「入手した情報を整理するわ。ペコラは警察を陽動、しかし失敗して捕らえられた。パトカーで連行中に何者かに襲撃を受け拉致されている。その後の情報は警察署には無し。最終目撃地点はバインウッドヒルズ」
警察署へ侵入し、情報を抜いたトワ・コヨリ・アーニャ。
黑のフルサイズバン『スピードー』の車内、トワは無線でメンバーに連絡を行いながら情報を統合させていた。
前席にしか窓はなく、バックドアは観音開き。
この車は業者が物資などを運ぶ際に使用するバンで、後部の荷台には人が搭乗するための座席はない。
当然、荷台の乗り心地など劣悪。
その環境でもトワは眉一つ動かすことなく荷台に広げたロスサントスの地図を凝視していた。
「襲撃犯は黒のパトリオットを使用している。警察に同行してバインウッドヒルズに向かう事は出来ない。だから私達は今から『ライフインベーダー』に侵入し、サーバーにハッキング。記録されているライブカメラのデータを収集してペコラの行方を捜す」
ライフインベーダー社。所在地は襲撃のあったバインウッドヒルズの横に位置するロックフォードヒルズ。
この会社はライブカメラやソーシャルネットワークおよびデータマイニング・サービスを提供している。
街に設置されているライブカメラの映像記録や市民が投稿したSNSの目撃情報を抽出、情報を整合させることでペコラの居場所を突き止めようとしていた。
『ムメイです。情報屋に接触、ストリートギャングと私達の情報を調べました。まず、私達に関する情報ですがボスが予想していた通りブレイン郡の質屋で目撃されたとあります。複数のギャング・犯罪組織が情報を購入、襲撃を行っていました。その後の情報は無し。襲撃に失敗した為、保身に入ったと思います』
『此方ベールズ。別の情報屋からの情報も同様です。ペコラ先輩に関する情報はありません』
(高速道路での襲撃に関する情報・・・必要なものではないけれど、それに関与した勢力は今回の監視から外していいか・・・)
情報屋経由の情報で襲撃しているのなら、その情報屋ですら把握していないバインウッドヒルズのパトカー襲撃事件には関わっていないだろう。
『
『
『
『
(今の
トワは地図の端に勢力の情報を記入していく。
この島に居る犯罪組織。その中でもピンポイントでペコラの情報を知り、護送中の警察を襲撃出来る組織・・・
(残る候補は武力の充実している
どれも敵に回すには巨大な力を持つ組織であり、そのリストを眺めトワは顔を顰めた。
(ライフインベンダーで情報を収集すれば更に候補を絞れる・・・どれも相手にしたくはないけれど・・・)
「ママ、どう思う?」
『私の方でも前回、資金洗浄でお世話になった組織に接触して情報を調べたわ・・・結論から言うと襲撃者は島の南方・・・埠頭方面へ向かったと情報をもらった』
「ちょっと待って!なんでそんな情報をその組織が持っているの!」
トワが疑うのも無理はない。誰も知らない情報を持っているという事はその襲撃に居合わせた
「アキ!今すぐその場から離れて!」
『大丈夫よ・・・何故彼らが情報を把握しているかも聞いている・・・彼らは・・・私達と同じ
「彼らを信用しても問題はない?味方と思っていいの?」
『「1割の礼だ」だそうよ・・・既にペコラちゃんを救出に猟犬が向かっていると連絡を受けた。・・・どちらにしても、彼らが敵か味方かは信じるしかない』
「わかった・・・でも、私達も動くわよ。全員15分以内に8068番地、立体駐車場に集合。武装してペコラ救出へ向かう!」
降り続ける豪雨。
遠くで響く雷鳴。
施設内の照明は作動しておらず、光源となるものは既に息絶えた傭兵達が取り落としたフラッシュライトの光のみ。
血濡れた廊下の床を照らす複数の懐中電灯の光。
ペコラの捕らえられた尋問室へ射し込む僅かな光に反射する一対の黄色い瞳。
「立てれますか?」
部屋の中は正に一寸先は闇。
椅子に縛り付けられたペコラを見下ろす無機質な瞳とは対照的に、此方を気遣う様な柔らかい声色が部屋に響く。
