ミリモン   作:ブルーな雛菊

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へそ天

フォート・ザンクード

 

時刻は午前3時半。

この地に滞在する1000人を超える兵士達が眠りに就く中、運悪くその日の当番に割り当てられた者達はブラックコーヒーで眠気を誤魔化しながら巡回の為に重い腰を上げた。

 

真夜中にも関わらず基地の敷地内に立てられた照明や、滑走路を照らす誘導灯は煌々と輝いており薄暗いという印象を受ける事はない。

 

侵入者を拒む2重のフェンスの高さはおおよそ6m。

コンクリートの台座に太い支柱。

金網の強度は高く、トラックの突進でも突破する事は叶わない。

その上、基地を囲むように設けられた監視塔が基地を挟む山脈と渓谷など、地形の死角を埋める様に建てられており、更に設置された各種センサーやカメラ設備によって一分の隙も無い。

 

「万全の状態で待ち構える基地内部への侵入、潜伏は困難よ」

 

仮に練度の高い戦闘員が内部に侵入出来たとしよう。

それを待ち構えるのは、人が人を殺すために長い年月を掛けて研鑽された兵器達。

それを操る訓練された1000名以上の兵士。

 

「普通なら基地を襲うなんて事はしない」

 

この街でも軍用品が狙われる事は多々あり、備品が市場に出回る事もある。

だが、それらは輸送中のトラックを襲撃して得た物であったり、管理者が私腹を肥やす為に秘密裏に捌いた物だったりする。

決して基地内に厳重に保管された兵器を強奪するなんて事はしない。

 

それでも行うというのなら、それをする者はきっと破滅願望のある人格破綻者か『自分だけは生き残れる』と根拠の無い自信に突き動かされた未熟者くらいだろう。

 

「基地では私達が使っているハッキング装置は通用しない」

 

基地周辺では特定の周波数に干渉し通信を阻害するシステムが導入されている上に、セキュリティーレベルの高い建物ではそもそも電波自体を遮断する。

ミリモンが使用している端末のスペックではアクセスコードの解析が困難。

組織の設備に関しても解析したコードを携帯端末へ電波を用いて送信する方式の為、電波を遮断されている基地内では使用できない。

 

「街での陽動が始まったら私達も行動を開始する事になる。隠密を維持した状態での保管庫へのアクセスは絶望的」

 

残る手段は一つしかない。

 

「だけど、それを行うにも一人では不可能」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「そうですよね・・・軍施設となると当然、貴方達も居ますよね」

この地に住まう軍人達と同じ戦闘服を身に纏う少女は、彼女の侵入に一早く気付き駆けつけた者を一瞥し、「忘れてた」とばかりに呟いた。

 

例え只人である軍人の目を欺く事が出来たとしても彼等を誤魔化す事は難しい。

・・・軍用犬。

 

人間の嗅覚に比べ、犬の嗅覚は10万倍と言われている。

残留する香りを嗅ぎ分け、優れた聴覚で周囲の異変を察知する事の出来る彼等は爆発物の検知や侵入者の追跡に長けている。

 

彼等と類似する身体能力を有する少女だからこそ

ならば当然、基地に居るでしょうし。気付かれるのも当然か

と納得する一方で、現在の状況に首を傾げる。

 

発見した侵入者に対して威嚇、パートナーへ不審者の居場所を知らせるわけでもなければ襲撃し、無力化しようとする気配も見られない。

 

少女の目の前でお座りをし、嬉しそうに尻尾を振っている大型犬。

 

(敵と思われていないのかな?)

 

彼らの嗅覚は人間が想像する以上に発達している。

人がストレスや緊張を受けた際に生じるホルモンは汗や呼気からも無意識に発せられる。

その些細な変化すら犬は嗅ぎ分ける事が出来るのだ。

 

只人からするならばチートスペック。

その彼等を目の前にした侵入者が、焦る事も興奮する事も無くリラックスした状態で敵意を向ける事もない。

 

(まぁ、この基地にも1000人以上滞在しているから皆の顔を覚えている訳はないか・・・)

 

仰向けに寝転がり、為されるがままに撫でられる軍用犬。

 

「貴方のパートナーはどうしたの?探してるんじゃない?」

少女が問うと犬は「知らない」とばかりに顔を背ける。

 

互いに言葉を理解している訳ではない。

犬がそうであるように彼女も彼らの匂いを嗅ぎ、理解をしているのだ。

 

