~ザンクード周辺・5010番地~
「何で安請け合いしちゃったかな~」
5010番地。トワ達を見送った後、バイクに跨り警察の到着を待ち続けているペコラは陽動役を引き受けたことを早くも後悔し始めていた。
獣人は人間をベースにそれぞれの種族の特徴や身体能力を色濃く反映している。
例えば兎の獣人であるペコラはその長い耳で遠くの音を聞き分け、いち早く接近する脅威を察知する事が出来る。
また、脚力は只人のアスリート選手をも軽く凌駕しており斥候としての能力は高い。
・・・でも、いくら索敵の能力が高くても陽動は専門じゃないんだよな~
略奪したトラックを運転するトワ達が現場を離れる時間を稼ぐ為にわざわざ
「よくよく考えると私の
近付くサイレンの音。視界に映る赤と青の警光灯・・・
愚痴を溢しても始まらない・・・気が進まずため息が漏れる体に鞭を打ち、ペコラはバイクのスロットルを開く。
~セノーラ高速道路~
「スイセイ、今回はどう思う?」
副所長のボタンは今しがた現場に駆けつけたスイセイに問うた。
「どうせ今回もFIBが主導を握るんでしょ?」
「多分ね。だからその前に現場を確認しておきたかった」
本来なら連邦捜査局は地元の警察に協力を要請し、共同で捜査に当たるが今回は違う。
とある強盗団が関与したと思われる現場をFIBが独占し、ロスサントス市警へは一切の情報を流さない。
「
「どっちもなんじゃない?」
「今回も例の強盗団絡みであちらさんに流れると思う?」
「・・・おそらくな」
ならば早く始めましょうとコーヒー片手に現場検証を始めるスイセイ。
それは正式な捜査とは言えない大雑把なもの。
本腰入れて捜査を行うつもりはない。どうせ後から来たFIBに現場を取られるのだ。
私達は
「今回、中心になったのはカラカラに乗っていた人物かな?目撃情報は?」
「堂々とバインウッド映画1本分の銃撃戦をやったんだ。当然あると言いたいところだが・・・」
夜間、高速道路の真っただ中で始まった殺し合い。
それだけ派手に暴れれば当然、市民達も異変に気付く・・・後続車両は遥か手前に停車し、すれ違う対向車は流れ弾を恐れて速やかにその場を去る。
「夜間で視認性が悪いのもあって
「現場に残る遺体はバゴス、バラス、カルテルにロストMCまで・・・普通に考えれば抗争があったと仮定してもいいけれど・・・」
「そう仮定するには違和感がある?」
ボタンの問いに無言で肯定するスイセイ。
乗り捨てられたカラカラ。ドアの取れた車内を外から覗くと穴だらけの座席に白い粉末と散らばった薬莢。
「白粉?「いや・・・多分セラミックの破片」」
「防弾ベストを着ていたのかな・・・残された薬莢も手掛かりになるのかどうか・・・」
「それにしても・・・今回はFIBの到着が遅いわね」
「多分、飛行機の墜落現場に向かったんだろう。先程、墜落現場付近で容疑者と思われる者を連行していると無線通信が入ったからね」
ボタンは煙草に火をつけながら改めて現場を見回した。
火を噴き全焼した車。原型を留めていない複数の遺体。文字通りハチの巣にされて横たわる亡骸・・・およそ20名前後。
「デイビスの車両倉庫の件と関係ありそうか?」
「まだ何とも言えないわ。今回の痕跡を追えば辿り着くかもしれないけど・・・」
でもそれはFIBの仕事。
FIBへの嫌がらせ半分、この惨状を受け持ちたくないという気持ち半分。
密かに回収した銀色の髪の毛をポケットの中に忍ばせながらスイセイは思う。
だって、貴方達が私達の
一方その頃、ペコラは回っていた・・・比喩ではない、
3.5LのV型6気筒エコブーストエンジンで365hpを発揮するポリス・クルーザー。
4ドア、後輪駆動だがトラクション性能が高く、ちょっとした悪路程度なら難なく走れる性能を持つロスサントス市警が保有するパトカーの後部座席にしがみ付き、ペコラは激しく後悔していた。
不整地を疾走するパトカー。
ミコの圧倒的なドライビングテクニックにより後部座席のドアはとっくの昔に脱落し、目まぐるしく変わる外の景色。
ペコラを乗せた車は宙を舞い、遠心力で外へ引きずり出されそうになる体を前席と後部座席との間に設けられた鉄格子に指を差し込み押さえつける事で間近に迫った『死の予兆』から逃れようと、決死の形相で『生』にしがみつく。
暴れる車から振り落とされまいとする一方で、ペコラはついさっきの事を思い返す。
(途中迄は完璧だったんだけどなー)…と
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予定通り警察車両を引き付け反対方向へ。
大型セダンやクーペをベースに各種装備を追加したパトロールカーの重量は約2トン。
対するペコラの乗るバイクの重量は270kg。
スーパーカーに匹敵する加速力、身軽さを生かした機動力と走破性。
仮に多数のパトカーを引き付けながら逃走したとしても勝てない戦いではなかった・・・
事実、ペコラは墜落現場に向かう3台の警察車両に
強烈な加速力で跳ねあがりそうになる前輪を押さえつけ、パワーを持て余し滑る後輪をいなしつつ、バイクミラーに目障りな警光灯が映り込まないくらいに引き離す。
(前方から1台・・・)
音の反響する渓谷。反対に森林地帯では木や落ち葉が吸音材の様に作用する。
環境によって音の発生する場所の特定が困難になるにも関わらず、優秀な斥候であるペコラの耳にはしっかりと敵勢力と成りえるサイレンの音。それに留まらず車のエンジン音まで察知していた。
(・・・かなり近いところまで来ている?)