「見ての通り、縛られているペコ」
向かい合う少女の瞳に魅入られるように・・・呼吸する事さえ忘れてしまうような感覚。
彼女に答えた後、ペコラは縄が既に切断されている事に初めて気づく。
「立てれますか?」
「足の骨が折れているペコ・・・」
「人間には215本も骨があるの。1本くらい何よ」
「・・・」
そしてペコラは理解する。コイツは
「冗談ですよ」
「ゆっくり話したいのも山々ですが私達には時間がない。建物の外に複数人。貴方の仲間でなければ敵勢力ですね」
「アンタの仲間って可能性は?」
ペコラの問いに「それはない」と断言する少女。
「私の作戦行動中、本部が私へ連絡なしに増援を送る事はありません。此方から連絡の取れない状況なら尚更です」
なので、敵だね・・・と。
ペコラへ受け渡されるセミオートショットガンとシェルホルダー。
「ホルダーの弾薬は外側から12ゲージ
「スチールコア・・・敵のアーマーを貫通するペコか?」
「それは相手のアーマー次第ですね。レベルⅢ以上のボディーアーマーだと貫通は厳しいと思います。私ならそれに拘らずライフルを使用しますよ」
(じゃあ何でこんなもの持って来たんだペコ・・・)
勿論、そんな思いを口に出す事はせずに「世知辛いペコ」と漏らすペコラに耳栓を渡す少女。
自身も忙しく動かす獣耳を愛用しているモフモフのイヤーマフで押さえつけた。
・
・
・
隠し扉が開かれ、外界の雨音が鮮明に聞こえる。
只人ならば聞き逃す様な些細な環境の変化。
一方は外敵を一早く察知し逃走する為。一方は捕食者として周囲の変化に耳を澄ませ、標的を捕捉する為。
目的は違えども亜人の2人には、暗視鏡を使用し音も無く施設へ侵入する者達の
「止まりなさい。所属と階級を言え」
部屋の壁に張り付き自身から離すように傭兵から奪ったライトを保持し、廊下を歩く侵入者の顔を照らすレインコートの少女。
暗闇でライトを向けられた際、光に向けて撃つ性質がある。
その為ライトを持つ腕だけ廊下へ出し、自身の安全を確保しつつ相手の裸眼・もしくは光増幅型ナイトビジョンを
当然、返答は銃声だった。
装薬を燃焼させ弾頭を加速させる。弾頭は音速を超え快音を響かせた。
標的に命中せずに対面する壁や設備に着弾し、耳障りな破壊音を響かせる。
「どうやら敵みたいですね」
「当たり前ペコ!!」
元より大して期待する様子も無く、念のために確認した少女に対して
尋問室。施設の廊下から部屋の内部を観察する事の出来るハーフミラーが取り付けられていた。
光源の一部を反射し、一部を透過させる鏡は、性質上必ず尋問室側に光源が無ければならない。
本来、照明の光で満たされている筈の室内には施設の停電で光源がない。
反対に廊下にはペコラを拉致した職員達が落としたライトが複数ある。
(光源はあっち!丸見えペコ!)
光源の位置により廊下側が鏡、部屋からは唯のガラスのようになった窓を隔てて侵入者へ狙いを定めるペコラ。
間髪入れず火を噴く散弾銃。
一発一発が拳銃並の威力を持った鉛玉が鏡を突き破り敵対者の側面へと飛来する。
アーマーを着た胴体、むき出しの腕、無防備な首や顔へと・・・
散弾銃とは言えども有効射程は50mと長い。銃にチョークは無く、散弾は拡散しやすいが至近距離であるが為に小弾がバラける前に標的へと突き刺さる。
更に発射と同時に排莢、給弾を行うセミオート。
次々に吐き出される7発の弾丸が形成する弾幕は密で、側面を衝かれた標的は立て直す間もなく命を刈り取られた。
「お見事~」
「どうせこれで終わりなんて事はないんでしょ!」
ペコラは縦に2発、ショットシェルが保持されているホルダーから弾を
「そうですね・・・まずは建物からターゲットが逃げ出さない方向に周辺一帯を包囲。その後、突入部隊が内部へと侵入、制圧する。今、仕留めたのはその一部でしょうね。すぐに次が来ますし、別の入口から挟撃を行うかもしれません」
(そのわりには随分余裕そうだペコ・・・)
骨折したペコラに肩を貸しながら尋問室を出て施設の奥へ。
