせる現金がない。売り捌ける麻薬があってもソレを買取できる取引先が居ない。この島全体が同じ状況ならば島外・・・本土の支援を期待するしかない」
ロスサントスの包囲網は解除されていても監視の目が無くなったわけではない。寧ろ、今まで以上に強化されているまである。
「材料を購入し、製造拠点に運び込む。作ったブツを島外に搬出し、現金にする。・・・これを監視の目を掻い潜りながら行う必要がある」
大量のブツを動かすとなると当然目立つ、いつも使用しているルートであっても同様だ。
「だから・・・必ず尻尾を出す」
トワは開け放たれた木箱、覆い被せられた油紙を取り払い、中に並べられたAK-12を取り出しアキ・ロゼへ投げ渡した。
PCからTVへ伸びるケーブル。
写し出されたサンアンドレアス島全体の地図。
『カチャリ、カチャリ』とローダーの上でライフル弾を並べる音。そして、ミーティングを行うトワの声だけが響く室内。
「海に囲まれたこの島への密輸は海上、空輸の2種類。巨大な貨物船の入港するサウスロスサントス港、国際便の発着するロスサントス国際空港は当然の様に警備は厳しい。私達を島外に逃がさない様に囲った警察の監視の檻は他の犯罪組織の首を絞めているの。だから、バゴスはその他のルートで貨物を運ばなければならない」
ブレイン郡の海岸線は岸壁。波も荒く、岩礁が点在し大型船の乗り入れは不可能。
残る手段は小型旅客機を使用し、ブレイン郡に存在する辺鄙な空港・・・又は農薬散布レシプロ機用、個人所有の滑走路への発着。
「バゴス、メキシコ本部から明日の深夜にロスサントスへの空輸が行われるという情報が入った」
「空路は飛行場の航空路監視レーダーで捕捉出来る「それじゃ、今まで空路が犯罪で使用されてたのは?」」
アーニャの問いにトワは「良い質問ね」と返す。
空港から半径9km・高度900mの範囲内の誘導を行う『飛行場管制』と半径100km・高度4300mの航空機の空路を監視する『ターミナル管制』の二段階の航空機の追跡・誘導を行っている。
ロスサントス国際空港、ブレイン郡・グランドセノーラ砂漠のサンディ海岸飛行場、州軍『フォート・ザンクード基地』に存在するレーダーサイト。
捕捉範囲はサンアンドレアス島全域を優に越し、レーダーに発見されない様に航空機を飛ばすにはステルス機でない限り不可能なのだ。
「軍のレーダー情報は行政側と連携はしていない。爆撃機や戦闘機ならいざ知らず民間機と分かっているのならば、基地上空を通過しない限りはスクランブル発進は無いとみていい」
「捕捉はされていた。でも、見逃されていた・・・」
「だから、これまでは飛行場の管制官が買収されていたと見ていいわね」
きっと今回も同様の手口を使うのでしょう・・・
私達も買収し、バゴスの所有する航空機の情報を仕入れる事が出来れば、いくつもの面倒な工程を省略できる。
だけど、
この島には1つでも手がかりを残せば全体を把握する切れ者がいる。
故に、準備期間の短いサブターゲットでも痕跡を残すことは許されない。
「制圧するにしろ、買収するにしろ私達の痕跡が残るのなら今回の作戦はお手上げペコ」
「そうね・・・だから直接レーダー設備にアクセスしに行く」
情報も準備期間も僅かしかない。何があるかは分からない。それでも、既に警察やギャングにマークされている管制官に接触するよりかは幾分かマシ
「アーニャ、ムメイ。貴方達は此処へ夜間から侵入して・・・順を追って説明していくわね」
バゴスの貨物を積んだチャーター機は、本土からサンアンドレアス島へ夕刻出発する。
大陸を横断、太平洋を渡り、ロスサントス国際空港へ・・・所要時間は4時間。
この間にアーニャ、ムメイは国際空港の警備を抜けてレーダー設備へ直接アクセスを行い情報を抜く。
「夜間の活動になるわ。レーダーには航空機衝突防止の照明が設置されてはいるけれど、手元を照らし出す様な明るさはない」
隠密作戦よ。当然の事だけど、作業しやすい様に作業灯を付けるわけにはいかない。
「ムメイ、暗闇の中で目視による作業は大丈夫?」
「問題ないです」
