ミリモン   作:ブルーな雛菊

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ハズレ枠

「Pから本部へ、取れますか?どうぞ」

「此方本部、メリット5。続けろ」

 

「陽動班が行動を開始。現在、FIBと特殊部隊を引き付けて南へ逃走中。市警の姿は見えない。どうぞ」

「復唱する。FIBと特殊部隊を引き連れてロックフォードヒルズから南下。セントラルの雑踏へと逃走。違いないか?」

 

「情報の相違はない。どうぞ」

 

「本部から監視班へ。Pは組織と合流、警察無線を傍受し動向を探れ。Mは陽動班を追跡しろ」

 

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川のせせらぎ。

嗅覚の優れた獣人にとって辺りに漂う森林特有の香りと同時に、太平洋から吹き付ける潮風の匂いはこの土地ならではの特別な物だった。

 

ブレイン郡 州軍 フォート・ザンクード基地

レーダーサイト、巨大な滑走路、燃費の悪いガスタービンエンジンから発せられる騒音と排気ガス。

付近には民家は無い。

基地の両側は山脈と渓谷で挟まれ、天然の城塞の様だった。

 

待機中・・・持て余した時間。

車のボンネットに腰掛け足をブラブラと・・・辺りの香りを楽しみながら森林浴をしていたコヨリはペコラからの無線を聞いて意識を現実に戻した。

 

「FIBが市警を追い返したのは予想外だったわ」

 

基地から程よく離れたグレート・オーシャン高速道路の待避所。

停められている車は3台。

トレーラーが連結された『ファントム』という名の大型トラック。

本来なら要人警護で使用されるであろう防弾仕様の高級セダン『シャフターV12』。

商業用、大型ピックアップトラック『ガーディアン』。

 

 

トワはボンネットの上に地図を広げ先程の無線で連絡のあった座標を記入し、現在の状況を作戦と照らし合わせる。

 

「多少ズレはあるけれど、既に基地内部へ侵入したメンバーへ詳細な指示を伝える術はない…予定通り進めるよ。2人とも、準備を始めて」

 

アヤメはトワの指示に従い自身が調達した盗難車両、ガーディアンへと向かう。

荷台には分厚い鉄板が4枚…これを荷台に立てて車体のフレームに縛り付けた。

 

「本当にこんなポン付けの装甲で大丈夫なの?」

「装甲車両が手に入らなかった時の為の保険だったからね…その車」

 

作戦立案時には装甲車両を入手する目途が立っておらず、仕方なく既存の車両に鉄板を取り付けるという案が採用された。

一枚あたり厚み8mmの鋼板。7.62mm通常弾なら耐えれる寸法だ。

無論、デメリットも存在する。一つは重量が嵩み、非力な車では動かす事もままならない。トルクのあるトラックであれども装甲追加で過積載気味の車体では速度やハンドリングに影響を及ぼす。

そして、二つ目は目立つと言う事だ。

 

鉄板を固定し装甲化したトラックの外観は、武骨という一言に尽きる…それは要人警護用の防弾車両のみならず、軍用トラックのシルエットからも逸脱する。

こんな物を街の中で見かけたならば即、通報待ったなしだろう。

それは正しくマフィアが戦争を仕掛ける為、SUVに鉄板を溶接したお手製の戦車、そのものだったのだから。

 

「ギリギリでシャフターが手に入ったけれど、今後の事を考えると使える物は使いたい」

手を抜ける相手ではない。贅沢を言う余裕も無い。「相手の戦力を考えるのならこれでも足りないくらいよ」とトワは言う。

 

 


 

「それじゃあ、作戦を順に追いつつ皆の役割を振っていく」

「先程も言った通り、今回は模倣犯の襲撃に合わせて作戦を決行するわ」

 

市場に出回る機材の流れ。車両の盗難、及び目撃情報。

当を付けた建物への人の出入り。

 

「・・・ええ、既に彼らの拠点は把握してるわ。彼らの行う強盗が一連のトリガーとなる。だから、動きに注視する必要がある。昼はペコラ。夜はムメイ。交代しつつ24時間体制で監視を行う」

 

機材の収集具合から残り2~3日の間に犯行が行われるとトワはふんでいた。

その間にミリモン自身も作戦の準備を済ませておかなければならない。

 

「模倣犯が襲撃を行ったら警察へ通報。彼等には陽動の役目を担ってもらう」

例え彼らが隠密作戦を計画していたところでミリモンには関係のない事だ。

派手に暴れて注目を集めてもらう必要がある。

 

(・・・捨て駒になれなんてファミリーや同盟相手にはお願い出来る事ではないからね)

