ミリモン   作:ブルーな雛菊

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踊って騒いでいたいのだ!

『墜落を察知したみたい。バゴスの車両がそちらに向かっている。推定20分前後』

 

ザンクード州軍基地の周辺・・・渓谷に沿う様にルート68(道路)が敷かれており、谷の中央には太平洋へと流れる川。

飛行機の墜落地点、719番地付近は川の下流にあたり、三角州の様な土砂の堆積した湿地となっている。

 

不整地の凹凸、背の高い草、薄く水の張った泥濘む(ぬかるむ)路面。

その上を走行した際に衝撃を吸収するはずのサスペンションは、荷台に乗せた強奪品の重さで見る影もないくらいに下がり切っていた。

 

紙の束がぎっしりと詰められたアタッシュケースは墜落の際、外に投げ出されて水没。

水をたっぷり吸収した紙幣は重量が増す。

更に島外から空輸された貨物の大半は、麻薬の在庫で溢れかえっているサンアンドレアス島で不足している物・・・銃や弾薬。

金属の塊がびっしりと詰められた木箱をピックアップトラック・カラカラ4×4に載せれるだけ載せると、それだけ車両の足回りに負担がかかるのも必然。何より・・・

 

「目立ちすぎるわね・・・」

ブルーシートと縄で固定した貨物。

こんな状態の車が犯行現場から逃げる様に移動すれば、誰もが『怪しい』という段階を通り越して『お前が犯人だろう』と攻撃を仕掛けてくることになるだろう。

 

「此方本部より各ユニットへ、貨物の積み込みを完了・・・これより離脱する。妨害の必要なし」

「作戦変更。貨物が目立ちすぎる為、荷下ろしを行いほとぼりが冷めた頃合いに回収する。以上」

 

トワはメンバーに無線で指示を送りながら自身の足元に目を落とす。

泥にくっきりと残った複数の足跡、そしてカラカラのタイヤ痕。

 

(流石に痕跡なしとはいかないか・・・)

足跡だけでも体格、体重、歩行の癖などの情報が露呈し、タイヤ痕に至っては監視カメラやドライブレコーダーの『その時間に通行した車両』の映像を照らし合わせることで車種特定を行うことも出来る。

 

(これも必要経費・・・)

勿論、痕跡を残さないのが一番良い。だけど、実状それも不可能。

警察の捜査で、この痕跡が『常闇トワ』という個人に辿り着かなければそれで良いのだ。

 

(今後はより一層慎重に行動しないとな・・・)

 

 

Tango(トワ)、警察車両が近づいてきてる」

「・・・」

 

墜落地点は当初の予定よりも州軍基地に近い。

もっとも、操縦するパイロットに此処に墜落してくれ等と打ち合わせできる訳でもないので、完全に行き当たりばったりの作戦ではあった。

 

飛行機墜落という事なだけあって当然、各所へ通報は行くだろうし、基地から様子を見に来るであろう事も予測できる。

 

一方、此方は過積載で機動力を失ったピックアップトラック、警察車両を撒けるとは思えない。

一度捕捉されれば応援を呼ばれて身動きが取れなくなる結末が容易に予想出来た。

 

 

残る手段は陽動、妨害。

コヨリはバゴスの動向を監視させていたが為に現在、飛行場近辺。

 

トワはメンバーに視線を向ける。

カラカラにトワと共に同乗し荷詰めをしたアヤメ、バイクで駆けつけ周囲警戒をしていたペコラ・・・

 

Papa(ぺこら)お願いできる?」

 

()()()()()()サイドバックから()()()()パーカーと般若面を取り出すペコラ。

「合点承知!」

 

 


 

 

「次の予定は?」

「荷を隠し、ビーコンを設置し、後程メンバーが回収を行う」

 

「車は?」

「カーサービス、オカユの知り合いに輸出専門の業者が居るらしいわ。その人にこの車を処理(買い取って)して貰う」

 

