ではでは最終章、お付き合いくださいませ!
何も終わっちゃいない!
8043番地、
その2階。
日中にも関わらず、締め切られたカーテン。
まるでタンスの中をひっくり返したかの様に、至る所に散乱した衣服。
・・・その中で一人。ベッドの上に腰掛け項垂れる様に俯く、この部屋の
とある用事でカナタの部屋を訪れたミオは、その部屋の有様に目を見開いた・・・
「カナタちゃん・・・どうしたの?一体なにが・・・「なにも終わっちゃいない!」」
カナタの様子に困惑し、声をかけたミオ。
なかば怒鳴る様に言葉を被せたカナタは、顔だけミオの方へと向けた・・・
・・・本来なら透き通るような青い瞳は、既に開ききった瞳孔も相まってまるで泥を塗ったかのように黒く濁り切っていた。
「何も終わっちゃいないんだ!アタイにとって戦争は続いたままなんだ!」
「自分の金で買った好きな洋服をdisられている!」
「SNS上ではクソダサいだの、みんな好き放題に言いやがる!」
「あいつら何なんだ!何も知らないくせに!!」
(なんだ、そんなことか~)と深刻な問題と身構えていたミオはカナタの慟哭を聞き、内心安堵した。
思っていた程、深刻な悩みではない…そう思っていた…
実際に振り返ったカナタの服装をその目に刻み込む迄は…
原色の青のパーカー、胸にはデカデカと山羊の顔がプリントされている・・・
そして、ズボンも同様に・・・どこで購入したのか、まるでコタツ布団の模様のような花柄が一面にちりばめられた惨状。
極めつけは靴・・・ですらなく近所を散歩するかのようなサンダル・・・
単品で見るならば、悪い服ではない…と思う…
(いや…山羊パーカー…お前は単品でも駄目だ!)
だが、組み合わせが致命的だった。
全てがチグハグ。当然、統一感などは全く無く、その姿を目にした者は『脳を焼く』様な強い頭痛を伴う…
カナタの姿を確認したミオは彼女に現実を告げた。
「服のセンスが悪かったんだ・・・」と
「悪かった?私の時代はいつ来るんだ!」
「少なくともファッション誌には載っていた服だぞ!」
「自称ファッションリーダーがこんなところで
「アタイ、パン屋の看板娘なのに組織の皆には『ゴリラ』と呼ばれ、任務ではクソ重い装備を担いで山越えだの過酷なヤツばっかりやらされる・・・帰って来るんじゃなかった・・・」
「チヤホヤされたかった皆に・・・だけど、もう引き返せないとこまで来ちまったんだ!」
「・・・とりあえず、もうすぐミーティングが始まるから今すぐスーツに着替えて・・・」
独白し、崩れ落ちるカナタを横目に用件だけ伝えミオは部屋を後にした・・・
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ロスサントスの中心、ダウンタウン。
ビジネスエリアの中央に存在する一際輝く高層ビル、アルカディアスビジネスセンター。
このビルは、すし詰めにされて馬車馬の様に働かせられる社畜と、自ら命を絶つ役員の数で有名である。
その25階。
直通のエレベータを下りると目に入るのは、鏡の様に照明を反射する白い石材の床。
乱雑に人が入り乱れる他のフロアとは相反して、このエリアは一本の廊下・・・その先にはガラス戸、奥にはロビー中央の受付に座る獣人のアシスタントの姿が目に入る。
このフロアを有する企業の会社名は『鷹丸交通』
ミオや自身の所属する『組織』の表向きの会社名が彫りこまれた金属のネームプレートを眺めるカナタを他所に、ミオは顔見知りのアシスタントに問い合わせる。
「ウチ達が最後?」
「お久しぶりです、ミオさん。ボスは5分後に到着します。他の皆様は会議室でお待ち頂いております」
「アリシアちゃんもお疲れ様。ダウンタウンキャブと此処の兼業は大変じゃない?」
タクシー会社『タカマル交通』と同種の『ダウンタウンキャブ』