 

「ムメイ、無理しない程度に彼らの援護を宜しく。街に注目が集まっている間に私達の行動も開始する」

「それじゃあ、ここからが私達の任務よ」

 

今回のターゲットは州軍基地の中に保管されている。

侵入方法は数種類。

 

「1つ、基地へのアクセス権限を持つ者への成りすまし」

例えば退役軍人や運搬業者。

 

「誰に扮するかで自由に出歩ける区間が変わる」

欲を言えば将校クラスのアクセスコードがあれば基地内を制限なしで自由に歩く事が出来るけれど・・・

 

「大佐クラスは五万といるけれど将校となると一握りしかいない」

そして、ミリモンのメンバーが扮するには【性別】【種族】など誤魔化しの効かない項目が多すぎる。

 

「それと・・・業者などアクセスコードを持つ一般人として侵入する際は日中か、用事が済むまでの間しか滞在できないのも注意ね」

いつ起こるか分からない襲撃の合図に、ゲートが解放されるまで開店待ちなど悠長にすることは出来ない。

 

 

「2つ、夜間に防壁を乗り越え強行突入」

基地を取り囲むように5mのフェンスが2重構造。基地の四方には監視塔。24時間体制で各種カメラを監視。夜間でも周辺の様子を注視している。

 

亜人で構成されたミリモンなら侵入も可能だろう。だが、監視の目を潜り抜けて侵入は困難、失敗のリスクが付きまとう。

 

「限定的なアクセス権か失敗の可能性が高い強行ね・・・」

「確かに現実的ではない、だから3つ目の方法で行こうと思う」

 

3つ、定期的に基地へ運ばれる物資や食料に紛れて侵入する。

 

「貨物のチェックは行われないの?」

「勿論、荷物毎に確認作業は行われるよ」

爆発物を郵便で送りつけられても困るしね。とトワは笑うがミーティングを聞いていた残りのメンバーは釣られて笑う者は居なかった。

 

「大切なのは定期的に物資が搬入されているという事」

毎日、在籍する千人近くの兵士達が消費する食料。

屈強な兵士達を支えているのは、必要なエネルギーを素早く補給出来る戦闘食糧だけではない。

 

「戦闘時でなければ糞不味いレーションを好んで食べる者は居ない」

長期保存、常温保管でも安定した品質を保つことが出来るレーションは『戦闘地域』での食事には最適だが一方で、『薬品臭い』や『製造コストが高い』などの制約がある。

 

「平時は安価で栄養のある『普通の料理』を作る為に厨房があり、そこに週一の間隔で食料が搬入されている」

さて、その食料はどの経路で基地へ運ばれているでしょう?」

とトワは問い「陸路からトラックで?」とベールズが答える。

 

「正解・・・フォート・ザンクード基地の敷地内には軍用機専用の滑走路が設けられているけれど、唯の食料品や雑貨の配達にそれらが使われることはない」

 

大型の貨物機が使用されるのは、戦闘車両や武器弾薬。

コストのかかる空路を使わなくても容易にロスサントス内で調達できる物資の為に、貨物機を発着させては割り当てられた予算も一瞬で干上がってしまう。

 

「貨物船・・・海路を使ってロスサントス港のターミナルへ。ターミナルからトラックを使用し陸送」

監視カメラの記録を辿れば配達を請け負った業者の特定は可能よ。

ただし、肝心の侵入方法だけど先に言った通り貨物に紛れ込むのは不可能。

 

「業者への成りすましも一時的なカモフラージュにしかならない」

 

お手上げじゃないですか~と両手を上げてジェスチャーをするコヨリにトワは頷く。

 

「そうね、打つ手なし・・・ただし、これをするのが只人だったらばの話よ」

 


 

日は沈み、空には暗闇が広がっていた。

自動車の排気ガスや工場の煙突から排出される煙は大空に輝く星々の光を遮る一方で地表には薄く霧の様なスモッグが形成されており、未だ明かりの灯る高層ビルの光を仄かに拡散させている。

 

積み上げられたコンテナ。

均一に設置された街灯は明々と路面や頻繁に行き来するトラックの姿を照らし出していた。

 

航空機の様に素早く物資を運搬する事は出来ないが、貨物船ならば大量のコンテナを一度に運ぶ事が出来る。

故に技術が発展し、数千キロの移動すら困難ではなくなった現代においても海路を用いた運搬は衰える事はない。

 

サンアンドレアス島の物流を支える一大拠点、ロスサントス港。

そして、その傍らでは1隻の貨物船が停泊し、今も慌ただしく作業員達が荷下ろし作業を行っている。

 

