「以前、『この街で私達に一番近い組織』は誰か?って話をしたけれど覚えてる?」
この街で強盗団『ミリオンモンスター』を追う者は多い。
被害を受けた銀行やストリートギャング。
掛けられた報酬に目の眩んだ賞金稼ぎ。
情報屋にネタを売り渡す市民。
ロスサントス市警、そしてアメリカ連邦捜査局。
複数の組織からなる捜査網の中でも一番脅威となるのは、今回襲撃する州軍基地の兵士達ではなく『ロスサントス市警』だとトワは言った。
「ダイヤモンドカジノを牛耳るダガンファミリーの経営する宝石店への襲撃。私達とは別の強盗団の犯行だけど、周囲の注目を集めるには十分な目標よ」
犯罪組織でありながらロスサントス州立ガス会社を傘下に収め資金源も豊富、大邸宅も所有する。
装備もストリートギャングの域を逸脱しており、特殊カービンやフルオートショットガンを配備。
一部の部隊には機銃付きのSUVや装甲車両を手配している。
腐敗した銀行、人身売買や麻薬で利益を出しているギャング等、これまでの『ミリオンモンスターズ』の標的になった犯罪組織の素性を考えると、『ダガンファミリー』も十分次の標的に成り得ると言える。
「だから街で起こった宝石店襲撃を『私達の犯行』と思い数多の勢力が押しかける・・・唯一の懸念は市警が食いつくか」
これまで本体の活動を支援するために、陽動による工作を行ってきた。
ミリモンが活動を開始した当初から私達を追っている市警だけは、周りに流されず島全域の警戒を行っているかも・・・
トワの脳裏を一瞬過った可能性。それを皆へ伝えようか迷った末、トワはその考えを振り払うように首を振った。
(今、重要なのはそんなことではない)
説明が必要なのは作戦を遂行する上での情報共有。
起こるとも思えない可能性に時間を費やすべきではないと思い浮かんだ思考を中断し、作戦へとシフトさせた。
「・・・話を戻す。執行機関と州軍は情報共有を行っていない」
街での強盗や暴動、ギャング抗争や麻薬戦争。
それらに駆り出されるのは市警や特殊部隊の国家安全保障執行局・・・通称N.O.O.S.E.
「州軍に命令が下るのは災害支援や国家間の侵略防衛、テロリストへの処断。だから彼らは、私達の存在についてニュースで知っている程度の情報しか現時点では持っていない」
軍が動くとなれば周囲への影響は計り知れない。
一部の株価が著しく変動し、島内の市民は不安に駆られパニックを起こす。
よって、警察では手に負えないと判断されるまでは軍への出動要請を州は行わないし、行われたところで実際に行動開始の許可が下りるのは速くても数時間後。
結果、容易に軍を動かすことが出来ないため、執行機関だけで対処出来るようにN.O.O.S.E.等の特殊部隊があるのだ。
「使い古した手段だけど彼等にとってはこれが『初見』。だから十分な効果が期待できる」
「だけど決して忘れないで・・・これまで相手にしてきたチンピラとは訳が違う」
銃を持ち、国家の為に撃つことも撃たれることも覚悟した者達だ。
必要となれば地の底まで追ってくる。
「陽動は複数に分けて行う。それぞれが同時に行動を起こし私達の目的を混乱の中に隠す」
・
・
・
「負傷者、3名。倉庫内」
人体に対して有害となる煙幕の煙の中から、正面ゲートへ向かう兵士の姿・・・
ガスマスクを着用。負傷しているのか肩を貸し、倉庫内の敵から逃げるかの様に此方へと向かってくる。
その姿を追うように響くモーター音。その意図を察した兵士は声を荒げた。
「一斉射!絶対に撃たせるな!!」
効果がないと分かっていながらも小銃・ロケット弾が倉庫内へと飛来する。
「状況を報告しろ!」
息も絶え絶え、倉庫から逃げ延びた3人を労わる余裕など基地の兵士には残されていなかった。
敵の兵力・損害状況・その目的・・・突然の襲撃、その最中で知り得た状況はあまりにも少ない。
「情報には優先度がある。襲撃した相手の人数、兵装やその目的。現時点で処理を行わなければならない相手を優先的に情報共有が行われる」