本来ライバル業者である筈の企業の人間が、自組織のオフィスに
「あちらはマネーロンダリング用のペーパーカンパニーですから・・・まぁ、多少は怪しまれない様に稼働させています」
スーツ姿の少女は背の高い椅子の上で軽く伸びをした後に「連日、残業が続いたので多少くたびれてはいますが、まだまだ元気ですよ」とミオに返答した。
その都度、少女は少し困ったように同じことを説明するのだ・・・
『タカマル交通』も『ダウンタウンキャブ』も競合しているように見せかけているが、実質は一人の下で働いていると・・・
資金洗浄を行う傍ら広範囲、
正に『壁に耳あり、障子に目あり』と言った感じに一般の
勿論、これはタクシー会社だけに留まらない。
ミオの勤める『コロネのパン屋』
マリンが経営している『キャバクラマリン』も潜在的にはボスの傘下である。
したがって、各々の方法で収集し、統合した情報はストリートギャングのソレとは一線を画するものとなっていた。
表の顔と裏の顔。
光が強ければ強いほど影は濃くなる…
この街では誰しもが持ち合わせている性質だが、ルイの『組織』はソレを体現しているかのようだった。
表舞台には姿を見せず、集約した精度の高い情報を元にピンポイントで敵対する者へ打撃を与えると共に利益を得る。
それが鷹嶺ルイの率いる『組織』の姿なのだ。
・・・そして、それは目の前で雑談の様に話す少女も同様。
言葉通りの意味ではない事をミオは理解した上で苦笑いを浮かべる。
最前線で戦う兵士の配置換えが定期的に行われるのは何故か?
銃弾が飛び交っていなくともいつ終わるのか、いつ死ぬかも分からない極限状態、肉体的に余裕があっても精神は消耗していく。
行きつく先はPTSD
それは訓練された精鋭でも同様。遅いか早いかの違いしかなく例外なく訪れる。
「一段落したらしっかりと休みなよ?」
故にミオは無駄と分かってはいても少女の身を案じて労いの言葉を掛ける。
・・・実の所、この話題が出た際の少女の返答もミオは知っていた。
アシシアは言う。
「まだ、
大きな窓から望む高層ビル・25階からの景色・・・遥か下にはダウンタウンの幹線道路を行きかう車の姿を見る事が出来、前方にはこのビルと同じような高層ビルが複数。
中でも天を衝く程の高さを誇る『メイズバンクタワー』はこの島を訪れた観光客を標的にした『ビギンズヘリツアー』でも人気のスポットとなっている。
双方のビルに共通しているのは高層ビルでは一般的なカーテンウォールを使用しているという事。
外からビル内を視認しにくいプライベートガラスを使用している訳でもない為、ヘリや望遠レンズを用いれば内部状況を見る事も出来る・・・それは『別に何もやましい事はしていない』と企業の透明性を体現しているのだが・・・勿論これは表向きの体裁。
当ビル、『タカマル交通』のオフィスでは日々の取引で発生した余剰在庫・・・
銃の詰まった木箱や内部に薬がギッシリ詰め込まれた人形、銀のインゴット、資金洗浄前の札束などが外からは視認できないオフィスの隅に山積みになっている。
そんな少し散らかった会議室の長テーブル。
席にはルイの傘下や同盟を組んでいるメンバーが着席していた。
『ころねベーカリー』から大神ミオ、天音カナタ
『キャバクラマリン』からは宝鐘マリン、雪花ラミィ、アズサ
『猫カフェ』の店長、ときのソラ
さらに『ミリオンモンスターズ』からはアキ・ローゼンタール
そして、それらの企業を纏め『組織』として指揮をとるルイ
「まずは新しいメンバーの紹介からだね。既に知っている者も居るかもしれないが、最近話題となっている強盗団『ミリオンモンスターズ』と正式に同盟を組むことになった。今後はビジネスパートナーとして我々もミリモンの作戦に参戦していく事になる」