発生源は近い、とっくの昔に視界に捉えてもいいくらいの距離。
それにも関わらず、一向に姿を見せない警察車両。
「助けて~!!」
既に人の声すらも判別できる距離。
ペコラの背中にゾクリと悪寒の様なものが走り、慌ててブレーキを掛けた。
「止まらない!!!!」
例えるならば泣き叫ぶ様な絶叫。
声の主はすぐそこまで来ている。だけど、辺りに人影はない。
停止したバイクの上で、ペコラは首を傾げながら耳を立てる…
そして、
幾度にもなる衝突でヘッドライトは破損し、闇夜にも関わらず無灯火。
ボンネットはとっくの昔に吹き飛びそれでも尚、崖の上を走り続ける桜ミコの運転する警察車両。
INのそのまたINを付くライン・・・即ち、空中に描くラインだ・・・と言えば格好良く聞こえるかもしれないが、ミコがやった事はコントロール不能状態での車で崖からの転落。
(嗚呼、今日は厄日だわ・・・)
・
・
・
「それで、残りの仲間いるんだろ?仲間何処だ?」
武器の入ったバックは押収され、車両のトランク。
手錠を掛けられ後部座席。運転席と後部座席の間は鉄製の網で仕切られており、いくら暴れようともビクともしない。
そして右足には強い痛み。
(完全に詰んだわ、足もさっきので逝ってるし)
「仲間は居ない!一人でやった!」
「一人で出来るわけ無いだろう!飛行機墜落させたんだぞお前!」
「仲間は居ない!ファミリーには捨てられたんだ!」
「お前捨てられたんか・・・」
捕まったからとはいえ、正直に話す義理も無い。
必ずボスが助けに来てくれる筈だから・・・
「ってかさ!お前運転下手くそだな!糞過ぎて酔いそうなんだけど」
「ミコだって頑張ってるんですけど!」
渓谷の林道。
運転席のドアは脱落し、フレームは捻じれ、タイヤのアライメントは乱れ直進もままならない
虫の息の車両を走らせるミコ。
スピンは当たり前、岩に乗り上げ車両が宙を飛び、縦に回転する。
「掟破りの地元走り過ぎるだろ!お前!・・・署に付く前に事故で死んじまうよ?」
「文句がうるせーんだよ・・・お前はよ!」
「なんでこんなポンコツに捕まらないといけないんだ・・・」
「ポンコツって言うな!!」
「
『メリット5、感度良好です。どうぞ』
「これより市警に潜入し、PCへデバイスを接続する。進入中は会話は出来ない為、合図はPTTコールを複数回押して」
『了解、此方は発覚時に備え
ロビーのドアを開け中へ、横には受付。
時刻は2:05。当直勤務の警察も私達が起こした事件に駆り出され署内は閑散としている。
誰も座っていない受付、放置された端末から情報を探りたい気持ちもそこそこに、当初の予定通りトワは呼び鈴を鳴らした。
「全く・・・こんな忙しい時に、いったい何処のどいつだよ!何時だと思ってる!」
毒を吐きながら近づいてくる足音。
署へ訪れた市民への対応としては褒められたものではないが、その気持ちも分からない訳ではない。
寧ろ
更には市民に扮し、厚かましくも敵地の正面玄関から侵入、音信不通の仲間が何処に居るのか探りを入れに来ている私に付き合わされる彼女へは同情をせずにはいられない。
「実は昨日の夜、銃撃事件に巻き込まれて・・・」
「はいはい、それでお宅は一体何者でご友人は・・・」
奥から現れた小柄な女性。
白みを帯びた紫のロングボム。サイドからは立派な角が伸びており只人でないことは一目瞭然だった。
胸のネームプレートには『L・Darknesss』とある
「L警官?」
「いやいや、あの記事は別の同僚の事を書いておりまして吾輩には一切関係ありませんよ!ホントです!それで、本日ははぐれた友人の保護という事でよろしいでしょうか?」
L警官はトワの顔を一瞬、呆けたような表情で凝視した後、先程の悪態など無かったかのような丁寧な対応で話しかけた。
「はい。ブレイン郡へ観光に行った帰りの事でした。いきなり銃撃戦が始まって・・・流れ弾に当たらない様に必死で逃げていたんです・・・」
「それで、気付いたら隣にいた友人の姿が何処にもなかったんですね?」
「はい。携帯も慌てて逃げたときに落としたのか・・・いくら電話をしても繋がらなくて・・・」
「分かりました!ご安心ください!貴女のご友人はこのラプラスが名誉にかけて必ず貴女の元へ送り届けます!」
『此方ミコ!容疑者護送中に武装集団から銃撃を受けている!応援を!場所はバインウッドヒルズ』
「・・・」
「すみません。同僚を助けに行かないと・・・これ、吾輩の名刺です。朝までにはこの件を片付けますので再度ご連絡ください」
颯爽と署から立ち去るラプラスを見送るトワ。
「此方
『堂々と無線使って大丈夫?』
「大丈夫。今、署内には私しかいない」
「それって大丈夫なの?」と言うコヨリに「私達が仕事を増やしたせいよ」と咎めるトワ。
「それと気になる事がある。バインウッドヒルズで今しがた発砲事件が起こってるみたい。そちらの方も調べる事出来る?」
「任せて」と無線から返答を聞き、トワは椅子の背もたれに深く寄りかかる。
夜はまだ明けない。