何故、有毒な煙幕の煙が蔓延する倉庫の中から
立て続けに放たれる50口径の対物ライフル弾。
先日、高速道路でトワが数十人のギャング達を文字通り『粉砕した』ものと同じ機関銃が放つ銃弾が倉庫へ駆けつけた
「この基地には1000名以上の兵士が居る。部署が違えば見慣れない顔も当然ある。・・・そう思わせる様に波状攻撃で陽動を行いリソースを削る。彼等に冷静になって考える時間など与えない!」
倉庫内から甲高く木霊するエンジン音。
ジェット機の様な音を奏で始めたライノのガスタービンエンジンの鼓動に兵士達は『次に何をする気なのか』容易に想像する事ができた。
「まずい・・・あの馬鹿、突っ込む気だ!」
倉庫から発進したライノを処理した後は、逃走したテロリストの追跡。その頃には
「工作員が時間を稼いでいる間にママはもう一機のガス弾頭を持って軍用トラックを奪って基地から脱出。基地を出たら高速道路で私達と合流」
静かに手を上げたアキ・ロゼにトワは話を中断し、耳を傾けた。
「いくら班長さんが時間を稼いだところで軍用車両はGPSが搭載されていて州軍基地には位置情報が筒抜け、見つかれば航空機で追跡されるんじゃない?」
「地上は合流した後、私達が援護に入る。空の方も手は打ってあるよ」
『テロリストは保管庫から特殊弾頭を強奪し逃走。数は2機』
『1機は渓谷沿い、ザンクード・トレイルにて確保』
『応答の取れない車両がある・・・テロリストが基地の車両を強奪した可能性が高い。付近を走行中のユニットは直ちに急行せよ』
『当車両は、グレート・オーシャン高速道路を北上中。パレト・ベイへ向かっている』
『強奪された弾頭は化学弾頭だ。車両への攻撃は細心の注意を払え』
軍用無線から流れる情報。
様々な情報が流れており、現場の混乱が無線越しでも感じられる。
『お姉ちゃん、状況を伝えるよ!』
『班長さんの陽動は終了。侵入した陽動部隊も基地から出て現在、グレートオーシャン高速道路で本体と合流したみたい。発砲許可は既に下りているよ!お姉ちゃんのタイミングで始めて!』
慌ただしく兵士が駆け回る基地を眼下に、カナタは『クソ重い銃』をバックからから取り出し組み立て始める。
ソリ状のバイポットと通常の二脚銃架が備え付けられたモノ・・・ラティーナL-39。
『軍の行うVXガス弾頭を積んだトラックへの対処は2つ。1つは陸上から・・・道路を封鎖しトラックの身動きを封じる。此方は奪取が発覚し、追手がトラックに追い付くまで余裕がある。本隊とボスが対処する予定。お姉ちゃんが担当するのはもう一つの方』
つまり、上空からトラックを追う航空機の排除。
毒性の高いガス弾頭を無力化するには高温、高圧の焼夷弾で弾頭含む周囲一帯を化学物質ごと
トワの調べではザンクードにもVXガスを無力化する数少ない手段である『テルミット・プラズマ』焼夷弾が配備されている事が確認されている。
『焼夷弾は半径500mを6000℃の温度で焼き払い、更に半径1000m範囲には一酸化炭素や有害な燃え残った燃料を撒き散らす。爆破範囲に居る生物や化学物質を焼き払う『解毒剤』の異名を持つ兵器だよ』
「お姉ちゃんの任務は、コレを積んだ航空機をミリモンが指定した場所を通過するまで離陸させない事」だと無言で銃を組み立て続けるカナタへ告げる。
北側のジョサイア山。州軍基地フォートザンクード。基地の南側を流れるザンクード川・・・そして、その川を越した先、南側のロスサントスと北側のブレイン郡を隔てる山脈の一つ『トングバ・ヒルズ』の丘の上にカナタは立っていた。
「お姉ちゃん?」
依然としてコナタの無線を無視し、無言で作業を行うカナタにコナタも疑問を覚え始めた・・・
「班長さんはキツイ仕事じゃないと言ったのに・・・」
カナタの愚痴とも取れる呟きにコナタは察した・・・
(もしかしてお姉ちゃん、ものすごく機嫌が悪い?)
