『やぁ、ずっと君と話をしたいと思っていたよ』
スマートフォンのスピーカーから響く声は変声機で音声を加工されたものだった。
移動するバンの中でトワはメンバーの顔を見渡す。
皆が「知らない」と首を横に振る中で視線を合わせない様に俯く者が一人・・・
同盟を組んだ組織の協力もあり、無事に回収した兎田ペコラ。
彼女は気まずい雰囲気に耐えかねて無言でメンバーへ頭を下げた。
『ダンマリか・・・それもいいだろう。だが、君の選択次第で大事な仲間の命が失われる事になるぞ?』
しょんぼりと項垂れるペコラの頭をワシャワシャと撫でながらトワは考える・・・電話の相手こそがメンバーを危険に晒した張本人に間違いないと。
『本来なら君のメンバーの命と引き換えに身代金を請求するところだが・・・』
そして思う、この話し相手は如何せん情報が古いのだと。
未だにペコラが自身の手元に居る事を前提に話を進めている・・・当然ミリモンとしてはこれ以上、茶番につき合う義理も無いのだがトワは通話を切らずに自身の情報を与える事は無く、相手の情報を抜き出す事に集中する。
『君達にはある仕事を依頼したい。・・・なに、簡単な事さ。プロの銀行強盗の君達にとってはな。詳細は後日連絡する・・・くれぐれも下手な事は考えるな?その時は仲間の命はないと思え』
「どう思う?」
通話が切れたのを確認したトワは会話を聞いていたメンバーへ問う。
ペコラを攫った際の情報の早さと精度、その手口。どれもこの街のギャングの物とは異なり、当然トワにも心当たりはない。
「拉致された時にペコーラの仕事用の携帯を取られた・・・多分、登録した番号はそこで知ったんだと思う。襲撃犯もゴロツキやマフィアの殺し屋と言うよりは軍隊や特殊部隊、装備・所持品に至るまで質が違った」
「・・・軍隊の特殊作戦ならば情報が露見する事はないだろうし、傭兵も同様。使い捨てるつもりで依頼したのなら自身の正体に辿り着かない様に対策を取っている筈。現状では特定は不可能、ただ厄介な相手に目を付けられたって事は理解できるわ」
アンタのせいじゃないわとペコラの頭の上に手を乗せるトワ。
どちらにしても私達の情報が相手に渡るのは時間の問題だったのだとメンバーへと伝える。
「
十中八九、陸でもない事を依頼されるのは目に見えている。
「それじゃ依頼は蹴るのね?」
「勿論、ペコラを奪還した今、あいつ等に従う義理はない。彼等が何者か、目的は何なのかを知りたい所でもあるけれどこれ以上の接触は危険ね。皆、仕事用の携帯を出して。車と一緒に処分する」
アキ・ロゼに答えながらトワは全員へ指示を出す。
「現時刻をもって解散。ホテルで休んで・・・集合は明日、アジトで」
スクラップ場、プレス機が今まで乗っていたバンを押しつぶす音を背中で聞きながら・・・トワは朝焼けに目を細めた。
「貴女・・・一体此処で何してるんですか・・・?」
記者、尾丸ポルカにとってこの日は慌ただしい一日だった・・・
21時に起こった『飛行機墜落事故』から始まったこの街の争乱。
それは『ハイウェイ銃撃事件』と立て続けに重大なスクープに発展し、特ダネを日々追っている記者や報道陣を眠りから叩き起こし、現場へと急行させる事態となった。
『護送車襲撃』を最後に街は再び平穏を取り戻し、事態は収束を迎えたかのように思えた・・・
だが、『情報屋』の側面を持つポルカは『まだ事件は続いている』と確信していた。
事件の発端となった『汚職した保安官』が『例の強盗団』の情報を売ったのはポルカではなく、別の同業者。
そして各犯罪組織に情報が渡り、一連の事件が発生した事は
(今から現場に向かったところで警察が立ち入り制限を設けているでしょう・・・)
当然、報道関係者は現時点では門前払い。
『情報屋』が必要とする
(警察官からのリーク情報があれば良いんだけどな・・・)