それは問うたアヤメも薄々気づいてはいた。

盗難車ではなく、(偽造し)()()()()()()()車両であっても例外ではないだろう事を。

タイヤ痕、車種を特定されれば『いつ』『何処で』『誰が』『どのように』購入したか詮索が入り、現物(車両)の確認に捜査官が訪れる恐れがある。

泥、小傷、シートの染み等隅々まで調べ上げられれば現場に居た痕跡を隠し通すのは難しい。

 

(この車も良い車なんだけどな~)と思いつつも(仕方がない)事と割り切ったアヤメは「そっか~」とだけ言葉を溢した。

 

苦労して機材を調達して、事が終われば証拠が残らない様に処分する。

傍から見れば労力のかかる仕事にしか見えないだろうが…その判断がサンアンドレアス全土にミリモンの存在が認識されていない現状に繋がっていると思えば必要な決断なのだとアヤメは感じた。

 

「貨物の売却はこの前の組織を通じて行うけれど、その前に少量・・・通常の市場に物品を流す」

貨物を盗まれたバゴスは、その品が何処のルートに出回るか探している・・・

だから、その答えを用意してあげるの・・・・

 

「人から聞いた情報は疑え」

それは、悪意を持った人間が情報の本質を捻じ曲げて発信しているかもしれない。

 

「見せられた情報も信用するな」

その場凌ぎで場を整え、対外向けに発信している物を真実とは言えない。

 

「今は情報が無い時代ではない。溢れかえっている時代よ。だから情報を自身で探し、吟味し、他の情報と統合して信憑性があると結論付けるの」

騙し、騙される。この島で日常的に行われている些細な嘘。

それらは、犯罪組織や執行機関でも同様よ。

 

「取引現場を取り押さえる為に信憑性のある情報が必要な警察。悟られない様に情報を隠すか、偽の情報を発信する組織・・・それが日常的だからこそ、この街では情報の重要性を理解している人も多い」

 

・・・その嘘に()()()()()人たちを騙すにはどうしたらいい?

 

「誰しも自身が労力を使って得た情報を偽りだと思わない」

だから用意するの。

適度に隠蔽した情報を・・・辿り着いた先にその答えが待っていたのならば・・・その答えが納得のいくものだったのならば、それを真実だと疑わない。

 

「それが()()()()()()()だったとしてもね?」

 

前回の強盗の様に襲撃したその日に、警戒される前に盗品を売り捌く。

一店舗で売り捌ける品は限度がある。だから「まだ売り捌ける品がある」と臭わせておけば皆がそのルートに注視するようになる。

 

「やっぱりよそ者が強盗を行って、今回は運悪く捕捉されたんだなー 程度にね」

「ルートを構築してないよそ者ならば現金化する事は出来ない。だから、監視を続ければ尻尾を出すと印象付けれれば上等」

 

その間に私達は()()()()()()()()あの組織を通じて安全に売却するの。

 

勿論、終わってみるまで確証なんてものはない。

だが、まだ風は私達に味方しているとトワは感じた。

 


 

「アヤメちゃん売れた?」

 

時刻は23:25

空には相変わらずどんよりした雲が広がっており、今にも降り出しそうな気配すらする。

 

未登録の銃に価値を見出してくれるのは鉄砲店ではなく質屋。

貴金属やアンティークを正規品、盗難品関係なくそれに応じた価値を支払ってくれるのは犯罪の多いサンアンドレアス島ならではの文化なのだろう。

 

治安の良い地域では考えられない程、遅くまで店を開けているブレイン郡の質屋に駆け込む様に入店。

大量の略奪品を売り捌いたアヤメが、サングラス・マスクで素顔を隠した状態でも分かるくらいにニコニコと笑いながらトワの待つ車へ乗り込んできた。

 

「早く出しましょう・・・」

「どうしたの?」

 

助手席に座るトワの表情は険しい。

外からは分からなかったが既に拳銃をホルスターから抜いており、アヤメが乗り込んだ運転席とは逆側の建物を睨みつける様に凝視している。

 

「質屋に入る時に警察車両が通り過ぎて行ったように見えた」

 

黒を基調としたロスサントス市警の警察車両とは対照的な、白をベースにしたブレイン郡の保安官。

トワの視界に入り込んだのは白のセダン。

 

