「・・・という事だけど・・・フワワさん、モココさん、ちゃんと話聞いてました?」
スーツ姿の狼少女・・・アリシアはミリモンから受け取った作戦概要からフワモコの必要な情報だけ抜き出して本人達へ説明していたのだが・・・当の本人達は首を傾げ両手の人差し指を自分の頭を指しながらグルグルと回していた。
(うん・・・これは何一つ覚えていないな・・・)
「もう一度重要な事だけ伝えます」
「作戦当日、貴方達はボスと一緒に行動していただきます」
「メリーウェザーの所有する兵器は最新鋭の物から骨董品まで幅広くあります」
「兵器の管理体制は州軍と比べると杜撰。特に骨董品に対しての警備は無いと思ってもらっていいです」
「使用する機体の奪取・・・詳しい指示は・・・あ~ボスに従って行動してください」
「重要なのは調達後・・・」
「貴女達の役割はクライアントの援護、及び離脱支援です」
識別コードの偽装やポイントへの侵入はボスが引き受けてくれる手筈になっている。
ならば無駄に小難しい・・・2人には必要のない情報を伝えては逆に混乱させてしまうかもしれないと、アリシアはブリーフィングで決定した内容の大半を省略する事にした。
「左右のガンナー席にはM134・・・通称ミニガンが備え付けられています。リンク式のモデルで7.62×51mm弾を最大毎分4000発発射可能という事はコナタさんからの情報で把握できています」
「・・・ですが、最大の発射レートでは故障も多い為、使用する際には1250~3000発くらいに設定してください」
「ここまでは大丈夫ですか?」
「BAUBAU!」
「では続けます」
「銃自体に照準器は無く、5発に1発の間隔で繋げられた曳光弾の弾道を確認しながら狙いを定めます」
通常弾は鉛の塊であるが故に発射された際の弾道を確認する事は不可能。
その為、弾頭内部に燃焼剤が充填された弾道を視認しやすい曳光弾を通常弾の合間に撃ち込む事で現在弾丸が当たっている大まかな場所を把握する事が出来るというわけだ。
「銃自体はモーター駆動。機体がどれ程改修されているかは不明ですが・・・この銃はかなりの電力を消費します。もしも発砲した際に電圧が不安定になる兆候が確認されましたら1門だけで攻撃を行ってください」
その状態で左右に取り付けられた2門のミニガンを掃射すれば、最悪の場合ヘリを動かす為の電力まで持っていかれシステムがダウンする可能性だってある。
「発電能力の低い初期型の機体でなければこんな心配をする必要は無かったのですが・・・如何せん情報が古すぎて実物を確認するまではバージョンが分からないんです。ですので頭の片隅に留めておいて下さい」
「それと引き金を引いたら離さない事。これも初期ロットならではの不良なんですが弾薬が残っている状態でトリガーを離すと高確率で給弾不良を起こします」
「これも事前に改修型かを判別できない『他人の銃』だからこそ起こりえる事ですね」
トラブルがあってからでは遅い。ならば、古の対処法でも実践するほかない。
実際に搭載された機銃が改修型で、教えた対処法が全部無駄な事だとしても・・・装置トラブルに見舞われスクラップになるよりは
「BAUBAU」
「最後に、警察・州軍・一般市民への攻撃は禁止。追手への攻撃は車両の破壊に留めておいてください。その他の敵勢力、犯罪組織に対してはウエポンズフリー」
「・・・」
「・・・フワモコ?大丈夫?」
・
・
・
「管理は杜撰・・・確かに、あの子の言った通りね・・・いえ、正確には下調べを行ったコナタさんとコレに目を付けたミリモンのお陰ってことかな」
「BAUBAU!!」
トレーラーの荷台に載せられ、シートを被せられた機体に視線を向けながらルイは「成程な・・・」と納得した。
周囲に警備員の姿は無く、監視カメラの目も無い・・・完全に野晒しの無防備な状態の機体を目の前に喜ぶフワモコ。
ルイは再度、周囲を見回した後に双子へ指示を飛ばす。
「フワワちゃんは火器のチェックをお願い。モココちゃんは搭載された弾薬の残弾確認!」