「ミリオンモンスターズのサブリーダーを務めているアキ・ローゼンタールです。本来ならトップがこの場に足を運ぶべきなのですが、一身上の都合で私が代理として当『契約』を提案させていただきます。現在、当組織は前回の襲撃の際に多数の痕跡を残してしまったが為に行動が制限されている状況にあります」
3日前の飛行機墜落、高速道路銃撃事件から警察車両襲撃までサンアンドレアス島全域に犯罪組織、一般市民問わず皆が知る事となった。
イレギュラーに次ぐイレギュラー。
情報を元に作戦立案を行っていたトワだが、短い準備期間や偶発的に起こったトラブルも相まって、これまで貫いてきた『痕跡無し』を維持できない状況にあった。
実際に連行されたペコラは言うまでも無い。
それだけに止まらず、トワがバゴスに襲撃を受けた際の応援に駆け付けようとして警察に素顔を見られたコヨリ、直接的な目撃者は全員死亡しているのだが痕跡の完全な抹消を行う時間の無かったトワとアヤメは『ペコラを拉致した何者か』に捕捉されている可能性が高く、これまでの様に気軽に街中を出歩くわけにはいかない。
ミリモンメンバーの半数が行動を制限されている今、これまで分担して行っていた機材調達や情報収集もリスクが伴う。
圧倒的な人手不足。故にミリモンはこれまで数度に亘り取引を行っていたルイの組織を『信頼できる仲間』として同盟を提案したのだ。
「つまりラミィ達はミリモンの代わりに使いっパシリをすればいいわけ?」
情報収集、機材調達、盗難品の現金化、それらはこれまでミリモンに行ってきたサービスと何も変わりないじゃない、わざわざ正式に『同盟』を組む必要ないじゃないとラミィが指摘する。
ミリモンがサンアンドレアスを訪れた初期から利用しているブラックマーケット、そこへ銃器や特殊な端末を入手し、供給していたのは誰か?
その答えは今、アキ・ロゼの
つまり今まで通りの関係でもミリモンが提示した条件は満たしており、
「いいえ、皆さんには作戦の前準備だけでなく『ミリモンの一員として』私達と一緒に作戦を遂行して欲しい。報酬は40「40万ドル!?ガキの使いかよ!」「成功した際に入る全額から40%よ」」
「これが私達がこの島で行う最後の仕事になる・・・だけど、このままだと取り返しのつかない事になる。だから皆の力を貸してほしい」
「ありがとうアキさん、これで状況は分かってもらえたと思う。次の作戦は『組織』としてはミリモンと同盟を組み共同戦線を張るわ。勿論この話には危険が伴う、乗るか乗らないかは皆に任せます・・・」
一旦話を止め、メンバーの顔を見渡す。
これまでの関係性を指摘したラミィですら席を立つ気配は無く、賛同の意を示している事にルイは安堵の息を吐いた。
「では、現時点をもって当組織はミリオンモンスターズの指揮下に入ります」
「皆さんの協力感謝します。ミリモンのメンバーが使用しているパーカーは作戦に参加される人数分を後で送らせていただきます。当強盗団は先程話した通り、情報が一部流出し行動が制限されている状態にあります。次回の作戦の際に他の犯罪組織、執行機関等の妨害・迎撃を受ける可能性が高くリスクが伴います。従って私達は機材調達と並行して他の犯罪組織へ牽制、妨害工作を行う必要があります」
「まず第一目標は・・・」
アキの説明は続く・・・
「アリシアちゃん。電子戦機の解析は順調?」
会議が終わり、各々がオフィスを去るなかでルイはアシスタントの少女を呼び止めた。
「コナタさんの方で処理しています。機材も整った様であと数日あれば予備として稼働出来るとのことです」
「ありがとう。事が始まれば否応無くアレの力が必要になる…そして、後始末もね」
これは誰かが思い描いた夢の果て。
だから私達はソレを拾い集めて叶えてあげるの…
ルイに釣られるように少女も嗤う