「結局、クソ重い銃を片手に山登り」
「で・・・でも、この前の銃よりも幾分か軽いんじゃない?口径も小さいし!」
「そうだよ!軽いよ?口径20mm、銃身長130cm、重量49.5kg。マガジンだけでも2kg!これを軽いっていうのならアンタ頭可笑しいんじゃない!?」
妹の言葉を一蹴し、カナタは重い弾倉を上部に装着し、ゆったりとした足取りでシートの上に鎮座する対物ライフルの元へ行き、射撃ポジションへと付く。
「この銃の運用方法知ってる!?重いが故に分解した銃を2人で背負って移動する。ソリ状のバイポットは何のための物か知ってる!?これは組み立てた銃を引きずって移動するためのものだよ!決して一人が背負って登山するするような銃じゃない!!」
「ボクだって女の子なんだぞ!」と憤慨するカナタ
「でも、実際一人で上りきったじゃない」と返すコナタに「誰がゴリラやねん!」と一人キレるカナタ。
強力なリコイルスプリングを後退させるために設けられたクランクハンドルを回し、ボルトを後退させる。
「この間、飛行機を撃ち落とした銃ではないけど大丈夫?」とコナタは口に出す。
前回使った銃は組織が特注で作り上げた口径30mmの名称のない小さな大砲とも言える巨大なライフル。
対して、今回使う物は1939年より製作されていた骨董品。
前回の銃の様に最新鋭の照準システムも無ければ、そもそも一般的な光学機器をマウントするスペースすら存在しない。
下がり切ったボルト。手元のレバーを引きリリースし初弾を装填した。
ボルトが前進した際の反動。銃を揺らす程の振動が内蔵されたスプリングの強さを物語っている。
射撃準備が完了したカナタは一つため息を吐く。
「・・・優先目標を教えて」
スコープの無い照準器・・・簡易的なアイアンサイト覗き込みカナタは最初の標的へと狙いをつける。
「最優先は焼夷弾を積んだ戦闘機・・・P999ーレーザーを離陸させない事。次点は作戦進行の妨げになる航空機の排除。つまり・・・現時点で離陸体制に入った航空機全てが対象だよ!」
サンアンドレアス島のスクランブル発進は日本のソレとは大きく異なる。
サンアンドレアスは日本の様に大陸が隣接し、度々領空を侵犯する迷惑な隣人の存在も無ければ、敵味方を識別する空域も大きく取られている。
つまり警告を無視し領空侵犯する不審機の迎撃を行うにも、敵勢力がサンアンドレアスに到達するまで30分~1時間の余裕があるのだ。
かの国の様に24時間体制でパイロットが待機している訳ではない。燃料、弾薬が補充され、いつでも発進可能な機体が用意されている訳でもない。
優先目標である焼夷弾を搭載した戦闘機が発進可能になるには20分程度の時間が必要。
「なんだ・・・いつもとやること変わらないじゃん」
要は本体が予定地点に到達するまでボク一人で制空権を確保する。
標的までおおよそ1.5km
かつて
時代と共に戦車の装甲は強固になり当初の目的を果たせなくなったとしても、その威力は絶大で航空機程度の装甲を抜く事など造作もない。
「―――撃て」
カナタは緩やかに傾斜する丘の上で地面に伏せ、アイアンサイトを目を細めながら凝視する・・・
最初の目標は離陸体制に入ったヘリ。
強固な装甲を持ち、空飛ぶ戦車の異名を持つ攻撃ヘリ『Hunter』
カナタは息をゆっくりと吐きだしながらタイミングを計るかのように魔法の呪文を唱えた。
「―――撃て」
「僕は標的を外さない」と言う自己暗示染みた自身を鼓舞する言葉を・・・
「―――撃て」
そして、相手にとって不幸を告げる言葉を・・・
呼吸と連動するかのように微かに揺れていた銃身は次の瞬間、ピタリと静止した。
引き金が引かれ、轟音と共に大口径の弾丸は射出される。
射撃から着弾まで約4秒間の時を経て、弾丸は地上3mでホバリングしていた戦闘ヘリのテールローターを貫いた。
浮力を生むメインローター。
そして、メインローターが回転する事によって発生する逆回転のトルクを打ち消すためのテールローター。
その安定装置を失ったヘリは、機体を制御できずに回転しながら地上に激突する。
「Hunterの撃破を確認・・・墜落と言っても高度は高くない。パイロットも無事でしょう。続けて」
妹の効果報告を聞き届け、カナタはグリップとレバーを握り直し、後退していたボルトを前進させて次弾を装填させた。
航空機の離陸速度は時速300km程。
戦闘機が機体を加速させるには滑走路と、その速度に耐えれる脚回りが必要。
空を飛ぶ航空機を撃ち落とすのは困難だが、地上に静止する補給中の機体の車輪を撃ち抜く事は容易い事だ。
「―――Fire」
カナタは再び引き金を引く。
「カナタさん。他国軍と米軍の違いは分かりますか?」
「強さの違いは最新鋭の装備を使った戦術であり、航空優勢によるものが大きいです」
「1.5km・・・戦車や榴弾砲の射程範囲ではありますが、基地の兵士が自力で狙撃手を排除出来なければ航空機を空へ上げる事もままらないでしょう」
「お手並み拝見ですね・・・」
と狼耳の少女は楽しそうに微笑む・・・
「・・・え?カナタさんの心配ですか?必要ないでしょう?」
だって貴女にとって