そしてルイはラッピングの様にグルグルと機体に巻かれたシートの一部を解き、その身を機体の中へ滑り込ませた。
腐っても航空機。
組み立てられた状態で保管するにはあまりにも巨大。
その為、メインローターのブレードを取り外し省スペース化して保管されている。
「電源は・・・生きているね。計器も問題なし」
「弾薬もそのまま置いてるみたいです~「なんでこの機体、ジャンク扱いなんですか~?」」
保管されていた機体は現在も問題なく使える状態であった。
寧ろつい最近まで整備され、程よく稼働維持していたかのように状態も良い。
何故、今になって
「ステルス機、ティルトローター機・・・最近は高性能な最新兵器を次々と導入してるからね・・・
皆、新しい物へ目移りするのも分からなくはない。
得体のしれない開発機ではなく、実戦で優秀と評価を付けられた機体ならば尚の事。
「兵士も自分の命が掛かっているからね・・・生産終了して部品の供給がストップした・・・共食い整備で寿命を延長している機体から更新したいって気持ちも分からなくもないよ」
「へ~そうなんですね~」
そうしてお役御免となった機体もすぐにスクラップになるわけではない。
軍の装備更新が終わり、旧式となった装備品や車体が『払下げ品』として市場に出回る様に、この傭兵会社も退役した機体の買い手が見つかるまで埠頭の片隅に一時保管を行っていた。
「お爺ちゃんでも買い手があるんですか~?」
「非対称紛争が行われている地域に維持費の掛かる最新兵器を導入するよりも、安価で
ゴキブリを殺すのに一発数千万するミサイルをぶち込むヤツはいない。
必要なのは数百円で買える殺虫剤。
「何事も適材適所。必要以上の性能は同じように目的を果たせたとしても経済的に敗北する。だからこういった物にも必ず需要はあるものなの」
・・・例え、今の持ち主が『価値は無い』と決めつけた物でもね。
「ボスの話はムズカシスギマス~「フワモコ何言ってるのか分からない~」」
フワモコの困惑した声にルイは頬が緩む。
「それじゃ、トレーラーをヘッドに連結させてひっそりと持ち去りましょうか~」
後はコナタさんが帳簿を改竄してくれるでしょう。
いつの間にか支払い無く売却済みとして処理された機体。
最新鋭ステルス輸送ヘリ『アナイアレイターステルス』の導入で活気だつメリーウェザー内、その異変に気付く者は居なかった。
「それにね・・・貴方もこのまま腐っていくのは嫌でしょ?」
シートの下に隠された戦女神のペイントを撫でながら問いかけた。
広い敷地・・・7041番地。
屋外には整えられた芝生、噴水、プール、そしてテニスコートすら完備していた。
一等地に建てられたその豪邸は、幾多もの年月を経ても価値を失う事は無い。
反面、建物の内部はかつての優美さを失い閑散としていた。
まるで引っ越しをした直後の様な生活感のないもの寂しい空間。
唯一例外なのはリビング。ここには「家族が寛げる様に」と新しい家主が購入したソファーや巨大なTVが置かれていた。
「ママ、例の組織とは連絡取れた?」
交渉を任されていたアキロゼはトワの問いに頷いた。
もっとも、組織のメンバー全員が何事も無く快く引き受けてくれた訳ではないのだが・・・
言葉を濁しながら概ね全員の了承、協力を得る事が出来そうだと伝えるとトワは安堵の息を長く吐き出した。
現状、外部組織の支援は必要不可欠。
彼等との交渉が纏まらなければ次の作戦は断念せざるを得ない。
「とりあえず、最低条件はクリアしたようね・・・」
既に応接間で待機していたメンバーの視線を一身に受けながらトワはミーティングの準備を始める。
「それじゃあ状況確認、作戦立案を始めるよ」
「ママのおかげで準備が整った。前にも言ったけど当初の予定からズレが生じている・・・だから不確定要素に対して臨機応変に対応する必要がある」
・・・もっとも、私達はそれを見越して計画と準備を行うんだけどね。
「この街で最も私達に近いのは誰だと思う?」
トワはモニターにPCを同期させ画面を映し出した。
ストリートギャング?それともバイカーギャング?
