煙の立ち込める室内。
視界不良の中でも倉庫内から響く
「バックブラスト・エリアクリア!」
後方の安全確認を行った同僚の掛け声。
「ロケット!」
轟音。
1000℃にも及ぶ爆炎と、時速250kmの爆風を後方へ撒き散らし、M72から放たれたロケット弾は倉庫内に居座る獣の元へと飛来する。
爆轟が倉庫内で木霊する。
「やったか!?」
室内で投射された発煙弾は兵士達の視界を遮る。
まるで濃霧が発生したかのように白く霞む視界の先から響く獣の鼓動。
「・・・いや、まだだ」
甲高い駆動音。
聞き覚えのある音・・・まるで巨大なモーターが駆動しているかのような音の正体に気付いた兵士達は顔を青褪めさせた。
「伏せろ!!!」
大気が震えた。
最早それは発砲音と呼べる代物ではなかった。
地面に伏せた兵士達の頭上を通過する弾丸の風音。
先程まで背中を預けていた頑丈な保管庫の扉には、まるで熱したナイフでバターを切るかの様に抵抗なく無数の風穴が空いている。
「無茶苦茶だ!」隊員の悲鳴染みた声。
対人制圧用のキャニスター弾が自分達へ向かって撃たれたのは明白だった。
「負傷者はいるか?」
「損害0・・・今はな・・・」
歩兵が鋼の獣に勝てるわけがない。
頼みの綱の
敵に発見されていない状況を前提に設計されている為に、誘導システムの設定、赤外線シーカーの冷却に数秒間の準備が必要となる。
・・・つまり敵が50mという至近距離の状況で、戦車の前に立ち狙いを合わせて3秒間、待機する必要があるのだ。
ならばと、
打つ手なし。
可能ならば応援部隊・・・基地内の戦車部隊が到着するまでの間、一時的に戦線を下げたい気持ちで一杯だった。
だが、状況はそれを許してくれそうにない。
「負傷者、3名。倉庫内」
人体に対して有害となる煙幕の煙の中から、正面ゲートへ向かう兵士の姿・・・
ガスマスクを着用。負傷しているのか肩を貸し、倉庫内の敵から逃げるかの様に此方へと向かってくる。
その姿を追うように響くモーター音。その意図を察した兵士は声を荒げた。
「一斉射!絶対に撃たせるな!!」
効果がないと分かっていながらも小銃・ロケット弾が倉庫内へと飛来する。
「皆、ここまでは大丈夫?それじゃ当日の話に移るよ」
パチンと手を叩き、メンバーの注目を集めたトワはキーボードの上に指を滑らせて画面に映る映像を切り替えていく。
映し出された画像は基地全体の衛星写真。兵舎、格納庫、兵器保管庫などの基地の主要施設。州軍が保有する航空機や装甲車両のデータが大画面に並べられていく。
「見ての通り、今回の相手は街のチンピラや役に立たないボディーガートとは訳が違う・・・闘う為に訓練を受け、国の為に命を捧げた者達よ。武装、兵力、練度。どれをとっても彼等に敵う者はこの島にはいない」
「ミリモンと組織。提携し、戦力が増したとはいえども州軍の攻撃を捌くので手一杯になる・・・もし、この状況でこの前の高速道路の一件みたいにギャング達が横槍を入れてきたら?」
例えミリモンのメンバーが予定外のトラブルに対して柔軟に対応できるとしても限度がある。
だからこそ、それらの不安要素をロスサントスに釘付けにしておく必要がある・・・
「上手く行けば例え勘づかれても、ロスサントスからザンクードまで2時間のアドバンテージがある・・・」
トワの説明を聞いていたアキは難しい顔をしながら静かに手を上げる。
「他の組織の強盗を私達の犯行に見立てる必要性は分かった。・・・でも、作戦開始時刻が未確定ならば目的の保管庫へのアプローチ方法も変わってくる・・・でしょ?」
「そうね、作戦開始時刻が確定していない現状では保管庫へのアクセスキーを持つ巡回中の兵士を襲う訳にもいかない」
麻酔が切れるまでの時間は長くない。倒れた兵士を人目の付かない場所へ移動する必要性がある。
「それに開始時間がズレ込み、マークしていた巡回の兵士が交代になれば、その人物を襲ったところでアクセスキーは別の者が持っていることになる」
私達に巡回ルートや担当者などの内部情報があれば多少はマシになるでしょうけれど・・・どちらにせよいつ始まるかも分からない開始の合図と同時に即座に実行できるものではないでしょ?とアキが問い、「その通りよ」とトワは答えた。
「隠密を維持したままターゲットを持ち出し、誰にも気づかれぬまま離脱できるのならば、それが一番いい」
だけど、基地の状況を考えるとそれは不可能。
セキュリティーレベルは高く偽装も困難。
「連絡も満足に行えない状況下で、開始の合図をトリガーに各部隊がそれぞれに割り振られたタスクを消化していく必要がある」
だから、悠長にキーカードを探す時間など最初っから無いのよ。