無線や作戦端末が並ぶ指令室は既に頸部を切断された死体が折り重なっていた。
中央の床はガラス張り。その下には真っ暗な海中が覗いている。
(埠頭・・・埋立地・・・浮島?この島の下は海に通じてるのか)
「秘匿された基地です、施設内にある設備以外の通信機は使用できません。突入部隊は赤外線監視式のナイトヴィジョンを装備。相手は実戦を経験した只人の精鋭部隊ですね。残念な事に、この倉庫の近くに傭兵が拠点としている本部があります。襲撃を嗅ぎ付け臨時で集合した即応部隊・・・精々15~20名程度くらいでしょうか?」
・・・そう、それだけなんですよ。
狼は夜間、周囲を見渡すのに暗視鏡など必要ない。
狼は人間に飼いならされた犬とは違い聴覚も敏感で森林部では9.6km、草原地帯では16km先の音を捉える事が出来る。
走力も持久力も劣る人間がいくら群れようと超えることの出来ない性能差がそこにある。
少女はこれまでの経験を元に勝率を計算する・・・
そして「大して問題はないですね」と言い放った。
直後、廊下から指令室へと投げ込まれる手榴弾。
M67破片手榴弾。15メートル範囲に殺傷能力のある破片が飛散する。
これが投げ込まれた時点で相手が私達の捕獲を諦め
導火線を伝い炸薬に引火するまで4秒から5秒。炸裂するまでの時間は個体差がある為、投げ込むまで手元で時間を消費させる『クック』と呼ばれる行為は推奨されない。
(でも実戦・・・近距離の戦闘を経験しているのならするでしょ?)
残された時間は少ない。幸いにも足元に転がるソレを最短で自身の被害の及ばない場所へ蹴り返す。
投げ込まれた廊下の入口へと・・・宙に孤を描き落下する手榴弾。
ハンドガンから放った弾丸が手榴弾をビリヤードの玉の様に弾き飛ばし廊下の奥へと消えた。
爆轟
「アンタいかれてるペコ!」
「軍用品は使用した際の効果の他にも耐久性や利便性が求められます。現在使用されている手榴弾の炸薬は安定していてキチンとした起爆プロセスを行わないと動作しませんよ。45口径で撃った程度ならばビクともしません」
「そういう問題じゃない!!!」
「施設内の安全を確保!」
突入部隊のリーダー、ノエルから残党は居ないとの報告を受けたボタンはラプラスを連れて指令室と思われる部屋へとたどり着いた。
「臭いの原因はこれだな」
「生物兵器が暴れたって言われても違和感のないくらいの惨状ですね・・・」
日中にも関わらず、施設内の光は無い。
ライトに照らされるのは床や壁、一面にこびり付き変色した血の跡。
死体を処分する際に引きずったような痕跡が残っており、この部屋から廊下へと赤いペンキで塗装されているかの様だった。
かつてはガラス板の床はライトアップされて、綺麗な青い海中を見る事が出来たであろう・・・
現在では無残にもガラスは破壊され、人間が通り抜けられるほどの穴から海水が顔を覗かせている。
「一人で出来る様な事ではない」
「それでは複数人。犯罪組織の対立によるアジトへの襲撃ですか?」
天井を見上げながらライトを照らすボタン。
まるで爪を立てたかの様な2つの切創が残る天井・・・
「そうだね。少なくとも只人ではない・・・海面には近づくな!付近で鮫が目撃されている。血の付いたブーツで入ればたちまち血の匂いに敏感な鮫に察知され、噛みつかれるぞ」
「・・・それではこの穴から海中へ逃げたって事は無さそうですね」
「ああ・・・この部屋で待ち伏せし、皆殺しにした後に堂々と正面から出て行ったんだろうな。ここを出るぞ。空気が悪い」
踵を返すボタンのつま先に金属が当たる。
45ACPの薬莢・・・
「デイビス・・・」
FIBが到着し騒がしくなった外。皆がそちらに気を取られる中、ボタンは静かに薬莢を摘まみ上げ袋に回収した。
Fbiスタイル…片手で銃を保持し、もう一方の手でライトを照らすスタイル。光源を自身から離すようにライトを保持することで被弾率を軽減させることが出来るメリットがあるが、片手で銃を扱う事に為るために扱いが難しく訓練が必要とデメリットもある。