ミリモン   作:ブルーな雛菊

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ブギーマン

「10090番地、『ビストロコークスストレージ』・・・ターミナルの職員からの通報で発覚。作業員は2日前辺りから放置された車両を不審に思ってたようだけど不干渉。更に5日間経過後、建物から漂う異臭に気づき『建物内でろくでもない事』が起こったと確信し通報。現在に至る・・・と」

 

天候は晴れ。巨大な建物の入口には立ち入り禁止を示すバリケードテープが張られている。

建物内部への侵入を拒む強固なシャッターは今しがたバーナーで焼き切られ、ノエル含む武装した突入班が内部の安全を確認を行う中、ボタン及びラプラスは関連する事件を整理しながら後に続く。

 

「1週間前・・・今回も強盗団絡みだろうな」

 

『貨物機墜落事件』『ハイウェイ乱射事件』『護送車輛襲撃事件』いずれも一晩のうちに起こった事件で()()()()()()()が関与していると考えられる。

 

被害は甚大。

航空機の撃墜1・搭乗者7名死亡

高速道路の銃撃戦では十数台の車両がスクラップになり、おおよそ20名前後が射殺された。

更には発電所の工作によりブレイン郡全域が一時的に暗闇に包まれた。

幸いなのはそれだけ大それた事を実行したにも関わらず、民間への被害は0件だという事。

 

そして同日に行われた強盗団の構成員を護送中の警察官ミコへの襲撃・・・

襲撃者は強盗団に類似した格好をしていたとミコの証言があるが、同時にソレが強盗団の犯行かと問われれば疑問が残る。

 

事実、襲撃が行われた際には強盗団の構成員は逃走を拒否し、ミコと共に襲撃者を迎え撃とうと助力する姿がパトカー及びミコのボディーカメラに記録されていた。その為、襲撃者は強盗団を模した模倣犯ではないか?という見解だ。

 

「血溜まり、死体は無し」

「負傷した・・・と言うには量が多すぎますね」

 

「死体があれば身元がバレる。このアジトを所有していた組織が最低限の隠蔽を行ったんだろう」

 

先行したノエルが配電盤の裏に隠し扉を見つけたと報告を上げる。

 

「ラプラス、今回の一件は間違いなくFIBが介入してくるだろう。もしも我々の鑑識が終わる前にあいつらが到着したら、奏に『あっつい珈琲』を自慢のスーツにご馳走するように伝えろ」

 

「あいつらは我々を疑っているのだろうが、我々もFIBを信用などしちゃいないと示せ!」

唯でさえ部下が銃撃を受け入院しているのだ。これ以上()()()の横槍で捜査を停滞させるつもりは更々無いのだと。

 


 

隠密、潜入となれば真っ先に思いつくのはサプレッサーだろう。

5.56mmのライフル弾の銃声、165~170dBの騒音を135dB程度まで抑制できる品物だ。

例えるなら地下鉄が通過する際の爆音がバイクのエンジン音まで低減されると言った程度だ。

亜音速弾、小口径であれば更に音量を押さえる事が出来るがその分ストッピングパワーの低下で仕留め損ねが発生しやすくなる。

 

また、銃撃による直接的な死亡率は3割程度。

心臓や頭部など致命的な器官を撃たない限り、早い段階で適切な医療を行えば生存する可能性が高いという事。

一撃で意識を刈り取れなかった場合、失血死するまでの間藻掻き苦しみ呻き声を上げる事になる。・・・隠密には程遠い

 

一般的に音がしないと思われている弓矢も無音ではない。

5m離れた場所に立っていても放った矢が高速で通過する際の風切り音を感知する事が出来る。

即ち、音を立てずに人間を殺害するのは困難だという事だ。

 

ここが豪雨、雷鳴の鳴り響く屋外だったのならばサプレッサーがあれば事足りた。

しかし倉庫内。壁、床に至るまでコンクリート製の内部は音が反響する為それらの装備を使用するのは躊躇われる。

 