「そう・・・きっと貴方を探してると思うよ?クッキー食べたら仕事に戻りなさいな」

 

 ・

 ・

 ・

「お前どこ行ってたんだ!?っていうか何食ってんの!?」

「いつ落としたか分からないレーションのクッキー食べて・・・お前、腹壊しても知らないからな!」

 

アリシアが与えたクッキーをムシャムシャと頬張るワンコとそれを引きずっていくパートナーの背を目で追いながらアリシアはクスクスと笑った。

 

それにしても・・・あの子が私に吠えなかったのは、やっぱり匂いのせいだよね・・・

同族・・・即ち獣臭・・・。

 

それとも・・・飼い主と同じ匂いと思ったから?

即ち、泥と硝煙と血の匂い・・・

犬の嗅覚に察知されない程、完全に臭いを消す事は不可能。

今回はそれらが良い方向へ働いたが、少女は思う・・・

 

私ってそんなに臭うのかな・・・

自身の服を摘まみ、スンスンと臭いを嗅いでみても自身の香りなど分かるわけではないのだが・・・

自身がどんな臭いを出しているのかを想像して、少女は少し残念な気持ちになった。

 


 

「基地への侵入は困難・・・ただし、それは警備が万全な状態だったならばの話よ」

だから侵入に成功した工作員が警備塔を無力化し、追加の人員が通る道を確保する。

 

「先にも言ったように、監視塔は基地の死角を補うように配置されている」

 

行動を起こすのは夜間。

ターミナルからのトラックが基地へ向かう時間次第では日没まで待機する必要がある。

 

「いくら最新の設備があってもそれを扱っているのは人間よ。隙が無いならば付け入る隙を作るだけ」

不意に訪れる便意があれば、抗う事の出来ない睡魔もある・・・

 

「人間だもの。時にはそれらの欲求に負ける事もある」

尤も、警備員の皆様にはそれらを誘発する薬品を使って『約束された敗北』を提供するわけなのだが・・・

 

「そうして一時的に人がいなくなった監視塔に潜入した工作員は、可動式カメラの視野を侵入地点から外し本隊へ合図を送る」

 

チカチカとタクティカルライトの光が監視塔の中で輝く。

 

「侵入はママ、ベーちゃん、アーニャ。お願いできる?」

「侵入方法はヘリに乗り、上空からグライダーで侵入?」

 

「その手は使えない・・・空港に設置されている物よりも高性能なレーダーサイトが基地に設置されている」

 

レーダーの索敵範囲は広く、サンアンドレアス島は元より太平洋を渡り領空侵犯を企てる無法者達を正確に捉える事だって出来る。

 

「前にも言ったけど不審な航空機は管制塔にしっかりと捕捉されているの」とトワは言う。

抜け道は民間機へ偽装、もしくは管制官の買収。

 

「だけど、今回もその手は使えない・・・民間機を装っても航路の変更を強制され、基地に近づく事すらできない」

買収なんて話を持ち掛けるだけ無駄になる。

 

「幸いなことに基地の北側にはジョサイア山が聳え立っている。後は分かるわね?」

 

かつて飛行場への侵入で使用した索発射銃を構えるアーニャ。

圧縮空気の力で加速され、銃口から『ポン!』という軽い音を響かせ射出されるゴム弾は基地の北側に面するジョサイア山から監視塔へ・・・

 

暗闇の中、ロープと共に飛来するソレを軽々とキャッチし塔の柱へ固定する少女(工作員)

 

 

「南側は渓谷、北側は山脈。天然の城壁と堀に囲まれた基地、ザンクード」

険しい山肌の為、山脈側から車両を用いて襲撃する事は不可能というメリットがある一方、山頂から基地を見下ろす事の出来る立地は状況によっては不利な立ち位置となる可能性もある。

 

具体的に言うならば・・・6mを超える強固なフェンスで施設を囲もうが・・・隣接したジョサイア山の方が標高が高いのだ。

 

再び工作員の合図を受けたアキ・ロゼは険しい山肌から監視塔へ張られたロープへと身を預ける。

「シュー」というロープとデバイスからの摩擦音。

即席で作られたジップラインを滑走するアキの眼下には煌々と路面の照らされた基地。

夜風が彼女の金髪をはためかせる。

 