荷を下ろし、店と車の荷台を往復する際に車が通過していくのを視認した。

もっとも、トワにとってタイミングが悪く気付いたのは通過後。

トランク部分しか見えなかったが為に『見つかった』『警察車両』と断言する事は出来ずにモヤモヤとした感情だけが心に残る。

 

もともと他の組織への偽造工作で痕跡を残すつもりだった。

このまま何事もなくアジトまでたどり着ければ、目撃されるという予定外のトラブルはあったものの計画通りと言える。

 

セノーラ砂漠からロスサントスまでを繋ぐ高速道路へ。

『気のせいだったか』とトワが結論付けようとした途端、運転席のアヤメがトワへ声をかける。

 

「後ろ、付けられてるかも」

 

交通量がまばらになりつつある高速道路。トワが振り返ると近すぎず、見失わない程度に離れすぎずの距離に車が一定の速度で追走してきている様だった。

 

「速度上げて。振り切れる?」

 

カラカラ4×4のアクセルを踏み込むアヤメ。

まるで装甲車の様な武骨なデザイン。

重量級の車体を有り余るエンジンパワーで補い、その図体では考えられないような加速を始める。

 

 

バックミラーに一瞬、視線を向ける・・・

変わらずミラーに映る後続車のヘッドライト。

 

「ちょっと難しい・・・」

 

不整地ならばこの車の独壇場。しかし、畑違いのオンロードでは天敵となる車両は数多いる。

 

カーチェイスが起こることを前提にカスタムされたロスサントス市警の警察車両は元より、スーパーカーやスポーツカー。

果てはバゴスのギャングスタが好んで所有する、パワーのある大排気量のエンジンを積み込んだマッスルカーですらこの車に食らいつく事は可能だろう。

 

トワが振り返り後ろの車両を確認しようとするが、此方の動向を察知した後続車はライトをハイビームに切り替えて接近しており、逆光で追手の判別を困難にする。

 

警光灯の青と赤の光が見えないため市警ではないという事は分かる。

やはり、質屋で目撃していたのは保安官だったか・・・と納得する反面、トワは状況の悪さに気付き顔を顰めた。

 

(あの野郎ども・・・私達の目撃情報を市警ではなく、よりにもよってバゴスに売りつけやがったな!?)

 

空港に待機しているバゴスが複数、更に活動地点はトワ達の進行方向であるロスサントス。

前から、後ろから追手が迫っている状況。

そして彼等(バゴス)は今、血眼になって貨物を強奪した下手人を探している。

 

(私達の作戦は終了し、既に撤収している・・・)

今から応援を要請して間に合うだろうか・・・何方にせよ、ここを切り抜けなければ未来はない。

 

銃声。

ばら撒かれた弾丸が路上を跳ね『チュィーン』という甲高い音を奏でた。

 

「此方『Tango(トワ)』攻撃を受けている。5024、誰か来れる!?」

Kilo(こより)向かいます』

Bravo(ベールズ)連れてそちらに向かうわ。敵の兵力は?』

 

アヤメがハンドルを切った。

不整地走行の衝撃を吸収するカラカラに搭載された柔らかい高性能サスペンションが車体に振られて沈みこみ、片輪が浮くか否かの勢いで車体を曲げる。

直後、マニューバを仕掛けようとしたバゴスの車がカラカラのテールを掠めながら前へ躍り出た。

 

背後には追手が更に1台。

 

「敵はバゴス、前後を挟まれている。更に増援の可能性あり」

 

「アヤメちゃん、耳ふさいで!」

 

無線を切るや否やトワは自身の拳銃、グロック17を前方車両へ向けた。

トリガーセイフティしか存在しない拳銃。狙いを定めて引き金を絞る様に引く。

締め切った車内で立て続けに発砲、熱された薬莢が車内に飛び跳ねる。

そのうちの1つは助手席側の窓に当たり、反射してアヤメの太ももとシートの隙間に・・・

 

「ちょっと!どうせ窓に防弾付いてないんだから窓開けて撃ってよ!!」

 

慌ててアツアツの薬莢を摘まみ上げながら窓を開けて外へ放り投げるアヤメ。

開け放たれた窓から新鮮な空気が車内に流れ込み、硝煙で白く霞む車内の空気を一掃する。

 