(気づかれたら逃走されるか、もしくは護衛対象を人質にとられるか)

どちらにせよ()()()()にならないだろう。

倉庫のシャッターが上がる中、雨がレインコートを叩く音を聞きながら少女は面倒そうに息を吐く。

 

戸が上がり視界が開ける。

奥に配電盤が設置されているだけの小部屋。

 

(武装したPMCが2人、距離10m)

 

内部構造の予備知識も無いままの突入。

もしも、予想以上に内部に空間があったのならば・・・待機している敵勢力が多かったのならば彼女の処理能力を上回り、『可能な限り隠密を維持する』という目論見が破綻してしまう。

・・・だが、今回の状況は問題なさそうだ。と少女は大きく息を吸い行動を開始した。

 

万全のセキュリティーであるが為に『警報を鳴らさずにゲートを通過』した人物は友軍の可能性が高いと守衛は判断する。

 

それは国籍、人種の多様化、傭兵同士の繋がりが薄い民間傭兵機関だからこそ起こり得る事だ。

その為、一目で友軍か否かを識別することは困難、敵味方の判別に時間を要する事となった。

 

その間、少女はゆっくりと片足を引き、膝を曲げた。

それはクラウチングスタートの様な前へ進もうとする為のフォームではなく、カーテンシ―の様な優雅なものだった。

 

周囲を焦がす様な激しい闘気もない。

熱を奪い、相対する相手に鳥肌を立たせるような冷ややかな殺意でも無い。

優雅でありながら喜怒哀楽もない無機質で機械的な動作に傭兵達は困惑し、思考を止めた。

 

ガンマンのクイックドローの速度、おおよそ0.5~0.6秒。

訓練された軍人が手に持ったライフルを構え、初弾を発砲するまでの時間、0.7秒。

接近戦ではナイフの方が早いとあるが、それは相手との距離が手を伸ばせば触れる位置にいる場合のみ。

10mも距離があれば接近される前に引き金が引かれる・・・これは只人ならばの話だ。

 

引き絞られた筋肉。

そして限界まで縮められたバネの様に、体の随所に蓄えられたエネルギーは解放される。

武術の様な床に激しい音を奏でる強烈な踏み込みではない。

少女の凄まじい加速とは裏腹に部屋に響いたのはレインコートを翻す『バサリ』という音、外に鳴り響く雷雨の音だけだった。

 

一歩、一歩。

その足が地面に接地する度に加速する身体。

 

傭兵は弾丸の様に迫り来る少女へカービンを構え引き金を引く・・・

しかし、彼のライフルが銃声を奏でる事は無かった。

 

 

(正面、背面、内臓を保護するためのアーマーは弾丸・刃物による斬撃を防護する)

(だから保護されていないウィークポイントを切断する)

 

ボディーアーマーだけでは保護できない四肢へ・・・

 

(引き金を引く事は許されない)

一拍置いてボトリと落下する手首・・・

 

(声を発する事も許さない)

体の制御を失い傾く体・・・分離する頭部・・・

 

少女は垂直の壁に着地し、全身のバネを使い自身の速度を吸収する。

トップスピードから静止状態へ。

壁に張り付き、衝撃を音もなく相殺した少女は自身の引き起こした惨状の成果を確認するように注意深く男達の様子に視線を向けながらフワリと地面へ降り立った。

 

解体された死体。

 

そしてもう一人、アーマーを避けるように脇から差し込まれた大型のククリナイフ。まるで墓標の様に突き刺さったソレを強引に引き抜いた。

 

「肺を損傷した貴方は息を吸い込もうとしても酸素を取り入れることは出来ない」

「空気の抜ける肺。声を出そうにも、今の貴方は喉を震わせる事も叶わない」

 

口から泡だった血を滲ませる傭兵へ淡々と少女は確定した未来を語る。

そこには敵を嘲る表情は無い。

 