巨大なフェンスを越え、やがて迫りくる監視塔壁。

アキは激突の衝撃を自らの脚で吸収し、基地の敷地内へと侵入を果たした。

 

「潜伏後は本体からの指示を待って」

 

「でも、電波は入らないんでしょ?」

アキの問いにトワは少しの間、顎に手を当てて言葉を選ぶ仕草をした。

 

「正確には全ての電波が遮断されている訳ではないの」

携帯電話、ラジオ、TV放送、無線・・・それらは全て電波を利用しているが、違いは周波数になる。

機密情報漏洩防止の為に特定の周波数に作用する妨害電波。

それがこの地域一帯に広がる通信障害の原因である。

 

「基地内の隊員間のやり取りは無線を使用しているし、航空機との通信も無線」

つまり、それは全ての周波数が使用不可になっている訳ではないという事。

 

「だから軍が使用している無線の周波数でのやり取りは可能」

当然だけど、そのやり取りは基地内部の者達にも傍受されているから詳しい指示は出来ないけどね。

 

「開始と撤退の合図が分かればいい」と言うアキ。

トワは静かに頷きながら続ける・・・

 

「侵入に成功したら作戦開始の合図まで待機。先に潜入している工作員の指示に従って」

 

 ・

 ・

 ・

山肌と監視塔を結ぶロープからギアを外し、塔の上部へよじ登るアキへ差し出される手。

 

「ザンクードへようこそ」

 

基地の兵士と同じ迷彩色の軍服の小柄な少女。

その差し出された手を取り、アキは監視塔の柵の上へよじ登った。

 

 

「久しぶりね・・・班長さん。現在の状況は?」

「監視塔の警備は2人体制。一人は食中りを起こしてトイレへ。もう一人は夢の国へ旅立ってもらいました」

なので10分くらいの猶予はあるでしょうね。

 

アリシアの説明に耳を傾けながら山肌へ目を移すとアーニャ・ベールズが順にロープを滑走する姿が見える。

 

「基地内の巡回は2組。軍用犬と只人のペアです」

 

「侵入に気付かれる可能性は?」

「勿論、気付かれますよ・・・」

 

犬の嗅覚を侮っては駄目ですよ・・・まぁ、回避方法が無いわけではないですがね

と少女は苦笑気味に笑う。

 

全員が監視塔へ辿り着き、アーニャが使用したロープを引き上げ回収する。

 

「方法って?」

 

ベールズの疑問に対し、少女が無言で両手を広げジト目でベールズを見つめた。

 

「貴女はハグの文化がない人?」

見つめあった2人。一向に少女の意図が掴めないベールズに痺れを切らしたアリシアは『ハグ』するんですよ!と急かした。

 

「臭いを嗅ぎ分けて追跡する犬に対して半端な消臭は無意味です」

ですので、私の臭いを貴方達に付けて『私の友人』だという事を証明するんですよ

 

幸いなことに私は同族と見なされているみたいですしね。と苦笑いを浮かべた。

 

 

 ・

 ・

 ・

抱き合う2人・・・1分・・・2分と時が経ち、ベールズは違和感に気付く。

軽く抱き合う様に思えたが、ベールズが引き離そうとしてもビクともしない。

 

まるで万力に締め上げられたかのような強靭な力でビクともしない。

 

狼と鼠・・・捕食者と食料。

自らをガッチリとホールドしている存在が本来どういった者か、今となって漸く気付いたベールズは静かにパニック状態へ移行してく。

 

そんな彼女をあざ笑うかのように首筋に突き立てられる犬歯。

 

「こら!揶揄わないの!」

「ああ、ごめんなさい・・・美味しそうな香りだったのでつい・・・」

アキ・ロゼの叱咤にバツの悪そうな顔で少女は申し訳なさそうに謝った・・・だが

 

 

ガタガタと震えるベールズを瞳孔が縦に割れた目で見つめながら・・・

まるで三日月の様に口角を釣り上げて・・・心底楽しそうに少女は呟く・・・

 

「・・・残念・・・また今度ね」

 

 




狼っ子ちゃん(捕食者)を合法的にもふもふ(ノ)•ω•(ヾ)出来る権利!

ぺこら「狼怖い・・・オオカミ怖い・・・」ガクブル
ベールズ「オオカミコワイ・・・オオカミ・・・」ガクブル

更新遅れて本当に・・・・・・・・・・・すまないと思う!(*‘ω‘ *)
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