現状は期待できないが、今後上層部と現場の摩擦が生まれれば不平不満として断片的に手がかりを入手できるかもしれないと考えながらポルカは足元に目を落とした。
7292番地、ダイヤモンドカジノ&リゾート
24時間稼働している施設であっても早朝5時となると客もまばら。
清掃員が忙しく床を拭きあげている傍らで、見慣れた人物が床に横たわっているのをポルカは発見した。
黒の大理石の床に彼女の白い長髪が広がっている。狐耳、毛の長い尻尾、整った顔立ちも相俟って(普段から黙っていれば)その姿は一種の美術品の様にも感じられた。
「ポルカさん・・・ここのカジノ、ヤバイです・・・あのディーラーやってますよ!」
「それで・・・どのくらい負けたんですか?」
・・・ただし、情けない理由が無ければの話だが。
涙を流しながら大の字で床に横たわる人物、『白上フブキ』。
彼女はこう見えてもこの街の緊急医療センターの院長、そして自他共に認める生粋のギャンブラー・・・つまり、ギャンカスなのである。
「うぇぇぇ~ん。何も無くなっちゃったよ~」と泣き叫ぶ彼女をカジノのスタッフが摘まみ出さないのはこの時間、他に利用者が居ない事、又それが日常的に行われているが為にスタッフの感覚がマヒしてしまっているという事に他ならない。
呆れた表情や哀れな者を見る様な表情、一部微笑ましいモノを見たかのような満足した顔で足早に過ぎ去っていく従業員達。
ポルカも何も見なかった事にして立ち去りたい気分ではあったのだが生憎、ポルカがカジノを訪れた目的は彼女にあった。
「きっと、ギャンブルを止めて仕事に戻れって天からの思し召しなんですよ。今、病院は大変な事になっているんじゃないですか?大きな事件が起こっていましたし・・・」
「いえいえ、幸いにも?今回の事件では大半が死傷していまして、忙しいのは負傷者を治療する医療機関ではではなく遺体を回収する検見所の方ですね~」
現場を見る事が出来るのは警察だけだろうか?
否、その他大勢の人々がそれぞれの職務で現場を訪れる事になる。
当然、緘口令も敷かれてはいるが『何所から何所まで』の情報を漏らしてはいけないかの判断は当人に委ねられている部分もある。
「まぁ、あちらの人は気の毒ですがね~」とため息交じりに立ち上がる院長を眺めながらポルカは手に入れた情報を整理しつつ、この街の現状を考察する。
「大変でしたね。やはり警察襲撃も例の強盗団の犯行だと思いますか?」
「・・・これ、取材ですか?」
取材でしたら私の口から話せる事はありませんがと渋るフブキ
「あくまで私の予想なんですが、今日の襲撃はまだ終わりではないと思うんです」
事件を知った大半の報道陣は警察に捕まった仲間の救出・・・強盗団がそれを行っていたのならば無事に目的を達成したと結論付ける。
だが、ポルカはその結果に疑問を抱いた。
「考えてみてください。銀行を複数襲い、無血で大した証拠も残さずに逃げおおせた強盗団が仲間の救出にこんな力任せの手段を使うのでしょうか?」
きっと強盗団の姿を借りた第三者。
それも賞金稼ぎやストリートギャングみたいなレベルではなく、
「つまり、ポルカさんはこれで終わりではないと・・・?」
「ええ、間違いなく。そして、
「
フムフムと頷くフブキを眺めながらポルカは思う。
常に胡散臭い表情と仕草を醸し出しているこの人は、生死を彷徨っている患者を前にしても決して動揺することは無い。
医療従事者にとって一見、厄介事でしかない患者を前にしても、寧ろ歓迎するかの様に両手を広げ迎え入れる胆力。
そして複数の緊急対応時には、まるで特殊部隊を指揮するかの様にスタッフに指示を出し、采配する手腕。
医療の腕も、院長としての能力も一流。
故に戦闘が起こった際、この街に起こっている新鮮な情報もフブキの元へ集約されるのだ。
だからこそポルカは、改めて本題を提示する。