・・・故にそれは彼女なりの親切心

 

「出血は肺に蓄積され、自身の血で溺死する・・・」

「死に向き合える時間があるというのは贅沢な事よ・・・自身の心に整理をつける事が出来る・・・おやすみなさい」

 

まるで死神の様に瀕死の男に寄り添い囁きかける少女は、彼の呼吸が止まった事を確認した後にゆっくりと立ち上がった。

 

 


 

「なあ、アンタ・・・一体何をあせってるんだペコ?」

 

放り棄てられたペットボトル。

仰向けにされ、タオルを顔にあてて行われるソレの最中。

溺死しない為の調整で開放された僅かな時間、ペコラはクツクツと静かに笑った。

 

「当ててやろうか?アンタは傭兵だけど私達の居場所を突き止められるほどの情報は持ってない・・・だから、護送車を襲撃できたのはアンタのクライアントがアンタ達に依頼し情報を渡したからだ」

 

「アンタ達への依頼は何だい?ペコーラの拉致・クライアントへの引き渡しだろう?だが、アンタは欲が出た。クライアントよりも先に情報を引き出して自分達が強奪品を奪い取ろうと・・・」

 

「そうだろう?じゃないと確実に情報を抜ける方法があるというのに、こんな強引な方法をとる必要ない。つまり、アンタ達に残された時間は残り僅かって事だペコ」

「面白い推測だが的外れな見解だな「アンタは何を恐れてるペコ?」」

 

施設内にも鳴り響く雷鳴、同時に照明が全て落ちた。

施設内の傭兵は慌ただしく動き始める。

 

「落雷だ被害を確認してこい!・・・見てこい、カルロ!」

 

一切の光源も無い施設内。

「もしも依頼にない拷問をしているとクライアントが知ったらアンタ達はどうなるんだろうね?」

 

手に持つライトの明かりだけを頼りに、先の見えない闇の中に消える男の後ろ姿を見送りながらペコラは細く微笑んだ。

Hurry fall asleep or The Boogeyman will come for you.({早く寝ないとブギーマンが来るぞ})

 

先程まで拷問を受けていたとは思えない程、その瞳は強い意志を宿していた。

From the swamp he will come({沼地からやってくる・・・})

 

(人間は不憫なものね・・・こんなにヤバい奴が近づいて来てるのに誰一人として気づきもしない・・・)

自慢の耳をひくつかせながらペコラは細く・・・されども楽しむように歌う。

and TAKE the children that don't behave.({そして悪い子を攫って行く})

 

一人、また一人と静かに・・・しかして確実に消えていく命の灯。

ペコラは歌う。彼らに向けた子守唄を。

 

 

静かになった施設、ペコラの前に立つ小柄な人影。

 

廊下に無造作に転がる職員達のライトのみが唯一の光源だった。

照明は未だ復旧していない。

黄色いレインコートに赤い雫を滴らせながら存在するソレをはっきりと視認する事は出来ない・・・

だが、確かにソレはペコラの前に立っている・・・

The Boogeyman({ブギーマン・・・})

 

彼女が敵か味方かはペコラには判断が出来なかった。

椅子に縛られたままのペコラにはその場から逃げる事も叶わない。

 

交差する視線。

暗闇の中、僅かな光をも捉えるタペータムの黄色い瞳は不気味にペコラを見据えたまま…

 

 

(どちらにせよ直ぐに分かる事・・・)

ペコラは自身の運命を来訪者へと預けた…

 

 

 




攻撃のタイミングを知らせる闘気や掛け声
相手に対して害意があることを知らしめる殺気

「ボディーガードでもないのにそんなもの必要?馬鹿じゃない?暗殺者にとって殺気なんてものは自身の中で押し殺すものでしょう?生憎、私は見せかけだけの張りぼてなんて持ち合わせていないの」
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