夜行性であるムメイの返答を聞き、トワは
「空港への侵入方法はアーニャへ一任する」
空港の敷地は高いフェンスで囲まれており、関係者以外立ち入り禁止。
侵入するには守衛の待機するセキュリティーゲートを通過しなければならない。
時間があるならば関係者の車両を強奪し、偽造したIDで成りすますのも良いかもしれない。
「あ~今回は時間が無いから海岸からフェンスを
島の最南端に位置する空港。周囲は海に囲まれており、軍事施設に比べると侵入は容易。
潜水器具を用いて空港の南側・・・海からの侵入を提案するアーニャ。
「敷地への侵入に成功したらレーダーを目指す。クルクルと回転している赤いアンテナが目印よ」
「監視システムは?」
「赤外線カメラが設備周辺に3つ。設備へのドアに1つ、鉄塔のメンテナンス用の梯子2か所に1つずつ」
地上から設備にアクセスするにはカメラの前を通る必要がある。
発覚を回避する方法と言えば、作業員に成りすまし点検を行ってる風を装うか、そもそもカメラの前を通過しない2択しかない。
「それじゃ索発射銃を使用し、ロープで直接上階にアクセスしますよ」
「いい案ね、ロープ投射機は消防署か・・・もしくはサウスロスサントス港の管理室に保管されていると思う。設備をハッキングし、管理システムに侵入出来たらバゴスの航空機が島へ接近するまで待機。太平洋からブレイン郡へ向かう飛行機を監視すれば絞れるはずよ」
着陸予定のブレイン郡サンディ海岸飛行場には、荷下ろしの為に集結したバゴスのメンバーが飛行場を占領しているはずだ。
当然、その時間にサンディ海岸飛行場へ着陸する部外者の機体は管制官が許可を出さない。
その状態でブレイン郡へ向かう機体があるとするならば・・・それは即ち
「飛行機の特定を行ったらメンバーへ連絡。その場で管制システムにハッキングを行い航路の書き換えをする」
「書き換える座標はバゴスの集うサンディ海岸飛行場でなければどこでもいいけれど・・・まぁ、その周辺に他の飛行場は無いから墜落させるって事になるかな」
「それと有人機よ。異変に気付かれればこの作戦は失敗する」
例えば、飛行場の誘導灯は
「したがって地上の景色をパイロットに把握させないために火力発電所に忍び込み、一時的にブレイン郡全体を停電させる!アキ、ベーちゃん、お願いできる?」
これも方法は任せる。だけど、一つだけ覚えておいてほしい事があるとトワは続ける。
「停電の時間は10分間で十分よ。私達はテロリストではない、停電によって大規模な事故や関係のない市民の犠牲が出る事を望まない。だから発電所の設備破壊は禁ずる」
私達の目指すものは被害を最小限に、かつ最大の利点をもたらす『特殊作戦』。自身の主義主張を通す為に無関係な市民を巻き添えにして喚き散らす『テロリズム』とは違うのだ。
「コヨリは作戦終了後のメンバー撤収のサポートをお願い。アヤメちゃん、ペコラちゃんは私と共に墜落した機体から貨物を強奪する」
使用するのは先日、発注した書類で所有者を偽造したピックアップトラック『カラカラ4×4』
「優先度の高い『価値のある品』を空輸している筈よ。出来るだけ詰め込めるだけ積み込みたい・・・」
上手くいけば戦闘も起こらない。
何か質問はあるかと見回せば『問題ない』とばかりにメンバー全員と視線が交わった。
「決行は明日。気を抜かずやるわよ!」
ミーティング中に手を止めず弾倉へロードを行う一同
机の上に積み上げられた装填済の弾倉の山
ローダー上に一列に並べられた弾薬。弾倉に一気に押し込みながらアーニャは「わかった」と目を細めながら答えた。
「トワ~。ねぇ、ねぇ!ギコギコしていい?」
アヤメが声を弾ませながらトワに話しかけた。手には上下二連散弾銃・・・
「・・・まぁ、チューブマガジンではないし大丈夫なんじゃない?」
「それじゃぁ・・・ギコギコはしません!」
糸鋸を手に持ち、散弾銃のバレル半ばに添えて鋸を滑らせるアヤメ。
「スゥーーーーーー!」
クレー射撃等に使用される散弾銃。
銃口の先端には集弾に影響のあるチョークが入っているが、彼女は何の躊躇いも無く銃身ごと切り落とした。