「ママ、荷物の積み替えの終わったトラックが出発するよ」

 

午前1時半

ターミナルから出発した冷凍車『ミュールカスタム』の姿を1キロ離れたムリエタ油田横、エルブロ大通りの隅に身を潜めて監視していたカナタがメンバーへと無線を飛ばす。

 

「カナタちゃん、車のナンバーは確認した?間違ってないよね?」

「大丈夫だよママ。現在橋を通過中。合流まで後1分。本当にやるの?」

 

基地の警備は厳重。

残された方法は普通なら有り得ない笑い飛ばす様な無謀なものだった。

 

コンコンと車体を叩く音。

ミオの運転する車に乗る同乗者からの出発の合図・・・

 

「私だって同じ事出来るか分からないのに」

「とは言ってもね・・・あの子は問題ないと言って私の話に耳を貸さないし」

 

 

まず、第一段階。街中に設置された監視カメラの記録を遡り、基地へ物資の運搬を請け負っている業者を特定する

二段階。配送業者の事務所へ侵入し、配送スケジュールと使用する車両の情報を入手

三段階。監視を付け、トラックの出発と共に行動を開始する

 

仕掛けるタイミングは短い。

監視カメラの付いたガレージに車両は保管されており、動き出す前に小細工は不可能。

トラックが移動を始めてから高速道路へ侵入する前に終わらせなければならない。

 

トラックを尾行していたミオのバン(ランボカスタム)はトラックが信号で停止したタイミングで左折レーンへ侵入しトラックの横を通過していく。

 

「此方ミオ。無事に取りついたみたい」

 

ミオの運転するバンの車体下に張り付いていたアリシアは、トラックが横に並ぶと同時に車体から手を離した。

怪しまれない様にトラックの横で停車するわけにはいかない。

減速していたとはいえ時速20kmオーバーで走行する車両から受け身無しで地面へダイブする必要があった。

 

この速度で地面と接触すれば怪我は免れない。

丈夫な戦闘服で衣服が破けなかったとしても、服と肌の間で摩擦が発生し擦過傷を引き起こす。

バイクに乗るライダーの様に転倒時の衝撃を和らげるスーツを着ることが出来れば良かったのだが、今後の行動を考えるとプロテクターの入ったスーツは行動を阻害しかねない。

 

受け身を取れば先程まで張り付いていたミオの車両の後輪に巻き込まれる。

その為、受け身を取らず傷を覚悟するのが最適解だった。

 

着地と同時に背中へ走る衝撃。

勢いを殺しきれず転がり回りそうになる体を無理やり制する。

呻き声さえ上げずに車両が通過すると同時にすぐさま反転。

コロコロと寝転がる様に信号待ちをしているトラックの車体下へ潜り込み、車体のフレームを掴み再び自分の体を持ち上げる。

 

信号が青になり、何も気づかずに発進するトラック。

車体の下、掴みどころのないフレームの隙間に無理やり指を掛けて耐える少女の目の前ではドライブシャフトが不気味な音を立てながら回転し、背中では高速で過ぎ去っていく路面の圧を肌で感じる。

 

「高速道路を走行する際の強風や跳石に耐えながら、車体下で落ちない様に自身の体を支えつつ2時間半」

基地手前でトラックへ乗り込むことが出来ればどれ程楽になっただろうか。

「高速を降りてルート68へ。信号は無く、トラックが停車する事はない」

不自然に車両を停車させることは出来ない。

トラックの運転手には通常通りの業務を行ってもらう必要があるのだから。

 

ザンクードまでたどり着ければトラックから離れ、人目を避けながら監視塔を目指す。

 

「それ、出来る人いるの?」

アーニャの問いに誰も答える者は居なかった。

トワもニコニコと子供達を見回すが誰一人として視線を合わせようとする者も居ない。

 

アプローチの段階から無謀。

逆に言えばそれだけ警備体制に抜け目がないのだと言える。

 

・・・そして、問題は『誰がその役割を遂行する』かだ。

 

(コヨリには分かる!この役割はハズレだと!!)

(既に監視の役割が決まっているペコーラは安泰ペコ)

(長時間楽しいドライブをした後に、単騎で1000人規模の基地へ殴り込み・・・)

(正気の沙汰とは思えない余)

言葉に出さなくても一同の思いは一致していた・・・

(この役割だけは嫌だ!)と

 

だからこそトワはこの役割を組織へ依頼した。

「基地の情報と侵入経路を提示し、適切な人材を配置してもらう予定よ」

 

組織の返答は「問題ない」・・・だそうよ。おかげで高くついたけどね。

 

 

 

 

 

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