トワは画面に並べられた静止画の一枚を選択し、モニターに拡大する。
キーカードを使用しての侵入を諦めるのなら、その他の方法は騒がしいものとなる。
「基地の施設は強固に作られている」
民家で使用されるようなサイディングの外壁、木造建築ではない。鉄筋コンクリート、武骨なH鋼。12.5mmのガルバリウム鋼の2層構造。これらにはライフル弾すら耐えうる程の強度がある。
爆薬を使用した場合、壁に車両が通れる程の大きさの穴を確保出来るかは運次第。
溶断機を使用して鋼材を焼き切るには時間がかかる。
「その間、集まってくる兵士を相手に戦線を維持するのは不可能」
「それじゃ、全員で基地の正面ゲートから突入するのは?」
その方法を取った際にご対面するのは、重量60t・1500馬力を叩き出すアメリカ軍の主力戦車『ライノ』
装甲兵員輸送車両『APC』、装甲車両『インサージェント』や高機動オフロード車の『ターミナス』。
そして5.56mmの小銃と40mmグレネードを携えた兵隊達が雁首揃えて私達を待っているわ。
「保管庫に辿り付く前にハチの巣になる」
都合良く防弾車両を持つ犯罪組織があるわけでもない。軍や警察の車両は位置情報が追跡されているので調達しても足がつく…にゃんにゃんカーサービスに依頼すればカスタムする事自体は可能だろう。だが、特殊な改造は容易に足が付く。
(あるいは富豪や警備会社が要人警護用の防弾車両を所有している可能性もあるけれど…それは調べてみないことには分からないか)
「現時点で防弾車両は調達できない。だからこそ保管庫に辿り着くまでは潜伏が露見するわけにはいかない」
「それじゃ、打つ手なし?諦める?」
アキが茶化す様にトワに問いかけた。・・・当然、打開策を考えてるんでしょう?と
「勿論。たった一つの冴えたやり方を用意してるわ」
「システムチェックお願い」
「電圧安定、燃料残り4割」
「即応弾薬庫、車体弾薬庫確認・・・SABOT、MPAT、CAN計42発」
「砲塔旋回動力スイッチオフ・・・確認完了」
「エンジン始動」「了解、エンジン始動!」
アーニャはアキの号令を受け、メインパネルのエンジンスタートボタンを1秒間押し込んだ。
徐々に甲高くなっていくガスタービンエンジンの鼓動。
車両の後部では高温の排気ガスがマフラーから排出され、気温の高いサンアンドレアスであってもユラユラと陽炎が立ち上る。
「チェックランプ異常なし」
続けて回転数、油圧系、ブレーキの確認・・・
アーニャはブレーキペダルを踏みながらギアをDに入れ、ステアリングを左右に振った。
『ガコン』と何かにぶつかったかの様な音が操縦席に響き、それを聞いたアーニャは満足そうに一つ頷く。
「トランスファー、異常なし。発進できます」
「よろしい。それじゃ・・・ムーヴ・アウト!」
前進の号令を受け、ステアリングハンドルのスロットルを開く。
コンクリートを叩く履帯の轟音。振動が窓を揺らす。
ガスタービンエンジンの咆哮を周囲に轟かせながら鋼の獣は疾走する。
獣の名前は『ライノ』。
サイの名を冠する戦車はその名通りの性能であった。
60tを超える巨体は小回りが利かない一方で、直進に関してはその図体に見合わない軽快さで路面上を疾走する。
「目的地、正面」
「了解。砲手、砲塔旋回180。操縦手、進路そのまま・・・突っ込め!!」
「総員、対ショック姿勢!」「とっくに対ショック!」
「如何に強固な壁だとしても、重量60tの鉄の塊が時速70kmの速度で突っ込んでくることを想定して建築されている訳ではない」
「攻城戦には古今東西、破城槌を使うものだって決まっているでしょう?」
頑丈なゲート、万全なセキュリティが施された兵器保管庫。
ド派手なダイレクトエントリーと同時にライノは制動を掛けるが、車体の質量が仇となる。
履帯が倉庫の
倉庫内に保管されていた車両や銃器弾薬が詰められた木箱を、まるで砕氷船であるかの様になぎ倒していく。
最終的に停止したのは侵入地点から対角側の壁付近。
ライノの通った軌跡を振り返れば、跳ね飛ばされた保管車両、踏みつぶされた銃器・・・惨憺たる景色が広がっていた・・・
鳴り響く警報。
「皆・・・無事?」とアキが停止したライノの中でメンバーの被害を心配する。
「死んだんじゃない?」
「残念ですね。生きてますよ」
遠い目をするベールズを工作員の少女が励ました。
「・・・始めるわよ!アーニャ、回頭180。ベールズ、MPAT装填。目標、警備室」
アキの号令。
アーニャはセレクターをPVTに入れ、スロットルを開く。
左右の履帯が真逆の方向に回転し、超信地旋回を始める。