彼らは確かに兵力はある。
例え粗末な武器を持った訓練を受けていないド素人だとしても、戦況を覆す事の出来る
「ギャングだけではない。マフィアも同じ」
彼らが動く時は何時だって受動的。
事が起こり、情報屋を介して初めて私達の作戦を知る。
「その情報屋は先の銃撃事件で警察に絞られるのは知ってるわね?」
高速道路で暴れた複数の勢力。
その勢力にミリモンの所在地を売った情報屋。
そして情報屋から発信者である保安官へと繋がり、それを期に一斉検挙となった。
「ギャング達の目は使えない」
関与した情報屋が身動きが取れない状況だからねとトワは笑う。
「傭兵は依頼があって初めて動く」
被害のあった依頼主から傭兵へ・・・
現地に常駐しているのならともかく、本拠地から駆けつけるには時間がかかり、その時間は致命的な差となる。
「通報があってその場に留まる様な事は皆はしないでしょ?」
攪乱し、素早く目標を達成し、離脱する。
単純だが効果的な作戦・・・例に上げた者達ならばそれだけで良かった。
「分かっていても対処は出来ないでしょうからね」
「だけど警察は違う」
私達の残した痕跡を解析し、私達の後を追ってきている。
「時間が経てば経つほど差は縮まり、いずれは追いつかれる事になるでしょうね」
これまでに嫌という程に彼らは煮え湯を飲まされてきた。
私達が少しでも兆候を見せればたちまち捕捉され、追撃が始まる。
「だから今まで動けなかった・・・」
・・・今日までね。
「事前に撒いた種は複数。だけど実った物は一つしかない」
どれも運任せではあったけれどその一つが芽を出したの。
私達はソレを利用する。
「・・・知っての通りこの町は模倣犯で溢れかえっている」
大半は失敗する。
だけど、稀に尻尾を出さずに警察の追跡を振り切る者も居る。
強盗は盗品を持って警察から逃げおおせれば勝ちという訳ではない。
実際は数週間、数年に亘って捜査は続き犯人を追い詰めていく。
時効になるまで目の前にある金に手を出さずに数十年…待つことの出来る人間が一体どれ程居るというのだろう?
「そんな者達にとって私達の存在は体の良い隠れ蓑になるってわけね」
『木を隠すなら森の中』
警察がミリモンを追っている限り、罪を擦り付けた実行犯達の安全は保障される。
「だから、この街では私達と類似した格好の犯罪が後を絶たない」
私達の姿形を真似ればそれが免罪符になるかのようにね。
捕まった間抜けは『模倣犯』として切り捨てられ、数少ない成功者はミリモンの犯罪の一つとしてカウントされる。
・・・結果、彼らの犯した罪は私達の功績になる。
横領を行っていた銀行職員の摘発、高級車専門の窃盗団の殲滅、ストリートギャングを襲撃し幹部を暗殺、密輸された武器を略奪し犯罪組織に出回るのを阻止した。
「今や私達は市民達にとって傍迷惑なギャング同士の麻薬戦争を止めた救世主よ」
「随分と美化されているのね・・・」
「ええ、でも市民達の目から見たらそう見えるって事なんでしょう」
勿論、中にはミリモンが関与してない事件も多々ある。
模倣犯たちが押し付けた功績、例えギャング同士の血生臭い闘争だったとしても市民達からすれば悪党が減って住みやすくなったという事実だけが残る。
「ロビンフットみたいぺこ」
「そうね当時、義賊と呼ばれていた彼等は日本でいう鼠小僧の様に弱者へ報酬を分け与えていた訳ではない」
力を持つ貴族を相手に真っ向から挑み、略奪をしていただけに過ぎない。
「だけど、普段から貴族達から抑圧されていた市民達にとっては英雄の様に見えた」
「・・・随分と勝手ね。市民達は自身の理想を私達に押し付けようとしてるって事なんでしょう?」
市民に危害を加えず、悪を滅ぼす・・・そんな都合のいい英雄を・・・
「まぁね。でもこの状況は利用できると思わない?」
市民の理想が高くなれば当然、模倣犯の質も高くなる。
『ミリモンならこんな短絡的な犯行はしない』
『綿密に立てた作戦に沿ってスマートに事を成す』って市民が思えば、ミリモンに擦り付けようと考えてる模倣犯はその理想に近づけなければならないのだから・・・
「・・・で、具体的には何を企んでるの?」
アキロゼは目を細め、ジト目になりながらトワへ視線を投げかけた。
「