己の銃弾で罅が入り、視認性が悪くなった窓をトワは蹴り落とした。

 

「ごめんごめん。ライフルは持ってきてる?」

「あ~後部座席に無いなら荷台かな・・・」

 

背中に重い衝撃。

後続車から放たれた銃弾は車体のフレーム、シートを突き抜けトワの着用するボディーアーマーに着弾する。

 

ダッシュボードを開き、中に納められた装填済みの弾倉の一つを掴み取り銃へ差し込む・・・状況は依然変わらず。

それからは・・・文字通り殺し合いになった。

 

元より他の勢力の妨害が入る事を視野に入れたバゴスの攻撃部隊が飛行場からトワ達を襲撃しに来たのだ。

ボディーアーマー、アサルトライフルという普段のギャング間の抗争では考えられないような重武装の追跡者。

対するミリモンはアヤメとトワの2人だけ。

 

アーマーを装着していても何回も被弾すればセラミックプレートは砕け、ケブラーの下地だけで銃弾を止める事になる。

貫通はしなくても下地だけでは衝撃を逃がす事は出来ず、運が悪ければアーマーの上からでも銃撃により骨折する可能性もある。

頭部にあたれば・・・いくら亜人とは言えども生きていられる保証はない。

 

銃撃を受けながら蛇行する車。

敵の銃弾がボンネットを貫き火花が散る。

 

「もう!なんなのさ!トワ!撃ち返して!」

「やってる!」

 

吹きあがる蒸気。飛び散るオイル。

とっさに腕で顔を庇い難を逃れるアヤメ。

 

「エンジンの出力が上がらない!これ以上撃たせないで!」

「やってる!!」

 

いくら弾を撃ち込んでも相手もアーマーを着ているのだ・・・持ち合わせの銃の火力、残弾からしてトワ達の不利は目に見えていた。

前方車両を何とか黙らせるも、敵は後ろにもいる。

 

「アヤメちゃん、クリップ頂戴!」

「・・・」

 

残弾0

 

抵抗が少なくなったのはバゴス達にも伝わっているのだろう。

ぴったりと後ろに張り付いていた後続車が進路を変え、横付けし停車するように促してくる。

 

アヤメ達の乗るカラカラも冷却器を破損。エンジンを心臓と例えるならばオイルは血液。

その血液をまき散らしている現状から残り数分足らずでこの車は力尽きることが容易に想像できた。

 

「トワ・・・次の案は?」

「そうね、最後に踊って騒ぎましょうか」

 

 

 

 

 

一瞬の出来事だった。

トワの合図と共にアヤメはハンドルを後続車側へ切りながらブレーキを掛ける。

 

追いつき、そしてアヤメ達の車を通過するSUV。

 

2つの車が交わる一瞬、トワは助手席のドアを開け放つ・・・

カラカラのドアがバゴスの運転席のドアに傷を残し・・・後部座席の窓から身を乗り出し、ライフルを向けるギャングの上半身に強打を与えた。

 

ドアは脱落。

ずり落ちるギャング、零れ落ちたライフルが地面に接触し火花を上げる。

 

トワはシートベルトを勢いよく引き、ロックを掛ける。そのままドアの脱落した車体から身を乗り出し車外へ。

ロックのかかったシートベルトを支えに体全体を乗り出し、滑り転がるバゴスのライフルをつかみ取る。

 

至近距離で発砲。

SUVの車体に次々と穴をあけていく。

 

トワが車内に戻ると同時、アヤメはカラカラのアクセルを踏み込みバンパーをバゴスの乗るSUVの後部へぶち当てた。

 

 

体勢を崩し、車の後輪が流れ始めるSUV

クルクルとスピンするバゴスの車の中で運転席に座る彼が最後に見たものは、銃身が切り落とされた上下二連散弾銃を自身へ向ける少女の姿だった・・・

 

「ほんと・・・この街は(ゲーム)、ホンマに・・・」

 

「最高やね!」

 

一発につき6個のペレット。

2発分・・・計12個の鉛玉が飛来する

 

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