ブレる車体の中でベールズは砲塔を旋回させてピタリと警備室に照準を合わせた。
「ベーちゃん、私達のルールは覚えてる?」
「軍、警察、一般の死者は0」
「よろしい!・・・それじゃ、
「ファイヤー!!」
装薬を燃焼させ弾頭は加速する。
砲身からは日頃所持しているピストル程度とは比べ物にならない程の轟音と砲煙が吐き出される。
戦車を中心に発生した衝撃波は周囲の粒子を巻き上げる。
その様は120mm滑空砲の威力を雄弁に語っている。
聴覚保護の為に着用していたイヤーマフを貫通するような砲声に、装填手として作業していた工作員の少女はイライラとした眼差しで砲手であるベールズに視線を送った・・・
小さな悲鳴を上げるベールズ。
そんな車内に漂う空気の変化を意にも留めず、アキは満足したように次の指示を飛ばす。
「警備員の心は折った。ベーちゃん、兵が撤退後煙幕展開」
舞い上がる砂埃、硝煙、そして戦車から放たれた榴弾によって炎上する警備室の煙。
アキ達の突入で出来た大穴から、命からがら逃走する警備員の後ろ姿を見届けた後、煙幕弾が風通しの悪い倉庫内に射出された。
「班長さん、ターゲットの確保をお願い。私達が時間を稼ぐ」
ガスマスクを身に着けた少女が車外へ躍り出た。
・
・
・
「目標の物は保管庫のさらに奥、冷蔵室に保管されているわ」
視界が白く染まる中で少女は冷蔵室に辿り着く。
分厚い扉を開くと同時に足元に冷たい空気が流れ出た。
「ターゲットはVXガスロケット」
短距離誘導弾。重量100kgオーバー・・・とても一人で運搬できるものではない。
だが、弾頭だけならば?
「弾頭の重量は20kg。必要個数は2機。ガスは揮発性、腐食性が高くガラス製のカプセルに封入されている。カプセルの周りは衝撃保護の為に金属フレームで囲われ、中空構造になっているけれど・・・衝撃には気を受けて!」
「もしガスが漏れたらどうなるんデス?」
「ガスロケット1機で7万人が死ぬ。スプーン一杯で地上30mまで死のガス・・・空中でばら撒かれたら8ブロックの市民が死ぬことになる・・・」
「イカレテルぺこ・・・なんでそんな代物、軍隊が保有してるんだ!」
「表向きは戦場での化学兵器使用は禁止されている・・・核兵器と一緒よ。目には目を歯には歯を。保有する事で相手は報復を恐れて化学兵器の使用を控えるようになる。」
自ら使用するつもりは無い。
相手に同じ手段を取らせない様にすることが重要なのだ。
保有する事に意味がある。たったそれだけで世界のパワーバランスが保たれ平和が訪れる。
「随分と血生臭い平和ね・・・」
「いつだってそうよ。今も昔もこれからも・・・平和は危ういバランスの上で成り立っているの。人間が皆、善意で出来ているとは限らないからね」
言葉はあてにならない。
書面も簡単に破られる・・・ならば、行きつく未来が互いの屍で埋まった道ならば?
容易に事の結果の見える兵器があるならば、少なくとも慎重に物事を考える様になるだろう。
「抑止力。褒められる物ではないのだけど・・・世の中綺麗事だけでは回ってないって事ね」
・
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・
「アクティブ防護システム起動!」
開け放たれる正面ゲート。
開閉と同時に飛来する5.56mmの雨とM79から放たれたロケット弾・・・
同時にライノに搭載された防護システムが起動した。
フラットパネルアンテナが脅威度の高い飛来物を検知し、到達する前に空中でロケット弾を打ち落とす。
まるでクレー射撃の様な光景が倉庫内で広がった。
「次弾装填。弾種CAN。目標、正面ゲート。牽制射!」
「ママ・・・これだけは守って。相手の戦車が駆けつけて倉庫の外を包囲する前に脱出して」
空調の無い車内。
刻々と過ぎていく時間。
時折、腕時計に視線を向けながらアキは冷たい汗を流した。
(相手が歩兵ならば問題は無いのだけど・・・)
同機種の戦車が基地内に存在する。
(まともにやりあった場合、勝ち目はない)
自分達にどれ程の時間が残されているかも曖昧。
アキにとってこの4分はとても長く感じられた。
「パッケージ回収完了」
工作員の少女からの連絡に安堵の声がもれる。
基地内の戦車による包囲が開始されるギリギリのタイミング。
アキ達の後半戦が始まる・・・
SABOT 重金属のダーツを音速で打ち出す貫通弾
MPAT 対地、対空対応の多目的榴弾
CAN キャニスター弾、タングステンの小弾を1000程度、戦車砲の装薬で射出する。有効射程500、相手は死ぬ
因みに、ちゃんと兵士達が退避したのを確認して撃っているので死傷者0!(*'ω'*)