「院長先生もギャンブルで資金を使い果たした様子ですし、面白い情報等があれば私で良ければ言い値で買いますよ?」
ポルカからの情報提供の呼びかけ、それを聞いたフブキはクスリと笑った。
「分かりました。その機会がありましたらよろしくお願いします。ですが、今は売れるような情報は無いのですよね・・・せっかく
「それで、今回の一件・・・傭兵に依頼を出した者の素性は分かりそうですか?」
夜明け前の薄暗闇の中、何度も振り返りながら誰も居ない事を確認する強盗団の少女。
仲間内から『班長』と呼ばれている狼耳の少女は、ひと時の間共に戦った兎耳の少女が仲間のバンへと警戒しながら向かう後ろ姿を見届けた。
『勿論・・・と言いたいところだけど、正直微妙なところ。応援部隊のハンヴィーからGPSや戦闘記録を入手できたのは良いのだけど・・・』
「やはり傭兵を派遣した依頼主までたどり着けませんでしたか・・・」
『いいや、今回の依頼主までは判明している・・・ただ、この街の何所にでも居るゴロツキで到底、強盗団の現在地を調べ上げ、手配出来る様な人物ではないって話』
「使い捨ての闇バイトでしょうね・・・捕まえて時間を掛けた
『そうすればバイトに指示を出した使い捨ての
大した期待も無く「でしょうね」とオペレーターのコナタヘと素っ気ない返事をする少女。
「ですが今回は不可解な件が多かったのも事実です。時間はかかれども私達が認識していない相手の手がかりを集める必要があります・・・今回の一件に関わった者達の所在地を私に送ってください。後は私の方で済ませておきます」
それは気の毒に・・・と少女の標的となったゴロツキの冥福を祈りながらコナタは冷めた珈琲を啜る。
『私の方でも手がかりが消される前に調べたい事がありますし・・・もう一仕事やっちゃいますか・・・』
傭兵に依頼を掛けた者。
また同時刻、強盗団でも私達の組織でもなく『警察襲撃』の情報を入手し、エージェンシーを介して班長へ救出依頼を掛けた何者か・・・
「コナタさんは夜通しでしたので休んでからでもいいんですよ?」
『情報は鮮度が命なんですよ~・・・班長さんの方こそ休んだ方がいいのでは?』
残業が確定した者同士。
コナタのヤケクソ気味な壊れたテンション。
その通信に少女はクスリと笑い声をあげた。
「コナタさん。狼の狩りの仕方をご存知?」
狼は薄明りの中でも標的を捉えられる瞳がある。
数キロ先でも音を判別する優秀な耳がある。
嗅覚も鋭い牙も強靭な脚力も持ち合わせているが同族が他種族よりも秀でているのはソレではない。
「狩れると判断した相手に対しては何所までも追跡するんですよ」
疲れ知らずの持久力。
狼に類する血統を継ぐ少女も同様の性質も持っている。
故に少女は嗤う。
たかが一夜、赤子の手を捻った程度の労力で『狩り』を中断するつもりなど無いと…
「逃げようが、部屋の隅に隠れてガタガタ震えていようが関係ない。必ず見つけ出して殺してやる」
「お~怖い怖い」と茶化すコナタヘ「貴女達も似たようなものでしょ?」と
再び少女はクスリと笑い、空を見上げた。
既に雨は止み、分厚い雲の間から顔を覗かせた太陽が空を赤く染め上げている。
昇りゆく朝日を目を細め眺めながら「『体は闘争を求める』人も狼もそう変わらない…そういう生き物なんですよ」と自身達の在り方をクスリと笑った。
~あとがき~
…と言うことで2章はゴリゴリの戦闘回!
意外と曳光弾を使った戦闘描写や車での銃撃戦など見る機会が無かったので今回取り入れさせていただきました!
相変わらずホロメンのキャラをしっかり把握していない節がありますが『この小説(世界)』『この街に住まうメンバー』として受け取って頂ければ幸いです。(そろそろこの小説でのキャラが定着した頃合いなのでこのまま突っ走りますw
現在最終章を書いております~しばらくの間、お待ちいただけると幸いです~